また更新が間遠になってしまって、申し訳ありません。

まずは、先月に刊行したクライブ・カッスラー&グラハム・ブラウンの新刊『気象兵器の嵐を打ち払え』(上・下)のご紹介から。

本年2月に逝去した海洋冒険小説の第一人者が贈る、

カート・オースティンが主役を張る〈NUMAファイル〉シリーズの弊社における第2弾。

新潮社さんから数えて、通算第10弾となる作品です。

 

Storm_cover blog.jpg

 

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あらすじはこんな感じです。

 

インド洋を漂流する焼けただれた船が発見された。

水温調査をしていたNUMA(国立海中海洋機関)の双胴船だった。

サルベージと真相究明にモルディブへ向かったオースチンらNUMA特別出動班は、船体の燃え滓の中に異常な物体を大量に見つける。

顕微鏡を覗いてみれば、まるで微小な"機械"のようにも見えるが、これは......。

出動班の面々は手がかりを求め、電子の神と称されるエンジニアにして環境保護主義者のマルケッティのもとに急ぐが、彼らはそこでさらに大きな脅威を目撃することになる。

マルケッティが根城とする人工島で浮かび上がってきたのは、気候の改変を目論む一派の存在だった。

地球環境が激変すれば、あまりにも多くの人間の生活が破壊されることになる。

人工島へ送り込まれた刺客を振り切ったオースチンと相棒のザバーラは、首謀者と目されるイエメンの実業家のもとへ急行する。

待ち受ける危機の連続を知恵とガッツと軽口で乗り越えながら、ふたりは野望粉砕に突き進む。

含み笑いを携えて、カッスラー活劇が最高速度で展開する、"NUMAファイル"シリーズ第10弾。

 

今回のお題は、ナノマシンを用いた「気象兵器」

気象兵器ときくと、嵐を呼んだり、雷撃を放ったりといった魔法のような力の行使を想起する人が多いかもしれません。

しかし今回の敵は、どちらかというと「人喰いアメーバ」のような、不定形の怪物に近いものです。

冒頭で、NUMAの調査船が怪現象に見舞われ、メアリー・セレスト号事件さながらの状況で発見されます。これを引き起こしたのが、くだんの「気象兵器」なんですね。

敵は、この気象兵器を用いて世界を支配しようとする、イエメンの大富豪。

その野望を阻止するべく、快男児カート・オースティンと盟友ジョー・ザバーラが大活躍するというわけです。

作品としては2012年の作品ですが、まさに今にぴったりの「気候改変」ネタ。

カッスラーは、最新のテクノロジーと、最新の社会情勢を作品に組み込むことに、常に尽力してきた作家でした。

 

このあと、追悼めいた形にはなりますが、6月、7月とカッスラー作品の刊行が続きます。

まずは、6月1日発売で、オレゴン号シリーズの最新刊『悪の分身船(ドッペルゲンガー)を撃て!』(上・下)(原題『Final Option』)が発売されます。

翻訳者の伏見威蕃さんが、ここしばらくではダントツに面白いと太鼓判を押す、大傑作!

最強の敵が現れ、ファン・カブリーヨ船長とオレゴン号の仲間たちが、シリーズ最大の危機に見舞われます。

ある意味「節目」となる作品(意味深)。

終盤には、衝撃的な展開が待ちうけています。

ぜひお楽しみに!(編集Y)

2020年5月12日 08:14 | | コメント(0)

 ケン・フォレットの『火の柱』(上・中・下)

 

あの世界2000万部の大ベストセラー、

『大聖堂』『大聖堂―果てしなき世界』の正統なる続編。キングズブリッジ・シリーズの最新作、待望の登場です!

上・「中」・下巻構成ですので、お間違えのなきよう!

 

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本書は、扶桑社ミステリーから発売されてはいますが、いわゆる「歴史小説」です。(当然、謎解きの要素や冒険の要素はあります)。

舞台となる街は『大聖堂』『大聖堂ー果てしなき世界』と同じですが、今回は大聖堂を建てる話ではありません。

時代も前作から数世紀過ぎた16世紀に設定されていて、前作とは基本お話のつながりはなく、本書から読んでいただいてまったく差し支えありません。

ただし節目節目で、あの大聖堂が祝祭と悲劇の舞台となりますし、前作の登場人物の子孫が登場したりはしますが。

途中から、お話はイギリスを飛び出して、パリやセヴィーリャ、スコットランド、カリブ諸島、アントワープなど、各地で様々な登場人物が、仕事や宗教、人生の苦難、運命の愛にそれぞれ直面することになります。

 

先に言っておきます。

 

こんなに読んでいて無性に先が気になり、

ほとんど力ずくで夢中にさせられた本は

編集やってて本当に久しぶりかもしれません。

 

さらにいえば、

この「分断の時代」に、これほど皆さんに読んでほしい本もありません。

ここで描かれるプロテスタントとカトリックの壮絶な対立と闘争の歴史は、そのまま、21世紀に現出した西洋対アラブ、あるいは保守対リベラル、穏健派対強硬派といった、現代社会の「写し絵」にほかならないからです。

登場人物たちの苦悩は、そのまま、今の時代に生きるわれわれの苦悩でもあります。

 

フォレット、マジぱねえ!

商売上のリップサーヴィスではなく、正真正銘「一読者」としての編集者の感想です。

歴史小説としても、恋愛小説としても、一人の若者の一代記としても、まごうことなきランクAクラスの傑作!

こんなに面白い本を、扶桑社から出てるからってだけの理由で読まないでおくのは、本当にもったいない!! そう思います。

 

上巻出だしのあらすじはこんな感じです。

 

 16世紀中葉のイングランド。大聖堂を擁する河畔の商業都市キングズブリッジで貿易を営むウィラード家は、カトリックでありながらもプロテスタントに対しても寛容な家柄だった。一方、商売敵でもあるフィッツジェラルド家は頑ななカトリックで、両家の仲は決していいとは言えなかった。ネッド・ウィラードとマージェリー・フィッツジェラルドは恋仲だったが、彼女の両親の反対にあって引き裂かれる。失意のネッドはサー・セシルを頼ってエリザベス・チューダーの下で仕事をするようになるが...。

 

舞台は16世紀。英仏宗教戦争のまっただなか。

時代に翻弄されるふたりの女王と、市井の人々。

布教、秘密礼拝、暗躍するスパイ、密告、拷問、火炙り。

王族の対立、大虐殺、報復の連鎖、戦争、大海戦、斬首刑。

秘められた愛、非業の死、跋扈する悪、やがて待ち受ける宿命の対決。

すべてが終わったあとに残される、未来への希望。新世界。

ありとあらゆる「物語の醍醐味」が、文庫本で1700ページになんなんとするこの長大な小説のなかでひしめきあっています。

 

とにかく、長年ケン・フォレットを訳してこられた翻訳者の戸田裕之さん自身が、

『大聖堂』に勝るとも劣らない、フォレットの最高傑作だ

とはっきりおっしゃっています。信じてもらって、大丈夫です。

 

かつて『大聖堂』を読まれて、あれはめっぽう面白かったという方にとっては、本書はもちろんマストアイテム。

お読みになって後悔されることは断じてない、と版元として請け合います。

そうじゃない方、ケン・フォレットを知らなかった方、あるいは昔の古い作家だと思っていたという方も、騙されたと思ってぜひ読んでみてください。

たとえ扱っている時代が16世紀であっても、驚くほどヴィヴィッドに「いまのお話」として読める小説ですから。

もちろん、ヨーロッパ史のなかでもとくに難解な時期の宗教と政治の闘争史が、すっきりわかりやすく頭に入ってくるという、歴史小説としての役得もあります。塩野七生さんや北方謙三さんの歴史ものが楽しめる方なら、『火の柱』もきっと存分にご堪能いただけるはず。

小説としては、......とにかく悪役が憎たらしい。これに尽きるかも(笑)。

本書の主人公はネッド・ウィラードですが、ピエール・オーモンドもまた、立派にもうひとりの主人公といっていいでしょう。こういうゆがんだ人間の業みたいなものを描かせると、フォレットは本当に天才的ですよね......。そういえば、出世作『針の眼』も、ある種の悪漢小説でした。

 

長い。そうですね。確かに長い。

それでも、費やされる労力と時間に見合うだけの、至高の読書体験をお約束します。

いろいろ大変な時期で、在宅時間も伸びているであろう今こそ、ぜひこの超大作歴史ロマンをお供に、長い夜をのりきっていただけると幸いです!

(編集Y)

 

2020年3月16日 04:34 | | コメント(0)

少しブログでのご報告が遅くなりましたが、

弊社からも多数の小説を出版いたしております、アメリカの冒険小説作家、クライブ・カッスラー氏が、2020年2月24日、ご自宅にて逝去されました。

謹んで、心からのお悔やみを申し上げます。

 

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クライブ・カッスラー氏は、1931年イリノイ州オーロラ生まれ。
朝鮮戦争から除隊後に、広告代理店を経営しながら執筆をはじめ、1973年『海中密輸ルートを探れ』でデビュー。
1976年発表の第3作『タイタニックを引き揚げろ』で一気にブレイクを果たします。
ダーク・ピットを主人公にしたメイン・シリーズに加えて、2000年以降は共著者を迎えて複数のシリーズを展開。作品は40を超える言語、100を超える国で翻訳されています。

まさに、冒険小説界の巨匠中の巨匠。
作家活動のかたわら、巨額の印税をもとでに、自作に登場する架空の組織NUMA(国立海中海洋機関)を実際に設立、多くの沈没船や行方不明船の発見に尽力してきた、というのがなんというかもう、スケール感からしてちがいます。クラシック・カーのマニアとしても著名でした。

 

弊社で最初に出版させていただいたのは、彼の最後の単独作となる『大追跡』(探偵アイザック・ベル・シリーズ第一作)。

その後、ソフトバンクさんから〈オレゴン号〉シリーズ、〈ファーゴ夫妻〉シリーズを引き継ぎ、新潮社さんで手放された〈NUMAファイル〉シリーズ、〈ダーク・ピット〉シリーズも継承、現在は彼のほぼ全シリーズを随時刊行しております。

YAHOO!ニュースのお悔やみ記事のコメント欄などを見ていると、やはり70年代~80年代のカッスラー作品への言及が多くて、「いまは刊行されていないので残念」などという声もありましたが、そんなことはありません。

昔とおとらぬ面白さの新作を、毎年3~4点弊社より刊行しておりますので、ぜひ今後ご贔屓になさっていただければ幸いです。

 

いま本国ですでに刊行/脱稿済で残っている未訳作としては、〈ダーク・ピット〉シリーズが1作、〈オレゴン号〉シリーズが1作、〈ファーゴ夫妻〉シリーズが2作、〈NUMAファイル〉シリーズが7作、〈アイザック・ベル〉シリーズが8作ございます。

なので当分は引き続き、カッスラー節をお楽しみいただけるので、ファンの皆様はまずはご安心ください。

もしかするとクランシー銘柄のように、どのシリーズも引き続きカッスラーの原案のもと書き継がれる可能性もあるでしょうし、そのあたりの詳細がわかりましたら、またご報告いたします。

 

まずは、3月末に〈NUMAファイル〉シリーズの第10弾、『気象兵器の嵐を打ち払え』(原題 The Storm)が弊社より刊行されます。

さらに、5月末(店頭6月頭)には、〈オレゴン号〉シリーズの最新作『The Final Option』

夏には〈ダーク・ピット〉シリーズの最新作『Celtic Empire』を刊行する予定です。

 

ずっと追ってくださっている読者の方も、久々に名前を聞いて懐かしく思っておられる方も、これからどしどし世に出ていくカッスラー活劇を、ぜひ楽しみになさってください。

 

最後に、懐かしいインタビュー記事を紹介しておきます。

実はカッスラー氏が6年前に来日された際、当時編集者の同僚で、カッスラーを担当していたI氏(現在はフリー)と、築地だか月島だかで、お好み焼きを食べにいったことがあります(笑)。

2000年以降は共著者を立てて、自分は楽して適当に書かせてるんだろうとか思っておられる方もいらっしゃるかもしれませんが、結構ガチでカッスラー氏がコミットしてた様子が伺える貴重なインタビューですので、ぜひご一読いただければ幸いです。

『クライブ・カッスラー スペシャルインタビュー』こちら

(ちなみに記事内で紹介されているプレゼント企画はすでに終了しております。ご了承ください)

(編集Y)

 

以下、扶桑社ミステリーより刊行済みのクライブ・カッスラー作品リスト

ダーク・ピット・シリーズ
『黒海に消えた金塊を奪取せよ』上下(記事は
こちら

 

NUMAファイルシリーズ
『粒子エネルギー兵器を破壊せよ』上下(記事は
こちら

 

探偵アイザック・ベル・シリーズ
『大追跡』上下
(品切)
『大破壊』上下(品切)
『大諜報』上下
(電子のみ)

 

オレゴン号シリーズ
『謀略のステルス艇を追撃せよ!』上下
『水中襲撃ドローン〈ピラニア〉を追え!』上下
『ハイテク艤装船の陰謀を叩け!』上下
『戦慄の魔薬〈タイフーン〉を掃滅せよ!』上下
『秘密結社の野望を阻止せよ!』上下(記事は
こちら

 

ファーゴ夫妻シリーズ
『マヤの古代都市を探せ!』上下
『トルテカ神の聖宝を発見せよ!』上下
『ソロモン海底都市の呪いを解け!』上下
『英国王の暗号円盤を解読せよ!』上下
『ロマノフ王朝の秘宝を奪え!』上下(記事は
こちら

 

 

 

 

 

 

2020年3月10日 22:48 | | コメント(0)

われらがジャック・ケッチャム先生が亡くなってから、はや2年。

(そのときの追悼記事は こちら

このたび、扶桑社では命日の1月24日に合わせまして、当然ながら日本全国津々浦々の書店さんでケッチャム・フェアが開催されることを期して、2月頭に著者の代表作&デビュー作である『オフシーズン』を新刊扱いで復刊いたしました!

10年以上にわたって、ながらく品切れ扱いが続いていた本書を、ようやく書店の店頭でみなさんにお届けできるようになったことを、心からうれしく思います!

 

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 昨年復刊した『シンプル・プラン』(スコット・スミス 近藤純夫訳)同様、カヴァーは旧作のままで、帯だけ新帯に変更しての復刊でございます。

帯には、愛蔵版公刊時に付されたスティーヴン・キングの推薦文。いわく、

 

『全米一怖い作家は誰だ? きっとジャック・ケッチャムさ。

「オフシーズン」の無修正版を感謝祭の日に読んだら、きっとクリスマスの日まで眠れなくなること請け合いだ。スティーヴおじさんが警告しなかったなんて言うなよ、はっはっは......』

 

風間賢二さんの旧版あとがきは、ケッチャムデビュー当時の空気感と世の中の評価が伝わってくる歴史的価値のある評論ですので、そのまま再録いたしました。

代わりといってはなんですが、訳者の金子浩さんに、ケッチャム逝去後の最新の状況を簡潔にまとめたあとがきを、新たに書いていただきました。

あらためまして、あらすじはこちら。

 

避暑客が去り冷たい秋風が吹き始めた九月のメイン州の避暑地。

ニューヨークから六人の男女が休暇をとって当地にやって来る。

最初に到着したのは書箱編集者のカーラ。すこし遅れて、彼女の現在のボーイフレンドのジム、彼女の妹のマージーとそのボーイフレンドのダン、そしてカーラのかつてのボーイフレンドのニックとそのガールフレンドのローラが到着した。

六人全員が到着した晩に事件は勃発した。

当地に住む"食人族"が六人に襲い掛かったのだ。

"食人族"対"都会族"の凄惨な死闘が開始する。

 

ケッチャムといえばみなさん、『隣の家の少女』を想起される方がほとんどかと存じます。

でも、『オフシーズン』こそは、彼のもう一つの代表作。ゆめ読み逃してはなりません。

デビュー作でありながら、あまりの内容の凄惨さにビビった出版社の検閲まがいの発禁処分にあって、長らく幻となっていた大問題作。

両作を揃えてこそ、ケッチャムという作家は初めて理解できる、といっても過言ではないでしょう。

 

突然ふりかかる天災のような暴力と、繰り広げられる露悪的なまでに過剰な血みどろの惨劇。

苦難に立ち向かう者たちへと向けられる思いのほか真摯なまなざしと、彼らが迎える結末の善悪を超えたある種の絶対的な平等性。

デビュー作には作家のすべてがあらわれる、とはよくいう言い回しですが、まさにここには、ジャック・ケッチャムという偉大な作家の文学的本質が、まざまざと刻印されています。

あと、なんとしても読んでいただきたいのが、〈作者あとがき〉。

出版社とのいざこざを熱い筆致で活写しつつ、ケッチャム自身の口から、自らの作家性のなんたるかがきわめて明快に語られています。

 

さまざまな恐怖と災厄に直面して、誰もが不安におののく今日にこそ、本書はこの苛烈で不透明な世界の真実と向き合う一書になるやもしれぬ、とすら編集者はひそかに考えています。

遺された未訳作をお届けするという編集者&翻訳者さんの野望をかなえる足がかりとしても、ぜひ皆さんのお力添えをいただければ幸いです!(編集Y)

 

 

 

 

2020年3月10日 21:47 | | コメント(0)

2月の頭には、扶桑社文庫(国内版)のほうで、猫のショートショート・アンソロジーを上梓いたしました。

タイトルは『猫の扉 猫ショートショート傑作選』

選者は、4年前に出した姉妹編『30の神品 ショートショート傑作選』と同じく、星新一唯一の弟子にして、斯界の第一人者である、江坂遊

もちろん、今回のメインキャラクターは猫、猫、猫。

帯には、『3分で読める猫、集めました』と銘打ちました。

猫カバー小.jpg

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ラインナップは以下のとおりです。

シャルル・ボードレール「時計」
石川喬司「猫の月見」
サキ「トバモリー」
内海隆一郎「子猫」
フレドリック・ブラウン「猫泥棒」
小松左京「中毒」
リチャード・マーティン・スターン「ミンナへの贈り物」
川又千秋「猫と王子」
ハワード・ジョーンズ「猫」
坪田譲治「ネコとネズミ」
森田拳次『森田拳次のヒトコマ・ランド』より
ジョン・D・マクドナルド「黒猫が雪の上をあるいた」
岸田今日子「暖炉の前できいた話」
シャルル・ペロー「ねこ先生または長靴をはいた猫」
佐久やえ「福光寺の猫」
イギリス民話「猫の王様」
大懸朋雪「義足をはいた猫」
アーサー・C・クラーク「幽霊宇宙服」
星新一「ネコ」
ピーター・ラヴゼイ「イースター・ボンネット事件」
深田亨「猫の手帳」
深谷かほる『夜廻り猫』より「わがままモネ」
H・P・ラヴクラフト「ウルサルの猫」
宮沢賢治「注文の多い料理店」
フランツ・カフカ『ある戦いの記録』より
江坂遊「猫かつぎ」
シオドア・スタージョン「音楽」
筒井康隆「善猫メダル」
ヘンリイ・スレッサー「二世の契り」
井上雅彦 「黒猫キネマ」
アーネスト・ヘミングウェイ「雨のなかの猫」
梅崎春生「猫の話」


 

今回も、前作同様、海外作品と日本作品を交互に並べる「歌合わせ」スタイル。

いかにもショートショートらしいお話から、ミニミステリー、文豪の名作、有名童話、コミックまで、なんでもござれの「読む猫だまり」。巻末には、選者による各作品の解題も付されています。

猫好きはもちろんのこと、誰にでも楽しんでいただける、純粋に面白いSSばかりをとりそろえたつもりです。そのうえで、通をうならせるレアな掘り出し物も多数含まれております。

あと、とある著者名にお遊びの仕掛けが隠されていたりもしますので、お見過ごしになりませんように。

 

ぜひご一読いただければ幸いです!

 

*  *  *  * 

年末から2月にかけて、編集者がなぜに、ブログすら更新できないほどに忙しかったかと申しますと、ひとつには、この本の編集作業があまりに大変だったから、というのがあります。

実際にやったことのある編集者以外には、読者のみなさんはもちろん、作家や翻訳者の先生にすらきっとわかっていただけないと思うんですよ......。

ショートショート・アンソロジー編集の実務が、こんなに大変だ、ということを!!

 

そこで、今回はいつもと趣向を変えて、作品の解題は江坂さんの解説にまかせて、「ショートショート・アンソロジーができるまで」って話でも書いてみようかと思います。

まず重要なのは、ラインナップ決め。どんなアンソロジーを編むか、というのは最終的には、選者、アンソロジストの方の意向によります。

本書で選定作業をやってくださったのは、もちろん江坂遊さん。

昨年の夏。江坂さんとSS選集の第二弾をどうしようかと打ち合わせていて、「やっぱりやるなら、次は猫でしょう!猫!」との編集者の一言から、企画が急ピッチでスタート。

とにかく先生は、ただ事ではない量の短編集と雑誌の蔵書をお持ちで(星新一先生から直接引き継いだ蔵書もかなりあるらしい)、洋の東西を問わないあらゆるショートショート作品の情報が、びしっと頭の中に入っておられる。

そのデータベースから、独特のセンサーで作品をピックアップしてきては、次から次へと波状的にラインナップのアイディアを送ってきてくださるわけです。

とにかく、視野が広い。知識が深い。アイディアが尽きない。

編集者が「これなんとなく落ち弱いんで別の話はないですか?」「なんかただ短いだけでSSっぽくないんですけど」みたいなアホな返しをしても、それじゃあと、またべつの代案がバンバン出されてくる。江坂さんは本当にすごい。

こういう作品選定の作業は、アンソロジーづくりで一番楽しいところです。

編集者のほうでも、数十ある候補作をじっくり読ませていただいたうえで、先生といっしょに絞り込みを行い、ラインナップを練り上げていきました。

 

で、いよいよラインナップが固まると、ここからが編集者の仕事になります。

通常、編集者が一冊の本でやりとりする相手は作家さん(訳者さん)ひとりとあとはデザイナー、校正者など数人程度。これが短編のアンソロジーであっても、著者はたかだか7、8人といったところです。

ところが、ショートショート・アンソロジーの場合、そんな数では到底すみません。今回の場合など、掲載作数だけで32もあります。

一部、版権切れの作品(著者と交渉する必要がない)もありますが、一方で版権がまだ生きている海外の著者(別途、交渉しないといけない)もいる。

さらに、親本が生きている場合は、一部の版元にも確認作業と支払いを行う義務が発生します。

結局、40件近い著者・訳者・版元・権利元を相手に、掲載許可や支払いのご相談、ゲラの確認などを、バラバラに進行しないといけないわけです。

これがもう、想像以上に大変なんですよね。

手紙でしかやりとりできない方もいらっしゃれば、メールでのやりとりを希望される方もいる。ゲラの確認を希望される方もいれば、されない方もいる。掲載を拒否される方もいれば、お金はいらないとおっしゃる方もいる。ほんと、やりとりの方法から過程、内容まで、全員が千差万別で、それを編集者はひとりで管理しないといけない。一方で原稿をゲラにしてチェックする作業も平行しながら、このやりとりを2ヶ月くらいのあいだに粛々とすすめていくわけです。

さらには、その相手先自体が簡単には見つからない(笑)。

まず、もともと弊社とお仕事をしてくださったことのある著者さんとは、直接やりとりできます。

文藝家協会に権利業務を委託している著者さんとは、その団体を通じて事務的に交渉を進められます。

出版社御用達の某年鑑に記載のある方とも、なんとか連絡はとることができます。

でも、そこからは、半分私立探偵みたいな仕事が待っているわけです。

今回、ぶっちゃけ著者・訳者の半分は、連絡先が五里霧中の状態から捜索を始めました。

とくに、何年も前に亡くなられた方のご遺族(著作権継承者)を見つけ出す作業が、かなり困難をきわめます。

まずは、親本を出されている出版社さんにうかがうのが筋ですが、10年も経つといま著者がどうしているかはもはや消息不明ってケースもでてくるわけです。

そうなると、昔の仕事をたどっていろいろな版元さんに訊いて回ったり、懇意にしてる他社の編集者さんに教えていただいたり(今回もT社のK様、本当にお世話になりました!)。

かつて交流のあった作家さんに頼んで年賀状を調べてもらったり、むかし講師をされていた翻訳学校経由で調べてもらったりもしました。

あと、亡くなられた際の訃報記事が調査の役に立つことも(喪主として掲載されていたご遺族が、実は有名な俳優さんだったケース。翻訳者の坂口玲子さんと俳優の坂口芳貞さんですが、なんと芳貞さんはご許可をいただいたのち、本書発売の二週間後にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます)。

さらには、徹夜で会社に泊まり込んで、海外のジョン・D・マクドナルド(故人)・ファンサイトと英語で直接やりとりして、ご子息のメアドをゲットしたうえで、掲載許諾のお願いをさせていただいたり・・・。ちなみにヘンリイ・スレッサー(故人)との版権交渉には、タトル・モリ エイジェンシーさんがあたってくださいましたが、本国のエージェントが老齢を理由に引退したらしく、ご存命の老未亡人にタトルの担当者が英語のお手紙を直送してくれたそうです(戻ってきた承諾書の、震えてのたくった、年輪を感じさせるサインを見て、編集者は胸を突かれる思いでした。いま自分は、あのヘンリイ・スレッサーとともに人生を歩んだ女性の書いた、直筆のサインを見てるんだ!)。

 

まあ、そんなこんなで出来上がったショートショート集は、なんだか可愛い子どものようでもあります。

かけた労力のわりには、さくっと読めちゃう軽便な本ですが、ショートショート集ってのはもともと、そうじゃなくっちゃいけませんしね。

江坂さん渾身のまえがき&解説といい、板倉アユミさんの素晴らしいイラストといい、最終的に決定したタイトルといい(100案以上出し合って、販売部と2週間くらい揉んで、こっちも大変だったんですね。とにかく類書が多くて、ぱっと思いつくタイトルがみんなどこかで使用済みだっていう罠w 『サルまん』のファミリー4コマ回さながらのやりとりが実際に・・・w)、本当にいい感じの本にしあがったと自負しております。

みなさんにも、楽しんでいただけたなら、こんなにうれしいことはありません。(編集Y)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年3月 9日 22:50 | | コメント(0)

もう一冊、年末に発売いたしましたミステリーが、エリオット・チェイズ『天使は黒い翼をもつ』

ジム・トンプスン『POP1280』チャールズ・ウィルフォード『拾った女』などに続く、扶桑社ノワール発掘路線の隠し玉でございます。

原題は『Black Wings Has My Angel』

あらまあ、なんて綺麗な倒置法! ちょっとウィリアム・アイリッシュっぽくもあり、いかにもノワールっぽくもある。うーむ、実に魅力的なタイトルじゃないですか。

 

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本作を「再発見」してくださったのは、翻訳者の浜野アキオさんです。

そもそもは、『拾った女』で皆様から望外のご評価をちょうだいして以降、弊社といたしましても、せっかくできたノワール紹介の流れを絶やしてなるものかと、次なるノワール作品を探していたわけです。

どこかにまだ、刊行に値する未訳の傑作ノワールは眠っていないものか。

で、浜野さんにも、いろいろ原書を読んでもらっておりました。

そうしましたらある日、浜野さんから胸がふるえるようなご連絡が舞い込んだのです。

「すごい作品にぶつかった。これぞまさに、ロスト・ジェム(失われた宝石)だ」

おおおおお!

さっそく、浜野さんから頂いたレジュメには、こんなことが書かれていました(一部抜粋)。

「主人公である男女が出会う物語の劈頭から不穏な気配が強烈に立ちこめ、読者は一気に物語のなかへと引きずり込まれる。前科者にして流れ者という主人公の設定、ファム・ファタール(宿命の女)の登場、着々と進められていく犯罪計画の準備、犯罪の決行とアクション、次第に二人の間に生じる齟齬、そして破綻と転落。そのことごとくがノワール小説のクリシェから構成されているにもかかわらず、微塵も陳腐さは感じられない。物語は一級のサスペンス小説がもつ、鋼線をはりつめたようなテンションで進められていく。けっして波乱万丈というわけではないが、巧みなストーリーテリング、鮮烈で奥深い人物造形と相俟って、結末に至るまで一切、中弛みを感じさせずに疾走するのだ」

 

どうです? すっげえ面白そうじゃないですか??

これは、ぜひともやりたい!!

たしかに日本で知られた著者じゃないし、ジャンルとしても、そこまで売れるパイはないかもしれない。でも、読み巧者で目利きの翻訳者さんに、これだけのことを言わせる作品を、出版社として受けられなかったら、それはもう「駄目」でしょう。

一応はノワールで売ってきた扶桑社。そーさ、うちで出さなきゃ、どこで出すってんだ!!

こうして、『天使は黒い翼をもつ』刊行への道は始まったのです。

 

ちなみに「幻の」とかいいつつ、エリオット・チェイズには既訳作が実は三冊もあります。

30年以上前に、キール・セント・ジェイムスという新聞記者を主人公にした、軽ミステリーのシリーズがほぼリアルタイムで刊行されているのです。

しかも、版元はなんと弊社の前身であるサンケイ出版!

大変お恥ずかしながら、編集者は本書を出そうと決めて調べはじめてから、ようやくこの事実を知りました。そういや、本書を発売してすぐ、当時を知る元編集長K氏から早速メールが来て、「なんで、エリオット・チェイズが出たの?」って聞かれたんですが、うちでやろうと思ったのは本当に偶然なんですよね。

 

そんな「えにし」で弊社から出ました『天使は黒い翼をもつ』。

本国では、名うての評論家たちがこぞって、絶賛しています。

「完全無欠の小説」――エド・ゴーマン

「私が〈ブラック・リザード叢書〉の編集者として、最も復刊したかった一冊こそが、この『天使は黒い翼をもつ』だった」――バリー・ギフォー ド

「エリオット・チェイズは、優れた散文家のスタイリストで、機知に富み、ノスタルジックで、不敬で、第一級のストーリーテラーだ」――ビル・ プロンジーニ

「一読忘れがたいのは、『郵便配達は二度ベルを鳴らす』並みに強烈な、恋人たちの猫と鼠の関係だ。
......ティムとヴァージニアの本能的な結びつきと比べれば、すべての要素は最終的には些細なことに思える」――ワシントン・ポスト

「流れの速い物語、セックス、すぐれた描写による文章など、独自の良さとすべてかねそなえている」――マックス・アラン・コリンズ

 

あとがきは、日本を代表するノワール研究の権威、吉野仁さんにお願いいたしました。

編集者の思いに応える、18ページに及ぶ素晴らしい解説原稿をいただけて、心から感謝。この作品について知っておくべきことは、ほとんどすべて、そこに書かれているといって過言ではありません。

なんと言っても、興味深いのは、本書のことを吉野さんも参加した座談会において、翻訳家の故・小鷹信光さんが絶賛していたというエピソードで、「久しぶりに途中でやめられなくなって一気に終わりまで読んじゃった」と興奮気味に作品の魅力を語っていたとのこと。

日本一のペーパーバック・コレクターだった小鷹さんを虜にした幻の逸品。

ね、読んでみたくなりますよね??

 

すでに、既に読んでいただいた皆様からは、「傑作」の声を多数いただいております。

書評でも激賞してくださる方が結構いらっしゃって、本当にありがたいかぎりですが・・・長くなってまいりましたので、本書に関してはもう一回、稿を改めたうえで、サンケイ文庫旧作のご紹介なども含めて記事をアップしたいと思います。

ノワール好きのあなた。絶対損はさせませんので、ぜひご一読くださいませ!(編集Y)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年3月 3日 00:09 | | コメント(0)

更新が滞りまして、たいへん申し訳ありませんでした・・・。

いやあ、とにかくこの二ヶ月、身動きがとれないくらい忙しくて、ようやく先日SW Ep.9を観に行けたくらいでして・・・。ふだん新刊情報をここで拾われていた方、本当にごめんなさい。

ようやくひと段落したので、順番にたまっていた作品紹介をアップしていきたいかな、と。 

ともあれ、今年も扶桑社ミステリーをよろしくお願いいたします!

 

 まずは、年末年始に発売いたしました二作品のうち、ラーシュ・ケプレル『砂男』(上・下)から。

早川さんで2010年代前半に出ていたヨーナ・リンナ警部もの『催眠』『契約』、『降霊』の続編になります。

担当いたしましたのは、めっぽう北欧ミステリーが好きな私の女性上司。この作品はぜひともうちでやりたいと、自らオファーをかけて獲得し、編集もてがけたという、渾身の一作でございます。

解説は若林踏さんにお願いいたしました。シリーズの概要から、既存作の紹介、北欧ミステリーにおける本作の位置づけまで、かゆいところにまで手の届く、素晴らしい解説に仕上がっております!

 

砂男上下.jpg

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あらすじはこんな感じです。

 

ある激しい雪の夜、一人の男がストックホルム郊外の鉄道線路沿いで保護された。

それは、ベストセラー作家レイダルの13年前に行方不明になった息子ミカエルだった。

ミカエルは、自分と妹フェリシアを誘拐した人物を「砂男」と呼んだ――。

誘拐当時、国家警察のヨーナ警部は相棒サムエルと捜査にあたり、ユレックという男を逮捕していた。判決後、ユレックは不吉な言葉を吐き、閉鎖病棟に収容されていた。

ミカエルの妹の監禁場所を知るのはユレックだけであることから、彼の病棟に潜入捜査官を送り込む計画がヨーナたちのあいだで練られる。

捜査官として白羽の矢が立ったのは、公安警察のサーガ・パウエル警部だった...。

 

本作については、すでにいくつか素晴らしい書評をいただいております!

ざっとご紹介してみますと・・・(すべて一部抜粋)

 

吉野仁氏(翻訳ミステリー大賞シンジケートの『書評七福神』コーナー(2020.1.16))

「閉鎖病棟に収容された史上最狂のシリアルキラーと誘拐事件をめぐるサスペンス。なんの予備知識もなく、なんだ『羊沈』の二番煎じかと思いつつ読み進めていたら、ある場面から一気に加速した。大胆な趣向、意外な仕掛けに外連味のあるアクションと娯楽性を凝らしたつくりに圧倒された」

 

関口苑生氏(『週刊現代』2020.1/8合併号)

「全編が謎と緊張と戦慄に包まれた、一瞬たりとも気が抜けない犯罪サスペンスだ」

 

野崎六助氏(日本経済新聞夕刊2020.1.30)

「ホフマンの『砂男』のイメージ、謎めいたヒーロー刑事、獄中から事件をあやつるハンニバル系のサイコ男、潜入捜査する女公安刑事。手堅い構成に加えて、後半に現れるEUの現在が怖ろしい。北欧発の大問題のぎゅう詰めだ」

 

池上冬樹氏(『週刊文春』2020.2.6号)

「帯に『9カ国でベストセラー1位を達成』とあるが、これは警察小説+潜入捜査+連続殺人鬼という設定が劇的でアイデアとサスペンスに富み、迫力満点だからだろう。大量の行方不明事件の深層も射程が長くて複雑。関係者をみな狂わせるユレックの存在感も抜群で、刑事たちが自己喪失になるくだりもスリリング」

 

どうです? みなさん大絶賛です!

 

編集者も、本が出来てから早速読ませていただきましたが、もう出だしから常に何かしら不穏で、心を休ませない緊張感が行間にみなぎっていて、ぐぐっと来ます!

本当に怖いホラーは、出てくる怪物や殺人鬼が怖いのではなくて、出てくる「まで」の気配や脅かしが怖い。それと一緒で、何かが起こりそうな「嫌な予感」が、明快な危機の描写を経ずして、ちょっとした怪訝な所作やうろんなしぐさ、不吉なほのめかしの累積によって、どんどん増幅されていく。そこにゾクッときます。

登場人物がみな、なにがしかの「死の予感」に取り憑かれていることも、読者の不安感を増す一つの要因といっていいでしょう。

 

著者であるラーシュ・ケプレルは、夫婦で合作しているストックホルム在住の作家さんです。 本シリーズは、全世界で1千万部を超える大ベストセラーとなっています。

あまり中身をバラすと興味を削ぎかねないので、紹介は最低限にしたいと思いますが、ジャンルとしては、トマス・ハリス以降のいわゆる「サイコ・サスペンス」の定型を保っています。

ヨーナ警部の捜査パートは『チャイルド44』、サーガ警部の潜入パートは『羊たちの沈黙』の祖型を、うまく北欧的なキャラクター小説にあてはめているといえます。終盤の展開にもいくつかの前例が想起されますが、狂人なりの被害者選択の「ミッシングリンク」と、異様な犯行様態の「動機」がきちんと存在しているのは、ミステリーとしては大変好感がもてます。

 

テーマ・題材としては、昨年弊社から上梓したゾラン・ドヴェンカーの『沈黙の少女』とも共通するものを扱っていますが、例えばつい直近の日本のアニメでも、本作同様の「操り」テーマは、『バビロン』(野崎まど原作)で、また、共通の犯行方法は『ID:INVADED舞城王太郎脚本)でも見られたりしていますし、現代社会の病理を描く「今風」な題材選択だといっていいのかもしれません。


なにはともあれ、本作最大のミソは、これがヨーナ・リンナ警部「自身」の事件だ、ということにつきるでしょう。

早川さんで出ていた旧作では、比較的気配の薄いタイプの主人公だったヨーナですが、本作では、彼のかかえるおぞましい過去と、いまも現在進行形で彼を苦しめる秘密がついに明らかになります。

終盤、凍てつく冷気と全身の痛みに苛まれながら、孤独な闘いに身を投じるヨーナの姿には、鬼気迫るものがあります。一方で、敵として君臨する連続殺人犯ユレックの放つ、超自然的ともいえる恐怖感も、じつにうまく表出されています。

ヨーナとサーガは、恐るべき悪のカリスマが仕掛けた「ゲーム」に勝利し、「呪い」を打ち破ることができるのか?

読者の皆さんも、二人が体験する黒々と淀んだ狂気と悪夢の世界を、ぜひ追体験してみてください!

 

なお、本作の続編となるシリーズ第5弾『Stalker』も、すでに版権取得済です。

今年度中の発刊を目指して(たぶん上司が)鋭意進行中でございますので、こちらもぜひお楽しみに!(編集Y)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年1月13日 23:09 | | コメント(0)

今月は、まあまあ殺人的な反・働き方改革強化月間を一路邁進中の編集Yです。

そんなわけで......またもブログの更新が大幅に遅れてしまい、まことに申し訳ありません!

今月の扶桑社ミステリー新刊は、もう読んでいただけましたでしょうか?

ご存じファーゴ夫妻ものの第9弾クライブ・カッスラー&ロビン・バーセル著の『ロマノフ王朝の秘宝を奪え!』(上・下)。ただいま絶賛発売中です!

 

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今回のあらすじ(上巻)は、こんな感じです。

 

ファーゴ夫妻の元に、財団の調査主任セルマの親戚にあたる兄弟がモロッコで行方不明になったとの知らせが舞い込む。

二人が調査していたのは第二次大戦後にナチスの残党がヨーロッパから脱出する際に使用した"逃走経路(ラットライン)"と呼ばれるルートだった。

現地に飛んだ夫妻は、謎の勢力からの妨害を受けながらも、なんとか二人を無事救出することに成功。さらには兄弟が調べていたナチスの墜落機にあった暗号の書かれた手紙と地図を手に入れる。
そこからは〈ロマノフの身代〉という言葉が浮上して......。

今回のファーゴ夫妻は、モロッコからスタートして、ロシア、ポーランド、ドイツとめぐって、最後はアルゼンチンの密林で、ナチスの残党を激しい戦いを繰り広げます。

本作の目玉としては、モロッコで一回、アンデス山脈で一回、本格的な登山シーンがあって、文字通りのクリフハンガー・アクションが繰り広げられます。

ちなみに、落ちた飛行機の探索も二回、地下通路での冒険も二回、城の管理人との接触が二回、現地ガイドがふたり登場、現地通訳もふたり登場、と、なぜかおなじモチーフが前半と後半で、はかったように二度繰り返されるのも本作の特徴で、妙に眩暈感のあるふしぎな構成となっております。なんだろう、この趣向? 『郵便配達は二度ベルを鳴らす』?......なわけないか(笑)。

ファーゴ夫妻の活躍ぶり(今回は新機軸としてベイビーをどうするかみたいな話しがちらほら。あれ、なんかもっと年食った夫婦だと勝手に思いこんでたかも......)はもちろんのことながら、敵役のナチス残党の面々も、なかなか味のあるキャラクターぶりで楽しませてくれます。

若干、ロマノフとか暗号とか、直近の作品とネタかぶりが目に付きますし、多少のアラ(とくにロシア人エージェントの下っ端の、目に余る無能ぶり)もあったりもしますが、まあカッスラー先生はもともとおおらかな陽性の作家さんなので(笑)、読者の皆様も些末なことはあまり気にせず、ぜひおおらかなスタンスで楽しんでいただけますよう。

基本的にはいつもどおり、最高に面白くて最高にスカっとする、エンターテインメントまっしぐらのカッスラー節を存分にご堪能いただけると思います。

 

ちなみに、次のカッスラー作品は来年3月末発売(4月10日奥付)で、うちでの第二弾となりますNUMAファイル・シリーズの『The Storm』(上・下)の刊行を予定しております。

これからもカッスラーの冒険小説に皆様のご愛顧賜りますよう、せつにお願い申し上げます!(編集Y)

 

2019年12月22日 22:41 | | コメント(0)

更新がだいぶ遅くなりまして申し訳ありません!

さて、もう今月の新刊は読んでいただけたでしょうか?

弊社では二冊目となる、新生〈トム・クランシーのオプ・センター〉シリーズ第二弾『北朝鮮急襲』(上・下)(原題:Into the Fire)。今回の舞台は、いま現実世界においても軍事的・政治的に極めてホットな地域である、黄海一帯。原書の刊行は2015年ですが、アップトゥデートなポリティカル・ノヴェルとしても十分通用する、ヴィヴィッドな軍事サスペンスとなっております!

 

Into the Fire blog.jpg

 

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上巻のあらすじはこんな感じです。

米海軍沿岸域戦闘艦〈ミルウォーキー〉は、黄海における韓国軍との掃海訓練演習の最中に、北朝鮮軍のコルヴェット三隻が漢江と仁川沖に機雷を敷設しているとの情報を受信する。

さらには北朝鮮のフリゲイト二隻から突然の攻撃を受け、ついに交戦状態に突入。

女性艦長のケイト・ビギロー中佐は、友軍の逃走を支援するため敵を引きつけながら回避行動を取ることを決意する。

一方、チェイス・ウィリアムズ長官率いるアメリカの情報機関オプ・センターにも、北朝鮮急襲の報は逐次届いていた...!

 

今回、本書の前半では、シリーズ・キャラクターであるオプ・センターの面々は、もっぱら裏方というか、発生事案の情報収集に徹するシーンが続きます。

いっぽうで、真の主役として大活躍するのが、沿岸域戦闘艦〈ミルウォーキー〉の女性艦長ケイト・ビギロー。ごく当たり前の合同掃海訓練演習に参加していたはずが、唐突に北朝鮮のフリゲイトに襲われ、標的として追い回されることになった、大変に不運な艦長さんです。

 

指揮官として危機を回避するために、ビギローは何度も何度も、大きな決断に迫られます。

艦内には、あらゆるシチュエイションで、彼女より慎重な判断をなにかと具申してくる副官がおりまして、両者の対立と彼女の最終的な判断、というシチュが繰り返されます。その結果として、新たな打開すべき状況がもたらされる――これが本書の基本構造です。

こうして、軍事スリラーとしての緊迫したサスペンスが醸成されてゆくとともに、作者チームの有する「軍」「国家」「リーダー」についての哲学、思想のようなものが、読者にも自然と伝わるような仕掛けとなっています。

 

〈ミルウォーキー〉に強力な兵器はそなわっておらず、性能と装備で圧倒的に上回る北朝鮮のフリゲイト二隻との戦いは、きわめて厳しいものに。ついに被弾、炎上する〈ミルウォーキー〉。ビギローたちは、沈没寸前の船を捨てて、無人島へ避難することを余儀なくされます。

まさに、絶体絶命! そんな彼らを救うべく、いよいよ登場するのが、オプ・センターの誇る実働部隊の面々・・・というわけです。

 

さらに下巻後半では、一転ニューヨークが舞台に。

北朝鮮サイドがついに発動した大規模テロ計画を前に、前作で大量殺戮を食い止められなかった新生オプ・センターのメンバーが、そのメンツにかけて、命がけの戦いに挑みます。

終盤の展開は、黄海パートをいざ書いてみると意外に原稿枚数がいかなかった結果としての、埋草っぽい感じもしょうじきしないでもないですが(笑)、海上戦、島内での陸戦、そして都市内での対テロ作戦と、ヴァラエティに富んだ戦闘シーンがてんこ盛りで、さまざまなメンバーの活躍が見られるという意味では、大変よろしいのではないでしょうか。

 

まさに北朝鮮とアメリカが緊張を増し、駆け引きを展開している今日に読むには、うってつけの軍事エンターテインメントといえるでしょう。

 

ありがたいことに現状、大変売れ行きもよく、来年の同じころには、第三弾がきっとお届けできることと確信しております! 引き続き、〈トム・クランシーのオプ・センター〉シリーズをお楽しみに!(編集Y)

2019年11月16日 04:31 | | コメント(0)

 江戸川乱歩が「たった一冊の本だけで探偵小説史に名を連ねている作家」と評した、ファーガス・ヒューム。その一冊こそ、『二輪馬車の秘密』です。

 オーストラリアはメルボルン在住のファーガス・ヒュームは、弁護士事務所で働くかたわら、エミール・ガボリオの『ルコック探偵』にならって『二輪馬車の秘密』を書きあげ、1886年に自費出版するや、たちまち大ヒット。当時、人口50万のメルボルンで、その年のうちに2万部、増刷分あわせて10万部を売ったと言います。
 その後、英国で出版されると50万部、さらに米国で50万部と、まさに歴史的な大ヒットとなります。

 そう、『二輪馬車の秘密』は、シャーロック・ホームズをしのぐ、19世紀ミステリー界最大のベストセラーなのです。

 そして、その日本語翻訳3種が、歴史を超えて、電子版&プリント・オン・デマンド版で一堂に会するという奇跡が実現しました!

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 まずは、作品の全貌を伝えるのが『二輪馬車の秘密【完訳版】』です。
 訳者は、プロンジーニ&マルツバーグの快作(怪作?)『裁くのは誰か?』(創元推理文庫)等で知られる高木直二氏。

 深夜の街を走る二輪馬車のなかで、身元不明の紳士が殺害されたという事件を伝える新聞記事からはじまる物語は、検死審問、被害者の身元捜査、容疑者の特定とその追跡、心理戦と法廷劇へとつづき、やがて予想外の展開を見せます。
 さまざまな叙述スタイル、都市風俗の活写、そしてロマンスが全編を彩ります。

 19世紀の人びとを夢中にさせた黎明期のミステリー小説をご堪能ください。



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 上記が『完訳版』と謳っているように、日本のミステリー界では、『二輪馬車の秘密』は長らく抄訳でしか読めませんでした。
 翻訳者は、かの横溝正史。
 その貴重な翻訳が読めるのが、電子版『横溝正史翻訳コレクション』および、プリント・オン・デマンド版『二輪馬車の秘密 横溝正史翻訳コレクション』です。
 昭和3年(1928年)に雑誌「新青年」に掲載され、のちに単行本になる際に補訳されています。

『八つ墓村』への影響をうかがわせる、もうひとつの翻訳『鍾乳洞殺人事件』とカップリングでも、単独でもおもとめいただけます。




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『二輪馬車の秘密』の日本における歴史は、じつは、さらにさかのぼります。
 原書が出版されてわずか5年後の1891年、すなわち明治24年に、『鬼車』のタイトルで出版されていたのです。
 その幻の本邦初訳が、今回ついに復活しました。
『鬼車 二輪馬車の秘密【明治翻案版】』です。

 訳者の丸亭素人(まるてい・そじん)は、黒岩涙香との共訳も残している人物。
 ということからもおわかりのとおり、本書も涙香スタイルの、いわゆる翻案小説で、舞台はメルボルンながら、町や人は日本名に変えられ、内容もある程度自由に取捨選択されています。
 当時の文章をなるべくいかしたまま、表記を現代仮名遣いにあらため、読みやすい形でお届けします。
 編集は、完訳版の訳者でもある、高木直二氏。

 ぜひ、明治の名調子をお楽しみください。


 こうして、そろい踏みを果たした、ファーガス・ヒューム『二輪馬車の秘密』の翻訳各種。
 21世紀のこの時代に、まさか扶桑社でこんなことが実現するとは、正直、こちらも驚きです。
 ぜひお見逃しなく!

2019年9月24日 11:37 | | コメント(0)

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