本書の主人公ダンクが、サンフランシスコの私立探偵事務所に雇われる……とくれば、ゴアズ自身が若いころ探偵事務所に勤めていたことを思いだされるかたも多いでしょう。
 そう、この作品は、ゴアズが自らの体験を投影して作りあげたのだそうです。
 実際、主人公ダンクは、ゴアズと同じノートルダム大学の卒業生ですし、作中のサンフランシスコでの生活の様子も、現実とずいぶん重なるようです。
 もちろん、青年時代のゴアズが、これほど数々の事件に巻きこまれたとは思えませんけども。

 ゴアズ自身の体験が重なって見えるのは、主人公ダンクの読書。
 はじめて登場するダンクは、ゴールドメダル版のジョン・D・マクドナルド『呪われた者たち』(!)を読んでいます。
 そのあと、『ライ麦畑』を読み、『サンクチュアリ』を読み、ついには『長いお別れ』を読んで心酔します。

 ダンクが恋人と見にいく映画は、《見知らぬ乗客》に《ローマの休日》。
 ふらりとひとりで映画館に入れば、《アスファルト・ジャングル》。
 この時代が浮かびますねえ。

 本書の原題は“Cases”。
 こういうのは、邦題をつけるのに悩みます。
 そのまま訳すと『事件』。
 ちょっと淡白だし、大岡昇平の名作とかぶってしまいます。
 複数形なので、より正確には『複数の事件』。
 クリスティーでは“The Clocks”を『複数の時計』とした例がありますが、これもちょっと。
 悩んだすえに、50年代の青年の放浪といえば“On the Road”...ということでひねりだした『路上の事件』に落ちつきました。
 まあ、こういう日本オリジナルのタイトルのつけかたに反対されるかたもいらっしゃると思いますが、いろいろ苦労するものなのです。
 主人公ダンクは、ケルアックは読んでいませんけれど。

2007年7月28日 12:23

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