さて、2月末の配本をもって、昭和ミステリ秘宝犯罪小説篇もいよいよオーラス。
『ふしぎの国の犯罪者たち』のご紹介です。装画は北見隆さんにお願いしました。


%82%D3%82%B5%82%AC%82%CC%8D%91%81%40%89%E6%91%9C.jpg


■オンライン書店で購入する
amazon7&Y楽天ブックサービスbk1

「狼は天使の匂い」というルネ・クレマンの映画をご存じでしょうか。
名優ロバート・ライアンの遺作となった独特の情感あふれるギャング映画です。
なぜかDVD化されない幻の映画なのですが、とにかく号泣必至の傑作なんですよ。
そこで描かれるのは、少年の心をもったまま大人になった男たちの、夢のなかで繰り広げられるような「遊び」としての犯罪。全編に通奏低音として流れるのは、『ふしぎの国のアリス』。
そして、本書『ふしぎの国の犯罪者たち』が描きだすのもまた、「少年のような大人たち」が挑む「人生で最大のゲーム」としての“犯罪”なのです。

六本木のちいさなバー“チェシャ・キャット”の常連客、“兎さん”“帽子屋さん”“眠りくん”の三人が、謎めいたママの協力を得ながら、何かに突き動かされるかのように「血の流れない犯罪」――究極のゲームの世界へとのめりこんでゆきます。
装甲輸送車襲撃、凶悪三人組の誘拐犯との知的闘争、マカオのカジノでのコン・ゲーム……。
まずは何はともあれ、それぞれのミッションのはっちゃけた仕掛けの面白さや、意表をつく展開の妙をご堪能いただければと思います。
当たり前の人々が、本名と職業という属性をはぎ取られ、「あだ名」という無名性を与えられるだけで現実世界からずり落ち、手のつけられない“悪戯っ児”に戻ってしまうところなども、なるほどなあと唸らされてしまいます(そういや「ザ・ハングマン」にしろ「Aチーム」にしろ、ゲーム性の強い作品って、それぞれあだ名で呼び合ってることが多いですよね)。“チェシャ・キャット”の入口は、まさに非現実へ至る扉なわけです。

最終話で連作をまとめ上げる手法も、個人的には、世評の高い『人喰いの時代』以上にぶっとんでいて、はまっているのではないかと思います。あとから考えると、四話それぞれがちゃんと「起承転結」を形成していますしね。
思えば「狼は天使の匂い」で“遊び”を象徴していたのは“ビー玉”でした。本作ではちょうど“とちの実”がそれにあたります。でも、ラストにおける両者の扱いはまるで異なります。異形の巨大さをもって立ち現われる“とちの実”が、いったい何を象徴するのか。ぜひご自身の目でお確かめください。

フィルアップの短篇では、「剥製の島」がとにかく傑作。デュ・モーリア「鳥」の幻想的恐怖、「白鯨」から「ウィラード」「ジョーズ」に至る人対動物の闘争の系譜、山田流ファムファタル、社会派的視点、使命にその身を賭ける男の矜持と、短いなかにいくつもの要素が重層的に組み込まれた珠玉の狩猟(ゲーム)小説です。ぜひご一読あれ!(編集Y)

2009年2月24日 21:18

コメント(0)

Comment

コメントする

ページの先頭へ