英国の作家ライオネル・デヴィッドスンが死去していたことがわかりました。息子さんの発表によると、肺癌だったとのこと。87歳でした。

 寡作でありながら、CWAゴールド・ダガー×3(『モルダウの黒い流れ』『シロへの長い道』『チェルシー連続殺人』)+ダイアモンド・ダガー受賞。
 ジャンルにとらわれず、質の高い作品を生みつづけた、まさに20世紀後半を代表する作家のひとりだったといえるでしょう。

 扶桑社ミステリーで『チベットの薔薇』を出版したのは、2006年のこと。チベットで行方不明になった弟を探す英国人教師の手記の形式を借り、史実を背景に奇想を展開させた冒険小説でした。
「こんな古い作品で売れるのか」と社内で危惧されましたが、正統的な(?)冒険小説であり、チベット問題という現代に通じるテーマであり、なんといっても翻訳権十年留保で説得して、出版に持ちこみました(デヴィッドスンについて知りたいかたは、小森収氏による本書の解説をぜひどうぞ)。
 この本は、おかげさまですこし売れました。とてもうれしかったです。

 そこで、勢いこんで次に用意したのが、『大統領の遺産』です。
 イスラエル初代大統領が遺した記録をめぐる、これまた史実を背景に奇想を展開させた歴史ミステリーでしたが、こちらは残念ながら、いまひとつの成績。
 70年代の作品でしたが、中東情勢や石油代替エネルギーというテーマが、ちょうど時代がひとめぐりして最先端の問題になっていてよいかと思ったのですが...

 心残りは、1968年の作品 Making Good Again が日本未紹介なままこと。これは、第二次大戦中のナチスの資金をめぐる歴史金融サスペンス小説です。
 いまのところの『大統領の遺産』の売れ行きを見ると、次を出すのは難しいと言わざるをえません。
 また、別名義のものもふくめて、ジュヴナイル・サスペンス小説も未訳のままなのです。こちらもストレートな作品があって、なんとも惜しい。

 ちなみに、日本語で読めるデヴィッドスン作品は、以下のとおり。

  『モルダウの黒い流れ』The Night of Wenceslas, 1960(早川書房)
  『チベットの薔薇』The Rose of Tibet, 1962(扶桑社ミステリー)
  『シロへの長い道』A Long Way to Shiloh, 1966(早川書房)
  『スミスのかもしか』Smith's Gazelle, 1971(角川書店)
  『大統領の遺産』The Sun Chemist, 1976(扶桑社ミステリー)
  『チェルシー連続殺人事件(文庫化で『チェルシー連続殺人』と改題)』The Chelsea Murders, 1978(集英社)
  『極北が呼ぶ』Kolymsky Heights, 1994(文藝春秋)

 70歳を超え、長いブランクをおいて発表した小説が『極北が呼ぶ』だとは、まったくおそろしい作家でした。(編集部・T)

2009年11月 2日 10:51

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