8月末の扶桑社海外文庫では、ミステリー・ファンには見逃せない自信の2本をそろえました。

スー・グラフトン 嵯峨静江/訳
『ロリ・マドンナ戦争(The Lolly Madonna War)』定価750円(税込)

 えっ、グラフトン!? と驚いていただけたのであれば、本望です。
 残念ながら、キンジー・ミルホーンものの新作ではありません。
 アルファベット・シリーズをはじめるはるか昔、ハリウッドで脚本家として活動する以前のグラフトンが出版していた、2作の長編小説うちの1本です。73年に同題で映画化されましたので、ご存じのかたもいらっしゃるかもしれません。
 荒野で対立する2つの家族。そこに「ロリ・マドンナ」と呼ばれる女性が到着したことから、抗争はエスカレート――強烈な印象を残す、ノワール風サスペンスです。


アントニー・レジューン 小林 晋/訳
『ミスター・ディアボロ(Mr. Diaboro)』定価940円(税込)

 もう1作は、これまた知る人ぞ知る、本格ミステリーの埋もれた傑作です。
「悪魔の小道」と呼ばれる大学近くの路地には、いまわしい伝説がありました。かつてここでシルクハットにマント姿の怪人「ミスター・ディアボロ」と出会った学生が、首を吊ったのです。
 そんな都市伝説めいた怪談話の最中、じっさいに中庭にミスター・ディアボロが出現、一同が追うと、怪人は悪魔の小道で消失してしまいます。
 閉鎖状況からの人間消失、密室殺人等々、ケレン味たっぷりの不可能犯罪にロジカルな推理を融合させた、復古調のミステリー。60年代に書かれた幻の逸品です。

2009年8月 3日 15:41

コメント(2)

Comment

  • 某サイトでグラフトンの新刊が出ることを知って、このページに辿り着いたのですが、キンジーシリーズではなくてガッカリ。。。これを機に、いつまでたってもH社さんが出してくれないアルファベットシリーズの続き(S以降)を、扶桑社さんで出していただけないものでしょうか。原書が読めればいいのですが英語が苦手なもので。そういうのは、やっぱり無理なんでしょうか?



    |mami|2009年8月14日 08:26

  • mamiさま
     コメント、ありがとうございます。
     せっかくなので、すこし裏話を。
     もう時効だと思うのでお話しするのですが、じつはずいぶんむかしに、グラフトンの新作を取得する気はないかと、本国のエージェントをつうじて打診されたことがあります。
     日本で決まった出版社が出しつづけているのに? と思われるでしょうが、そこから推察されるのは、こういうことです。
     グラフトンは、もちろん日本でも人気作家ですが、アメリカにおいては、それ以上の力を持つ大ベストセラー作家です。そうなると、本国から見ると、日本でのセールスに不満を感じたりするわけです(日本ではもっと売れるはずだ、ということですね)。それがさらに進むと、日本国内でもっとよい条件で売ってくれる出版社がないかと積極的に働きかけてくることになり、その話がまわりまわって、ウチにも来たというわけですね。
     しかし、これはなかなかむずかしい問題です。
     まず、シリーズを途中から引き継がなければならないこと(とくにアルファベットがついているシリーズだと、不自然さが増しますよね)。
     くわえて、これまでの出版社以上のセールスを実現させなければならないこと(翻訳ミステリー・プロパーの版元さんとくらべれば、正直ウチには、ハードルは高すぎ……)。
     そんな事情で、けっきょく契約にいたった出版社はなく、その後も従来どおりの版元さんから継続して出されることになったわけです。
     現在のところの最新巻である『ロマンスのR』だって売れ行きはいいようですから、日本の出版社さんもシリーズを継続したいはず。それでも続きが出ないということは、よほど本国側の条件がきびしくて折りあえないのだろうと推察されます。

     そんなわけで、わたしどものような翻訳ミステリーの傍流にいる版元としては、変化球として、今回の『ロリ・マドンナ戦争』を仕掛けた次第。キンジーものを期待されたみなさまには申し訳ないですが、しかし、これはとても興味深く、胸に残る小説ですよ。



    |編集部・T|2009年8月14日 11:29

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