2009年02月12日
【名作紹介】

昭和ミステリ秘宝 東京夢幻図絵(都筑道夫著)


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いま、こんなすごい小説を書ける作家が、はたして居るでしょうか。

時代順にならべられた12篇の短篇に濃密に漂う、昭和初期「東京」の風俗の香りは、読む人を強烈なノスタルジイへといざないます。
そこに満ち溢れているのは、市井でしぶとく息づく生活者たちへの深い共感。そして、喪われゆく古き良き日本の風俗文化への限りない哀惜の念です。
博打うち、浪曲師、若旦那、テキヤ、すり、大道芸人といった、時代色の強い登場人物たち。
“大じめ”、“おばけ”、ガラスの知恵の輪、鉛筆屋、サーカス、生人形といった、縁日の風物や見世物。
時代を彩ったファッションや映画、社会現象への言及……。
「お茶の水全裸殺人」「玉の井バラバラ殺人」「日本橋東急火災」「黒豹脱走事件」など、当時、実際に起きた大事件を詳細に描きだしながら、そこにフィクションを絡めるさじ加減もすばらしいものです。

本書の滋味豊かなカバー画や本文挿絵は、永井荷風や柴田錬三郎の挿絵も手掛けてきた日本画家・三井永一先生によるもので、親本である単行本・文庫からの復刻です。
この再録にはちょっとしたドラマがありました。三井先生は卒寿を迎えてなおお元気にされているのですが、原画をお借りしたい旨連絡をとらせていただいたところ、「天袋に入っていて、もう自分には下ろせないので、残念ですが」と丁重なお断りのお返事をいただきました。押しかけるわけにもいかず悶々としていたら、先生のほうから「近々、町田市民文学館から調査の人が来るらしいよ」とわざわざご連絡が! さっそく文学館さんに事情を説明し再度連絡をとったところ、「ありましたよ、『東京夢幻図絵』の挿絵」との嬉しいお返事。一路町田まで駆けつけ、貴重な原画をお借りした次第です。もし、一年前に本書の復刊を企画していたら、このすばらしい挿絵の数々は収録できないところだったのです。この場を借りて、三井先生ならびに、ご尽力くださった文学館のみなさまに厚く感謝申し上げます。

都筑ファン必携の一書であるのはもちろんのこと、ミステリファンのみならず中高年の男性諸氏のみなさまには、きっと喜んでいただける作品だと確信しています。
ちなみに編集者が六十四歳になる父に本書をプレゼントしたところ、「お前のつくってる本のなかでは“めずらしく”いい本だ」といたくご満悦のようすでした。“めずらしく”なんて、そんなことないよっ!(編集Y)


投稿者mystery: 11:02

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