『切り裂かれたミンクコート事件』にまつわる小噺をひとつ。
本書の413ページに、伯爵邸の図書館内にある蔵書の描写があります。
そこに置かれているのは、アリアドネ・オリヴァーの『デビューした女性の死』、アネット・ド・ラ・トゥールの『叫ぶ骨』、リチャード・エリオット『クモに噛まれて』……。
ゲラを読んでいて、おやっと思いました。アリアドネ・オリヴァーという名前に微妙に聞き覚えがあったからです。調べてみたらすぐにクリスティの小説に出てくる推理作家の名前だということに気づきました。
本格ミステリマニアのジェームズ・アンダースンは、こんな稚気あふれるお遊びを仕掛けてきていたのです。
どうやら他の作品も同じ趣向ではないだろうか。リチャード・エリオットのほうはすぐ気づきました。マイクル・イネスの『ストップ・プレス』です。
ところが、いくら考えてもアネットなんたらの正体がわかりません。間違いなく、ミステリに登場する架空の推理作家であることは確か。でも、マニアに程遠いわたしには見当もつかず……。
というわけで、本国のアンダースンにメールで問い合わせてみました。で、返ってきたのが「エドマンド・クリスピンの『お楽しみの埋葬』に出てくる、女性の変名でミステリを書いているJuddという男性」との返答。……ううう、気づきませんでした(というか、読んでなかった)。
メールにはこんなことも書いてありました。
「このアイディアの理由は単純に、私の手になる架空の登場人物たちが、別の実在する推理作家の創造した推理作家の書いた小説を読んでいるとおもしろかろうと考えたからです。この試みは、おそらく未だかつて、誰もやってみたことがないものと自負しております。ただ、哀しいことに、これまで評論家も読者も誰ひとりとして気づいてくれた人がいなかったのです……あなたから連絡があって本当にうれしかった」
―――いや、こちらも気づけて光栄でございました(笑)。
てなわけで、アメリカに置いておくのが惜しいほどの本格オタク、ジェームズ・アンダースン! ぜひ、みんなで読もう!
きわめて細々と続けております扶桑社海外文庫「本格」シリーズ、今後ともよろしくお願いいたします。

2007年12月20日 16:41

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