2010年07月28日 |
【業界ニュース】
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強いぞ、イヴァノヴィッチ
下でマイクル・コナリーの話をしましたが、コナリーとならんで、扶桑社が紹介をはじめながら手ばなさざるをえなくなった作家に、ジャネット・イヴァノヴィッチがいます。
ステファニー・プラムのシリーズ(■オンライン書店で購入する
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ステファニー・プラムは集英社さんに引き継がれ、ソフトバンククリエイティブさんからはメトロガールのシリーズも出版されています。
さて、いま本国では、イヴァノヴィッチの去就が議論を呼んでいます。
これまで長年彼女の作品を出版してきた版元セント・マーティンズ・プレスを離れ、ランダムハウスに移籍することになったのです。
この条件が、すごい。
イヴァノヴィッチは息子さんがエージェントをやっているのですが、セント・マーティンズとの交渉で、今後4作の執筆に対して5000万ドルを要求したというのです。
自分で書いてて、思わず桁を見なおしてしまいましたが、「$50 million」だから、やっぱりまちがってないなあ。
さすがに1作あたりじゃないですよ。4作まとめて5000万ドルです。
円高レートでも45億円弱、って計算ですね。
この数字はどういうことかといいますと、アメリカのあるエージェントの試算では、1作あたりハードカバーで125万部売れないと、出版社は採算が採れないんだそうです。
直近のステファニー・プラム・シリーズ Finger Lickin' Fifteen のハードカバーは97万7千部売れたそうです。
これはジョン・グリシャムに次ぐ数字だそうで、すごいものですが、試算額に近いけれども、じゃっかん足りないんですね。
しかも、今後は e-book が増えると思われますが、価格が紙の本より安めに設定されているぶん、出版社の収入は減ることが見こまれます。
……ということで、セント・マーティンズはイヴァノヴィッチ側との契約を断念。
十数年の関係にピリオドが打たれたわけです。
「イヴァノヴィッチにかぎらず、どんな作家であれ、5000万ドルという契約は妥当か?」と業界で議論が起こったところに、ランダムハウスとの契約が成立。
ところがこのランダムハウスの行動は、逆に心配される羽目に。
というのも、ある記事によると、イヴァノヴィッチの既刊本は、昨年1年で累計2000万部(!)売れたそうなんですよ(ペイパーバックを入れると、それぐらいの数字になるのだろうか?)。
それだけの実績があるなら5000万ドルも計算できるかも、というところなんですが、しかし、新作の契約をするランダムハウスは、既刊本を持っていないわけです。
日本での懸念材料は、ランダムハウスが世界版権も取得したこと。
なにが懸念かと言いますと、アドバンスを回収するために、海外との取引にも強硬になることが考えられるからです。
ランダムハウスの担当者は「世界市場でのイヴァノヴィッチの価値は高いし、ますます強まっている」と語っていますので、諸外国へのセールスもプレッシャーが高まりそうな予感です。
扶桑社でイヴァノヴィッチ側との交渉がうまくいかなくなった当時は、新作が出ないために読者のみなさんからよくお叱りを受けました。
あらためてお詫びします。
しかし、このように、いろいろ裏の事情があるものなのです。
集英社さんも、今後はさらにたいへんかもしれません。
投稿者mystery: 12:06
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