前項で、ハンターのクリティーク&シネフィル出身作家としての立ち位置をあきらかにし、『四十七人目の男』のタランティーノ的な側面と、『黄昏の狙撃手』のイーストウッド的な側面について考えてみました。
『蘇えるスナイパー』は、まさにそういった流れの中で必然的に登場した作品だといえます。

一見すると、ハンターは単純にボブ・リーを『極大射程』のころのスナイパー・アクションの世界に連れ戻しただけのようにも見えます。二作分じゅうぶん遊んだんだから、またライフルでも撃てよ、みんなそれを期待してるんだから、と。しかし、はたしてそれだけなのでしょうか。
個人的な意見をいえば、本作はスナイパー・アクションの皮をかぶったウエスタン――それも、フォードの正調ウエスタンではなく『ヴェラクルス』のテイスト、さらにいえば、イーストウッドに代表される70年代的なマカロニ・テイストを強く意識した作品です。
タランティーノでいえば、『キル・ビルVol.2』の世界観。現代ものの枠組みのなかで、ウエスタンの精神と破天荒な面白さを再現する試みです。
前二作における「チャンバラ」と「カーアクション」を経て、ある意味アメリカ人作家にとって最大の霊感源ともいえる「ウエスタン」へと、ハンターのジャンル制圧の旅はたどり着いたというわけです。

そもそも思い返せば、たとえば『ダーティホワイトボーイズ』の物語上の枠組みだって、無法者を追う保安官というきわめてウエスタン・テイストのものでした。ボブ・リー初期三部作においても、そこかしこにウエスタンのガジェットは顔を出します。『黄昏の狙撃手』のラストなど、まさに本作の予告編といってもいい。
しかし、『蘇えるスナイパー』ほどむき出しに「西部劇」を意識し、実際のモチーフにまで取り込んだ例は初めてでしょう。
ネタバレになるので書きませんが、中盤以降のありとあらゆるシーン、アイディアに、名作ウエスタンから引っ張ってきた要素が散見されます。そして、ダメ押しのように続く西部劇そのまんまの決闘。
ああ、なんておもしろいんだろう。
なんてハンターは楽しそうなんだろう。
本当にこの人は西部劇が好きで、そのシリアスな部分も、おバカな部分もひっくるめてマジで愛しているんだなあ、と。
実際、戦争もの(初期三部作)は多少まじめな顔をして語らないと不謹慎でしたが、今回は本質的に痛快ウエスタンなので、おもしろければそれでいいといったところもあるのかもしれません。
最初に殺されるのがどこからどうみてもジェーン・フォンダだったり、カール・ハスコックのかわりに出てくる人物がカール・ヒッチコックだったりと、基本的に作者が多少ふざけ気味なので、こちらもそのへんの距離感を酌んで読んであげるのが礼儀というものでしょう。
その愉快な娯楽体験のなかで、意外とまじめでまっとうな政治信条と、鋭い70年代文化人批判がうかがい知れるとしても、それはそれでうれしい余禄みたいなものだと思っていればいいのではないでしょうか。

というわけで、洋の東西・時代を超えてあらゆるアクションのジャンルを制覇してきたハンターが、ついに次回作『Dead Zero』において、「今そこにある危機」であるアフガン問題を俎上にとりあげます。
深刻でホットなテーマ設定からして、おそらく久々に、初期三部作に近い本気でシリアスなハンターが期待できるのではないでしょうか。
ボブが、果たしてどんな活躍ぶりを見せてくれるのか。
版権取得が無事かないましたら、またご報告いたしますね。ご期待ください。(編集Y)

2011年1月20日 19:06

コメント(3)

Comment

  • ご担当者様、

    いつもご回答頂戴し、ありがとうございます。

    米国では12月にスティーブン・ハンターの新作「ソフトターゲット」が刊行されそ
    うですが、昨年12月に発売された「Dead Zero」の日本での翻訳・刊行の予定はある
    のでしょうか。

    ご回答願えれば幸いです。

    非常に楽しみにしております。

    宜しくお願いいたします。

    それでは、失礼をいたします。



    |匿名|2011年8月 2日 18:22

  • いつもありがとうございます。
    一週間後くらいに別途記事としてアップするつもりですが、無事『Dead Zero』は版権獲得に成功し、翻訳も快調に進んでおります。年内の発売に向けて頑張りたいと思っておりますので、ご期待ください。



    |編集Y|2011年8月 2日 19:42

  • 迅速且つご丁寧なご回答、毎度ありがとうございます。
    最近はイケてるアクション小説がめっきり減ったので、刊行を非常に楽しみにしております。



    |匿名|2011年8月 2日 20:18

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