あの、エロ・グロ・ホラー小説の旗手にして、マニアックな映画評論家として知られる、友成純一氏の長編エッセイが、シリーズとなって扶桑社から発売中です。

 電子書籍&プリント・オン・デマンドのみの発売なので、ご存じないかたも多いかもしれません。

 見逃すにはもったいない叢書なので、ここにご紹介する次第です。

『バリ島裏町日記』
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 友成氏は現在、日本を離れてインドネシアはバリ島に住んでいます。

 もともとはダイビングにハマり、ガイドもしていたのですが、海に潜らなくなったいまも、南の島で生活をつづけています。

 しかも、町外れと盛り場の真っ只中とを行ったり来たりの、気ままなひとり暮らし。

 地元民が作る危険な酒におぼれ、明るいながらも家族の生活をカラダひとつで支える売春婦たちとたわむれ、ときに頼られ、ときにカモにされ、さらにはバイク事故やスキミングに遭い...という、極楽だか地獄だか、平穏だか波乱万丈だか、よくわからない日々を活写します。

 観光では絶対にわからないバリ島の裏の世界へ、ぜひどうぞ。


『猟奇作家の誕生』
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 いまでこそ、映画評論家としての活躍が目立つ友成氏ですが、本来は、そう、ご存じのとおり、すさまじい破壊力を持ったエロ・グロ小説家。

 さらにさかのぼれば、デビューは伝説的ミステリー雑誌「幻影城」のコンテストに投稿した、難解なリラダン論でした。

 そんな友成氏は、おなじ「幻影城」で世に出た霜月信二郎氏のツテでエロ本業界に入り、竹熊健太郎氏らと自販機雑誌を舞台に活躍するも、いつしか酒におぼれ、アルコール依存症となって狂乱の淵へと落ちてゆく――

「映画芸術」小川徹氏との出会い、講談社・宇山日出臣氏との野心作、子供の頃からのSFへの思い等々、作家・友成純一の原点と人生を変えた交友、そしてバブルに浮かれた当時の出版界の狂乱ぶりを描きだす、私小説的一編。

 ミステリー・ファンも必読です。


『世界無頼旅』
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 もともと引きこもり的な傾向があった友成氏ですが、人気作家となるや、先輩SF作家たちとの旅行に参加するようになります。

 そして、決定的だったのは、前著『猟奇作家の誕生』に書かれているような、生活の激変。こうして英国に移り住んだ友成氏は、さらなる旅から旅への暮らしに突入します。

 本書は、長年にわたって世界中をまわった、驚きの旅行記です。

 ロンドンの変態スポット巡りにはじまり、ネス湖やヘルファイア・クラブ跡地といった英国の怪奇ポイント、ヨーロッパ各地からタイ・インド・韓国等々、世界中のファンタスティック映画祭を駆けめぐる日々。

 なかでも圧巻は、旧満州=極寒の中国東北地方奥地への取材旅行。そしてそれは、友成氏と父との関係を見つめなおし、再発見する、重要な旅となるのでした...

 もうひとつ注目すべきは、ダイビングでまわっていたインドネシア海で出会った、漂海民・バジョ。
 海の上で暮らす人びとの生活を間近で観察した、貴重な記録になっています。


『極私的インドネシア映画』
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 ここまででおわかりのとおり、友成氏はバリ島暮らしなわけですが、ダイビングから足を洗って街なかに居を移した友成氏を待っていたのが、あふれかえる海賊版DVD映画でした。

 こうして見はじめたインドネシア映画の豊穣な世界を、友成氏ならではの切り口で語りおろしたのが、本書です。

 まずは、友成氏の本領であるホラー映画。インドネシアでは、片腕の女看護師やら、死に装束でキョンシーよろしく跳ねまわる亡霊やら、腹が裂けた血まみれの女性やら、はては柄杓ババアに鍬ジジイといったお約束のキャラクターやらが、手を変え品を変え、飽きもせずに観客たちを震えあがらせ、騒がせつづけている。

 大事な娯楽である映画界には、ホラーのみならず、数多くの鬼才が集い、青春ものから社会風刺、ラブ・コメディからイスラム教徒向け大河ドラマまで、多種多様な作品が作られているのです。

 日本では『ザ・レイド』とイコ・ウワイスばかりが有名ですが、インドネシア映画の勢いを現場で見つづけてきたリポートです。映画を見たことがなくても楽しくなる、まさに決定版のガイド。

     *     *     *     *     *

 ヴァラエティに富んだ内容で楽しめること請け合いの《友成純一エッセイ叢書》。

 じつはまだ新刊がひかえていますので、お楽しみに!

2019年9月18日 20:59 | | コメント(0)

お待たせいたしました!

スティーヴン・ハンターの新刊が、ついに発売となりました!

その名も、『狙撃手のゲーム』(上・下)。

原題は『Game of Snipers』。なんか、かっこよくないっすか?(著者いわく、タイトルは『ゲーム・オブ・スローンズ』に影響されたらしいw)

最後にsがついているのをみてもわかるとおり、スナイパーは一人ではありません。

「二人」の天才による壮絶な死闘。ゲームは、「ゲーム」であり、「獲物」でもあります。

   狙撃手のゲーム ブログ用.png

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ついに、我らが天才スナイパー、ボブ・リー・スワガーが、バリバリのアクション・ヒーローとして僕たちのもとに帰ってきました!

 

前作『Gマン 宿命の銃弾』(上・下)では、祖父チャールズの過去を追う狂言回しに徹した感のあったボブ・リーですが、今回は冒頭から事件に積極的に関与し、全編にわたって捜査に、追撃にと大活躍。

走る! 飛ぶ!   そして撃つ!!

燃え盛る業火の中に単身飛び込む!(マジか!?)

武装したテロリストに、丸腰でタックルかます!!(正気か爺さん!?)

とにかく、ボブ・リーが元気、元気。

それだけで、なんかもう泣けてきます!

これでこそ、俺たちのボブ・リーだぜ!

 

解説の野崎六助さんが、「ヒーローの高齢化問題」という、きわめて重大かつタイムリーな切り口で、今回のボブ・リーの扱いについて鋭く切り込んでくださっていますが、(かつて前任編集者Tもこのブログで、ミステリー主人公の年齢問題について言及しておりました→こちら その1 その2 その3)、

本作におけるハンターは、ある意味、長い迷いの時期を抜けて、ようやくどこか吹っ切れた感があります。

これまで、ボブ・リーの息子を出して代替わりを狙ってみたり、老いたボブ・リーの出番を限定的に絞ってみたりと、いろいろな試みにチャレンジしてきてはみたものの、広範な読者からの支持はどうも得られないらしい。

ならば、いっそのこと居直ってみるか。

「いいじゃん、おじいちゃんが活躍しても! どうせ作者も読者のメインも同世代さ!」

「実際、今日びの70代は肉体的にも断然若いし、アクションだって上等だぜ!」

ホントにそんな感じかどうかは知りませんが、本書『狙撃手のゲーム』には、いい意味での「肯定的な高齢ヒーロー」としてのボブ・リー・スワガーが、神々しく降臨しております。

まあ、クリント・イーストウッド(89)の大活躍ぶりを見ても、日本における里見浩太朗(82)や千葉真一(80)、北大路欣也(76)諸氏のすこぶるお元気そうなご様子を見ても、ボブ・リーの74歳なんて、まだまだ若い若い。

ボブ・リーはちょうど、スタローンやシュワルツネッガーと同世代。

変に作者が気をつかって、楽なミッションやらせてお茶を濁すよりも、バンバン動かしバンバン戦わせたほうが、「むしろ自然」な気さえします。

 

「帰ってきた」のは、超人的シューター、絶対的ヒーローとしてのボブ・リーの勇姿だけではありません。

過去編に話の力点が置かれていたここ数作と異なり、今回は久方ぶりに、現代アメリカを舞台とした、全編追いつ追われつの、圧倒的な王道スナイプ・アクションに仕上がっています。

敵役であるジハーディスト「ジューバ・ザ・スナイパー」は、ボブ・リー自身が「自分より射撃の腕は上」だと語る、真の意味での強敵中の強敵。

アメリカ本土に潜入し、超・長距離狙撃をくわだてる彼の壮大なミッションを、果たしてボブ・リーと仲間たちは止めることができるのか。そもそも、ジューバの標的とは、いったい誰なのか。

ハンターは、ジューバ・サイドが緻密に進捗させてゆく狙撃計画の過程と、それを阻止するため知恵を絞って必死で追い続けるボブ・リー&メンフィス・チームの動向を交互に描きながら、手に汗握るサスペンスをじわじわと醸成していきます。

 

撃つことを生業とし、その技倆においてそれぞれの神に祝福された、究極の存在が二人。

世界でもっとも反発しあい、同時にもっともわかりあう二人の男が、相対します。

それぞれが、属する世界と信じる正義のすべてを背負って、激突する。

当然ながら、スナイパー対スナイパーの極限の闘争は、

やがて、命を懸けた「狩りのとき」(タイム・トゥ・ハント)へと導かれることでしょう。

お互いの額に、お互いのレティクルの十字がピタリと合う、その瞬間・・・・・・。

はたして、最後に立っている(ラストマン・スタンディング)のは、どちらの男なのか??

 

いやあ、シビレますね。

ね、読みたくなってきたでしょう?

ぶっちゃけ、絶対に後悔はさせません。

パブリッシャーズ・ウィークリーの「『ジャッカルの日』と並べおくべき一書。それほどに素晴らしい」の言を引くまでもなく、編集者として、皆さまに最高の読書体験をお約束します。

 

さて今回、ちょっと気にして欲しいのが、巻頭にひかれた文言です。

言葉の主は、「親衛隊中佐レップ」。この名前、皆さん、どこかで耳にした覚えがないでしょうか?

実はこの「レップ」という人物、実在の人間ではありません。

これは、昨年弊社から復刊させていただいた、スティーヴン・ハンターのデビュー作、『マスター・スナイパー』の主人公の名前なんですね。そう、あの、ナチス・ドイツが誇る凄腕スナイパー。

では、なぜ、そのレップの言葉がわざわざ巻頭で引用されているのか。

そうやって改めて考えてみると、本作『狙撃手のゲーム』の作品構造は、実は『マスター・スナイパー』と随所でかなり似かよっていることに気付かされます。

敵の狙撃手が、味方の追跡者とともに、ダブル主人公として話を引っ張る構図と展開。

敵の作戦遂行過程と、それを阻止する側の追跡劇を交互に描写してゆく、シンプルな物語構造。

味方陣営(『マスター・スナイパー』なら連合国、『狙撃手のゲーム』なら米国)とは、まったく異なる大義と正義に基づいて行動する、アンチ・ヒーローとしてのレップ(ジューバ)の描写。

細部のモチーフにも相似が見られます。アンチ・ヒーロー側の作戦内容(ジューバが過去に遂行した凶行と、レップが携わる任務の究極の目的)の類似は火を見るより明らかですし、何より、「試し撃ち」が準備行動として重要な役割を果たす点がまるきり共通しています。それぞれの第一章は、実のところ、同じエピソードの変奏といってもいいでしょう。

 

『極大射程』から26年。

ハンターは、ボブ・リーが活躍する初期三部作のあと、彼の父を主人公とする新・三部作を書き、その後今度は息子を登場させ、さらには祖父の事績を掘り下げてきました。

ボブ・リー自身はすでに老境に足を踏み入れています。

そんななか、ハンターは、ボブ・リーを久々に本格的なスナイプ・アクションの只中に復帰させることを決意したわけです。ヒーローとしての復帰戦。いわばシリーズの中締め、仕切り直しです。

ここでハンターは、ある種の「原点復帰」を志したのではなかったか。

だからこそ、彼はあえて自分の第一作である『マスター・スナイパー』の祖型を、「米対アラブ」の現代的テーマに再導入し、作品間の随所にリンクをはってみせたのではないか。

さらには巻頭にレップの言を引くことで、この「自作の本歌取り」を包み隠すことなく、おおっぴらにわれわれに明示してみせたのではなかったか。

そんなことを思うわけです。

 

全体としては、正調のスナイプ・アクションに真正面からシリアスに取り組みつつも、

矢継ぎ早に速射砲のような質問をボブ・リーに浴びせるモサドの変人エージェントのくだりとか、

アメリカのジャンク・フードに舌鼓をうつジューバの妙にフレンドリー(?)な描写だとか、

老人扱いされて、中盤からなかなか銃を手にさせてもらえないボブ・リーの描写などからは、

『四十七人目の男』を実に楽しそうに書いていた著者のオフビートなユーモアのセンスもうかがえます。

終盤の展開自体は、ハンターにしては直球勝負というか、言うほど凝っていない感じもしますが、かわりに中盤付近に、かなり意表を突く展開が待ち受けています。

冒頭でボブ・リーを「現場」にカムバックさせただけでなく、その後も随所で大活躍を見せる「アメリカの母」の印象的なキャラクターにも、ぜひご注目ください。

それから、非常に注意深い筆致で、アメリカの「分断」の双方に深入りすることを巧みに避け、相応にバランスのとれた立ち位置から、純粋に面白いアクション小説を書くことに専心しようとするハンターの作家的姿勢にも、編集者は大きな感銘を受けました。

 

そして、あいも変わらずネチネチと書き継がれる銃器の描写!

やっぱり、これがないとハンターじゃないですよね! 最初に、本作の主役は二人のスナイパーだと言いましたが、正確にいえば、ハンター世界においては、銃器こそが常に真の主役の座に君臨するのです。

今回は、ライフルのみならず、その銃弾が物語上、大きな意味をもちます(ここのところも『マスター・スナイパー』と共通します)。ハンターらしい、いつ終わるともしれないマニアックなガン描写と薀蓄が引き起こす、眩暈のようなトリップ感覚を、じっくりご堪能ください。

 

なんにせよ、ハンターの愛読者で、狙撃手VS狙撃手というシチュエーションで、燃えない方はいらっしゃらないでしょう。ですよね?

久方ぶりとなる、誰もが待ちに待った、ハンター印の本格スナイプ・アクションを皆様にお届けすることができて、編集者としても嬉しいかぎりです。

ぜひ、ご一読くださいませ!(編集Y)

 

 

 

2019年9月 7日 18:19 | | コメント(0)

20198月、先日の『シンプル・プラン』に続きまして、扶桑社ミステリーからもうひとつ、復刊作品が誕生しました。

ジム・トンプスンの『ポップ1280』 です!


POP1280.jpg


2001年版の『このミステリーがすごい!』海外部門で1位を獲得した、ノワールの帝王ジム・トンプスンの傑作のひとつです。 

ポッツヴィル、人口1280。この田舎町の保安官ニックには、心配事が多すぎる。考えに考えた結果、自分にはどうすればいいか皆目見当がつかない、という結論を得た。口うるさい妻、うすばかのその弟、秘密の愛人、昔の婚約者、保安官選挙...だが、目下の問題は、町の売春宿の悪党どもだ。思いきった手を打って、今の地位を安泰なものにしなければならない──

 

フランス文学者の中条省平さんには、この作品について

 

「トンプスンの最高傑作は他とは別格で、ハメットの『赤い収穫』と比較されるべき犯罪文学の金字塔。この魂の荒涼が吐きつける言葉に震撼させられずしてハードボイルドのなんたるかはとうてい語れまい」

 

という熱量たっぷりの評をいただいております! 「魂の荒涼が吐きつける言葉」。まさにこの作品の文体を明確にしめす言でありましょう。


本作の復刊のきっかけは、3月末に同じく復刊を遂げた『シンプル・プラン』と同様、『このミス』2019年版でおこなわれた「30年間の1位作品からベストを選ぶ」という企画「キング・オブ・キングス」で、『ポップ1280』が5位に選ばれたことでした。


ジム・トンプスンといえば、90年代からゼロ年代にかけて扶桑社ミステリーの中核を担っていた作家のひとりでありましたが、邦訳出版は日本オリジナルの作品集『この世界、そして花火』以降ながらく途絶えておりました。

しかし! 2017年刊行の『天国の南』を皮切りに、『ドクター・マーフィー』『殺意』など本邦未訳だった作品が、文遊社さんからソフトカバー単行本の形で刊行されはじめています。この7月には、トンプスンの原点を垣間見ることができる自伝的作品『バッドボーイ』が発売されたばかり。

この再注目の流れが進むタイミングで、代表作でありながら、ながらく品切れとなっていた『ポップ1280』を装いも新たに復刊し、皆さまにお届けできるようになったことは嬉しい限りです!

 

今回の復刊ではさらにさらに、ジム・トンプスン再評価のきっかけとなった、ジェフリー・オブライエンの歴史的評論「安物雑貨店のドストエフスキー」も追加で収録し、トンプスンマニアの方にはもちろん、初心者の方にも「まずはここから」と自信を持っておすすめできる一冊となりました。

 

さてここからは、梅田 蔦屋書店の洋書コンシェルジュ・河出真美さんのインタビューをお届けします。河出さんは今回、『ポップ1280』にこんな推薦コメントを寄せてくださいました。

 

「人口1280人の町でたった一人の保安官。一見気のいい田舎者。

しかし彼にはもうひとつの顔があった。

何も知らずに63ページまで読んで欲しい。最初の驚きが待っている。

快楽のためでなく、欲望のためでなく、ただ流れに身をまかせるように──

この男、悪でさえない。」

 

推薦の辞、本当にありがとうございます。

というわけで、今回は河出さんに『ポップ1280』と扶桑社ミステリー、さらには海外文芸の魅力について伺ってまいりました!どうぞお楽しみください。

 

 

──『ポップ1280』はどんな人におすすめでしょうか

 

『ポップ1280』の主人公は、一見よくいるサイコパスですが、実は数多いるサイコな連続殺人鬼とはまったくちがうと思っています。「人を殺す」ということを目的として行動するのではなく、なりゆきまかせでその時々の目的のために行動し、心の中が恐ろしいまでに空虚で、だからこそ無敵。そういう意味で、サイコパスものが好きな人が読んだら、逆に新しいものを読んだという気になれるのではないでしょうか。人間の心の恐ろしい部分に興味のある人とも相性がいいと思います。シャーリイ・ジャクスンパトリシア・ハイスミスが好きな人とか。

 

 

──河出さんが就かれている「洋書コンシェルジュ」とは、どのようなお仕事なのでしょうか。また、その仕事をされるうえで大切にされていることはありますか。

 

 洋書の発注・納品・提案をしております。担当は主に読み物で、英語を勉強しているというお客様に読みやすい洋書を紹介したりします。店舗の客層に合ったものを新しく取り入れていけるかが常に課題です。洋書のフィクションを集めた棚があるのですが、ベストセラーと新しい本をバランスよく入れて、個性的かつ新しさのある棚にしていきたいと思っています。

 

 

──河出さんの思う「海外文芸」の魅力はどんなところにありますか。また、それに気づくきっかけとなった作品を教えてください。

 

 自分の育った環境とは全くちがう国のことを知ることができるというのが魅力の一つだと思うのですが、その全くちがう国、全くちがう文化、全くちがう言語を持つ人々が、自分や身近な人々と同じようなことを思い、同じようなことをしているというのも興味深いところだと思います。

たとえば、ミステリーで言うと、子どものころはシャーロック・ホームズシリーズやアガサ・クリスティーの書く一昔前のイギリス独特の風俗、馬車に乗るとか、お金持ちの女性には話し相手が雇われているとか、そういう部分が謎解きに加えてとてもおもしろかった。

クリスティーの『春にして君を離れ』はごく普通に生きてきた人が、ちょっとしたきっかけで自分の人生が実は自分の思っていたようなものではなかったということに気づく、すごく怖い話なのですが、時代や国に関係なく、いかにも本当に、そのへんの人に起こりそうな話だと思えるのがすごいと思います。

 

 

 

──扶桑社ミステリー文庫についての印象をお聞かせください

 

一種独特なものを拾ってくれるところだと思っています。『インターンズ・ハンドブック』(紹介記事はこちら)『拾った女』(紹介記事はこちら)はよくぞ出してくれた!という感謝の気持ちでいっぱいです。

スティーヴン・ハンターやクライブ・カッスラーをしっかり出しつつ、こういう、扶桑社ミステリーが手を出さなければ忘れ去られてしまうであろう作家の本を出してくださる、素晴らしいシリーズです。

 

 

 

──扶桑社ミステリー文庫のなかの河出さんの推し作品はどれですか

 

最近では『拾った女』(註・浜野アキオ翻訳・2016年刊)ですね。最後の一ページでこれがどんな物語だったかわかるという手法、それもこれまで読んだことがなかったタイプのどんでん返しでした。あまりにも悲しいラブストーリーで、もうミステリーじゃなくラブストーリーとしておすすめしてもいいかもしれない。

昔から好きなのはスティーブン・ドビンズ『奇妙な人生』(註・瓜生知寿子翻訳・1994年刊)です。調べたところ、もうHPにも掲載されていないようで悲しいです。もうだいぶ前に読んだ本ですが、これも奇妙で愚かで悲しくて、歪な傑作だと思っています。まだ文庫本を持っています。

 

 

 

──「翻訳ものは売れない」と言われる昨今ですが、今後、このジャンルは、どのようにするとさらに魅力が伝わり、盛りあがっていくと思いますか。

またそれにあたり、扶桑社ミステリー文庫(版元)に期待すること、河出さんご自身が書店員・コンシェルジュとしておこなっていきたいことを教えてください

 

 「翻訳ものは(国内ものほど)売れない」というのはそのとおりだと思います。だからこそ出版社の方々には面白い本を発掘し続けていただきたい。そしてコンシェルジュとしては、できるだけたくさん本を読んで、「売れる」と思ったものをしっかり売りたいです。

でもそれよりも大事なのは、そのままだと見逃されてしまって売れないものを「売れる」本に育てていくことだと思っています。出版社や翻訳者の方とのつながりを大事にして、その本がそこにあるのだということを伝える、いい本だということが伝わる、そんな売り場を作っていきたいと思っています。

 扶桑社さんはぜひこれからも尖ったものを出し続けてください。

 

 

──というわけで、復刊したジム・トンプスンの代表作『ポップ1280』、まずは「何も知らずに63ページまで」読んでみてください。そのときにはもう、饒舌な語り/軽妙なテンポ/ブラックな笑いに魅了され、トンプスンが暴く人間の闇に満ちた世界から抜け出せなくなること間違いなしです!(販売促進M)

 

 

 

~今回お話を聞いた本屋さん~

 

■梅田 蔦屋書店

大阪府大阪市北区梅田3丁目13 ルクア イーレ 9F

営業時間: 7:0023:00 (不定休) TEL: 06-4799-1800

 

■河出 真美

好きな海外作家の本をもっと読みたい一心で、作家の母語であるスペイン語を学ぶことに決め、大阪へ。新聞広告で偶然蔦屋書店の求人を知り、3日後には代官山 蔦屋書店を視察、その後なぜか面接に通って梅田 蔦屋書店の一員に。本に運命を左右されています。20184月より世界文学・海外ミステリーも担当するようになりました。おすすめ本やイベント情報をつぶやくツイッターアカウントは@umetsuta_yosho#梅蔦世界文学 も御覧ください。


2019年8月21日 12:32 | | コメント(0)

今月の扶桑社ミステリーは、もう読んでいただけましたでしょうか。

ゾラン・ドヴェンカー『沈黙の少女』

本日発売の『週刊文春』文春図書館「ミステリーレビュー」で、評論家の池上冬樹さんがご紹介くださり、★★★★の評価をつけてくださいました!

「構成の妙、視点の交錯、会心のミステリー」というキーワードで、グリシャムの『危険な弁護士』と合わせて、実にうまく本書の面白さを語ってくれています。

本当にありがとうございます!!

 

ドヴェンカーは、かつて早川書房さんでポケミス&文庫で同時発売されたことで記憶に残る『謝罪代行社』(2009、邦訳2011年)の著者さんです。

この作品でドイツ推理作家協会賞を受賞したあと、『Du』という大作を挟んで2014年に発表したのが本作となります。

扶桑社としては、ドイツ・ミステリーの翻訳出版は久々の挑戦となりますが、なにがなんでも世に出したい一作ではありました。

 

これを扶桑社が出さずして、どこが出す。

そういうテイストの小説だからです。

  沈黙の少女ブログJpeg.jpg

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こちらでカバーに付したあらすじは、こんな感じです。

 

雪の夜、ベルリン。13歳のルチアとその弟が何者かに誘拐された。
2週間後保護された彼女はそれから6年間、謎の沈黙を守りつづけることになる――。
一方、教師のミカはパブで4人の男たちと接触を持ち、仲間として加わることに成功する。
それはずっと温めてきた計画の第一歩――ミカを衝き動かすのは、父親としての妄執にも似た狂おしい想いだけだった。
予想を超える展開の果てに待ち受ける驚愕の真相とは? 
黒々とした衝撃が胸を貫き、腹を震わせる傑作ミステリー登場!

 

実は最初はもう少し踏み込んだ内容まで書いてしまっていたのですが、酒井貞道さんから頂戴した素晴らしい解説を読んで編集者としても大いに自戒し、なるべく初読の方に余計な情報を与えないようにリライトしたのでした。そのぶん、ちょっとわかりにくいかもしれませんが・・・。

酒井さんもおっしゃるとおり、本書は序盤でいろいろと伏せられている内容が多く、読者のみなさんにその面白さをストレートに紹介するのは大変むずかしいところがあります。

本来なら、本作がどういうジャンルの小説で、なにがテーマかすらも、こういうところで語るのはよろしくないのかもしれない。

だから、まずはお願いします。

騙されたと思って、とにかく真っ白な状態で手にとってみてください。

 

とはいえ紹介記事なので、蛇足ながらいちおう編集者なりに(内容に立ち入らない範囲で)読みどころを紹介しておこうとも思います。先入観なしで読まれたい方はここで画面を閉じて、書店へとお向かいください。

 

正直、読み進めていて、あまり気持ちの良い小説ではないかもしれません。

ひとによっては、イヤミスのたぐいだと思われることでしょう。

社内でも、途中で読めなくなった、という男性がいました。

 

編集者は、この作品の本質は「ノワール」だと思っています。

でも同時に、間違いなく本作は、驚くべき仕掛けを巧みに配した、極めて上質の「ミステリー」でもあります。

そして、不快な要素もひっくるめて、いつまでもどんよりと読者の胸と腹に響いて残る、本物の「文学」でもあります。

ミステリーとしては、「ああ、こういう趣向ね」という読者の勘ぐりをアクロバティックにかいくぐって、3並びの頁でいったんの頂点を迎えます。

初読時、編集者は完全にしてやられました。

うまい。この切れ味。ぞくっとくる。

すれっからしの読者ほど、この展開を予想できる人は少ないのではないか。

で、そのあとは、作家の筆力に引きずられるように、ラストまで一息で読まされるばかりです。

 

ここで描かれるのは、敢えて抽象的に述べるなら、魂の地獄であり、世界の冷徹であり、そのなかでもがき苦しむ人間の、善も悪もいっしょくたに呑み込んだ壮絶なる闘争です。

単なる、「いやな」だけの話ではない。だから胸にぐさりと突き刺さる。

しかもそれを、あえてミステリー(本格ものに近い)の文法で描こうとしている。

そこにこそ、本作が「ノワール」と呼ばれ得る所以があります。

 

それと、もう一つ、どうしても強調しておきたいことが。

ゾラン・ドヴェンカーの著作活動のベースは、じつはミステリーではありません。

児童文学なのです。

彼は、これまでにいくつもの賞を総なめにしてきた、第一線の児童文学者なのです。

日本でも、岩波書店さんから、『走れ!半ズボン隊』『帰ってきた半ズボン隊』という2冊が、すでに紹介されています。これが驚くなかれ、カナダの田舎を舞台に、少年たちが探偵として大活躍する児童向けのミステリー小説だったりするんですね。

しかもドヴェンカーは発表当初、これを架空のカナダ人作家をでっち上げたうえ「翻訳書」として出版し、あげく名義貸ししただけの翻訳者が賞まで受賞してしまったというオチまでついたそうで(笑)。なんとも人を食った――どこまでもミステリー・マインドに満ちたお遊びではないですか。

 

『沈黙の少女』は、そういう作家さんの手によって生み出された作品です。

読了後、そのことに立ち戻ったとき、みなさんはいったい何を思われるでしょうか。

 

個人的には、かなりの思い入れがある作品でございます。

ひとりでも多くの方に読んでいただけると幸いです。(編集Y)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2019年7月11日 22:13 | | コメント(0)

今月の扶桑社ミステリー新刊、『秘密結社の野望を阻止せよ!』(上・下)は、もうお読みいただけましたでしょうか?
クライブ・カッスラー&ボイド・モリソン著の〈オレゴン号〉シリーズ新刊です。
担当編集者として、これは言っていいことなのかどうかわかりませんが・・・・・・
ここ数年で担当したカッスラー作品のなかでは、ぶっちゃけ断トツの面白さであると断言していいと思います! 
近年なんとなく手にとってないや、なんて古いファンの方も、ぜひ騙されたと思って読んでいただけると幸いです。仕上がりは版元として保証いたします。


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今回のあらすじは、こんな感じです。

18カ月前にアラビア海で発生したエアバス失踪事件。
ナポリの造船所で破壊工作に見舞われた謎の貨物船コロッサス5。
さらには西インド洋で、貨物船トライトン・スター号が、遭遇した正体不明の遭難船による電光石火の作戦行動を受け乗っ取られる。
これら一見無関係に思えるすべての出来事の裏には、とある秘密結社が進行する巨大な陰謀が絡んでいた。
秘密任務の遂行中に不穏な動きを察知したオレゴン号船長ファン・カブリーヨと仲間たちは、背後に秘められた計画の全貌を探り出すため奔走する――。

本作の敵には、インドを舞台にしたいというカッスラーサイドの意図もあってか、かなりマニアックなネタが選ばれています。
その名も〈無名の九賢〉――紀元前のインドを仏法の徳をもって治めた賢王、アショーカ王に由来する秘密結社です。
英語では、〈The Nine Unknown〉。あまり日本では聞き覚えのない組織名ですが(ネット上では「九未知会」「九人覆面団」と訳されている例もあり)、英米圏では、タルボット・マンディという秘境冒険小説作家がとりあげたおかげで、意外に知名度の高い存在のようです(ちゃんとWikiもある)。

タルボット・マンディは、エドガー・ライス・バロウズやH・R・ハガードと同様、冒険小説の大家として名を残している作家さんです。インドやチベットといった南インドを舞台に、アメリカ人諜報部員が活躍するオカルト冒険活劇など、50冊近い単行本を著しています。今となってはほぼ忘れ去られた作家かもしれませんが、ジョン・フォードが映画化していたり、監督兼脚本家のフィリップ・カウフマンを通じて『インディ・ジョーンズ』シリーズに影響を与えていたりと、無視できない存在であることもたしかです。(詳しくは、小山正氏の「〈インディ・ジョーンズ秘史〉知られざる小説家タルボット・マンディーの影」、『ミステリ映画の大海の中で』所収、を参照のこと)
このマンディが1912年に『The Nine Unknown』という冒険小説を出版しています。晩年、神智学の影響を強く受けたマンディは、本書のなかでこの秘密結社を、カーリー邪神信奉者と対峙する善なる存在として登場させていると、復刻版(2019)のAmazonの紹介には書かれています。
前述のカウフマンは1983年、本書を含む三冊を原作として『Jimgrim vs. the Nine Unknown』(Jimgrim は、マンディの冒険小説におけるシリーズ・ヒーロー)という映画を企画し、実際脚本まで執筆していたのですが、本人の監督した『ライトスタッフ』の興行的失敗を受けて、結局企画はポシャってしまいました。

その後も〈無名の九賢〉は、ルイ・ポーウェルとジャック・ベルジェの怪書『神秘学大全―魔術師が未来の扉を開く』(1960年、邦訳版2002年、学研M文庫)でも、実在する秘密結社として言及されています。また、インド人作家クリストファー・C・ドイルのダン・ブラウン・テイストの冒険小説『The Mahabharata Secret(マハーバーラタの秘密)』(2013)でも登場しているそうです。このインドの秘密結社は、陰謀論や神智学的言説の定番として、フィクションの世界でいまも息づいているのです。

実際に〈無名の九賢〉がどのような経緯で発生した結社とされているのかは、本書の冒頭でアショーカ王の逸話が語られているので、そちらをお読みいただければと思いますが、とにかく本書では、この2000年の歴史を持つ秘密結社が積年の悲願を達成するために動き出し、それを嗅ぎつけたファン・カブリーヨ船長とオレゴン号メンバーが陰謀を阻止するべく対峙する、という大筋となっております。

本書の物語としてのキモは、この〈無名の九賢〉サイドも一枚岩ではなく、むしろ冒頭から組織内の二つの勢力が激しい抗争を繰り広げているという点です。
すなわちカブリーヨたちは、対立する二つの勢力の双方を相手しながら、ときにはどちらかに利する行動をとったりする必要も出てくるわけです。
いうなれば、今回カブリーヨたちは、黒澤明の『用心棒』っぽい立ち居振る舞いを要求され、物語上は、『続・夕陽のガンマン』みたいな、三つ巴のつばぜり合いが、丁々発止の勢いで続いていくんですね。

しかも、この二つの勢力は、それぞれ単純な「悪」であったり、金や権力のためであったりというよりは、自分たちの信念に従って世界を変革すれば、必ずや「正しい」新秩序と輝かしい未来が生み出せるという、強い信念に基づいて行動しています。
なので、終盤にいたるまで、物語の緊張感が途切れませんし、カブリーヨたちも、二つの勢力双方を倒さないと事件が解決できないんで、いつもの倍は頑張らないといけないことになっております(笑)。

お話は、船内での銃撃戦から、海上でのミサイル・魚雷戦、さらにはロケット打ち上げをめぐる攻防まで、どんどんスケールを広げながらヒートアップしていきます。
中盤の、ボリウッド女優になりすましてパーティに潜入するあたりのコミカルなやりとりとか、敵に拉致された仲間を助けるための飛行機上での知略に富んだ戦いとかもそうですが、とにかく無条件に楽しめるシーンが目白押し。カッスラー活劇の最良の部分が出た一書といって間違いないかと思います。

ぜひ、梅雨のじめっとした気分を、1000%エンタメの爽快パワーでどーんと吹き飛ばしてくださいね!(編集Y)


2019年6月17日 15:15 | | コメント(0)

皆様、今月の新刊はふだんとはちょっと雰囲気が異なりまして、第二次世界大戦末期のイタリアを舞台とした、17歳のレジスタンスを主人公とした物語となっております。

 

タイトルは『緋(あか)い空の下で』(上・下)。

 

作者はマーク・サリヴァンという、そこそこのベテラン作家さんですが、まさかご本人もここまで売れて、これだけの評判になるとは、思ってもいなかったでしょう。 

 

実はこの小説、4月時点の本国Amazonで、なんと24841レビューもついて、星4.8という驚異的な数字を叩き出しております。

さらに本書は、2017年にAmazonで最も売れたフィクション新刊だったんですね(フィクションの総合では6位でしたが、その他の上位は、当時ドラマ化された『侍女の物語』や、あのハリー・ポッター・シリーズなどで、新刊でベスト10に入ったのは、本作と10位のダン・ブラウンだけでした)

部数はすでに本国で累計150万部を突破!

しかも、パスカルピクチャーズで、トム・ホランド主演の映画も決まっているという!

 

これだけの人に読まれ、大きな話題となり、多くの読者に感動を与えている『緋い空の下で』とは......いったいどういう本なのでしょうか?

たしかに、本書には Amazon が大々的に仕掛けて、ベストセラーにまで持っていた側面もあったりもするのですが(その「仕掛け」の面白さについては、また別の機会に)、実際にこの本を読んで、素晴らしいと感じた人がたくさんいたからこそこれだけヒットしたというのも、また確かです。

本書には、いろいろと「ドラマ」があるのです。

 

緋い空の下でブログjpg.jpg

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 あらすじは、こちら。

 

1943年イタリア、ミラノ。ピノ・レッラは女の子とジャズと食べ物に夢中の17歳だ。

だが彼の運命は、第二次世界大戦の戦火が市街へと拡大するにつれ激変する。

弟と二人でアルプス山中の自然学校に疎開することになったのだ。

ピノはそこで、運営者の神父から指示を受け日夜アルプス登山に勤しむが、

それはある特殊な任務のための訓練だった。

ナチスに追われるイタリア在住のユダヤ人を、山越えでスイスへと逃がす手伝いをピノにさせようというのだ。

彼は危険を覚悟で、道案内役を引き受ける――。

 

さらに、第三部以降になると、少年ピノにまさかの運命が待ちうけています。

 

アルプス山岳ルートを用いたユダヤ人の逃亡支援を続けていたピノは、軍役に就くためミラノに呼び戻される。

1944年夏、ひょんなきっかけからナチスの高官ライヤース少将の運転手に指名されたピノは、そこで働きながらひそかにスパイとして反ナチス運動に協力することを決意する。

運命の女性との再会、垣間見るナチス・ドイツの内幕、次々と訪れる親しい人々の死......。

数奇な運命に翻弄されるピノを待ち受ける未来とは? 

 

ここで、重要なのは、本書の主人公ピノ・レッラは、実在するということです。

 

本書の著者による前書きには、こんな執筆の経緯が記されています。

「あるディナーパーティで、わたしは第二次世界大戦中の17歳のイタリア人少年を主人公とする途方もない話の断片を耳にした。終戦までの23カ月におよぶピノ・レッラの物語を聞いてわたしが真っ先に思ったのは、これが実話のはずはない、ということだった......。

(中略)つまり、読者がこれから読もうとしている物語は、小説仕立てのノンフィクションではなく、ピノ・レッラの伝記小説、1943年6月から1945年5月までのピノの経験に可能なかぎり沿った歴史小説なのである」

 

そう、本書は、著者がピノ・レッラ老人への綿密なインタビューをもとに執筆した、「実話」ベースの物語なのです。

本当にアルプスの山越えで多くのユダヤ人たちを救い、その後、ナチス高官のもとでスパイ活動に従事した17歳の少年は、実在したのです。

 

NYタイムズベストセラー作家のテス・ジェリッツェンは、

 

「アクション、冒険、愛、戦争、そして叙事詩的英雄――あらゆる要素が、歴史上最も暗かった時代を背景に対置される。マーク・サリヴァンの『緋い空の下で』には、すぐれた第二次大戦小説に読者が求めるすべてがつまっている」

 

と賛辞を述べています。


 

なお、本書の原題も Beneath a Scarlet Sky ということで邦題はほぼ直訳ですが、あえて「スカーレット(緋色)」を意識した漢字を使ってみました。

この「緋色」は、物語前半の舞台であるアルプスの霊峰(作品内で「神の大聖堂」と呼称されます)を包む夕焼けの「緋」でもあり、

やがて主人公の故郷ミラノの空を焼き尽くす、拡大してゆく戦火の「緋」でもあります。

邦訳版の上下巻の装幀は、そんなアルプスの山並み――「神の大聖堂」と、ミラノの大聖堂――「人の大聖堂」を対比させ、それぞれの「緋」をイメージしたものとなっております。

 

まずは、ここではこれ以上の紹介は控えて、あとは皆さんにもぜひ、ご自身の目で読んでいただきたいと思います。特に連休のあいだ、お出かけの予定がない、という方は、ぜひ本書を読んで、1940年代のアルプスとミラノにトリップしてピノとともに冒険を繰り広げていただければ!

お楽しみに!(編集Y)

 

 

 

 

2019年4月28日 04:28 | | コメント(0)

 20193月末、すでに当欄でご紹介したカッスラーの新刊とあわせまして、弊社販売部の主導のもと、十数年ぶりに、とある傑作サスペンスが復刊されました。

 

スコット・スミス著『シンプル・プラン』!

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そう、かつて『このミステリーがすごい!』1995年版第1を獲得した、扶桑社ミステリーを代表する一作です。

ある雪の日に、町外れで、墜落した小型飛行機の残骸と、パイロットの死体、それに440万ドルの現金が詰まった袋に出くわしてしまった3人がたどる、恐るべき運命とは――

デビュー作にしてすでに、圧倒的な完成度とリーダビリティを誇るその内容は、多くの読者にただ事ならぬ衝撃を与えました。さらには刊行後、サム・ライミ監督による映画化作品も公開され、これまた大きな話題を呼びました。

 

販売部が本作の復刊を考え始めたそもそものきっかけは、『このミス』2019年版でおこなわれた「30年間の1位作品からベストを選ぶ」という企画「キング・オブ・キングス」で、『シンプル・プラン』が6位に選ばれたことでした(1位は『薔薇の名前』ですが、弊社刊のジム・トンプスン著『ポップ1280』も、第5位にランクインしております!)

 

販売部から復刊の打診があって、編集者もすぐに動きました。まず翻訳者の近藤純夫さんと連絡をとり、情報更新も兼ねて、訳者あとがきを新たにご執筆いただきました。

評論家の池上冬樹さんからは、

 

犯罪小説の金字塔。一度は読むべき絶対的名作! 一歩間違えれば人はみな狂った道を転がり落ちるという恐怖をとことん味わわせてくれる。

 

という大絶賛のお言葉をいただき(この作品のためなら、もういくらでも褒めますよ、とは池上先生の言!)、現在、新帯をまいて全国の書店さんにて展開中でございます。

長らく品切れ状態となっておりましたが、こうしてまた、新たな装いのもとあの傑作を皆様にお届けできる。編集部といたしましても、たいへん嬉しい話でございます! 

 

 

 で、ようやく本題なのですが......

ここからは、販売促進部二年目のホープMくんが訊いてきてくれた、ときわ書房本店の文庫担当・宇田川拓也さんのインタビューをお届けしたいと思います!

 なんでも、Mくんから復刊を伝えると「平積み展開したいから50部ほしい」とおっしゃって、早速ご注文いただけたとのこと!(涙) さらには、こんな素晴らしい推薦コメントまで寄せてくださいました。

 

『手を汚し、罪を重ね、堕ちて堕ちて堕ち続ける。誰の内にもある人間の愚かしさと恐ろしさをこれほどシンプルな構成で深く生々しく残酷に掘り下げた、一瞬も目が離せないほど強烈な小説は他にない。』

 

作品愛に満ちた推薦の辞、本当にありがとうございます!

 

というわけで、弊社Mくんが宇田川さんから伺ってきた、『シンプル・プラン』と「扶桑社ミステリー」の魅力についての含蓄あるお話を、存分にお楽しみください!

 


 ――『シンプル・プラン』はどんな人におすすめですか

 

 この作品は、犯罪小説に興味を持った人にはもちろんのこと、改めて読み巧者やマニアの方々にも手にとってほしいです。手に入りにくい期間がここ数年あったわけですから、いま犯罪小説ファンでも未読の方がいてもおかしくないですよね。そうした人にはぜひ読んでいただいて、『シンプル・プラン』には犯罪小説マニア全世代必須の通過点となってほしい。

 1995年邦訳作品ではありますが、古びにくさ、そして何度でも再読に耐え、何度でも読者の心を揺さぶる底力がこの作品にはあります。

 また、もし「映画は観たことある」で終わっている人がいたら、それはもったいない! ぜひともすぐに読んでください()



――扶桑社では今回はじめて復刊企画をおこないましたが、こうした企画やフェアについてはどうお考えですか

 

それはもう、大歓迎です!

内容はいいのに時流に乗れなかったなどの理由で埋もれていった作品はたくさんあるので、そういったタイトルを現代に復活させるのは、新旧のミステリファンにも喜ばれるのではないでしょうか。

 新刊で出た際には、ファンも盛りあがってブームにもなります。でもそれが過ぎてしまうと区切りがついてしまい、いつの間にか手に入りにくくなってしまう、というもったいない作品は多くありますよね。

まさに『シンプル・プラン』もそうで、ついこのあいだまで絶版に近い状態だったというのが信じられません。でも今回の復刊を再燃のきっかけとして、ロングセラーとなってほしいですね。

 

 

――「扶桑社ミステリー文庫」についてはどのような印象をお持ちですか?

 

 単に優れた作品だけでなく、思いがけない異色作やB級テイストな作品にも理解があるラインナップ、といったものでしょうか()

 古典や本格ミステリーを出したかと思えば、『インターンズ・ハンドブック』のような変わり種も出す。その視野の広さが面白いと思いますし、老舗の早川書房さんや東京創元社さんとは異なる姿勢で作品を紹介してくださるのは非常に重要な役割だとも思います。

 


――宇田川さんにとって印象深い扶桑社ミステリーのタイトルは?

 

クレイグ・トーマスの『闇の奥へ』(註・田村源二翻訳・1989年刊)です。

 いまではクレイグ・トーマスの作品というと『ファイアフォックス』(ハヤカワ文庫NV)くらいしか手に入らなくなってしまいましたね。

この『闇の奥へ』という作品は、『ファイアフォックス』の主人公である米空軍パイロットのミッチェル・ガントと並ぶクレイグ・トーマス作品の看板キャラ、SIS(英国情報局秘密情報部)工作員のパトリック・ハイドが、長官ケネス・オーブリーのスパイ容疑の真相と黒幕を満身創痍になって追いかける謀略冒険小説の傑作です。苛烈極まりない「ミッション:インポッシブル」のようなテイストが、いまでもとても気に入っています。

また、扶桑社ミステリーでもうひとつ欠かせないものといえば、やっぱり赤い背表紙の「ホラー」でしょうか......。スティーヴン・キングやクーンツ、マキャモン。当時十代だった自分にとって特別な作家たちの作品が「赤背」にはたくさんありました。


 

――今後復刊シリーズは続いていくかもしれませんが、その第一歩となる『シンプル・プラン』にはどんな期待をされていますか

 

 先日店に届いた『シンプル・プラン』の店頭POPを見て、驚きました。「まだ25万部なのか」って。正直もっともっと売れていたような感覚がありました。

 私は100万部売れてもおかしくない内容だと思っていますので、そうなると、あと75万もの人に今後お求めいただける可能性がある(笑)。この本をこれから75万人に届けていくとして、そのうち少なくとも74.5万人には間違いなく面白いと思ってもらえるはずです。

 

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――というわけで、復刊したての『シンプル・プラン』、かつて読んだ方もまだ読んでいないという方も、ぜひお手に取ってください。一気読み必至の作品です!

 また、船橋を支える本屋さん・ときわ書房本店にも足を運んでみてくださいね!(販売促進M)


~今回お話を聞いた本屋さん~

■ときわ書房本店

千葉県船橋市本町4-2-17 JR船橋駅南口より徒歩1分

営業時間:10:00~24:00(日・祝23:00) TEL:047-424-0750

2019年4月16日 12:07 | | コメント(0)

2018年の夏、かつて新潮文庫さんの看板だった〈ダーク・ピット〉シリーズの最新刊『黒海に消えた金塊を奪取せよ』(上・下)を、扶桑社ミステリーのほうからご紹介させていただいたのは、皆様のご記憶にも新しいところかと存じます。

続きまして!

ついに、もうひとつの新潮社さんが出されていたシリーズ、ダーク・ピットもののスピン・オフである〈NUMA〉ファイルシリーズも、このたびより、弊社から刊行させていただく運びとなりました!

 

そう、これからは、あの快男児カート・オースチンが扶桑社ミステリーを舞台に大暴れするのです!

 

タイトルは『粒子エネルギー兵器を破壊せよ』(上・下)。原題は『Devil's Gate』です。

 

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他のシリーズ同様、翻訳者さん(土屋晃さん)とイラストレーターさん(岡本三紀夫さん)には新潮さん版より引き続きお願いさせていただきましたので、馴染みのファンの皆様にとっては安心仕様です。

ついでに申しますと、ソフトバンクさんから引き継いだシリーズには、タイトルの最後のところに、「!」がついていて、新潮社さんのはついていないのですが、そのへんも妙に律儀に引き継いでおります。

 

上巻のあらすじは、こんな感じです。

 

東大西洋のアゾレス諸島へ向けて航海中、NUMA(国立海中海洋機関)のカート・オースチンは黒煙を上げる貨物船を発見。

救助に向かうも、襲撃した海賊は逃走し、貨物船は沈没する。

事件の真相を探るべく海底に潜ったオースチンの目に飛び込んできたのは多数の船舶と航空機の残骸が散らばる光景だった。これはいったい......

この海域にどんな力が働いているのか? 

世界中から科学者が調査にやってくるが、オースチンとNUMAの面々は、逃走した海賊とこの船の墓場に陰謀のにおいを嗅ぎとる。

 

 改めてご紹介いたしますと、本シリーズの主人公カート・オースチンは、NUMA(国立海洋海中機関)の特別出動班を率いて難事件に立ち向かい、世界を股にかけた活躍を繰り広げます。

ダーク・ピット(現在NUMAの長官)を主人公とするメイン・シリーズの、いわゆるスピンオフという位置づけであり、ポール・ケンプレコスを共著者に迎えて、2000年本国発売の『コロンブスの呪縛を解け』を第一作としてスタートし、現時点で第14作まで出ています。

 ダーク・ピットもののほうは、第17作『オデッセイの脅威を暴け』(2005)まで、カッスラーは共著者をつけずに単独名義で出していたので、あふれる書ききれないアイディアをなんとか別シリーズの形で紹介したい、という彼の想いがあったのかもしれません。

チームの仲間は、カートの良き相棒にして潜水艦の設計を得意とするジョー・ザバーラと、学者肌のポールとガメーのトラウト夫妻。ダーク・ピット他、本編のほうの登場人物も、同じNUMAの仲間として適宜登場いたします。

 

今回ご紹介する『粒子エネルギー兵器を破壊せよ』から、共著者がグラハム・ブラウンに変わりましたが、魅力的な事件立てと派手なアクション、ハイテク兵器と潜水・サルベージのリアルな描写、小気味良いキャラクターのやりとりに、一切のゆるみはありません。

本国発表年が2011年ということで、若干古めの話ではありますが、むしろ今より少し若めのカッスラーの、活力あふれる筆致を味わえる、ということで、ファンの皆様には無条件で楽しんでいただける作品にしあがっているかと。

超王道の海洋冒険小説の登場です。ぜひお楽しみください。

 

なお、本シリーズは上述の通り、結構作品がたまっておりまして(2019年4月現在で未訳作が5作)、翻訳者さんの頑張り次第ではありますが、今後もできる限り、どんどん間をおかずにご紹介していきたいと考えております! 

また、これでカッスラーの既存全シリーズが弊社に集まってきたわけですが(!)、次回は6月頭に出す新刊で、オレゴン・ファイル・シリーズの最新刊『Shadow Tyrants』をお届けする予定で、こちらも現在、鋭意編集作業中でございます。

 

今後とも、扶桑社カッスラー文庫(ええもう、そう呼んでいただいてもいいでしょうとも!!)の怒濤の快進撃に、ぜひご期待ください!(編集Y)

 

 

 

 

 

 

2019年4月 2日 23:43 | | コメント(0)

しばらくご無沙汰しておりました!

 

この間、編集者が何をやっておったかと申しますと、昨年秋から今年の2月いっぱいにかけて、ヨレヨレになりながら国内400万部、全世界で2800万部の大ベストセラー、スペンサー・ジョンソン著『チーズはどこへ消えた?』の続編である、著者の遺作『迷路の外には何がある?』の編集およびパブシリティのお仕事に従事しておりました。

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こういう大型企画の担当を仰せつかりますと、ふだんの仕事ではあまり体験しないようなことが目白押しで、たいへん充実感もある一方で、社内各部署からのプレッシャーもやたら強く、なにかと胃のきりきりするようなことも多いもんでして。理不尽なことで怒られたり、なかなか外部への頼み事がうまくいかなかったり・・・(愚痴)

貴重な体験もさせていただきました!

業界紙の一面(それも全面)記事に顔出しでインタビューを受けさせていただいたり、朝日新聞の書評サイト『好書好日』に前任者Tと「出演」して、あんなことやこんなことをさせられたり・・・ああ恥ずかしい、穴があったら入りたい!・・・てか、もう入ってるよ!みたいな(笑)(→こちら

(朝日さん、インパクトのある紹介記事をご掲載くださり、本当にありがとうございました!)

 

産経新聞、「めざましTV」他、各所でご紹介いただき、お陰様で書店さまにも大変良いところに置いていただけております。売れ行きのほうも、ありがたいことに、絶好調といっていいほどしっかり動いてくれているわけですが、

ぶっちゃけ、結構売れないともとがとれませんので、

ぜひミステリー愛好者の皆様も、畑違いだなんておっしゃらず、手を伸ばして読んでみてくださいね!

いや、考えてみると、迷路の中にひとり残った小人が、「チーズが失われた世界」について考察を繰り広げ、今までの既成観念をうち捨てて新たな概念――「チーズだけが食べ物ではない、りんごも食べ物なのだ」という概念にたどり着き、さらには、大胆な発想の転換を用いて(重要なのは『チーズはどこへ消えた?』ではないんだよ、『チーズはどこから来たか?』なのだよっ!)もういちど謎現象を推理・考察し、ついには、世界観が反転するような衝撃の真実――「迷路の外にも世界がある」――にたどり着く、というのは、

バリバリに本格探偵小説っぽいのかもしれず、

まあまあ脱出・脱獄アドベンチャーっぽいのかもしれない。

うん、なんだか、じつにミステリーっぽい

いや、きっと『迷路の外には何がある?』は、ミステリーなんですよっっ!

そうに違いない。書いてるうちにそう思えてきた・・・。(朦朧)

 

でも、この本、冗談ぬきで、いろんな方にけっこう本気で読んでほしい本だったりします。

お話は寓話仕立てで、今の時代をどう生き抜くかのヒントを教えてくれるもの。

主人公は、ヘムという小人です。

彼は迷路に住んでいます。いままでは、チーズがどこからともなく潤沢に供給されていた。ところがある日を境に、チーズが出現しなくなった。そんな状況下で、ほかの仲間はもうどこかへ新しいチーズを探しにいってしまったのに、ヘムだけは、迷路に残ってチーズを探しています。

「今までのやり方を安易に変えるよりは、成功してきたやり方を踏襲したほうが絶対うまくいく」

「せっかく頑張ってきたのに、今生き方を変えたらそれはこれまでの自分を否定するようなものだ」

「うまくいかない理由はわかっている。それは自分の頑張りが足りないからだ」

でも、相変わらずチーズは見つからない。

ひもじい。どうしよう。

そこから、彼はひとつひとつ、新たに得た仲間「ホープ」とともに「気づき」を重ねて、やがて新しい世界へと旅立っていくのです。

その思考と実践の過程が、会話主体の読みやすい文章で描かれているんですね。

 

この話って、とっても身につまされるんですよ。

出版なんて職業に携わっているとなおさら。本書で扱われている「チーズのでなくなった場所」で仕事をしているのが、まさにわれわれなのですから。

そう、少なくとも、自分は間違いなく「ヘム」です。

本の後半に付されている「ディスカッション」では、ビデオレンタルショップや紙焼きのカメラ会社(コダック)の栄光と衰亡について言及されていますが、紙媒体もまた、デジタル化とSNSの大衆化のなかで、いつ消えてしまってもおかしくない業態なのかもしれません。そんななか、われわれはどうすれば時代に即応していけるのか。どう対応していくのが最適解なのか・・・。

同じ感慨は、取材してくださった新聞社の方も、共有されていましたね。

 

でも、これははたして他人事でしょうか。「あなた」はどうですか?

あなたの日常もまた、日々刻々変化しています。仕事。成績。対人関係。定年退職......。
そこで、今までは機能していたやり方が、いつの間にかうまくいかなくなっていることに気づいたとします。そのとき、
あなたは、新しい変化に向けて一歩を踏み出すことができるでしょうか?
言うのは簡単。しかし、これがなかなかに難しい。

――あなたは、「自分が変われない理由」って、なんだと思いますか?

この本の著者であるスペンサー・ジョンソンは言います。
それは、あなたの持っている「信念」のせいなのだ、と。
あなたが正しいと信じている「信念」が、あなたを縛っている、と。

でも、「信念」って、とっても大切なものじゃないでしょうか。
だって、「信念」は、「成功体験」から導かれ、補強されてきたものに他ならないから。
それがあったから、今までやってこられた。成功したやり方を踏襲することこそ、最も堅実な仕事の仕方/日々の生き方じゃないのか? ちょっとうまくいかないからって、「信念」を簡単に変えて良いものなのか?

じつは、本書は、そんなふうに考える人を切り捨てて、前向きな「変化」ばかりを能天気にゴリ押しする本では、決してありません。
むしろ、
自分の信念に誇りを持って行動してきた人が、それでも、どうしても変わらざるを得ない瞬間が来たときに、そのことにどうやって気づけるか、気づいたときにどう動くべきかを、寓話仕立てでわかりやすく示唆してくれる本なのです。

たいていの場合、こういう啓発書やビジネス書は、「いま変わらなきゃ」「なにか踏み出して状況を打開しなきゃ」と、もともと考えている方が買われるのではないかと思います。
でも、たぶん本書の本当のターゲットはその人たちじゃない。

編集者としては、ぜひ「今のやり方が正しい」「あえて変える必要はない」と考えている人にこそ、本書を読んでほしいんですね。
今までのやり方に誇りと責任をもって、できることならそれをまっとうしたいと考えている人にこそ、読んでほしい。

自分自身、「活字」を愛し、「紙媒体」を愛し、「プロ」としての本作りの価値を信じて、その「信念」となら「心中」してもいいと思って生きてきた編集者だからこそ、そんな世界中の「ヘム」たちに、この本を贈りたい。衷心より、そう思っています。


 そして考えてみてほしいんです。「ミステリー」というジャンルもまたひとつの「迷路」なのではないか? 楽しく、豊穣な、いつまでも続く楽園だと思った場所。でも、気づくと、われわれはチーズの出てこない場所で立ち止まっているのではないか、と。

 

・・・と担当編集者といたしまして、中押しのパブリシティをミステリー通信のほうでも存分にやらせていただいたうえで・・・

部数も大きく、社的な期待も大きく、やりがいも大きい仕事でありましたが、やはりミステリー編集の仕事に戻ってこられると、大いにほっといたします(笑)。うん、たぶんこっちのほうが絶対向いてる!

 

このあとのエントリーからは、3月末発売の2点について、平常運転でご紹介していきたいと思います!(編集Y)

2019年4月 2日 21:32 | | コメント(0)

メリー・クリスマス!!(ちょっと遅い)

 

さて皆様、ドゥエイン・スウィアジンスキーという、いささか長ったらしい名前の作家をご存じでしょうか?

覚えていらっしゃるなら、かなりの通かもしれません。

あの"怪作"の誉れ高い『メアリー-ケイト』『解雇手当』(いずれもハヤカワ・ミステリ文庫)の著者だと申し上げれば、「ああ、あの作家か!」と思い出される方も結構多いのではないでしょうか。

 

今月、弊社文庫にてお届けする『カナリアはさえずる』(上・下、公手成幸訳)は、この著者の10年ぶりの邦訳紹介ということになります。

なんか、思い切ったな、扶桑社(笑)。

われながら、うまく企画を通したぜ!(通らない企画もいっぱいあるんですよ)

 

カナリア上下.jpg

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ミステリーとしてはスウィアジンスキーの現時点での最新作であり、初めてエドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)長編賞にノミネートされた、とびっきりのすぐれもの。

まあ、騙されたと思って、まずは読んでみてください。

もう文句なしに、とにかくめっぽう面白い作品ですから!

 

上巻のあらすじはこんな感じです。

 

フィラデルフィアに住むサリーは、優等生プログラムでセント・ジュード大学に入ったばかりの17歳。

感謝祭前の学内パーティーで、先輩のDに頼まれて彼を車で街まで送ったせいで、彼女は麻薬取引に巻き込まれ、麻薬捜査課の刑事ウィルディに逮捕されてしまう。

刑事が送検しない条件として持ち出してきたのは、学内の秘密情報提供者(CI)として捜査に協力することだった。Dの正体を明かすことを頑なにこばんだサリーは、代わりとなる別の売人を見つけ出すために独自で捜査を開始することに・・・・・・。

 

ここで編集者がとくに声を大にして強調しておきたいこと、それは・・・・・・

本作はべつに(一部に期待されているような)「バカミス」ではない!ということです。

そこはくれぐれも誤解のありませんよう!

ぶっ飛んだミステリーを書いてた作家が、今も変わらずぶっ飛んだミステリーを書いているから紹介したいと思った、ということではなく、

当時の芸風を昇華して、物書きとしてさらなる高みに至っている事実に驚愕したから、ぜひ皆様にも「今の」スウィアジンスキーを読んでほしくて邦訳を出したんだ、そう考えてください。

 

『メアリー-ケイト』と『解雇手当』のあと、スウィアジンスキーがどうしていたかと申しますと、じつは、並行して行っているアメコミの執筆を精力的にこなしながらも、ミステリーのほうもきちんと書き続けていて、なんと2011年に『Expiration Date』でアンソニー賞の最優秀ペーパーバック賞、2012年には『Fun and Games』でシェイマス賞の最優秀ペーパーバック私立探偵小説賞を獲得しているんですね。さらに、本作ではエドガー賞長編賞にみごとノミネート。

そう、スウィアジンスキーは、確実に更生、もとい、成長し続けている作家なのです!

そして、『カナリアはさえずる』は、そんなニュー・スウィアジンスキーの、現時点での代表作なのであります。

 

(アメコミ作家らしい)B級トンデモミステリーの極北を爆走していたころの、設定のキャッチーさとひねりのきいたプロットは、いまもじゅうぶん健在であり、奇抜な敵キャラのキャラづけや、思いも寄らない展開の妙は、むしろ当時より磨きがかかっているともいえます。

大きく変わったのは、人物の描き方。それから、物語の語り口です。

 

本作で描かれるのは、突き詰めれば、サリーというヒロインの成長物語。

17歳の少女の、リアルな葛藤と苦悩、家族への想い、冒険の予感、そして危機のなかでたち現れる「本当の自分」との出会いが、本作ではきわめていきいきと描出されます。

スウィアジンスキーが「日記」を通じて描き出すサリーの姿は、聡明で、活気があって、けなげで、美しく、じつに尊い。

同時に、こだわりが強くて、どこか底知れない闇をかかえ、読者にもなかなかその奥底を見せてくれない、謎めいた女性でもあります。

逮捕、拘束、捜査活動、さらには生命の危機という、ふつうの17歳なら耐えきれないような非日常のクリフハンガーをつうじて、彼女は一足飛びにその能力を開花させ、本人も驚くような成長を示していきます。

 

一方で、もうひとりの主人公ともいえる巨漢の刑事ウィルディにも、抱えている想いがあり、葛藤があり、実現したい「街の正義」があります。

それから、サリーのことを心配する家族がいます。父親はドラッグ・カウンセラーであり、一年前に他界した母親にも、とある過去があります。

そして、悪徳と暴力がはびこる街には、憎めない小悪党たちと、正真正銘ろくでなしの悪漢たちが巣食っています。

冬の凍てつくフィラデルフィアを舞台に、物語はそんな人々の思惑と策謀を飲み込んで、ひたすら加速し続け、思いもかけない終結点に向けて疾駆するのです。

 

とにかく語り口がうまい。先が読めない。言い回しが洒落ている。キャラが立っている。

『少女探偵ナンシー・ドルー』や『三姉妹探偵団』のような、ジュヴナイル系の少女冒険譚に通じるワクワク感があり(女の子が、刑事や売人や殺し屋を大向こうに回して、大活躍するんですから)、

スー・グラフトンやサラ・パレツキーのような、「卑しき街をゆくタフな女騎士」を描く女性私立探偵小説の系譜にも属し(「正義と悪」「街の意志」は本作の大きなテーマのひとつといえます)、

『犬の力』や映画『プッシャー』のような、麻薬に汚染された街の生々しい描写を、日本にいながらにして体感できる、とびきりクールな犯罪小説でもあります。

 

感謝祭前日に始まり、クリスマスに終わりを迎える年の瀬の物語。

ちょうどその時期に、翻訳者さんと二人三脚で過酷な編集作業をなんとかやり遂げ、ドンピシャのタイミングで本書を世に問えたことを、心からうれしく思います。

願わくは、ひとりでも多くの方にこの快作を手にとっていただき、サリーの活躍ぶりを楽しんでいただけますように!(編集Y)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018年12月25日 23:33 | | コメント(2)

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