2009年4月アーカイブ

 ジム・トンプスン『この世界、そして花火』の表題作を読まれたかたで、書誌的な興味をお持ちのかたに。
 解説で書いたことを、より詳しくご説明しておきたいと思います。

 この作品には、2種類の版があります。
 それに気づいたのは、本書の編集過程でのことでした。

 今回テキストに使用したのは、Fireworks: The Lost Writings of Jim Thompson (Donald I. Fine, 1988) という作品集。
 現在のところ、わずかなアンソロジーをのぞいて、トンプスンの短編はこれでしか読めません。というか、これに頼らざるをえません。編者は、トンプスン研究で有名な、ロバート・ポリートとマイクル・(J・)マコーリイ。
 わたしたちの今回の訳書も、この短編集にもとづいて翻訳契約を結んでいます。

「この世界、そして花火」という中編は、「ファイヤーワークス」の邦題で、「ミステリマガジン」1999年5月号に掲載されました。
 それをテキストにして作業を進めようと、原書と見くらべたところ、重大な問題に気づきました。
 原書の冒頭にある「-1」という章立てが、翻訳版には見あたりません。-1章だけでなく、全13章ある章立てが、すべて消えているのです。

 そこで、作品集巻末の Source and Data のページをチェックすると、

previously published only in an edited version

とあります。これまで活字化されているのは編集されたバージョンである、ということですから、つまりはこの本に収録したのは、それとはちがうオリジナル版だと言いたいのでしょう。
 この作品集 Fireworks は、のちにペイパーバック化されていますので (Mysterious Press, 1989) 、念のためにそちらを調べてみました。
 ペイパーバックは、収録作品を何本か削除したアブリッジ版ですが、Source and Data はすこし詳しくなっていて、こうありました。

previously published with editorial emendation by Max Allan Collins in JIM THOMPSON: THE KILLERS INSIDE HIM and THE BLACK LIZARD ANTHOLOGY OF CRIME FICTION. The Version published here retains Thompson's original ending.

 これで、事件の黒幕がマックス・アラン・コリンズであることが確定されました。彼が編集の手を入れたバージョンが、トンプスンの死後にコリンズがエド・ゴーマンと編纂したトンプスン本に掲載され、その後ゴーマンが作ったブラック・リザードのアンソロジーに再録されているということですね。
 しかも、結末がちがっているという衝撃的な事実まで判明してしまいました。

 そういえば、編集部にはブラック・リザードのアンソロジーがあったはず......ということで、それを引っぱり出してみると、たしかにそこに掲載されていたのは、-1章をはじめとするすべての章立てがないバージョンでした。
 なるほど、「ミステリマガジン」が使ったテキストは、やはりこのコリンズ編集版だったのでしょう。
 ちなみに、ブラック・リザードの収録作品の説明には、こうありました。 

Max Allan Collins lent an editorial hand in cleaning up a few points in this piece ― yet even with certain flaws one sees Thompson's power ― part pathology, part poetry.

 となると、次は、マックス・アラン・コリンズがどこをどう変えているか、が問題になります。

 コリンズ編集版は、-1章を削り、すべての章立てをなくし、そして結末を書きかえていることがわかっています。
 しかし、a few points とあるからには、ほかにもいくつか変えているということです。
 それを明らかにするには、全文をチェックしなければいけないのだなあ......ということで、トンプスン・オリジナル版とコリンズ編集版を突き合わせた結果、以下の相違点が判明しました。
 以下のページ数は、扶桑社海外文庫版で参照していただくためのものです。

p.228 8~9行の1段落を省略。

p.253 最後から3行め。〈おれはそんなことをするだけはした。あれこれご託を並べて。だけど、実際にはしなかった。ハイウェイまで三ブロック分の距離は歩いた。〉の文章が〈おれはハイウェイまで行った。三ブロック分の距離だ〉に変更。

p.264 最後から4行め。〈「五百ドルよ。たったの五百ドルぽっち」キャロルは札束をじっと見た。青い目が光を失い、空っぽに見える。「でも、彼はそのことを謝ったの。で、くれたのよ――あとで。全部終わったあとで。あたしにできることは何もなかった......」〉が、〈キャロルは札束をじっと見た。青い目が光を失い、空っぽに見える〉になっている。つまり、キャロルのセリフが省略されている。

p.268 2行め。〈「あのことなんか――起きたことなんか朝にはなくなるわよね、マーティ? そんなのはみんな遠くへ行っちゃうわよね?」/「ああ、昔はいつもそうだったみたいに。覚えてるだろ? 昼が来ると夜のものがなくなり、夜が来ると昼のものがなくな――」〉の2段落を省略。

 そして、結末の変更点については、解説に記してあります。
(結末の変更といえば、『ポップ1280』を思いだします。もちろん、あれはトンプスン自身が削除したということでしたが)

 以上が、コリンズの修正点です。
 解説にも記しましたように、訳者の三川基好氏は亡くなられているため、補訳を田口俊樹氏にお願いし、今回みなさんにお読みいただけるトンプスン・オリジナル原稿の翻訳が完成しました。

 さて、コリンズが上記のようにいくつかの文章を削り、結末を書きなおしたのには、明確な目的があったはずです。
 はたして、その意図は実現されたのでしょうか?
 ちなみに、本作品を映画化した『ファイヤーワークス』は、兄妹の過去を描いていますから、トンプスンのオリジナルにもとづいているようです。(編集部・T)

2009年4月28日 17:52 | | コメント(0)

 扶桑社の看板作家のひとり、孤高のノワール作家ジム・トンプスンの中短編集です。

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 トンプスンというと、書き飛ばしのペイパーバック・オリジナル作品の印象が強いかと思いますが、短編も相当数残されています。
 本書では、20代はじめの最初に活字になった(と思われる)作品から、ミステリー専門誌に発表した切れのいいショートショート、そして生前は未発表だった中編までを収録しました。
 とくに、表題作は映画化もされたトンプスンの代表作と言える作品です。
 ぜひご一読を。

 また、本書は、故人となられた三川基好氏が残されたトンプスン翻訳をすべて収録した1冊でもあります。
 本ができるのが、すっかり遅れてしまいました。
 しかも、下手な解説しか書けず、申し訳ありません。
 つつしんで、三川さんに捧げます。(編集部・T)

2009年4月28日 17:43 | | コメント(0)

 ご心配をおかけしました。

 シリーズ刊行停止もありうると申しあげていたF・ポール・ウィルスンの始末屋ジャックものですが、継続が決まり、このたび“Crisscross”の出版契約をすませました。
 物語世界では、いよいよ『ナイトワールド』まで1年半!

 もちろん、大瀧啓裕さんの翻訳でお届けします。
 刊行は、まだしばらく先になりますが、まずはご報告まで。(編集部・T)

2009年4月10日 18:44 | | コメント(13)

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