マーク・トウェインの『トム・ソーヤーの冒険』および『ハックルベリー・フィンの冒険』の改訂版が出版されることになり、アメリカで話題になっています。

 今回の改訂は、「N-word」すなわち黒人差別にかかわる語を書き換えようというもの。
 ちなみに、このN-wordですが、『トム』では9回、『ハック』ではじつに219回登場するそうです。
 かわりに採用される語は「slave=奴隷」だとのこと。

 以前も禁書週間の話題のときに触れましたが、古典作品に残る差別的な表現は複雑な問題です。
 とくに、児童書の場合は子どもにあたえる影響が大きいので、出版社や教育機関や図書館にとっては頭の痛いところです。
 作品の価値が高いとはいえ、時代性による差別的な表現の部分は、現代人にとって許容できないということになります。
 さらには、著者が当時のそういった差別的な考えかたに冒されている以上、作品それ自体が問題なのではないか、という議論さえあるのです。

 とくに『ハック』は、アメリカ文学史上、最重要とさえいわれる名作であるいっぽう、発売当初からきびしい批判にさらされてきた作品でもあるので、事情は複雑です。

 今回の改訂にはアメリカでも賛否両論...といいたいところですが、批判派が多いようです。
 改訂の意図は理解できるが、それをやっては作品を損なう、という意見が大半。
 そういった時代性もふくめて作品なのであり、「slave」と書き換えると時代錯誤が生じて、物語世界が崩れることになる、という考えかたです。

 そのいっぽうで、あるアフリカ系の作家などは、こんな話をしています。
 彼は最近、自分の子どもたちにじっさいにこの2作品の読み聞かせをしたそうです。その際、どうしてもN-wordについては、自分なりに読みかえてしまった、といいます。
 さらに、子どもがもっと小さかったころ、シングル・ファーザーだった彼は、おとぎ話を読んであげる場合も「悪い継母」といった言葉は言いかえていたと告白しています。
 それが作品を損なう行為だとわかってはいるが、親の心情としてはしかたないというのですね。

 今回の改変を行なうのは、トウェイン研究の専門家。
 N-wordだけの問題によって、こういったすばらしい作品が読まれなくなることだけは避けたい、という考えにもとづいているようです。

 これは、『ちびくろサンボ』騒動を経験した日本でも重要な問題でしょう。

追記

 この問題について、マイケル・シェイボンが、“The Atlantic”に一文を寄せています。

 彼もまた、9歳の娘と7歳の息子に『トム・ソーヤー』を読んであげたとのこと。
 ひと夏かかったそうですが、子どもたちはすっかり気にいり、「続編も読んで」とせがんだそうです。
「大人向けの小説だったはずだよ」と懸念しつつ、『ハック』を読みはじめたシェイボンでしたが、さっそく6ページめにN-wordが登場します。

 そこで、シェイボンは子どもたちに、この言葉について説明をします。
 この作品の時代には、人種を問わず、アフリカ系を「nigger」と呼んでいたことや、この語が自分にとってはひじょうに抵抗があること(シェイボンは少年時代、リチャード・プライアーがアルバムでこの言葉を使った際も、友人たちとちがってタイトルを口にできなかったそうです)などを。
 そして、これからこの本を読んでいくと、なんどもこの言葉が出てくるが、どうすべきだろうか、と子どもたちに問いかけます。
 彼は『トム・ソーヤー』を読んたときは、まさに「slave」という語に言いかえていたそうですが、『ハック』の場合はそれでは合わないと感じていたのでした。

 シェイボンの娘が、こう答えたそうです。
 自分にとって抵抗がある言葉は「negro」だ、と。

 このへんの単語のニュアンスはわかりにくいですが、シェイボンは内心忸怩たるものを覚えながらも「negro」に言いかえて読みすすめていったそうです。

 ところが、あるとき息子がこう言ったそうです。
「『トム・ソーヤー』を読んでるときは、インジャン・ジョーって言ってたじゃないか。これだって、よくない言葉でしょ」

2011年1月12日 14:07

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