2010年08月09日
【業界ニュース】

出版成功物語


 英国での話です。

 2004年、出版社勤めを辞めて、2人で新たな版元を立ちあげた人たちがいました。社名は Quercus Books。ベイカー街の角に小さなオフィスを借り、当初はノンフィクションを中心に営業を開始。やがて、新人作家のフィクションの出版もはじめ、小説賞を取る作品も生みました。

 転機は、クリストファー・マクリホースという人物を雇ったこと。
 村上春樹やヘニング・マンケルを英国に紹介した人物で、その彼が最初に買ったのが、スウェーデン作家のミステリー Men Who Hate Women(女を嫌う男)でした。

 そもそもこの作品は、現地で歴史的な大ヒットを記録していたため、英国のほかの出版社も興味を示したのですが、著者がすでに死んでいるためプロモーションがしにくいとあって、難色を示していたのです。

 さて、この作品は The Girl with the Dragon Tattoo と改題されて、2008年にハードカバーで出版。
 そう、ご存じスティーグ・ラーソンの『ドラゴン・タトゥーの女』ですね。

 ところが、8000部程度で売れ行きはパタリと止まり、つづけて投入されたペイパーバック版もまあまあだったものの、小売店からどっさり返品されてしまいます。

 ここで Quercus の人たちは、ムチャなことをはじめます。
 公園や地下鉄やタクシーや電車やバスに、本を置いてくるのです。
 拾って読んでくれる人を期待した、まさに「捨て身」の戦法。

 これが功を奏したのかどうかはわかりませんが、2作め(『火と戯れる女』)は、英国では翻訳書としてはハードカバーで初のベストセラー1位を獲得。
 スティーグ・ラーソンは、amazonのKindleで初めて100万ダウンロードを記録する作家となりました。

 小さな出版社だった Quercus ですが、2010年上半期は売上が3倍増、株価はほぼ6倍に伸びる大躍進。

 単純な儲けだけではありません。
 Quercus には、有力な作品がつぎつぎに持ちこまれるようになりました。
 そればかりか、以前は受けつけてもらえなかったスーパーマーケットなどが、彼らの本を受注してくれるようになり、販路も拡大したのです。

 創業者のひとりマーク・スミスは言います。

「誰もが、次の『ハリー・ポッター』を出すのを夢見るものだ――わたしたちはそれを成し遂げたんだ」
 そのハリー・ポッターのシリーズを出版したのも、創業10年程度の独立系出版社 Bloomsbury Publishing でした。

 まだまだ出版には夢がある……と、信じたいものですが。


投稿者mystery: 10:29

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