3月1日発売の新刊は、サラ・ピンバラ著の『瞳の奥に』
ちょうど2月17日からNetflixで6話シリーズとして始まった、同名ドラマの原作にあたります。
本書発売当時、エンディングに驚いた読者のあいだで、「#WTFThatEnding(何あのエンディング)」というハッシュタグがSNS上で流行ったという逸話をもつ作品
海外ドラマファンのあいだでも、これはヤバいと話題が広がっているようです。

どれくらい衝撃的かというと、ゲラを読んだ、ふだんは無反応の販売部の若手部員Tが、興奮のあまりうわずった声で「こ、これ、傑作なんじゃないんですか?」とわざわざ連絡を入れてきてくれて、自らネットギャリーの先読みプロジェクトを立ち上げたあげく、勝手に「扶桑社は2021年、この本でこのミスに挑みます」とか書いた宣言文をnoteで公開し、編集者の知らないところで評論家諸氏にゲラを送ったりしだしたくらいには衝撃的なのです(ありがとう!Tくん)。

ひとりの人間をこれだけ衝き動かす作品なら、
あなたの心をも衝き動かすかもしれません。

編集者は「驚天動地」「未曾有」という文字を、高校時代に綾辻行人さんの新書帯で叩き込まれた世代ですが、ひさびさにその言葉にふさわしい本にめぐりあえた気がしています。

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あらすじはこんな感じです。

ロンドンの精神科クリニックで秘書として働くルイーズは、新しいボスとなる医師デヴィッドを一目見て仰天する。

彼はその前夜にバーで会って意気投合し、キスまでしてしまった相手だったのだ。

二人はやがて一線を越え、関係を深めるが、ルイーズは彼の魅力的な妻アデルとも偶然知り合い、罪悪感にかられながらも友情関係を築いてゆく。

しかし、この夫婦にはどこかおかしなところがあって......

意想外の展開が読者を翻弄する驚天動地の心理スリラー。


正直、何を解説したところで、何かしらの予備知識を与えてしまうので、

まずはとにかく読んでみてくださいとしか申し上げられません。

振り返って考えれば、このネタは決して未知のものではないわけですが、たぶん取り合わせの妙なんでしょうね。警戒していても、そう簡単には察知できないような気がします。

まあ、あまり構えずに、「よくある『ゴーン・ガール』テイストの心理スリラー」くらいの感じで気楽に読んでいただければ。


スティーヴン・キングイアン・ランキンが絶賛し、ジョー・ヒル「巧緻なパズルボックスの如き小説。もっとも不気味なヒッチコック、もっとも容赦のないルース・レンデルにも比肩する、熟練の技で組み立てられたスリラー」と称した傑作。〈サンデー・タイムズ・カルチャー〉誌の「普通の〈予期せぬ結末〉とは訳が違う」という評もなかなかにいかしています。

サスペンス部分がみっちり長いので、多少読み疲れる方もいらっしゃるかもしれませんが、それにじゅうぶんに見合ったラストの衝撃をお約束します。

ドラマから先に入られた方も、細かな仕掛けや伏線、心理描写に関しては、圧倒的に原作のほうが情報量が多いので、ぜひ読み比べていただければ幸いです。

なお、前述の販売担当Tのnoteでは、すでにドラマとの比較記事が出ていますが(編集者より文章が読みやすいかもw)(こちら

ビビるくらいのネタバレ記事なので、必ずドラマ視聴後もしくは小説読了後にお読みください(笑)。


また、批評家さんの記事が出たり、書店さんからの感想がいただけましたら、こちらの編集者ブログか販売担当TのNoteにて、随時紹介していきたいと思います。


小説から読むか。ドラマから観るか。それはあなた次第。

そして、心からのお願いです。

結末は、決して誰にも明かさないでください。


(編集Y)







2021年2月27日 17:25 | | コメント(0)

全国の本格ミステリー・ファンの皆様、お待たせいたしました!
久々のレオ・ブルース。作品としては『ロープとリングの事件』(国書刊行会)に続く第6長篇ということになります。
タイトルはずばりシリーズ探偵の名を冠した、『ビーフ巡査部長のための事件』
今回は、旧訳も、親本も、私家版もない、完全新訳。
訳者はもちろん小林晋さんです。

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あらすじはこんな感じです。

ケント州の「死者の森」で、頭部を銃で撃たれた死体が発見される。
地元警察が自殺として処理するつもりだと考えた被害者の妹は、
警察を退職して私立探偵を始めたビーフに事件の再調査を依頼する。
一方、その一年前、ウェリントン・チックルは一冊の日誌を書き始めた。
「私は殺人を実行する決心をした。......そして、ここが肝要な点なのだが、
――私には動機がないのだ」
『野獣死すべし』ばりの構成の妙とフェアプレイの精神で読者を魅了する、
英国本格の精華がここに登場!

いろいろ経緯があって、急遽出版が決まりまして、
大変な短時間で一気呵成に出版までこぎつけたこともあり、
あまり事前告知ができておりませんが、
こうやって、レオ・ブルースの新刊が出せて本当にうれしく思います。

今をさかのぼること60年以上前、現代推理小説全集にレオ・ブルースを採録しようと思った植草甚一さんが、『死の扉』(創元推理文庫)とこれを読み比べて、『死の扉』のほうを採ったというエピソードがありますが、まあ『死の扉』が傑作だからといって、こちらがつまらないということでもありますまい。
(むしろ、あのとき全集に採られなかったから、弊社は大手を振って十年留保で出版できるんだぜ!というのは出版界の身内にしかわからない小ネタです。すいません)

かつて『三人の名探偵のための事件』における解説で、真田啓介さんはレオ・ブルースを「英国余裕派」のひとりとして分類しておられました。すなわち、E・C・ベントリー、A・A・ミルン、ロナルド・ノックス、アントニー・バークリー、シリル・ヘアー、エドマンド・クリスピンといった作家に代表される、「遊び心が旺盛で、ゆとりと落ち着き、現実との適度の距離といったものをその作品に感じさせる作家の一群」に属するというわけですね。

彼らのひとつの傾向として、本格ミステリーの「型」であったり「お約束」であったりを、ミステリー実作の枠内で茶化したり、戯画化することで、逆説的に「本格ミステリーとは何か」というクリティカルな探求を行うということがあります。

本作『ビーフ巡査部長のための事件』(ビーフは退職していますが、全編を通じて巡査部長(サージェント)と呼ばれます)もまた、そういったたくらみと仕掛けに満ちた、実に愉快な本格ミステリーです。
第二章から第六章まで、殺人計画者の日記をまるまる掲載するという、『野獣死すべし』ばりの仕掛けからスタートしますが、一方で、警察とビーフの捜査からは数々の容疑者が浮かび上がります。果たして、これはいかなるギミックなのか?
ぜひ、レオ・ブルースの鮮やかな技をご堪能ください。

今回、解説をお願いした三門優祐さんは、イーヴリン・ウォーとレオ・ブルースの類似点と実際の交流について言及されたうえで(素晴らしい!と訳者の小林さん。実際、英国本格をきちんと語るためには、ウッドハウスやウォーも含めた、当時の膨大な「非ミステリー」の「余裕派」小説も視野に入れる必要があるのでしょうね)、レオ・ブルースが本作で狙った「真の意図」について、きわめて示唆的な分析を行っておられます。
読者の皆さんも、ラストまで読んで、真相がわかったうえでなお、考えてほしいのです。
「なぜ、本書はこのタイトルなのか」。


それから。
あまり大きな声ではいえませんが
扶桑社では現在、『レオ・ブルース短編全集』も仕込み中でございます。
ただの短編集じゃありませんよ。「全集」ですよ、「全集」!
本当は、こっちを先に出すつもりだったんですが(笑)......まあ、いろいろありまして。
無事に出版できた暁には、大変面白いいきさつがありましたんで、ぜひ聞いてやってください。
今は実現に向けて、水面下で頑張ります!(出なかったらごめんなさい......)
そんなわけで、本格ファンの皆様におかれましては、まずは『ビーフ巡査部長のための事件』のほうから、じっくりとお楽しみください!(編集Y)


(追記)
ここからは、明快なネタバレはしていないつもりですが、念のため読了後にお読みください。

三門さんの論考に、個人的見解も加味して補助線をもう少し引くなら、この小説は「ビーフ巡査部長のための事件」であることに徹底的にこだわった小説であると同時に、「事件に同行するワトスン役によって記述され、巷間に娯楽読み物として発売される探偵小説」という「体裁」にも執拗にこだわってみせた小説でもあります。

そもそも、ホームズ物にせよ、ポワロ物にせよ、ヴァン・ダイン物にせよ、神津恭介物にせよ、御手洗潔物にせよ、「記述者」がなんでだか事件に平然と同行して、ずかずか現場に入り込み、一言一句書き留めたうえ、探偵の活躍と関係者の恥をあろうことか「読み物」にして世に問うというのは、ふと常識に立ち返って考えてみれば、ずいぶんと異常で空想じみた設定であるとしかいいようがない。
ある意味「名探偵」以上に、「ワトスン」というのは、お約束とご都合に満ちた装置(=探偵小説という形式の根幹を支える愛すべきギミック)なわけです。

そこを、「名探偵」を筆頭に、幾多の「本格の約束事」を楽し気にいじってきたレオ・ブルースが見逃すはずがない。
本書は、いきなり「ワトスン役」が「引退宣言」をビーフにかますライトなコントで幕を開けます。
現役警察官に張り付いてその偉大な業績を世に紹介するという、かなり特異きわまる「仕事」が、なんだか当たり前の商売のように扱われ、それを辞めるの続けるのとやりとりされていること自体が、すでにギャグの領域です。で、ビーフはせっかく難事件を解決してきたのに、本が売れないのはお前の筆力が足りないからだみたいな不満をぶつけ、一方で筆記者であるタウンゼンドは、俺が紹介してやらなかったら、お前はただの駐在だったとか言い返していて、なかなかに楽しい。

思えば、『三人の名探偵のための事件』で一番個人的に面白かったのは、メインのトリック以上に、三人の自称名探偵が何の断りもなくずかずか現場に登場して三々五々勝手に捜査を始める冒頭のコントでした。
この「真顔でお約束をやることで、そのお約束のおかしさを可視化する」という仕掛けは、レオ・ブルースの十八番といってもいいものです。

で、この「起きた事件を娯楽小説として書くこと」、それから「書いたものをミステリーとして読む人間がいること」という、本格ミステリーにおけるフィクショナルな約束事は、本作を通じてさまざまな形で強調され続けます。

ビーフは常に自らの「世評」と「知名度」を意識し続け(これは三門さんの論点ともかかわります)、タウンゼンドが面白く書くには都合のいい証言だとか、都合のいい展開だといった言及を繰り返します。
要するに、ビーフはここで事件を捜査し、解決するだけではない。
「それを後で読む読者」のことも考えながら、「読み物としての仕上がりを気にしつつ」捜査しているのです。

「殺人計画日記」という本書を特徴づける仕掛けにしても、おそらくならば、「書き手と読み手」という著者の問題意識の延長上で発想されたものだととらえるべきでしょうし、ラストのビーフのセリフも、単なるトリックの新手というよりは、まさに今語っている文脈でこそ生きてくる、なかなかに気の利いたジョークだといえるでしょう。

すなわち、「探偵小説」という架空の枠組み(行動に対して読者がいる)が、そのなかで生きる登場人物に影響を与え、ミステリー小説に登場するキャラクターであることにそれぞれが自覚的であるがゆえに、この事件は生まれ、複雑化し、解決篇を要求するにいたった、ともいえるわけです。

僕はこの小説で一番どきっとしたのは、実はビーフが謎の解明に至る「きっかけ」(p311、第28章冒頭)に関する記述でした。
「えええええ、それいっちゃうんだ??(笑)」
横溝正史の某作における指摘を想起させつつも、当事者性が強いがゆえにより逆説めいた、この素っ頓狂なロジックこそは、本作の実は「キモ」であり、真骨頂でもある、というのが編集者の意見です。









2021年2月 3日 13:44 | | コメント(0)

急告
なんと!ジャック・ケッチャム原作映画の続編『ダーリン』が、
2月6日から、ヒューマントラストシネマ渋谷にて、一週間限定で上映されます!
関東近縁在住のケッチャム・フリークの皆さんは、こぞって足をお運びくださいませ。

と、先に重要な情報は書いちゃいました。

改めまして。

1月24日は、『隣の家の少女』で知られる鬼才、ジャック・ケッチャムの命日です。
2018年にがんで逝去されてから、早3年。
悪とは何か、暴力とは何かという根源的な問いを突き詰めた、類まれなる作家でした。
厄災と分断に見舞われた、現在の悩み多き時代に、もし彼がまだ生きていたとしたら、いったい何を書き、何を啓示してくれたのだろうか。そう思うと、今更ながら彼の死が惜しまれてなりません。

昨年は、『闇のシャイニング リリヤの恐怖図書館』(ハンス=オーケ・リリヤ編、スティーヴン・キング他)所収の「ネット」という短編で、ひさびさにケッチャムの新訳をご紹介できました。
現在、紀伊國屋書店新宿本店では、「ケッチャム王子」ことMさん肝いりの、ケッチャム追悼フェアが今年も敢行されております。あの方のケッチャム愛は本当にすごい!(渋谷に行く際、ぜひお立ち寄りください!)

で、いよいよ映画公開のお話なわけですが、
『隣の家の少女』と並ぶ、ケッチャムの代表作といえば、『オフシーズン』
なんと、あのメガヒット漫画『呪術廻戦』の作者、芥見下々先生も愛読書にあげていた作品です。


その続編として書かれた『襲撃者の夜』と『ザ・ウーマン』(いずれも扶桑社ミステリー刊、金子浩訳)はそれぞれ映画化もされていまして、ちなみに『ザ・ウーマン』の監督ラッキー・マッキーは、同書の共著者でもあります。

この『襲撃者の夜』、『ザ・ウーマン』に続く映画化第三弾『ダーリン』が、無事、日本でもヒューマントラストシネマ渋谷さんの名物特集企画『未体験ゾーンの映画たち』の2021年版で公開されることになりました。すばらしい!


ダーリン画像.jpg

©2018 BY LITTLE BITER LLC. ALL RIGHTS RESERVED


あらすじと概要を、以下、ヒューマントラストさんの紹介文から引用いたします。

ーーーーーーー

野生少女ダーリンの秘密「悪魔」とは...。

野生の少女ダーリン(ローリン・キャニー)は16歳、ある目的のため病院にやって来た。言葉も話せず凶暴で不潔な少女ダーリンは、看護師トニー(クーパー・アンドリュース)に保護され修道院に引き渡された。司教(ブライアン・バット)は「教会の奇跡」として宣伝になるよう「いい子」へと教育するようジェニファー(ノラ・ジェーン・ヌーン)に命じた。実は司教は小児性愛者でダーリンにも魔の手が! かつてジェニファーも司教の犠牲者だった。やがてダーリンは、徐々に言葉も話せるようになり司教は驚くべき事実を聞くことになる。ダーリンに「悪魔」の存在が...。またダーリンの育ての親、野生の女(ポリアナ・マッキントッシュ)もダーリンを探していた。
その野生の女はダーリン以上に激しく狂暴だった...。
ホラー作家スティーブン・キングに賞賛されるホラー小説家、ジャック・ケッチャム原作の'09年製作『襲撃者の夜』'11年製作『ザ・ウーマン』に続くシリーズ第3弾となるが完全オリジナル作品。単独で見て楽しめる。
監督は前2作に出演した女優ポリアンナ・マッキントッシュ。
ダーリンは「社会問題をテーマとしたホラー映画」だと語っている。

監督
:ポリアンナ・マッキントッシュ
脚本
:ポリアンナ・マッキントッシュ、ジャック・ケッチャム
出演
:ローリン・キャニー、ポリアンナ・マッキントッシュ、ノラ=ジェーン・ヌーン、ブライアン・バット、クーパー・アンドリュース、ペイトン・ウィッチ
製作
:ラッキー・マッキー
自主規制
:R15+相当

ーーーーーーー

どうです? これは観ておかないとだめなんじゃないですかね?(ちなみに編集者も未見です)

製作は2019年。晩年、盟友として共作を続けていたラッキー・マッキーにとっては、本作を世に出すことこそが、ケッチャムへの弔いになると信じての作業だったにちがいありません。

一週間かぎりの上映ではありますが、ぜひケッチャム愛好家の皆さん、ともにこの僥倖を分かち合いましょう。
なお、上映時間など詳しいことは、下記のホームページでご確認くださいませ。



(編集Y)




2021年2月 3日 11:28 | | コメント(0)

遅まきながら、うれしいご報告です。
2020年12月に発売されました、宝島社の『このミステリーがすごい!2021年版』で、
弊社刊行のエリオット・チェイズ『天使は黒い翼をもつ』(2019年12月末刊行、浜野アキオ訳)が
海外編 堂々6位を獲得いたしました!!

天使は黒い翼をもつ 画像小.jpg

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望外の評価を、多くの読み巧者の皆様より頂戴いたしまして、心からありがたく思っております。

「古い映画のように雰囲気たっぷり。こういうの、少なくなりました」(矢部潤子さん)

「生涯のベストに食い込むかもしれません」(小野家由佳さん)

「定式を継承しつつ定式を超えていく過剰さをもち合わせた幻のノワール」(ストラングル成田さん)

「登場人物のエモーションが突き刺さり、鮮烈なイメージが脳裏に焼きつく」(矢口誠さん)


など、皆様からいただいた的確な寸評にも、思わず目頭が熱くなります・・・・。

その他、『コックファイター』や『ナイトメア・アリー 悪夢小路』、カッスラーの諸作にもご投票くださった方が何人もいらっしゃいました。この場を借りて厚く御礼申し上げます!

1940年代~60年代にかけてのノワールに関しましては、ある程度の売り上げを期待できるならば、今後も、機会を見てなんとか出版していければと思っております。

それと昨年、下記のようなサイトを宣伝部と販売部のほうでつくってくれまして、
現編集者のYと前任者T、販売の若手ふたりで「ノワール座談会」なるものを行い、アップしております。
扱っているのは、『ポップ1280』『天使は黒い翼をもつ』『コックファイター』『ナイトメア・アリー 悪夢小路』の4作品。
素人ゆえ拙いトークではございますが、こちらも合わせてご参照いただければ幸いです。



今年も、扶桑社では定番のアクション大作から、クラシック本格、さらにはドイツもの、北欧もの、そのほか他社ではとても出そうにないようなクセの強い新作まで、幅広いジャンルのミステリーをお届けしていくつもりです。
まずは、1月末日搬入にて、レオ・ブルースの久々の新訳『ビーフ巡査部長のための事件』
2月末には、ネットフリックスでオリジナル・ドラマが近日放映される、衝撃のドメスティック・スリラー、サラ・ピンバラ『瞳の奥に』
3月と4月にはクライブ・カッスラーのNUMAファイル・シリーズと、オレゴン・ファイル・シリーズの新作を、それぞれ準備中。
いずれ劣らぬ面白いラインナップをそろえて、皆様に提供してまいります。

本年も、扶桑社ミステリー(ならびに扶桑社ロマンス)を何卒よろしくお願い申し上げます。
(編集Y)








2021年1月24日 15:45 | | コメント(0)

2020年12月末発売の新刊は、『つけ狙う者』(上・下 染田屋茂・下倉亮一訳)。
前年、『砂男』(上・下)を発売して、大変好評を得ました、ヨーナ・リンナ警部シリーズの第5弾です!
解説は、チャールズ・ウィルォード『拾った女』以来の登場となる、杉江松恋さんにお願いいたしました。
北欧ミステリーが大好きな上司が、今回も自ら担当しております。ようやく編集者も読み終わりましたので、遅まきながら更新いたします。


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 あらすじはこんな感じです。

国家警察の警部ヨーナ・リンナが姿を消してから8カ月――彼の後任となったのは、臨月間近のマルゴット・シルヴェルマン。
いま彼女が担当しているのは、独身女性の連続惨殺事件だ。
どの被害者も残酷なまでに顔面を傷つけられていたのみならず、犯人は、犯行の直前に被害者の姿が映った映像を警察に送りつけていた。目撃者もなく、被害者どうしの接点や共通点もないなか、警察は過去の犯罪歴から強迫的な執着を持つ性犯罪者の洗い出しを進めるが、容疑者らしき人物は浮かんでいなかった。
マルゴットからの依頼を受け、事件の第一発見者に催眠聴取を行った精神科医のエリック・バルクは、遺体が奇妙な姿勢を取らされていたことを知る。エリックの脳裏に浮かんだのは、共通点のある9年前の事件だった。
容疑者の牧師ロッキー・キルケルンドは、エリックの精神鑑定により医療刑務所の精神病棟に送致されたが、本人はアリバイを主張していた。もしあの事件に真犯人がいて、今も凶行を繰り返していたとしたら・・・・。

前作『砂男』は、シリーズ主人公であるヨーナ・リンナ「自身」の事件でもありました。


連続殺人鬼との過酷な闘争のすえ、前作のラストで姿を消したヨーナは一体どうなったのか。
まずはそのあたりが、本作前半の主眼となります(まあシリーズというくらいで、あのまま死んだりはしていないわけですが)。
一方で、本作のメインとなるのは、妙齢の女性の連続惨殺事件。
第二の事件が発生し、妻を惨殺されて記憶の混濁している発見者の夫から証言をとるべく、催眠学者のエリックに声がかかります。エリックは、シリーズ第一作『催眠』にもメイン・キャラとして登場した、ファンにとってはお馴染みの人物。彼もまた、この事件に深く巻き込まれていきます。

前作では、前半戦を公安警察のサーガ・バウエル警部がひっぱり、やがてヨーナ・リンナ自身の事件として物語が反転、深化していく構成が目をひきました。
今回もまた、同じことがヨーナとエリックに役者を変えて繰り返されているともいえます。

『羊たちの沈黙』のトマス・ハリスが打ち立てたサイコ・スリラーの王道を継承しながら、『ミレニアム』以降の北欧ミステリーに特徴的なタイプの警察官たちを主人公にとるケプレルの作風は、堅固でスピ―ディで安定感があります。ここ数作の特徴としては、

●長期的なスパンで事件が展開し、長い闇のなかで悪意を増大させた強烈な個性派サイコ犯が、被害者だけでなく、捜査側の登場人物の人生にまで甚大な影響を与える傾向が強い。

●主要登場人物がみな、まあまあ酷い目にあって、ぼろぼろになるまでサディスティックにいたぶられる。キャラ愛の裏返しですね(笑)。

●あらゆる登場人物が、なんらかの闇や、過去や、謎や、過剰さを抱えていて、類型にとどまらない「えぐみ」を漂わせている。たとえばエリックが恋に落ちる盲目の女性ジャッキーは、ちょっとしたエリックの失敗に激昂してなじりまくるヒステリックな一面を見せるし、その娘マデレーンは母親には見ることのできない自室の部屋の壁一面に汚言や卑語を書きなぐっている、など。本作のヨーナも、ほとんどジョン・ルーサー顔負けの狂犬ぶりを発揮するようになってきてて、好感度はだだあがりです。

本作では、解説の杉江さんもおっしゃっている通り、「キリスト教の信仰」がやがて事件の大きな背景として浮かび上がってきます。舞台設定としても、市街地の住宅街から場末のドラッグ・スポット、田舎街、さびれた工場地帯と、スウェーデンのさまざまな風土と環境が垣間見られて興味深いところです。

そこで暗躍する、謎の〈黄色いレインコートの牧師〉とは?
(おおおっ、なんかニコラス・ローグ『赤い影』の〈赤いレインコート〉を彷彿させて怖いですね!)

読んで損はぜったいにさせません。
よろしければ、ぜひお手にとってみてくださいませ!(編集Y)




















2021年1月10日 09:00 | | コメント(0)

11月末搬入、12月初旬刊行の新刊は、
クライブ・カッスラー&ロビン・バーセルによる、
ファーゴ夫妻シリーズの第10弾『幻の名車グレイゴーストを奪還せよ!』(上・下 棚橋志行訳)。

今回は、クラシック・カー・マニアとして名高いカッスラーの趣味が全開の作品となっております!


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 あらすじはこんな感じです。

1906年。創設間もないロールス・ロイス社の名声を確立した名車シルヴァーゴーストには、幻の試作車「グレイゴースト」があった。
この試作車が英国マンチェスターの路上からこつ然と姿を消す。
調査に乗り出したのは探偵アイザック・ベルだった!
 
くだって現在。ファーゴ夫妻のもとに、サムの母方の遠縁を名乗るペイトン子爵家から、保有するグレイゴーストを担保とした融資の打診が舞い込む。
二人はロンドンのモーターショーに現物確認のため出向くが、そこで再び名車グレイゴーストが、子爵アルバート・ペイトンともども姿を消してしまう。やがて子爵は無事発見されるが、会場で警備員を殺害した容疑で逮捕されて・・・ぺイトン家に次々とふりかかる災厄の背後には、子爵家に憎しみを抱くある男の策謀があった。
事件を探るファーゴ夫妻にも、悪漢たちの魔の手が迫る。
すべての謎を解く鍵は、1906年に起きた名車盗難事件の顛末を記した「日記」に・・・・。


今回の売りは、なんといっても、カッスラーの生んだシリーズ主人公である、アイザック・ベルとファーゴ夫妻が時を超えて夢の競演を果たす、ということでしょう。

もちろん、かたや20世紀初頭の探偵、かたや現代の大富豪カップルということで、ふつうにやって競演できるわけもないのですが、そこに登場するのが、1906年製作の「グレイゴースト」という架空のロールス・ロイス試作車。おお、「灰」の〈テストカー〉ですね!(ネタが古い)
この車をめぐって過去に起きた盗難事件と、現在ふたたび引き起こされた消失事件を、「日記」を媒介にオーバーラップさせ、過去と現在の記述を交錯させつつ進行するというのが、今回の主眼です。

アイザック・ベル・シリーズは、大変申し訳ないことに(おもに売れ行き上の問題があって)『大追跡』『大破壊』『大諜報』の三作で紹介が止まってしまっておりますが、本国では他のシリーズ同様、大変人気があって、10作を超えてなお書き継がれています。
サーヴィス精神旺盛なカッスラーは、オレゴン・ファイル・シリーズにダーク・ピットや〈NUMAファイル〉のカート・オースティンを登場させるなど、これまでもシリーズ・キャラクターを時折交流させることで読者を喜ばせてきました。ダーク・ピット・シリーズでは、「カッスラーみたいな人物を出す」というカメオネタも毎回やってましたし。

本作では、上巻29頁に、
「あれ、クライブ・カッスラーの車じゃない? 彼が二〇一〇年に修復をすませた車じゃないかしら?」
というセリフがでてきます。
この「1948年型ドライエ135カブリオレ」は、おそらく実際にカッスラーが所有している車。彼は、ヴィンテージ・カーコレクターとしても大変著名な人物なのです(1954年にジャガーXK120を購入したのが最初だとか)。ちなみに、アメリカ版ハードカバーの裏表紙には、オープンカーのクラシック・カーに乗ったカッスラーの意気揚々たる姿が毎回掲載されています。

さらに、本作にはもう一台の伝説のクラシック・カー「アーレンス・フォックス」が登場します。
(ご存じない方は、ちょっと変わった車種ですのでお楽しみに)
ちなみに、上巻のイラストが「アーレンス・フォックス」、下巻のイラストが「グレイゴースト」となっていますので、頭のなかで走らせながら読んでいただけると幸いです。

なお、次のカッスラーは2021年3月末の刊行を予定しています。
一年ぶりの〈NUMAファイル〉シリーズ、『Zero Hour』。お楽しみに! (編集Y)



2020年12月10日 00:53 | | コメント(0)

11月頭に発売されました、トム・クランシー&スティーヴ・ピチェニック『復讐の大地』(上・下 伏見威蕃訳)。

新たにスタートした「トム・クランシーのオプ・センター」シリーズの第3弾となります。
3年連続で、同じ時期にご紹介することとなりました。

今回の舞台は中東。敵はISIL(イスラム国)!
ド直球のミリタリー・アクションの登場です。

復讐の大地 ブログ.jpg

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あらすじはこんな感じです。

対ISIL世界連合の大統領特使ボブ・アンダーウッド将軍の一行が、シリアのアルブカマル市に向かう途中、ロケットランチャーによる攻撃を受け、車両縦隊は全滅、将軍は誘拐された。

数時間後、アメリカ大統領ミドキフと高官たちは、ISILのリーダー、マバード=アッ・ドーサリーによって将軍が斬首されるさまをライブテレビで見ることに。

米国はすぐさま報復として空母打撃群を派遣、敵の本拠に攻撃を仕掛けて壊滅させるが、生き延びたアッ・ドーサリーはさらなる復讐を誓うのだった......。

ISIL本拠攻撃の3カ月後、その報復は思わぬ形で実行に移された。

攻撃時に作戦の指揮官をつとめていた海軍省議会担当部長ジェイ・ブルーナ提督が、米国内で誘拐されたのだ。

FBIの追跡を振り切って姿を消した誘拐犯に対して、チェイス・ウィリアムズ率いるオプ・センターの面々は、持ち前の情報収集力を武器に奪還作戦を展開。

だが、提督の長男でSEALに所属するデイルのとった思わぬ行動をきっかけに、事態は混迷の度合いを深めてゆく......。


ISIL(イラクとレヴァントのイスラム国)が敵として登場するミリタリー・アクションは、意外とあるようで少ないかもしれません。

9.11同時多発テロ以降、アメリカ合衆国にとって、アルカイダおよびISILとの闘いはまさに、そのただ中にあるリアル中のリアルです。

娯楽として扱うには、まだちょっと距離が近すぎるのかもしれませんし、ナチスやロシアのようには扱いづらい、人種や思想にかかわる部分の問題もあるのでしょう。

本作では、ど真ん中から、ストレートに、この喫緊の問題であるテロとの闘いに焦点を当てて、アメリカ高官の拉致・処刑とそれに対する報復、さらなるISILサイドからの報復としての高官誘拐と、オプ・センターによる追跡劇という攻防が、克明かつリアルに描き出されます。

まさに王道の軍事アクション、シミュレーション小説として、読み応え十分といえるでしょう。


前作『北朝鮮急襲』(上・下)では、若干「埋めぐさ」のような形で終盤の大学生によるテロ計画がつけ加えられていた感じも否めませんでしたが、今回は間断なく、意外なワンマン・アーミーを登場させることでうまく話を転がして、決戦の地、イラクへと読者を誘います。

新章に入って初めて、レギュラーメンバーに犠牲が出る、たいへん緊迫したスリリングな内容となっています。ぜひお楽しみいただければ幸いです。


なお、本書ではISIL、ISISと二種類の呼称が登場しますが、基本的にはイスラム国サイドから描かれている章では、本人たちが自称している「ISIS」(イスラムとシリアのイスラム国)、アメリカサイドから描かれている章では、「ISIL」の呼称が用いられています。ただし、めまぐるしく視点の入れ替わるあたりでは、便宜的に統一して用いている場合もあります。ご理解いただければ幸いです。

(編集Y)








2020年11月23日 19:32 | | コメント(0)

9月末搬入、10月初発売の扶桑社ミステリー新刊は、『ナイトメア・アリー 悪夢小路』
鬼才ウィリアム・リンゼイ・グレシャムが遺した、異形のカルト・ノワールの登場です!

ナイトメアアリーカバー.jpg

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「扶桑社ノワール・セレクション」と題して、2017年に『拾った女』を刊行し、『このミステリーがすごい!2017年版』で海外編4位に選んでいただいてから早4年。
昨年夏に、ジム・トンプスン『ポップ1280』を復刊、
年末には、エリオット・チェイズの『天使は黒い翼をもつ』を刊行、
さらに今年の春には、チャールズ・ウィルフォードの『コックファイター』を刊行。
そして本作。
ここまでノワール紹介の火を絶やさず、続けてこられたのも、すべて読者の皆様によるご支援の賜物でございます。
皆様への感謝をこめて、現編集担当Yと元編集担当T、販売部の若手ふたりで、ノワール座談会なるものを開催し(販売担当にやれとけしかけられましたw)、動画をアップいたしました。


扱っているのは、上記の『ポップ1280』『天使は黒い翼をもつ』『コックファイター』、そして本作『ナイトメア・アリー』の4作品。他に、前任者Tによる著作権法と海外翻訳にまつわる説明画像(もしかして、「十年留保」を動画で説明した世界で初めての試みでは??)なども用意しておりますので、こちらもご高覧賜れば幸いです。

改めまして。
あらすじはこんな感じです。

スタン・カーライルは、カーニヴァルの巡回ショーで働くしがないマジシャンだ。
だが彼には野心があった。いつの日か華々しい成功と大金を摑んでみせる。
同じ一座の占星術師ジーナと関係をもち、読心術の秘技を記したノートを手に入れたスタンは、若く美しいモリーと組んでヴォードヴィルへの進出を果たすが......
タロットの示す運命とファム・ファタールに導かれて、栄光と絶望の果てに男がたどり着く衝撃のラストとは。
特異な世界観で魅了する闇色のカルト・ノワール、登場!


ノワール、といっても、かわり風変わりな小説です。

なにせ、舞台がカーニバルのフリークショー。
主人公は若きマジシャンなのです。
で、各章の冒頭にはタロットカードの絵柄とタイトルが曰くありげに付され、
鶏を生きたまま頭から食いちぎる「野人(ギーク)」や、「人類史上最少の男」モスキート少佐、「電気女」などの見世物芸の詳細が語られ、読心術のトリックを用いた占星術の紹介にも筆が費やされます。
なんでも、著者のウィリアム・リンゼイ・グレシャムは、実際にフリークショーに同行して、綿密な取材を重ねて、本書をものしたそうです。

どうです? 
映画「フリークス」や「エルトポ」や花園神社といったカルトな世界が好きな人にとっても、
本格ミステリーの愛好家諸氏にとっても、なんだか心そそられる題材ではありませんか。

しかも本書は、成り上がりを目論む男の、ぎらぎらとした犯罪小説であると同時に、
奇術や読心術のトリックをふんだんに用いた「コン・ゲーム小説」(詐欺師小説)でもあります。
後半は、降霊術にまつわる主人公のたくらみに、ファム・ファタールが一枚噛んできて、事態は思いがけない方向に展開していきます(そういえば、世界で最も名高いマジシャン、フーディニもエセ霊媒ハンターとかやってましたよね)。


今回、解説をお願いした霜月蒼さんは、本書を「ひとことでいえばビザールな犯罪小説である」と規定したうえで、以下のように述べておられます。

「狂気めいた奔放な文章が乱舞する作品でありながら、本書は因縁めいた美しくシンプルなプロットを持っていたことが最終的に判明するとだけ言っておく。もっともその美しさは、底なしの恐怖を秘めたものではあるけれども。」

「犯罪へと至る生々しい悪夢――それを見事に描いているがゆえに、本書は長らくノワールの文脈で語られてきたのだろう。中盤をすぎて、主人公の闇/病みが臨界点を超えたのちに展開される壊れた文章と、それが綴る倒錯した性をめぐるビザールなイメージは、著者グレシャムの文章家/幻視者としての非凡さを証明している。」

また、ノワールとニューロティック・ミステリーの同時代性/共通点などにも触れられたうえで、本書について、ミステリー史上で最初期のサイコ・スリラーでもあると、おっしゃっています。
(ホントにすごい解説なんで、ぜひ合わせてご一読ください!)


すなわち本書は、
ジム・トンプスンが好きな人にも、クレイトン・ロースンや泡坂妻夫が好きな人にも、
『コンフィデンス・マンJP』が好きな人にも、『幽霊探偵カーナッキ』が好きな人にも、
マーガレット・ミラーが好きな人にも、『少女椿』が好きな人にもジャストフィットする、
間口のとても広い「ノワール」ということになります。

小説としての面白さは、抜群。
得も言われぬ素材の妖しさと、ミステリーらしい論理性と、ノワールらしい情念と、実験的ですらある文学味が、ざくっと手荒く混ぜ合わされて、独特の味わいを醸し出している。
主人公スタンの歪んだキャラクターも、どこか憎めないんですよね。
まともに生きられないわりに、いかさまにはやけに真摯で、求道的なまでの「のめりこみ」ようを見せる。情熱的で、上昇志向が強く、冷徹で計算高い性格でありながら、幼少時の体験にとらわれ、常に恐怖といら立ちにさいなまれている。この、田宮二郎感、嫌いじゃない!

そんな彼と情を通じる三種三様の魅力的な女性たち。
周囲を取り巻く、奇抜な芸や生まれつきの体をもとでとする芸人たち。
登場人物みんな、めちゃくちゃキャラがたってます!

あと、本作を書いたウィリアム・リンゼイ・グレシャム自身が、登場人物さながらの破綻した生活を送ったうえ、いつしか零落して、晩年は貧困と病とアルコール依存に苦しめられながら(ポーみたい)、ついにはみずから命を絶つにいたった、という事実を知ったうえで読むと、小説としての感興もまた、いやがうえでも増すのではないかと。
彼の死後見つかった名刺には、中央に「リタイヤ済み」とあり、四隅にそれぞれ、「住所なし」「電話なし」「仕事なし」「カネねし」と書いてあったといいます(解説より)。

それと余談ですが、大学で奇術愛好会に所属していた編集者からすると、実際に当時現役で上演されていた奇術やメンタルマジックのネタばらしを、小説内で平然と敢行している点でも、非常に興味深いミステリーだと言わざるを得ません(他にこういった作例が娯楽小説にあるのか?)。
なにせ、この本、ハワード・サーストン(日本の奇術業界では「サーストンの三原則」でその名を知らない者のいない20世紀初頭の大マジシャン。ちなみにこの三原則、編集者は入部の日に教わりましたw)の名前まで出てきますからね・・・・。

これまで邦訳がなかったとはいえ、海外ではカルト作として一定の評価を得てきていますし、出版されてすぐ、タイロン・パワー主演で映画化もされています(『悪魔の往く町』)。
さらには・・・・、なんと2021年に、ギレルモ・デル・トロ監督によるリメイク作品の公開が予定されています! 当初、レオナルド・ディカプリオ主演と言われていたのですが、結局、ブラッドリー・クーパーが主役を張ることとなったようです。

今回の装丁(「小路」を歩むものを「逆位」にして、タロットの「吊るされた男」と並べてみた)、個人的に大変気に入っておりますが、映画公開時には、いさぎよく映画カバーに掛け替えて、ぜひ再出庫したいと考えております(笑)。

観る前に読むもよし。
観てから読むもよし。

今まで日本で知られていなかったのが嘘のような、正真正銘の傑作です。
ぜひお楽しみください!(編集Y)

PS 終盤、スタンが仕掛ける「天秤」のトリックには、種明かしが明確には書かれていません。
翻訳者の矢口さんは、「そりゃ"あれ"しかないでしょう」とおっしゃるのですが、"あれ"だと、人間の肉眼でも見えちゃうんじゃないですかね、だって「サーカス」とかあるくらいだし、というのが編集者の意見でして・・・。
これぞ、というトリック解説のご用意のある方は、ぜひコメント欄にそっと書いて、編集者のもやもやを払ってくださいませ(笑)。



2020年10月23日 19:29 | | コメント(0)

弊社の基幹作家であるスティーヴン・ハンター。
今年は残念ながら新刊はありませんでしたが、ついに初期の代表作『真夜中のデッド・リミット』(上・下)が扶桑社から復刊されることになりました!
『このミステリーがすごい」!89年版』海外編第2位(ちなみに、この年の第1位は『羊たちの沈黙』でした!)や、日本冒険小説協会大賞受賞など、数々の栄冠を得て、日本での彼の名を大いに高らしめた初期の代表作が、新刊として書店の店頭に帰ってきます。

今回、改めて翻訳者の染田屋さんと全文を確認し、かなりの箇所で訳文に手を入れました。
少し古い言い回しだった固有名詞なども含めて、今の読者の皆さんに読んでいただくにふさわしい形で、訳文をリファインすることができたのではないかと自負しております!

デッドリミット上下2.jpg


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上巻出だしのあらすじは、こんな感じです。

アメリカ・メリーランド州にある、山中深くに配された核ミサイル発射基地。
全米で唯一、単独発射が可能なこの基地が、謎の武装集団に占拠された。
最新鋭核ミサイルの発射を阻止するためには、基地に潜入するしかない。
ミサイルの発射キーは現状チタニウム合金製の保管庫に収められているが、
破られてしまうのも時間の問題だ。デッド・リミットは深夜零時。
ミサイル発射までに残された時間は十数時間しかない。
絶体絶命の状況下で、デルタ・フォースを創設した歴戦の勇士プラーに特命が下る!

とにかく、べらぼうに面白い。
人によっては、スワガー・サーガより好き、という人がいてもおかしくないでしょう。
実際、評論家の川出正樹氏は、ハンター作品のなかでは「ダントツで『真夜中のデッドリミット』が好きです」と公言されていたかと。

正体のわからないテロリストによって、唐突に占拠された核ミサイル基地。
ミサイル発射までのデッド・リミットが目前に迫ります。
限られた時間のなかで、デルタ・フォースと徴用された一般人の混成部隊は、
①外部に配された敵勢力を突破したうえで、
②難攻不落のミサイル基地内部に潜入し、
③カウントダウンをとめなければならない。
併せて、そのためには
④敵の正体を見破ることも必須となってきます。

この最高難度のミッションに、デルタ・フォース創設にかかわったプラー大佐を指揮官として、FBI捜査官や、民間人の州兵であるブラヴォー中隊の面々、基地潜入の特命を帯びたベトナム戦争の勇士(トンネル・ネズミ)といった、さまざまは人々が、一致団結して挑みます。
その他、テロリストの中核メンバーや、彼らに誘拐され協力させられる溶接工、人質にとられたその家族、うらぶれた落魄の中年ソ連人スパイなど、個性的なキャラクターがつぎつぎに登場。
一日に満たない時間経過のなかで、それぞれが文字どおり「生死を懸けた」、苛烈な戦いに身を投じます。

すなわち、スワガー・サーガが無敵のスナイパーの活躍を描く「ヒーロー譚」であるとすれば、
本作は徹底して一人ひとりの物語に注力した、典型的な「群像劇」であるといえるでしょう。

解説の古山裕樹氏は、本書の面白さを「記憶」「人物」「展開」の三つの側面から、見事に読み解いてみせます。

「そして、本書の登場人物たちはあっさりと命を落とす。たとえ重要なキャラクターでも油断はできない。これは決して一人ひとりのキャラクターを軽く扱っているということではない。むしろその反対だ。
 個々の人物がどのように生き、何を愛し、何を重んじていたかーーそれが描かれているがゆえに、一人ひとりの死が、読む者の心に鋭く突き刺さる。そっけなく語られる死は、その簡潔さゆえに、語られない多くのことを読者に刻みつける。」

結局、この物語で誰が勝利し、誰が英雄になったといえるのか。
下巻368ページから始まる、とある登場人物の長いモノローグは、血沸き肉躍るアクション・サスペンスの最後にやるせない影を落とし、深い文学的余韻を残します。
371ページに「列挙される」、いかにもハンターらしい「とあるデータの羅列」が、なぜにここまで読む者の涙腺を刺激するのか。
近年のハンター作品と比べると、レトリックはさっぱりめで、描写もねちっこさが薄め、個性という意味では若干控えめかもしれませんが、そのぶん、キャラクターたちが織り成す密度の濃いタイムリミット・サスペンスを、ストレートに堪能できるかと思います。

スティーヴン・ハンターの、というより、
20世紀のアクション小説を代表する、ベストの一作。
まだ読まれたことのない方も、かつて一度読まれた方も、ぜひ手に取ってみてください。
担当編集として、皆様に最高の読書体験となることをここにお約束いたします!!  (編集Y)



2020年10月 2日 20:52 | | コメント(1)

8月末(9月10日奥付)の新刊は、扶桑社では久々の赤背(ホラー&ファンタジー)!

スティーヴン・キングのファンサイトを運営する熱狂的なマニア、ハンス=オーケ・リリヤが編纂した、キングに捧げるホラー・アンソロジー。『闇のシャイニング リリヤの恐怖図書館』の登場です。

一部ファンの間で、結構話題にしていただけているようで、初速もそこそこよく、本当にありがたい限りです!

 

シャイニング ブログ.jpg

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内容はこんな感じでございます。

 

世界最大のスティーヴン・キング・ファンサイトを20年間運営してきた編者が、キングゆかりの著者たちに自ら執筆・掲載の交渉を重ねて編み上げた傑作ホラー短編集。

海辺のコテージを訪れた作家が、家主の妻に霊感を得て小説を書き始めるが、完成した作品を読んで笑い転げる彼女を見て......キング自身の小説作法を作中で開陳する異色の書籍初収録作「青いエアコンプレッサー」、インターネットを介したいびつな男女関係を描くケッチャム&カセックの「ネット」など、珠玉の12編を収録!

 

収録作は以下の通りです。

スティーヴン・キング/白石朗訳 「青いエアコンプレッサー」
ジャック・ケッチャム&P.D.カセック/金子浩訳 「ネット」
スチュアート・オナン/夏来健次訳 「ホロコースト物語」
ベヴ・ヴィンセント/友成純一訳 「アエリアーナ」
クライヴ・バーカー/宮脇孝雄訳 「ピジンとテリーザ」
ブライアン・キーン/友成純一訳 「世界の終わり」
リチャード・チズマー/友成純一訳 「墓場のダンス」
ケヴィン・キグリー/友成純一訳 「炎に溺れて」
ラムジー・キャンベル/友成純一訳 「道連れ」
エドガー・アラン・ポー/金原瑞人訳 「告げ口心臓」
ブライアン・ジェイムズ・フリーマン/友成純一訳 「愛するお母さん」
ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト/友成純一訳 「キーパー・コンパニオン」
 

今回やむを得ない諸般の事情で、急きょ編集者が自ら巻末の解題を付すことになりました。

これだけ著作権上問題のないケースも稀ですし(笑)、

せっかくですので下記にそのまま添付いたします。

 

一点、追記しておきますと、ハンス=オーケ・リリヤさんの名前の読みは、ご本人に確認済みです。エージェントを通して確認したところ、なんとリリヤさん本人から、速攻でご自身で名前を発声してくれた音声ファイルが送られてきたんですよ。なんて軽いフットワーク!

ちなみに、それを会社で確認するためにエンドレスでリピート再生していたら、あろうことかヘッドホンのプラグが抜けてたようで、編集部に大音量で「ハンスオケリリィヤハンスオケリリィヤハンスオケリリィヤ・・・」と流れてたらしく、同僚たちから「あなた一体なんの仕事してんのそれ? 呪文? こわいよ!!」とか散々バカにされました(笑)。

 

 解 題


本書は、スティーヴン・キングの個人ファンサイト〈リリヤ・ライブラリー〉を長く運営してきたスウェーデン人、ハンス=オーケ・リリヤが、サイト設立二十周年を祝う目的で、自らキングゆかりの作家たちに作品の提供や原稿執筆の依頼を行い、編み上げた短篇集である。

書籍の刊行元は、アメリカを代表するホラー専門出版社〈セメタリー・ダンス〉社。アメリカのホラー界では、同社や〈ガントレット・プレス〉社など、愛蔵版のハードカバーを少数の好事家に向けて限定生産する出版社が存在し、ホラー・マニアに客層を特化したアンソロジーや復刻版を随時提供している。本書には、〈セメタリー・ダンス〉社のリチャード・チズマーやブライアン・ジェイムズ・フリーマンが、作家としても参加している。


筋金入りのキング・マニアが、自らのアンテナに適う作家たちに発注して生み出したアンソロジーだけに、その作品群からは、強烈に「キング」の影と匂いが漂ってくる。それは当然のことだろう。

「スティーヴン・キング」とはいったい何者なのか。キングが生み出した「モダン・ホラー」とはいったいなんなのか。何を糧として、キングという巨峰は生み出されたのか。

そういった根源的な問いが、作品からは常に逆照射されているように思われる。

キングに影響を与えた作品群(エドガー・アラン・ポー、H・P・ラヴクラフト、レイ・ブラッドベリ他)へのオマージュと、キングに影響を受けた作家たちによるキング自身へのオマージュが、さまざまなレベルで混淆し、波及し合うことで、本アンソロジーは「作品で語るキング論」として機能しているのである。


以下、各作品について最低限の解題を付す。

なお執筆にあたっては、本書の特設サイトに掲載された、各作品についての著者陣の発言(https://shininginthedarkanthology.com/us/)をなるべく引用するようにした。



「青いエアコンプレッサー」スティーヴン・キング

本書の刊行まで書籍に収録されたことのなかった、キングのファンのあいだでもなかなか読めないとされてきたレア中のレア作品であり、もちろん本邦初訳となる。 

キングの分身ともいうべき作家を主人公に据えながら、なんと著者である「キング本人」まで物語に闖入してきて、やおら自作の解説を始めたすえ、自身のホラー小説作法を縷々開陳するという、かなりトリッキーなメタ作品。どうやら大学時代の若書きを雑誌に再掲載した際に、この奇妙な外付けのギミックが追加された可能性が高そうだが、結果的には、キングの小説技法やホラー観を知るうえで極めて重要な作品となっている。

本書のアイディアに関しては、キング自身が作中で述べているとおり、かつて読んだECコミックの一篇から得たインパクトが大きいようだ。そこで夫婦がお互い殺し合う際、痩せ女が膨張して弾け飛び、肥満男が真っ平らになるという「皮肉」をキングはいたく愛している、という。


「ネット」ジャック・ケッチャム&P・D・カセック

二〇〇六年に〈ガントレット・プレス〉社の少部数限定版ハードカバーのホラー・アンソロジー『Masques』第五巻に掲載されたのが初出で、ケッチャムの個人短篇集には収録されていない。こちらも本邦初訳である。

暴力と悲劇に終わる酷薄な世界観のなかでなお、人の孤独とディスコミュニケーションをリリカルに描き出すという意味で、ジャック・ケッチャムの真骨頂とも言える作品。テイストとしては二〇〇七年の中篇「閉店時間」(中篇集『閉店時間』扶桑社ミステリー所収)に比較的近いといえるのではないか。本アンソロジーに収録されたのは、猫の「クージョ」が登場するからかもしれない。

著者たちによれば、もともとケッチャムがどこかのコンベンションで出会ったP・D・カセックに、本作の内容に類似した実在のニュースの話をしたのが始まりらしい。カセックのアイディアで、実際にインターネット上で、男のほうをケッチャム、女のほうをカセックが担当して交互に書き合うかたちで、共作の執筆は進められたようだ。カセックは「最高のホラーとは、極限へと振れた日常の恐怖のことだ」と述べている。


「ホロコースト物語」スチュアート・オナン

ロンドン在住の作家が『ホロコースト物語』という小説を発表して名をあげ、アメリカの有名トーク番組〈オプラ・ウィンフリー・ショー〉のゲストに招かれて出演するまでの懊悩や葛藤を描く純文学風の異色作。とくに目を惹くのは、主人公(兼語り手)の呼称が彼の書いた作品名と同じになっている点で、「青いエアコンプレッサー」同様、自己言及性の強い作品に仕上がっている。著者は本作について「小説を書く際の作家自身の実体験と他者の経験の関係をテーマにした作品」と述べている。また冒頭の呼びかけは、レイ・ブラッドベリとジョン・アップダイクを意識したものであるという。

オナンはいわゆるホラー作家ではないにせよ、キング自身を自らの小説『スピード・クイーンの告白』(ソニー・マガジンズ)内に登場させたり、ボストン・レッドソックスに関する共著を二人で出したりと、なにかとキングと深い関係をもつ作家である。キングのナチスものといえば中篇「ゴールデンボーイ」(新潮文庫所収)が著名だが、オナンは他にも『City of Secrets』というナチスの登場する長篇を執筆している。両作家が同テーマへの関心を共有しているのは確かなようだ。

なお訳者の夏来健次氏によれば、本作の主人公が「島」の出身とされていることについて、イギリスで唯一ドイツに占領された地として、ドーバー海峡のチャンネル諸島があり、実際ユダヤ人島民がドイツの収容所に送られたり、島自体にも収容所が建てられたりしたことからすれば、史実上でもありえなくはない設定であるとのことである。


「アエリアーナ」べヴ・ヴィンセント

本書のための書き下ろし作品。もともとは別のテーマ・アンソロジー向けに執筆しながら仕上がらないまま置かれていた短篇を、リリヤからの依頼に合わせて全面的にリライトしたものだという。

特別な力を持つ少女と女性警官の交流を描く、情感とペーソスに満ちた美しい一篇である。「異能の少女」というテーマ、警察小説とのクロスオーバー、能力者と犯罪者が対峙する構図など、キング作品を彷彿させる要素を備えており、モダン・ホラーの定式を巧みに体現した逸品であるといえる。

著者によれば、当初はホラーもしくはダーク・ファンタジーを書くつもりだったが、結局はある種のクライム・ストーリーに着地したとのこと。彼は本作を「幻想的なるものが、殺人や警察捜査といった現世的世界と交叉する物語」「ある種のアーバン・ファンタジー」と位置づけている。


「ピジンとテリーザ」クライヴ・バーカー

一九九三年と一九九七年に「ロンドン」をテーマとするアンソロジーに収録されたのみで、ファンにとってはかなりのレアアイテムとなっていた短篇。もちろん、今回が本邦初訳である。

ロンドンの下町で引き起こされる怪しげな宗教的奇跡と、それに続く先読み不能の驚くべき展開。いかにもクライヴ・バーカーらしい幻視性の際立った快作であり、「聖」と「俗」のはざまに笑いと恐怖を見出す、著者ならではのヒエロニムス・ボス的な感性が炸裂している。

本作で採用された特異な文体は、得体の知れない聖人伝の偽書でも読まされているかのようだ。その語り口によって彼は、現代のロンドンに、ボスやブリューゲルの絵画作品に登場する天使や糞便まみれの聖人、人化したグリロスの怪物を召喚し、跋扈させることに成功している。皮肉たっぷりに描かれる「宗教」の欺瞞と卑俗は、まさに二〇二〇年の今にもつながる現代的なテーマだ。


「世界の終わり」ブライアン・キーン

本書のための書き下ろし作品。ストレートに情感に訴える佳品である。

公式サイトで、著者であるブライアン・キーンがこの短篇を執筆したきっかけについて語っている。なんでも、彼自身サスケハナ川の近くに住んでいて、ある朝桟橋に座って足元を流れる川面を見つめていたら、遠くで自分と同じように川の流れを眺めている人物が目に入ったらしい。その悲しみに沈むかのような姿を見て、物語の全体が一瞬で降りてきたという。

執筆に際しては、本アンソロジーの主旨にそって、キングの書き方を強く意識したということだ。


「墓場のダンス」リチャード・チズマー

どこかロマンティックな風情もある「メメント・モリ(死を想え)」をめぐる掌篇。

お気づきのとおり、原題「Cemetery Dance」は、著者であるリチャード・チズマーがオーナーをつとめるホラー専門出版社の名称と同じである(本アンソロジーの版元でもある)。

チズマーによれば、本作は彼がものしたいちばん初期の短篇の一本であり、雑誌に売れた二番目の短篇である。しかし本作を載せるはずだった雑誌が出版前に次々に廃刊の憂き目に遭い、この短篇自体が呪われているのではないかと恐れだしたという。本作を買った編集者たちは、その内容以上に「タイトル」の方を口を揃えて絶賛していたらしい。一九八八年にチズマーが自らのホラー雑誌を立ち上げると決めた際、その誌名に〈セメタリー・ダンス〉とつけたのは当然の帰結だった。

もちろんキングのファンにとっては、『ペット・セマタリー』(文春文庫)と評論集『死の舞踏』(ちくま文庫、原題『ダンス・マカーブレ』)を容易に想起させるタイトルでもあるだろう。


「炎に溺れて」ケヴィン・キグリー

本書のための書き下ろし作品。中篇規模のボリュームを誇るが、著者は本作を、とある吹雪の日の午後いっぱいをかけて一気に書き上げたという。

内容はある意味、シンプルだ。徹頭徹尾「あれ」が、ひたすら群れをなして襲ってくる! 映画なら『燃える昆虫軍団』『スクワーム』『ザ・ネスト』、小説ならジェイムズ・ハーバートの某作あたりを想起させるような、パニック・ホラーの王道を往く作品である。友成氏らしい名調子の翻訳とも相まって、食事時や就寝前に読んだら腹にぐぐっとこたえること請け合いだ。

作者であるキグリー自身、この生物に対する根源的な恐怖心があるというが、物語の霊感源として映画版の『羊たちの沈黙』を挙げているのは興味深い。また当然ながら、著者は、レイ・ブラッドベリの『何かが道をやってくる』(創元SF文庫)を作品の祖型として挙げている。

「カーニバル」の幻想と「少年たちの冒険行」の思春期性。それがスティーヴン・キングにとっても重要な作品の構成要素であることは、改めて指摘するまでもないだろう。


「道連れ」ラムジー・キャンベル

「炎に溺れて」に続いて、こちらもカーニバル(遊園地)を舞台とする作品。文学的かつ幻想的な味わいをじっくりご堪能いただきたい。唐突に登場する父母の描写などの「違和感」が積み重なり、やがて臨界に達したとき、世界観がぐるりとひっくり返る。これは子供の悪夢の形状をとって、イングランド北西部の廃遊園地へと偽装された、ダンテの『神曲』世界なのだ。

著者のラムジー・キャンベルは、本作について「理解することよりも書くことのほうが重要だと思われた数少ない作品の一つ」と述べている。一九六九年に最初の着想を得て、リヴァプールから川を挟んだニューブライトンの遺棄された移動遊園地を舞台にメモを書いたが、その時点で主人公は若い女の子の設定だった。その二年後、本作に登場する〈幽霊列車〉のアイディアが降りてきて、最終的には一九七三年に全体の完成を見たという。


「告げ口心臓」エドガー・アラン・ポー

古典中の古典ともいうべきポーの短篇が、一本だけこのアンソロジーに組み込まれている理由は概ね察しがつく。最初に収められたキングの「青いエアコンプレッサー」が、この「告げ口心臓」を本歌取りした作品という側面をもつからである。

ポーの場合、本作以外にも「黒猫」や「ウィリアム・ウィルソン」など、「良心殺し」に主眼を置いた同趣向の短篇がいくつか存在する。それらに登場する犯罪者は、おそらくなら犯罪者自身の「罪悪感」に起因する"無自覚の告発"によって、最後は追い詰められることになる。そこに、ポー本人が抱えていた犯罪衝動や破滅衝動、特定の呪物に対するオブセッション、終わることのない自責の念と自罰感情が色濃く反映しているのは想像に難くない。

本アンソロジーの公式サイトでは、ポーが目にした確たる証拠のある本作の霊感源として、第一にマサチューセッツ州で実際に起きた殺人事件に関するダニエル・ウェブスターによる記事、第二にチャールズ・ディケンズの短篇「チャールズ二世の時代に獄中で発見された告白書」(岩波文庫他、所収)が挙げられている。後者に登場する殺人者は、四歳の甥を殺すに至った経緯を強迫的かつ冷静に語るのみならず、不意の来客を迎えて、死体を埋めた墓の上に椅子を置いてごまかそうとするなど、「告げ口心臓」の殺人犯と酷似した行動をとる。ちなみに彼の犯罪を暴き出すのは、心臓でも猫でもなく、二匹の猟犬である。


「愛するお母さん」ブライアン・ジェイムズ・フリーマン

本書のための書き下ろし作品。著者のブライアン・ジェイムズ・フリーマンは、前出のリチャード・チズマーが立ち上げたホラー専門出版社〈セメタリー・ダンス〉社に、二〇〇二年に採用された「最初の(チズマーの)家族ではない従業員」二人のうちの一人である。

本作は、著者が銀行のドライブスルーで待っているとき、完全に完成された形で唐突に頭に浮かんできたという。彼がしなければならなかったのは、ただ家に帰って、それを書き留めることだけだった。

なお本作のラストの鮮やかさは、著者自身の筆致の巧みさに由来するものであることはもちろんだが、「青いエアコンプレッサー」と「告げ口心臓」という似た構造の作品を先に置いて読ませる編者リリヤの「見せ方の巧さ」も、ミスディレクションとして大いに機能していると思う。


「キーパー・コンパニオン」ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト

代表作『MORSE--モールス』(早川書房)で、青春小説とホラーを見事な形で融合してみせたヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト。その意味では、まさに「キングの後継者」と呼ばれるにふさわしい作家の一人である。

本作でも、実際に多くの若いプレイヤーたちを虜にして止まないテーブルトークRPG「クトゥルフの呼び声」をフックとすることで、生々しい思春期性とコズミック・ホラーを巧みに接ぎ木することに成功している。ヤン・ギィユーの『エリックの青春』(扶桑社)が二百万部を超える国民的ベストセラーになるなど、スウェーデンにはもともと青春小説の豊かな伝統があるのも強みだろう。

ここで描かれるクトゥルフの怪物は、少年の自意識ないしは肥大したエゴの具現化・実体化と見るべきものだ。「怪物」に仮託しながら、リンドクヴィストは思春期特有の全能感と、やがて訪れる蹉跌を、驚くほど細やかに表現してみせる。

著者自身、「クトゥルフの呼び声」のキーパーを何度も務め、いつかこれについての小説を書いてみたいと思っていたそうだ。本作は本書のための書き下ろしだが、基本のアイディアはすぐに浮かび、直後にラストの趣向についても思いついたという。

ちなみに本作に登場する架空の禁書『妖蛆(ようしゅ)の秘密』は、キングの短篇「呪われた村」(『深夜勤務』扶桑社ミステリー所収)や、『心霊電流』(文藝春秋)でも重要なアイテムとして登場する。本書編纂の意図とメインの読者層を意識した、実に粋なはからいではあるまいか。けだし、アンソロジーのを飾るにふさわしい傑作であると言えよう。

(扶桑社書籍編集部)


2020年9月 9日 10:20 | | コメント(0)

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