謀略ミステリーの名手ダニエル・シルヴァが2006年に発表した The Messenger という作品があります。
 シリーズ・キャラクターである、イスラエルの伝説のスパイで絵画修復家のガブリエル・アロンが、大規模なテロに立ちむかう物語です。

 この本が出た当時のこと。
 ケンタッキー州レキシントンに住むレス・モリス弁護士は、妻とともにアラスカへ休暇旅行に行く予定でした。
 出発直前、彼は、ちょうど当地のブルーグラス空港を訪れていたダニエル・シルヴァから、サイン入りの The Messenger を手に入れました。

 レス・モリスの息子ウィンは、ふだんの父らしくない行為だと思ったそうです。
 冒険小説を読むのは好きだったそうですが、作家に会って話をしたりするタイプではなかったとのこと。
 逆に言えば、それだけダニエル・シルヴァの作品が好きだったようです。 

 しかし、レス・モリス氏はその本を読むことはできませんでした。

 2006年8月27日のことです。
 モリス夫妻の乗った旅客機は、誤って短い滑走路に進入し、離陸に失敗して墜落。
 副操縦士だけは助かったものの、乗員乗客49名が死亡。犠牲者には日本人2名も含まれていました。

 事故から数ヵ月後、息子のウィンは驚くべきものを目にします。
 機内から発見された乗客の身の回り品のカタログのなかに The Messenger があったのです。
 事故機は大破し、爆発炎上したにもかかわらず、このサイン本は傷ひとつない状態でした。

 本を受け取ったウィンは、これを機に長年の夢を実現することにしました。

 それは、書店を開くこと。
 書店チェーンや大学出版局で働いてきたウィンは、小さいころから考えていた「自分の本屋を持つ」という目標を実行に移すことにしたのです。

「思わぬ事故で、今日が人生最後の日になるかもしれない。それなら、無駄にすごしたり、いつかこんなことがしたいな、などと言ってちゃいけない」

 こうして2008年、The Morris Book Shopが開店しました。
 店内には、あの The Messenger が飾ってあるそうです。

2010年8月31日 11:00

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