1966年に録音されていたジョン・ル・カレへのBBCのインタビュウが発掘されたとのこと。
 そのなかでル・カレは、イアン・フレミングを手きびしく批判しているそうです。

 いわく、
「ボンドは嫌いだ。あれがスパイとは思えない」
「ボンドをエスピオナージュに分類するのは大きな誤りだ」
「ボンドは、いわば国際的なギャングスターだ」
「政治的なコンテクストが欠落している。アメリカやソビエトの指導者が誰であってもボンドには関係ない」

 まあ、最後の部分はわかる気がしますが、だいたいいまではル・カレ自身が「エスピオナージュに分類するのは大きな誤り」な作家になっちゃいましたよね(ええと、これはいい意味で言っています)。

 フレミングもル・カレも、諜報活動を実体験として知っている作家ですが、そのアウトプットはまるでちがいます。
 それは、戦争の最中に現場のスパイをやっていた人と、外務官僚機構の内部で見ていた人との差もあるでしょうが、それ以上に作家としての資質・目指したもののちがいでしょうから、これは仕方がないのでは。

 このインタビュウが行なわれた1966年といえば、ル・カレは『寒い国から帰ってきたスパイ』につづき『鏡の国の戦争』を発表したあと。
 フレミングは64年に死去し、遺作『黄金の銃を持つ男』や短編集『ベルリン脱出』が出版されたあとです。
 なるほど、当時の読者には、フレミングからル・カレへの世代交代は鮮烈に映ったことでしょう。

 もっとも、ル・カレが言うほど、ジェイムズ・ボンドはギャングっぽくはないと思いますよ。
 なにしろ、ボンドは映画のイメージが強すぎます(このインタビュウの時期には『サンダーボール作戦』まで公開されてます)。
 しかし、フレミングが描くボンドは思ったよりも内省的ですし、暗い影すら背負います(北上次郎氏の『冒険小説論』の卓抜なボンド論をご参照ください)。
 ついでに言うと、たしかにボンドは米ソの指導者には左右されないかもしれませんが、そりゃあ英国人ですからね。

 ちなみに、そのボンド映画の新作は、まだはっきりしない状態。
 いっぽう、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』の再映画化は実現しそうだそうですよ(スマイリーは、ゲイリー・オールドマン)。

2010年8月24日 17:10

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