2011年01月20日 |
【編集部日記】
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ハンター補遺
編集部・Yの名作紹介、お読みいただけましたか?
そのスティーヴン・ハンター作品について、みなさまからよくいただくのが、
「『極大射程』を復刊してほしい」
というご意見です。
『極大射程』(新潮文庫)は、ご存じのように、ボブ・リー・スワガーのシリーズ第1作にあたり、日本では1998年に出版されて「このミステリーがすごい!」の海外編1位に輝き、扶桑社のどのハンター作品も足もとにおよばないほどの大ベストセラーとなった作品ですね。
結論から申しますと、現在のところ、『極大射程』をわたしたちで復刊することはできないのです。
権利関係を調べて驚いたのですが、新潮社さんの翻訳出版契約は、有効期間が無期限になっているというのです。
通常、こういった契約では、5年とか7年とかの期限があります。
したがって、ロングセラーになっている作品を重版して出しつづけるには、契約を延長するために、あらためて印税の前払いをしなければなりません。
*これが、翻訳出版にはネックになるのです。
その本が今後数年間にどれだけ売れるかを予測し、それに応じて前払いをするわけです。
しかし、ロングセラーといっても売れ行きはすこしずつ落ちますし、しかもそういう本は、本国でも売れている場合が多いので、作家のエージェントも強気で対応してきます。
つまり、会社としては余分な出費を避けたいし、相手はある程度の金額を要求してくるし、というところでネゴシエイトしなければならないのです。
そのため、売れてはいるけれど、それほどではない、といった作品の場合、在庫がある程度残っているのであれば、それを売りつづけることができるので、あえて前払金を払う契約延長には消極的になってしまうのです。
たとえば、扶桑社海外文庫で契約延長をしつづけている作家としては、ハンターのほか、コナリー、ケッチャム、ノーラ・ロバーツなど、鉄板の作家にかぎられます。
イヴァノヴィッチなどは、1作めだけは延長しましたが、2作め以降は涙を飲んで契約打ち切りにせざるをえませんでした...
閑話休題。
そんなわけで、『極大射程』の日本での翻訳出版の期限が切れない以上、他社がその権利を取得することができないというわけです。
(契約期間無期限というのは、むかしはあったと聞いてはいましたが、じっさいに90年代に存在したとはビックリしました)
* * *
この機会なので、ハンター作品の翻訳の経過についてお話しします。
どうして本国の出版順とズレたのか、というお問い合わせもいただきますので。
わたしたちが最初に出版したハンターの作品は、『ダーティホワイトボーイズ』でした。
この権利を取得した段階で、すでに Point of Impact(『極大射程』)はすでに新潮社さんが買っていらしたのですが、まだ出版されていませんでした。
その新潮社さんが見送られたため、『ダーティホワイトボーイズ』は扶桑社にまわってきたのです。
考えてみれば、当時ハンターといえば『さらばカタロニア戦線』『クルドの暗殺者』『真夜中のデッド・リミット』の作家だったので、『ダーティ〜』は大きな方向転換と受けとめられました。
まさにノンストップのピカレスク・バイオレンス小説というべきこの作品のテイストは、扶桑社にピッタリだったのですね(笑)。
ところが刊行後、ハンターがじつは、未刊行のPoint of Impact にはじまる壮大なサーガを構想し、『ダーティホワイトボーイズ』もそのなかに位置づけられることが判明!
ハンターの最新作を出版した扶桑社は、順調に次作を取得することができました。
それが『ブラックライト』です。
ここでついにボブ・リーが主人公として登場したわけですが、この段階でもシリーズ第1作は日本では刊行されていませんでした。
ヒーローの初登場が紹介されないまま、シリーズをつづけるのもなあ――と思っても、わたしたちではどうすることもできません。
そのまま次の『狩りのとき』にいたるのですが、シリーズの白眉となるこの大作に先がけ、狙ったように『極大射程』が登場! 一大ベストセラーとなったことは、すでにご説明したとおりです...
『狩りのとき』に先だって『極大射程』が出版されたのはよかったと思います。
しかし、おなじ年度にそろって出てしまったこともあって(ついでに新潮社と扶桑社の力の差もあって?)、話題は『極大射程』にさらわれてしまう格好になりました。
ま、こんなことを言ってはなんですけど、個人的には『狩りのとき』のほうがすばらしいと思うわけです。
あのヴェトナム戦場の圧倒的な描写。そしてもちろん、ボブ・リーのヒーロー像と、彼が孤高の英雄であってこそ成りたつ、ストーリー上のツイスト。重量級の名作といえましょう。
と、負け犬の遠吠えじみたみっともない話になってしまいましたが、ともかく、扶桑社ではその後のハンター作品を一貫して出版してきました。
おかげさまで『蘇えるスナイパー』は大好評ですが、これは本国でもおなじで、いままでのハンター作品のなかでもっとも長くNYタイムズのベストセラー・リストにとどまっています。
アメリカでは、ついに新作 Dead Zero が発売され、これも「『蘇えるスナイパー』とおなじ波に乗るだろう」と高い評価を得ています。
こちらの版権が取得できましたら、またご報告します。
投稿者mystery: 09:44
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「極大射程」で思い出しましたので、投稿させていただきました。ハンター作品をきっかけとして、扶桑社文庫を買うようになりましたが、誤字脱字が大変気になります。「ダーティホワイトボーイズ」はそれはそれは酷いものでした。他の方が「黄昏の狙撃手」のコメントでも書いておられましたが、刊行物でここまで酷い誤字脱字は見たことがありません。ノーチェックで出版されているのでしょうか?読者の興を削ぐ誤字脱字はご勘弁下さい。言葉がきつくなってしまい、申し訳ありません。いい作品を出版していただきたく、申し上げた次第です。
投稿者 素亭文半太 :2011年01月22日 11:11