ジャック・ザ・リッパーは、私のところにいきなり入り込んできて、自分について書くよう強要してきた。彼は一年のあいだ私を人質にとった。書き上げて出て行ってもらわなかったら、奴は私の首を掻き切っていただろう。

―スティーヴン・ハンター

 

 

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5月2日に、スティーヴン・ハンター『我が名は切り裂きジャック』が発売となります。

 

あのボブ・リー・シリーズの巨匠が、硝煙渦巻くスナイプ・アクションの世界を離れ、ヴィクトリア朝ロンドンの歴史の闇へと降臨!
英国犯罪史上最大のミステリー、ジャック・ザ・リッパーの謎に迫ります!


 

あらすじはこんな感じです。

 

1888年8月31日、ロンドンのイースト・エンド、ホワイトチャペル地区。弦月の夜、男は誘い込んだ娼婦の喉を切り裂き、腹をえぐり、はらわたを切り裂いた。
事件の発生を聞きつけた夕刊紙〈スター〉の記者ジェブは、早速現地に向かい、
惨死体を目の当たりにして、他社に先んじてスクープをとる。
その後も凄惨な凶行を次々と重ねてゆく恐るべき殺人鬼。
ジェブは、とあるパーティで知り合った音声学の碩学デア教授に推理面での
協力を得ながら、犯人の正体を暴き出すべく、事件の捜査にのめりこんでゆく......

 

 

え、なんでハンターが切り裂きジャック? と皆さんも思われるかもしれません。
ぶっちゃけ編集者もそう思います。
といいますか、一番こういうとき動揺するのは版元な訳でして、うちで一番の売れ筋で一番部数の刷れる作家さんなのに、第一報を聞いたときはもう青天の霹靂で・・・・え? 先生、新ジャンルにチャレンジしちゃうんだ・・・みたいな・・・(笑)

しかもうちではシェリー・ディクスン・カーの書いた切り裂きジャックものの『ザ・リッパー』(上・下)を、その当時もう権利をとって進めておりまして、ネタがおもいっきり被ってしまったという・・・。どれだけ外人さん、切り裂きジャックのこと好きなんだ、と。

 

ところがですね・・・いざ読みだしてみたら、これがすごく面白いんですよ!

 

内容としては、直球の切り裂きジャックもの。ただし、パトリシア・コーンウェルみたいな研究書ではなく、純然たるフィクションです。

よって、コーンウェルみたいに私財を7億ドルも投じてはいないと思いますが、それでも巻末に膨大な参考文献が付されているとこからもわかるとおり、ハンター自身が長い時間をかけてジャック・ザ・リッパー研究を深めたうえで書きあげた大労作です。(本人は、研究サイトに長大な関連論文を小説とは別途に発表しています)


構成としては、1888年8月31日のホワイトチャペルでの最初の凶行から、事件を追って話が展開し、事件の顛末を描写する切り裂きジャック本人の日記と、それを追う「スター」紙の新進気鋭の記者ジェブの回想録が交互に掲載され、そこに娼婦のひとりが遺した手紙がときどき挿入される、という感じで書かれています。
当時の関係者の書簡で構成するというナラティブからして雰囲気はバツグンなわけで、この素材にぴったりのつくりになっているといえます。

 

まず読みだして感じるのは、描写が徹頭徹尾、細かい。
最初の殺人の描写からして、シェフィールド・スチールのナイフでお腹のどのへんをさしてどんだけ右に切り裂いたらどんな臓器が見えてきてどれくらい力をいれたら筋肉がぶつんと切れて、そこからどの角度でナイフを押し込んで・・・と、とにかくねちっこい。
実はこれ、ハンターがふだん書いているアクションで、銃器に関して記述しているときの書きっぷりそのまんまなんですね。


それから、歴史的事実とフィクションを混ぜる力加減が本当に絶妙です。
この本、たぶん8割がたは、実際に起きた切り裂きジャック事件の内容にそって展開するんですが、そこにハンターならではの仕掛けがあるんですね。
これって、まさにおとどし出した『第三の銃弾』で、ケネディ暗殺事件と自作の『極大射程』をつなげてみせた力技そのまんまで、やっぱりそういうのがハンターはすこぶるうまい。思えばあのあたりから、過去の歴史にのめりこむ危ない傾向が見えてきてたんですけど(笑)、その後、ソビエトの赤軍に実在した女スナイパーを追ってゆく『スナイパーの誇り』を経て、ついにハンターの興味は19世紀まで遡行してしまったというわけです。


加えて特に強調しておきたいのは、本作が最後まで読むと、びっくりするほどちゃんと「ミステリーしてる」という点。
あまり詳しくはいえないんですが、結構明後日の方向からびしっと決まるネタが仕込んであったりして、最終章に入る前の段階で、「おお!そうきたか」って膝を打たれる方も多いのではないでしょうか。

ハンターという作家は、昔からアクション書きとはいいつつもミステリ・マインドにすぐれた人でして、一対一の銃撃戦だと思ってたら実は巴戦だったりとか、思いがけない伏せ札のネタがラストバトルにひめられてたりとか、決してただのドンパチ一辺倒の書き手ではありません。そのへんの魅力を、今回の小説では存分に味わっていただけると思います。


とにかく、「なんでハンターが切り裂きジャックを??」と思われた人にこそ、ぜひ本作を読んでいただきたい。
なぜなら、最後まで読めばこれが、ハンターにしか書けなかった、ハンターだからこそ書けた作品だということがわかっていただけるでしょうから。


本書は結局のところ、切り裂きジャックにとっての「狩りのとき」、追い詰める新聞記者にとっての「狩りのとき」を描いた小説――「屠る」ことを本能とするものどうし、「狩るもの」と「狩られるもの」の命を懸けたつばぜり合いを描いた小説なんですね。
それはまさにハンターという作家の本質。
だから、面白くないわけがない。

 

本当は、本作の構造だったり、テーマだったり、ハンターが本当にやりたかったことについては、いろいろポイントと思われる部分もたくさんあるのですが、残念ながら、どううまく書こうとしてもネタを割りかねないので、またの機会ということにさせていただきたいと思います。

一言だけ言っておくと、本作は突き詰めれば、スワガー・サーガと同根の「ヒーローとは何か」というテーマに帰着する類の物語なのだと思います。ニーチェに関する言及なども含めて、そのあたりに留意しながら読んでいただけると面白いかもしれません。

 

5月2日発売(都心部やネットでは4月29日には発売されているかと)。騙されたと思って、ぜひお手にとってお読みいただけると幸いです!!(編集Y)

(なお気の早い話ですが、本年本国で発売予定の次回作はボブ・リー・スワガーものだそうです!)

 

2016年4月28日 22:44 | | コメント(0) | トラックバック(0)

今さらではございますが、上司のTにつくってもらったまま、ブログのアップを完全に失念しておりました・・・。本当に申し訳ありません・・・。

デイル・ブラウン『極秘破壊作戦 ブラック・スタリオン出動』(上・下)。ハイテク軍事サスペンスの金字塔、マクラナハン・シリーズの最新紹介作です。

 

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 『秘密攻撃部隊』に続く、闘将マクラナハン・シリーズ、最新刊!


マクラナハンは、進化をつづけるハイテク宇宙兵器と仲間とともに、ロシアの野望に立ち向ってゆく! 待望の怒濤の軍事サスペンス!

 

マクラナハン空軍中将は、いま、米軍で最大の極秘航空研究施設――宇宙兵器センターの所長として、軍事計画の指揮を執っていた。
ある日、宇宙機ブラック・スタリオンが内乱のつづくイランを偵察中にテロ兵器を発見。マクラナハンが破壊作戦を指示し、実施されると、イラン市民が巻きこまれる事態に......。さらにこの"失態"を聞きつけた露大統領が狡猾に米大統領を操りはじめ、米国の政治、イランの混乱、そして露国の思惑が一気に交錯し始める。
海軍将校出身で空母打撃群を拡充したい米大統領との確執が深まるなか、マクラナハンは、露国がイランに強力な移動式対宇宙機レーザーを持ち込んでいたことを探知する。露国の策謀を阻止すべく、攻撃指令を出すと、露大統領に誘導された米大統領から中止命令がくだされてしまう。
またもや窮地に陥ったマクラナハンだったが、軍人としての信念のもと、ブラック・スタリオンや無人爆撃機、有人ロボットCID等の最新鋭ハイテク兵器を駆使して、露国反撃への決断を下す・・・・。

 

なお、次作『Rouge Forces』も版権を獲得し、翻訳者の伏見さんに鋭意、翻訳作業を進めていただいております。

「現実がデイル・ブラウンの先見の明に追いつきつつある現在、このシリーズはよりいっそうおもしろく読めるようになった」とは伏見さんの弁。

今年中にはお届け出来るかと思いますので、お楽しみに!(編集Y)

2016年4月19日 19:49 | | コメント(0) | トラックバック(0)

きのう「クリムゾン・ピーク」の初日に、さっそく自腹で身銭切って観に行ってまいりました編集Yです(パンフも買ったよ)。

映画やっぱり面白かったですね。

本作ですが、弊社より、ノベライズが先月中旬より発売中です!!

編集担当は上司のTですが、私めがかわって宣伝をば。

 

ヒロイン、イーディス役に、ティム・バートンの「アリス・イン・ワンダーランド」アリス役で一躍人気者となったミア・ワシコウスカ。シャープ準男爵役に、今をときめく英国男子トム・ヒドルストン。そのお姉さんルシール役でジェシカ・チャスティンが出演しています。

ギレルモ・デル・トロ監督が自身、「本作の絵画のような美しさは、まさにこれまで私が制作した中で最もお気に入りの作品の一つとする理由である」と述べているように、圧倒的な映像美――舞台背景や衣装のビジュアル・イメージの只事ならぬ豊穣さがいちばんの売りとなる作品だというのは、確かにそうでしょう。

ただ、本作を映画館で楽しまれた方は、ぜひとも小説版(ノベライズ)の方にもお手を伸ばしていただきたく。

なにせ、本作「クリムゾン・ピーク」は、「小説」という形態と大変に相性がよろしいのです。

しかも実際に、すぐれた現役ホラー作家を著者として採用し、単独のゴシック小説として十分楽しめるくらい力の入った一冊に仕上がっているのですよ。

 

その辺をぜひここで力説しておきたい(笑)。なのでしばらくお付き合いください。

 

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あらすじはこんな感じです。

 

1901年、米国バッファロー。作家を目指す24歳のイーディスは、英国紳士トーマス・シャープ卿と出会い、恋に落ちる。結婚に反対する父カーターは密かに探偵を雇ってトーマスと姉ルシールの身元を照会するが、非業の死を遂げる。晴れてトーマスと結ばれ、英国カンバーランドの彼の屋敷で新婚生活を始めるイーディス。しかし、朽ちかけた館では奇怪な現象が立て続けに起き・・・

 

ギレルモ・デル・トロという人は、突き詰めていくと、まさにファン・クリエイターの鑑のような人物なわけですね。「パシフィック・リム」の"ロボット物"や、「ヘルボーイ」の"アメコミ"、「パンズ・ラビリンス」の"ダーク・ファンタジー"など、扱う素材は違えど、いずれもジャンルへの深い造詣と限りない愛情を土台として、実に勘所と要点をとらえた、かゆいところに手のとどく「王道のジャンル作品」を生み出してきた監督といえます。

 

今回、彼が取り組んだのは「ゴシック・ロマンス」というジャンル。

 

このブログに目を通されるような小説読みの皆様には自明のことかとも思いますが、18世紀のホレス・ウォルポールの『オトランド城奇譚』(1764年)に始まり、19世紀に大流行した怪奇幻想小説のジャンルであり、荒涼館を舞台に怪奇現象含みの陰惨な事件やら恋愛やらが展開するのをひとつの定型とします。

ギレルモ・デル・トロは、インタビューで、ジョセフ・シェリダン・レ・ファニュ『吸血鬼カーミラ』(1872年)の名前を出しつつ、霊感源としてエミリー・ブロンテ『嵐が丘』(1847年)、シャーロット・ブロンテ『ジェーン・エア』(1847年)をあげています。

さらにギレルモ監督は俳優・女優陣に課題図書としていろいろ本を貸し出していて、ミア・ワシコウスカはメアリー・シェリー『フランケンシュタイン』(1818年)(ついでに『エイジ・オブ・イノセンス』と『ねじの回転』も)を読み、トム・ヒドルストンは、アン・ラドクリフ『ユードルフォの秘密』(1794年)を読んだそうです。トムはインタビューでダフネ・デュ・モーリア『レベッカ』(1938年)の書名も出しています。

 

表面上は、「スリーピー・ホロウ」や「ウーマン・イン・ブラック―亡霊の館」「アウェイクニング」といった近年のゴシック・ホラーの系譜に属する映画にも見えますが、実際はもっと「小説」寄り、しかも意図的にその「小説ジャンルの王道」を復古的に映画化することを目指すというアプローチなんですね。その辺は、ビブリオマニアでもあり、作家として『ストレイン』シリーズをも大ヒットさせているギレルモらしいスタンスであり、実際、彼はインタビューで何度も「豪勢な古典的ゴシック・ロマンスを作りたい」という意図を語っています。

ヒロインのイーディス自身、ブロンテ姉妹やメアリー・シェリーを想起させるような作家志望の女性ですし、物語の中心には常に「本」が存在しています。イーディスは全編を通じてゴシック・ロマンスの原稿を書き続けていて、それが物語全体と呼応し、かつイーディスとシャープ準男爵を結ぶ「絆」として機能しています。お屋敷には巨大な図書室が登場するのですが、義姉のルシールはここでイーディスに「小口絵」の描かれた稀覯書を見せてくれます(意外な仕掛けをお楽しみに。なお、その隠された真意は、パンフの滝本誠さんの解説をご参照のこと)。その他、序盤ではコナン・ドイルに関する言及がありますし、終盤ではとある筆記具がフィーチャーされます。さらにはエンド・クレジットの後にまで・・・そう、この映画は、なにより「ゴシック・ロマンス小説についての映画」であり、きわめて意識的な「ビブリオ・ミステリ」でもあるのです。

 

すなわち。

これは、本読みにとってはぜひとも観ておかねばならない映画。

逆に言えば、書籍の形態に「戻す」ことに、とても意味のある映画。

本作ノベライズは、「ゴシック・ロマンス小説の映画化を目指した映画の小説化」というツイストの利いた企画というわけです。

 

その作家として白羽の矢が立ったのが、ナンシー・ホルダー(ナンシー・ホールダーの表記も)。

この人、アメリカで最も権威あるホラーの年間賞であるブラム・ストーカー賞を5度も受賞していて、現在は米国ホラー作家協会の副会長を務めている大作家さんなんですね。

まず、1992年「Lady Madonna」、1993年「人魚の声が聞こえる」(祥伝社『囁く血』所収)、1994年「Cafe Endless: Spring Rain」でそれぞれ最優秀短編賞、1995年『Dead in the Water』で最優秀長編賞を受賞)。この時期に書かれた『メイキング・ラブ』と『ウィッチライト』(いずれもメラニー・テムとの共著)は東京創元社さんから邦訳も出ています。ちなみに、弊社発売の短編集『ノストラダムス秘録』の中にも「禁じられた艦隊の最期」という短編が収録されています。

その後、ナンシーは『バフィー 恋する十字架』をはじめとするドラマ・ノベライズを積極的に手掛けるようになります。2011年には『The Screaming Season』で5度めのブラム・ストーカー賞(最優秀ヤング・アダルト)を受賞。手がけている作品には他にもゴシック系の作品やロマンス小説が多数あります。

筆力とジャンル理解、そしてノベライゼーション能力と、小説版『クリムゾン・ピーク』の書き手として、まさに三拍子そろった作家さんなのです。

 

実際、読んでみていただければ、すぐわかります。

これは、そんじょそこらの映画ノベライズなんかじゃない。

ちゃんとした、どこに出しても恥ずかしくない立派な「ゴシック・ロマンス小説」です。

なにせ、本気度が全然違いますから。

映画とセットで生み出された、もうひとつの『クリムゾン・ピーク』と言ってもいい。

内容的にも、情報量が映画の倍増しくらいにはなっており、各シーンでのキャラクターの心情が事細かに描きこまれていて、映画だけ観ていてもわからない部分がしっかり拾えるようになっています。

特にヒロインの心情に関しては、前半戦のシャープに惹かれていく過程や、後半の揺れる心など、驚くほど丹念に描写されています。

また、シャープ姉弟の幼少期に関しては、かなりの追加記述があり、ギレルモ監督からじっくり裏設定などを取材したうえで、入念な資料の読み込みのもと執筆されていることが伺われます。

細部では、小説版ならではの変更箇所も多々あるのですが、いずれも小説家らしいリファインになっていて、得心が行くものばかりです。謎の視点から描かれるパラグラフが挿入される仕掛けもなかなかに面白い。何より、文章が達者で小説としての密度が高い。

映画の面白さを100%味わうためにも、ぜひあわせてご一読いただきたい一冊です。

(それと、怖い映画がからきしダメな人も、小説でなら「クリムゾン・ピーク」の世界を楽しめますよ!)

 

あと、実際に映画館で観ての感想としては・・・アルジェント者なら、この映画は観ないとね

全体としては、たとえばヒッチコックの「レベッカ」だったり、フリッツ・ラングの「扉の蔭の秘密」みたいな往年のゴシック・スリラーを意識したカメラワークや音楽選択が支配的なんですが、怖がらせる要所要所の色彩設定や小道具、ショック演出の嗜好・傾向が実にダリオ・アルジェントくさい(笑)。黒手袋とかオートマタとかエレベータとかシンメトリカルな廊下とか壁の子どもの絵とか昆虫とか・・・最初に起きる殺人シーンなんて、きっとアルジェント・フリークが観たら大歓喜だと思うなあ。

もともと初期作においては、アルジェント的な美学を継承するホラーの撮り手だったギレルモ・デル・トロ。そんな彼が、久しぶりにホームグラウンドに帰って、愛するゴシック・ロマンスの世界を映像化する過程で、「好きなホラー」のテイストをも、今まで以上に衒いなく注ぎ込んできたってことなんでしょう。

当のアルジェントがさすがに昔日の輝きを喪ってしまった今日、こういう趣味性の強いアート・ホラーの極みみたいな映画を楽しげに出されると、もうこちとらこたえられませんね・・・ご飯何杯でもいけちゃいます。

 

というわけで、公開が始まりました「クリムゾン・ピーク」。

まずは映画を観て、

それから弊社ノベライズでじっくり細部と裏設定を復習して、

あわせてアートブック『ギレルモ・デル・トロ クリムゾン・ピーク アート・オブ・ダークネス(他社さんですが、これがもう、ものすごい出来の本でして! あ、そういやアルジェント研究本のタイトルも『ART OF DARKNESS』だったなw)も買って、鬼才ギレルモ・デル・トロの世界を存分にご堪能いただければ幸いです。(編集Y)

 

 

 

 

2016年1月 8日 23:31 | | コメント(1) | トラックバック(0)

あのロリンズのデビュー作です。
〈シグマフォース〉シリーズや小社刊の『アイス・ハント』『アマゾニア』でお馴染み、いまや巨匠の風格も漂うジェームズ・ロリンズ。
その(実質的な)デビュー作が本書『地底世界 サブテラニアン』(原題:Subterranean、1999)です。

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『地底世界 サブテラニアン』(上)
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『地底世界 サブテラニアン』(下) 
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いきなり「お馴染み」だとか、「巨匠」だとか、「風格漂う」だととか、いかにも空っぽな言い草ではありますけど、実際本書もまたロリンズイズムの完璧なショーケースであることに間違いないのであって(まあ、遡って読めばそう確認できるということです)、これらの言葉がほのめかすであろう作家のオリジナリティとそのクオリティ・コントロールはデビュー作にして驚くべき水準にあります。

つまり、抜群に面白い!

南極の地底に巨大な洞窟網が発見されて、そこでありえない時代のありえない人工物が見つかる......心躍る未知の領域への冒険、背筋も凍る奇態な生物との遭遇、生物史の別解を示唆する突飛な科学的イマジネーション、ハイスピードな物語......。

じつにロリンズしてます。

そして本書の特徴のひとつは、ある民族の伝承を物語の要に組み込むその手つきです。
編集者としては、ここには「サイエンススリラー」作家として成熟した現在のロリンズにはない、「非サイエンス」的なゆるやかさ(「ゆるさ」ではなく)があって、それが逆説的に作品にスリルを与えているような気がしています。

......詳しくはもちろん読んでのお楽しみです。

〈あらすじ〉
一人息子と2人で暮らす考古学者アシュリーのもとに、ブレイクリーなる科学者が訪ねてくる。政府中枢が主導する極秘調査にリーダーとして参加してほしいという。目的を知らされぬまま、報酬に魅力を感じたアシュリーは参加を決意。同じくチームに招集された洞窟探検の専門家ベンジャミンらと調査地である南極へ向かう。途中、アシュリーらは驚くべき事実を知らされる。南極のエレバス山の地下に巨大な洞窟網が走り、その中で人類史を大きく揺るがす遺物が発見されたというのだ。それは......。

2015年12月28日 01:51 | | コメント(0) | トラックバック(0)

今月のもう一冊は、ゴード・ロロ『ジグソーマン』

著者の初紹介作。そして・・・

風間賢二先生から、王道パルプ・ホラーの最先端を行く逸品!

のお言葉をいただきました!!

 

最初に言っておきます。

この本、かなりどうかしてます(褒め言葉)。

 

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前任者のT が一度検討してレジュメにもして好評価をつけつつ、

キワモノすぎると思ったのか、異動にまぎれていったんお蔵入り、

前上司のMがそれを発掘してきて「絶対これは出したい」と口走り、

私めもレジュメにめったにつけない特A評価をつけ、

今の上司のTなど、あらすじ段階では鼻でせせら笑ってたのが

自宅でゲラを読んで「これ傑作だよ!!」と会社にメールしてきたという・・・

 

歴代扶桑社ミステリー担当者総意のもと、絶対の自信をもってオススメする

ぶっとび系ノンストップ人体解体ホラー、それが『ジグソーマン』!!

 

ホラーとしては、本気で怖い小説です。そこは保証します。

グロ満載。痛いの満載。とにかくヒドいことが際限なく起こり続けます。

もしかすると怒る人もいるかもしれません。それは中身があんまりだからです。

とはいえ、わざわざ読んでいただけるような人ならきっと、著者の狙いと意図をしっかり受け止めて、おおいに笑ってくださるのではないかと。

168頁とかもうね、すごいよね。お腹痛い。

でも、そのうちにですね、泣けてくるんですよ。不思議ですね。

主人公のマイケルがせつなくて。クローネンバーグばりに哀しみ色のお話で。達成される正義がただただ尊くて。

ビビって怒って笑って泣いて・・・。

しかも、徹頭徹尾ばかばかしい(笑)。

すごい小説じゃないですか。

 

あらすじは、こんな感じです。

マイケルは交通事故で妻と息子を亡くして以来、酒におぼれ職を失い、すさんだ路上生活を送っていた。

そんな人生に幕を引くべく線路脇に佇んでいた彼の前に、白塗りのリムジンがとまる。

現れた男が持ちかけてきた話は驚くべきものだった。「右腕を200万ドルで売らないか?」

再生医療の権威マーシャル博士が縫合実験用の四肢を求めているというのだ。

巨額の誘いに目がくらみ研究所に赴いたマイケルを待ち受ける未曾有の恐怖とは。

 

これでだいたい100頁くらいなのですが、このあと起こる展開を簡単に予測できる人はそんなにいないでしょう。まあ、次の要素がでてきたらでてきたで結果的には既視感いっぱいの内容ではあるんですが、その「接ぎ方」がかなり素っ頓狂で斜め上を行くので、読者を飽きさせない、いい感じに引きずり回すんですね。

本質的には鬼のように潔いジャンル・ホラー小説なので、いろんな作品との類似性、影響関係を考えるのも楽しかろうかと思います。ざっくり自分の既読/既見お気に入りメモリーを探索するだけでも

『SAW』『ホステル』『ドクターギグルス』『ムカデ人間』『フランケンシュタイン』『ゾンバイオ』『ドウエル教授の首』『胸像たちの晩餐』『七階』・・・あたりが中盤までの展開だと脳裡をよぎります。

あるいは、一見オーソドックスなホラー寄りのつくりなので気づきにくいかもしれませんが、「人体破壊」が本格的に始まって以降の激しくデタッチャブル(着脱可能)で即物的な身体・組織のパーツ感というのは、実のところサイバーパンクにもとても親和性がある話ではないかと。

また、施設でのひたすらオフビートで投げやりなやりとりとツッコミ待ちの展開は、むしろファレリー兄弟やらアレックス・デ・ラ・イグレシアやら辺りの、少しトンガッた変態コメディに通じるところもあります。

 

さらに、そこから先の展開に関してはネタバレになるので、あまり積極的には触れませんが、本作には、とある「ジャンル」を強く意識した後半戦が用意されています。サム・ライミの某初期作みたいな。

悪によって汚され、魔改造され、陵辱しつくされたゆえに、彼はその「権利」を得るんですね。

いやおそらくなら、それがやりたいからこその、この「ジグソーマン」ってタイトルなわけですよ、きっと。

 

もちろん、欠点がないのかと言われると、なにかと隙の多い小説(なにせパルプホラーですから)ですし、とくに終盤ゆるめな点はいなめません。

最大の問題は、もともと地をはうような生活ぶりでもうすぐ自殺しようかという人間がどんだけヒドい目に会おうと、あんまり可哀想に思えないという構造的矛盾でしょうが、ゴード・ロロのなかではそこはホームレスじゃないとこの話の理念にも即物性にもフィットしないという判断だったのでしょう。

 

結局のところ、このお話は『ジェイコブス・ラダー』や『時計じかけのオレンジ』と同じく、「地獄めぐりの物語」――地獄めぐりによって浄化され、再生することで、尊厳を取り戻す物語なのですから・・・。

 

とまあ、ここまでの紹介を読んで、これは大丈夫そうだと思うなら、是非読んでみてください。

絶対に、損はさせません。

一方で、ダメな人はたぶんホントにダメだと思うので、その場合は是非、隣に積んである『奪還』のほうをご購入ください(笑)。

 

なお、新宿紀伊國屋本店さんにおかれましては、大々的なディスプレイを展開していただき本当にありがとうございます。この場を借りて心からの感謝の意を表させていただきます。

この手の作品に理解者、同志の方がいてくださるのは心強いことです。Twitterでも絶賛の声をあげてくださっている方が結構いらっしゃって、本当に編集者冥利につきます。

 

ぜひ、この動きが『隣の家の少女』ばりの大きな流れになってくれると嬉しく思います。

ぜひよろしくお願いいたします!(編集Y)

 

2015年12月19日 18:06 | | コメント(0) | トラックバック(0)

1月刊ゲラにかかりきりで、あまりにブログ更新ができないでいたら、大学時代の友人から安否確認のメールがきた編集Yです。まだゲラは読み終わっていませんが(すいません、すいません)、さすがにもう発売して半月になりますので、今月頭に発売いたしました新刊の紹介をばやりませんと。

どちらも(多少B級かもしれませんが)結構な掘り出し物だと自負しておりますし、

今年出した本のなかでも、かなり思い入れのある作品でございます。

 

まずはM・A・ロースン『女麻薬捜査官ケイ・ハミルトン 奪還』

マイク・ロースンの筆名でも知られる作家さんの初紹介作です。

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かつて翻訳ミステリー大賞シンジケートの「え、こんな作品が未訳なの?」のコーナーで高橋知子さんが紹介されていた作家さん(この記事)ですが、この時点でたしかうちはもう本作を獲得していたんですね。

 原書がまわってきた時点で、近年珍しいくらいの「まっとうな」女性主人公のエンタメ系アクション・スリラーだなあと早速オファーを決めたのですが、実際訳文があがって読んでみると、これがホントに面白い!!

 

ケイ・ハミルトン。32歳。

仕事は超優秀。セクシーなブロンド美女。筋金入りのタフな捜査官。

だけど、とにかく人望がない(笑)。

マイアミでの潜入捜査で大きな成果を上げてサンディエゴに来たのですが、やたらと部下には厳しい、上司には食って掛かる、やりたい放題で、独断行動が多いエゴイスト。

実際、読んでいると、作家は「実はいい人だけど不器用なヒロイン」としてではなく、「ガチでちょっといやな女」として描く気まんまんです。本国のAmazon レヴューでも、「話はすごく面白かったが、ヒロインが気に食わない」という意見もちらほら。

 

でも、編集者は実に気に入りました。いや、マジで小気味良くて魅力的じゃないすか。

 

ホントに自分とこの編集長がこんなだったら毎日やけ酒ですけど、小説の主人公としては、抜群にいけてる。さくっとしてて、とにかくかっこいい。

また、彼女の自他ともに厳しい「嫌われる」性格は、マイアミでの彼女のスキャンダルまじりの「武勲」ともよく呼応しています。ああ、こういう人だから平気であんな作戦に身を投じられたんだな、と。

ケイのキャラクター造型の根本には、女性としては珍しいくらいの身体性や関係性に頓着しないドライさ――怪我をしようが身体を汚されようが対人関係がギスギスしようが、すべてどこかどうでもいいかのような「捨て鉢さ」があります(それは彼女の過去のいくつかの決断とももちろん呼応します)。

一方で彼女は、人を狩ることに悦びを得、命の危機を前に子どものように興奮を隠さない無邪気さをも備えています。そういったものが、あくまで平然と、なにげなく描写されているのがミソでして、死と隣りあわせの現場における捜査官としての彼女を輝かせるのです。

後半の思いがけない展開も、彼女をこういった「軽くひとでなし」に設定したからこそ、そのぶん生きてくるわけですね。

もう彼女を読むだけでも、十分楽しい。

でもそれに加えてストーリーも読ませます。

麻薬捜査官とカルテルの戦いといえば、皆様ドン・ウィンズロウの『犬の力』を想起される方も多いでしょうが、本書はそこまで重苦しいものではありません(結構な数の人は死にますが、そこのリアリティが売りの小説ではありません)。二転三転するプロットと、息を呑む展開の妙、虚々実々の駆け引き、次々と繰り出される奇策と007ばりの秘密兵器(笑)を楽しむ、王道のエンターテインメントであり、ヒロインの魅力を堪能するど真ん中の女捜査官物です

 

冒頭から、ヒロインである麻薬捜査官ケイ・ハミルトンが組織のボスの情婦相手に小芝居を売って、捜査協力者に仕立てあげる犯罪スレスレの捜査過程が軽やかに描かれます。

このボスのティトというのはメキシコの麻薬王の弟で、サンディエゴに居を構えてアメリカでの麻薬売買をとりしきっている人物。ケイは協力者の情報を得て、彼を捕まえる最適の場をしつらえます。彼が取引先の売人を会合の場で殺そうとしていることを知って、そこに張り込んで「偶然殺人の現場に居合わせた」体で一生牢獄に放り込んでしまおうというわけです(かなりろくでもない作戦ですねw)。

作戦は見事に成功し、彼女はティトの身柄を確保することに成功しますが、敵もだまっていません。

兄貴のシーザーの手下たちが、勾留施設から裁判所への罪状認否のための移動に合わせ、さっそく強襲をかけてきます。ダミー作戦が功を奏してティト奪還はなんとか阻止することに成功しますが、連邦保安官サイドにも大きな被害が出て・・・

このへんの息詰まるようなアクション描写は、さすが手練れのベテラン作家。ぐいぐい読ませます。

 

麻薬カルテルと麻薬局および各種組織との壮絶なかけひきはその後も続く一方で、ケイの私生活には思いがけない変化が訪れ・・・

後半、新たな登場人物が盤上にあがり、それまでのパワーバランスが崩れて、物語は新たな展開を迎えます。攻守が逆転するなか、ケイはどう判断し、なんのために戦うのか。

 

シビアな描写も交えつつ、基本は楽しく爽快な娯楽小説です。

気の早い話ですが、本作がそれなりに売れれば続編をご紹介する道も開けてまいりますので・・・

ぜひご購入のうえ、ご一読を!(編集Y)  

2015年12月19日 15:57 | | コメント(0) | トラックバック(0)

ホームズ・パスティーシュの新作コレクションの2巻目をお届けします。

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ドイルの同時代人、E・W・ホーナングが生んだ紳士泥棒A・J・ラッフルズとの知恵比べ、地下鉄の工事現場に夜な夜な現れるミイラ男の怪。ホームズがタバコ入れとしている"ペルシャ製スリッパー"の謎が明かされ、あのSF作家H・G・ウェルズが登場する。そこはなんと、"「宇宙戦争」後"の世界なのだ!
エリック・ブラウン、リチャード・ディニック、マーク・ライトら、俊英が妄想力と遊び心を詰め込んだ奇想天外な8編。お楽しみください。

1巻目につづき、北原尚彦氏による解説も、本編の短編群に負けず劣らずの力作です。

〈収録作品〉
「閉ざされた客室」スチュアート・ダグラス
「火星人大使の悲劇」エリック・ブラウン
「地下鉄のミイラ男」リチャード・ディニック
「ペニーロイヤルミント協会」ケリー・ヘイル
「ペルシャのスリッパー」スティーヴ・ロックリー
「泥棒のもの」マーク・ライト
「ハドソン夫人は大忙し」デイヴィッド・バーネット
「堕ちた銀行家の謎」ジェームズ・ラヴグローヴ

2015年11月 5日 20:40 | | コメント(0) | トラックバック(0)

ソフトバンクさんのほうから刊行されていた、冒険小説の巨匠クライブ・カッスラーの2シリーズを引き継ぎました扶桑社です。お金がなくて、こういうところぐらいでしか宣伝できないので、皆様にちゃんと情報が行き渡っているものか、少々不安ではありますが・・・。

さて。

7月頭にオレゴン・シリーズの最新刊『謀略のステルス艇を追撃せよ!』(上・下)をお届けしたばかりですが、引き続きまして、今度はファーゴ夫妻シリーズの最新刊『マヤの古代都市を探せ!』(上・下)をお届けいたします。

 

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オレゴン・シリーズが、新潮さんのダーク・ピットものと同系列の海洋冒険小説であるのに対し、こちらのファーゴ夫妻シリーズは、夫婦物のトレジャー・ハンターが歴史の謎を解いて秘宝をものにしていくスリリングな冒険活劇となっています。

旦那は天才エンジニアにして元特殊部隊隊員、ついでに大富豪。

奥さんも歴史学と人類学の修士号を持ち銃とフェンシングとロッククライミングの名手。

このちょっとうざいくらい有能なカップルが、全世界をまたにかけ、胸のすくような大活躍を見せる、超娯楽作がファーゴ・シリーズ。

まさに、「インディ・ジョーンズ」と「Aチーム」と「探偵ハート&ハート」をまとめ読みしているような圧倒的な読書体験。

脳内物質ドバドバ分泌系の傑作エンターテインメント・シリーズなのであります。

 

さて今回の舞台は中南米。マヤの秘宝に二人が迫っていきます。

メキシコでサメ研究の手伝いをしていたファーゴ夫妻(『ジョーズ』に出てくるような檻にはいって遊んでます)が、グアテマラで大地震が起きたと知り、さっそく救援活動にかけつけるところから、お話が始まります。

高地の村が孤立していると聞いて、すぐさまボランティアの救援隊を結成して現地に向かった夫妻は、地震で崩れた山の斜面から人工的な構造物(古代神殿)が露出しているのを発見。なかからミイラ化した人間の遺骨が見つかります。このミイラが抱えていたかめの中から発見された絵文書こそが、このあと物語を動かしていくことになります。

膨大な知識を秘めた文書に記された、知られざる古代遺跡の数々。

そのありかの探索をめぐって、謎の女研究者との虚々実々の攻防が展開、さらには、遺跡付近に存在する巨大な麻薬栽培プランテーションと旧住民の対立など、中盤からは宝探しプラスアルファの圧倒的なアクション&バトルが展開(民間人がここまでやっちゃっていいのかしら)。

善対悪の風通しのよい組み立てに、胸のすくような展開。実にカッスラーらしい、息つく間もないオモシロ本となっています。

 

このあとも、アイザック・ベル・シリーズも含め、カッスラーの冒険小説を、弊社ミステリー文庫にてどしどしご紹介してまいりたいと考えておりますので、ぜひご期待ください!(編集Y)

2015年9月29日 21:15 | | コメント(2) | トラックバック(0)

ホームズ・パスティーシュの新しい一冊、『シャーロック・ホームズとヴィクトリア朝の怪人たち1』を紹介します。


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本書は、小説家ジョージ・マンが編んだホームズ物の新作パスティーシュ・コレクションです。原著の発売は2013年。原著は一巻本ですが、邦訳では上下分冊での紹介となります。
解説はホームズ研究の第一人者、北原尚彦氏です。

内容については、編者の序文を引くことにしましょう。

十四本のシャーロック・ホームズの新しい物語を、ここに集めた。作品のなかで彼は、ロンドンの暗い横丁にひそむ不気味なパッチワークの男に出くわす。紛失した原稿を探す故サー・リチャード・フランシス・バートンにも遭遇する。義賊のA・J・ラッフルズとじかに対決する。ネクロポリス・エクスプレスの不気味な謎に挑む。異様な状況下で、作家H・G・ウェルズとも会う。密閉状態の鉄道車両のなかで起きた殺人事件にも挑む。さらに、有名なペルシア製スリッパとのきっかけなどについても語っていく。裏でこっそり手を貸している、消えることのないホームズの大きな影響を感じながらも、ワトソンやハドソン夫人が自分たちの冒険を楽しむ話もある」

お楽しみください!

・第1巻収録作品
「失われた第二十一章」マーク・ホダー
「シャーロック・ホームズと品の悪い未亡人」マグス・L・ハリデイ
「セヴン・シスターズの切り裂き魔」カヴァン・スコット
「シャーロック・ホームズ対フランケンシュタインの怪物」ニック・カイム
「クリスマス・ホテルのハドソン夫人」ポール・マグルス
「地を這う巨大生物事件」ジョージ・マン

2015年8月31日 17:20 | | コメント(0) | トラックバック(0)

刊行告知の記事にて予告しながら、こんな月末ぎりぎりになってしまいましたが(これでも毎月文庫三冊つくってるので許してください・・・)、『ザ・リッパー 切り裂きジャックの秘密』の著者シェリー・ディクスン・カーについて、簡単にご紹介しておきたいと思います。

 

本格ミステリの大巨匠ディクスン・カーの孫娘シェリー・ディクスン・カー。10歳のとき、おじいちゃんの書いた『爬虫類館の殺人』を読んで夢中になり、ミステリ作家を志したといいます。

本名はミシェル・メアリー・キャロル。キャロルは旦那さんの姓ですが、旧姓もマクニーヴン(お母さんがカーの長女ジュリア)なので、筆名においては意識的に祖父の名を継ごうとしているのがわかります。

 

彼女が原書刊行時に投稿していたブログがあるのですが、ここにおじいちゃんがらみのエピソードがいくつか書かれていて興味ぶかいので、その内容をちょっとご紹介してみましょう。

「読者に対するフェアプレイの精神」(Playing Fair with the Reader)と題する記事で、彼女は、おじいちゃんが読んでいたミステリを部屋の向こうに投げ捨てたのを見たという思い出について語っています。カーは、犯人指摘のじゅうぶんな証拠を提示せず、フェアプレイの精神を欠いたその本の内容に激怒したというのです(笑)。

そんな祖父の薫陶を得た彼女にとっても、ミステリにおけるフェアプレイは大変重要なことだと言います。どれだけミスディレクションを張り巡らせようとも、読み終わったときに「騙された」と読者に感じさせないことが大切だとシェリーは語っています。

 

このあとに書かれているエピソードは、祖父ディクスン・カーの作家性を考えるうえでとても示唆的です。

彼女は14歳のとき、おじいちゃんから「どうやって読者に気づかれないように手がかりをばらまくか」のテクニックを教授されたそうです。曰く、なにか手がかりを配したら、その直後に視覚的インパクトの強い生々しいシーン(Something Graphic)を置け、と。そうすると読者は「目」をくらまされるというわけです。この視覚的な効果を与えることで、直前の手がかりを忘れさせるテクニックの効果をディクスン・カーとドロシー・セイヤーズ(!)は信じていて、それを「白い包帯の上の血 "blood on a white bandage"」と呼んでいたそうです。

カーの大きな特徴のひとつに、姑息なまでに「気配を消した」手がかりの描写があるわけですが(笑)、まさに彼が自覚的にその方式を採用していたことが伺われます。

また、カーにとっては、大仰な怪奇趣味やグランギニョル的な猟奇シーンが、まさに「白い包帯の上の血」として機能させるための「本格ミステリ的に必要なパーツ」だったことも理解できます。

まあ、実際問題としては、このカーの流儀――意地でも手がかりの気配を断って、読者との知恵比べに勝ちたい、というカーのスタンスが、作品の「弱み」につながっている部分も否めないと個人的には思うわけですが(ストーリー上どうでもいい細部にばかり配される曖昧な表現の手がかり、後ろから構築して前からきちんと通していないかのような小説としての風通しの悪さ、作中で徹底的に印象薄く描かれているがゆえに意外性の割にオーラに乏しい真犯人、結果としてのラストで「世界が反転する」衝撃性の薄さetc.)、カーが何を重要だと考えて本格ミステリを書いていたかは、短いシェリーの回想のなかからもはっきりと浮かび上がってきます。

 

シェリーがおじいちゃんの教えをどれくらい自作で活かし、どの程度おじいちゃんの影響を受けつつ作品を構築したかは、ぜひご自身の目でご確認ください。

その際、巻末にある千街晶之さんの素晴らしい解説は、これ以上ないくらい有益な道標となるはずです(個人的には公爵のしゃべり口調とかもすごくH.M.臭くて笑いましたが)。

 

シェリー・ディクスン・カーが、祖父の輝かしい業績を「継承」すべく、作品のアイディアから細部にいたるまで祖父から受けた影響をなんら隠していない点は重要だといえます。それも日本で考えられているような「不可能犯罪の巨匠」というイメージからは外れる部分――「歴史趣味」と「タイムスリップ」――を特に意識して執筆が成されているのは、実に興味深いことです。

ふたりの立ち位置の相似も見逃せないところでしょう。どちらもアメリカ生まれのアメリカ育ちながら、熱狂的なイギリス好きで、かたや英国人と結婚して渡英、孫のほうもイギリスドラマの全米放送実現を目指して奔走しています。

とくに現代よりも過去に強烈に惹かれ、ヴィクトリア朝の英国の歴史・風俗に魅了されている点でもふたりは似ています。デュマやスティーヴンスンをこよなく愛し、ドイルの評伝をものしたおじいちゃん。一方、シェリーのほうも影響を受けた作品として『ドラキュラ』、『ジキル博士とハイド氏』、「シャーロック・ホームズ」譚をあげています(それぞれ『ザ・リッパー』の作中でも登場しますね)。

 

英国本格への熱い憧憬の念をこじらせたすえ、アメリカ人でありながらヨーロッパを舞台とした作品を書き続けたディクスン・カー(カーはついに移住まで果たしてしまいますが、アメリカを舞台にしながら極めてヨーロッパ的で非アメリカ的なお屋敷ミステリを書きついでいた同時期のヴァン・ダインとエラリー・クイーンも、じつは「こじらせた憧れ人」としては同類に属します)。

アメリカン・ドラマの隆盛と飽和を経て、新たに『SHERLOCK』や『ダウントン・アビー』といった英国ドラマがもてはやされる時代に、いちはやく両作のアメリカ公開に尽力し、果ては19世紀ロンドンを舞台にした大部の物語を書き上げてしまった孫のシェリー。

 

アメリカの文化人は、大西洋をはさんで対峙する伝統と歴史の国イギリスを常に強く意識しているわけですが、歴史上とくにその憧憬の想いが深まった時期に、祖父と孫がともに「アメリカ人の描くイギリス」に取り組んだというのは、なかなかに興味深い符合だといえます。

さらにいえば、シェリーの祖父への私淑を隠さないいさぎよい作家的姿勢は、まさにそんなイギリス・ラブ、19世紀ラブだったおじいちゃんへの共感と愛慕があってのことなのでしょう。

 

ぜひ、皆さんも『ザ・リッパー』を手にとって、世代を超えたイギリス愛の結実をたしかめていただければ。

もちろん、小説としても十分に面白い作品ですので、ぜひお読みいただけると幸いです!(編集Y)

 

2015年8月29日 12:48 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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