昨年刊行の中篇集『閉店時間』以来の発刊となる、ジャック・ケッチャム『森の惨劇』のご紹介です。

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ベトナム戦争からの帰還兵リーは、心に深い傷を負って現実生活に適応できなくなり、人里離れた山中で愛犬とともに暮らしています。マリファナを栽培しながらの夢と現が交錯する生活。しかし、そこに人気作家ケルシーを中心とした仲間6人がキャンプにやってきて……。

山に気楽な気分で入ると、大変なことが起きる……。
なんとなく現実の事件にも当てはまる気がしてぞっとしますが、今回のお題は、
ケッチャム版「ランボー×13金」!
傑作『オフシーズン』と『隣の家の少女』のあいだに書かれた、“もっともケッチャムが危険な作家だった”最初期の問題作です。

と、扇情的にちょっとあおってみましたが、
中身はケッチャムらしい、切り詰めたドライな筆致と、酷薄で嗜虐的な描写、ある種のリリカルな文学性を示す、彼にしか書けない「まさにケッチャム」という作品となっています。

殺戮とグロテスクのグラン・ギニョル。
神話的な恐怖をたたえた“迷宮としての森”。
緊迫感あふれる“狩るもの”と“狩られるもの”のゲーム。
悲しいまでにせつなく、やるせない帰還兵の心のかたち。
作家たちの織りなす、不思議な愛のかたち。
そして、すべてをのみこんで動きつづける、運命の車輪。

実際のテイストは、個人的にはヒッチコックの「鳥」あたりを想起させられたり。
男女のメロドラマを、唐突な暴力が侵食してゆくという構図で、しかも両者が象徴的な部分以外ではあんまりオーバーラップしないところがとても似ているんですね。

「被害者小説」としての側面でいえば、キャラクターの道徳律や性的モラルがその行く末とまったくリンクしない点は、まさに「13金」の真逆を行くケッチャム流。彼の描く世界では、悪意は万人を犯し染めあげ、あるいは万人にふりかかり牙を剥く、そしてそこには何の因果律も存在しないのです。
一方、ケッチャムとしてはめずらしいくらい、今回は「悪意」の側の心のうちがちゃんと描かれている(あるいは、ちゃんとした理由の不在がちゃんと描かれている)わけですが、それでも残る不条理さには、どこかパトリシア・ハイスミスにも似た味わいを感じます。

ホラー・サスペンスとしても、“ベトナム戦争”小説としても、一級品。
『隣の家の少女』だけではないケッチャムの世界を、読者の皆様にも味わってほしいと切に祈っております。夏のひとときを、ケッチャム片手にぜひひんやりお過ごしください……。(編集Y)

2010年8月 2日 23:37

コメント(2)

Comment

  • 「森の惨劇」読み終えました。
    グロさも痛さも怖さもケッチャムとしては、おとなしめと言えるかも知れませんが、十分楽しめました。
    リーの心の痛さに泣ける?



    |K|2010年8月 6日 19:20

  • もうやめよう、もうやめようと思いながら読んでしまうケッチャム…さっそく、拝読しました(笑)。
    思いの外快調なアクション活劇で、面白かったです。
    ちなみにケッチャム、最近の執筆状況はいかがなものでしょうか? この本もずいぶん古いので、最新作が読みたいのですが。



    |s|2010年8月 9日 10:51

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