2011年04月08日 |
【業界ニュース】
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Dorchester 対 ホラー作家
以前お伝えした、アメリカのペイパーバック出版社 Dorchester(ドーチェスター)のニュース。
この出版社が、ペイパーバックの出版をやめて、すべて電子書籍に移行するという大変革を発表したのですが【詳細はこちら】、その後、著者との契約が切れたはずのものを売りつづけ、あやしい雲行きになっている【詳細はこちら】という話でした。
最近になって、ホラー作家 Brian Keene(ブライアン・キーン)がアクションを起こし、業界をひろく巻きこんだ騒ぎになっています。
ブライアン・キーンは、ドーチェスターから10冊以上の本を出版してきました。
ところが、2009年の末から支払いが滞ってしまったのだそうです(海外の出版界では、本が売れれば、その冊数ぶんの印税が著者に入るシステム)。
しかも、未払い問題を解決しないまま、ドーチェスターはペイパーバックから電子書籍への大転換を一方的に発表したわけです。
【ドーチェスターvsブライアン・キーン つづき】
じつは、ドーチェスターから金を支払われていない作家は、ほかにもたくさんいたのです。
そのなかでも、ベストセラー作家とはいえないホラー小説家のキーンにとって、状況は切迫していました。
「2009年末から収入がない。結婚生活は破綻し、請求書は山積みで、“もうすぐ入金するよ”と言われたまま年収の半分以上が入らないのだ」
そこで、キーンは思いきった賭けに出ました。
ドーチェスターから自分のすべての作品を引きあげる契約をしたのです。
そうすれば、今後、10冊以上の彼の本からの印税収入は絶たれますが、それでも、不実な版元との関係を切り、新しい出版社を探す道を選んだわけです。
これで話は終わるはずでした。
ところがドーチェスターは、その後もキーンの作品の電子書籍を売りつづけたのです。
著者に権利を返還した以上、ドーチェスターはキーンの本を売ることはできません。
これは違法行為であり、当然キーンは抗議しますが、ドーチェスター側は、電子書店側の問題だ、すぐに是正する、もう二度とこういうことは起きない、等々と答えるばかりで、状況はいっこうに変わりません。
キーンは、iBookやamazonなどに直接問いあわせますが、彼らのほうが首をひねるばかり。
電子書店側は、著者個人ではなく出版社と契約しているため、キーンから事情を知らされても、商品を引きあげる権限がないのです。
法的手段に訴えろ、という助言に対し、キーンは答えます。
「ところが、それができないんだ――なにしろ、一文なしなんだから。なぜ文なしかといえば、それはドーチェスターが金を支払わないからであり、連中から自分の本の権利を引きあげるという賭けをしたからであり、それでもなおドーチェスターが人をコケにしつづけるからだ」
キーンには近々、別件の契約金が入る予定だそうですが、それまでにはまだしばらく時間がかかるため、「弁護士を雇うのはさておいて、家賃だけは払い、ラーメンで食いつなぐしかない」とのこと。
そこでキーンが、クレイグ・スペクターらとともに呼びかけたのが、「ドーチェスター・ボイコット運動」でした。
作家はドーチェスターとの契約をやめる、読者はドーチェスターの本を買わない、ドーチェスターのブッククラブを退会する、メールマガジン購読をやめ、ツイッターやフェイスブックのフォローを切る...といった形で、ドーチェスターに抗議しようというものでした。
あっという間に多数の作家たちが賛同し(すでに200名超)、出版業界では大ニュースになりました。
ドーチェスター側は、遺憾の意と困惑を示していますが、その責任逃れな言いかたが、ふたたびキーンの怒りを煽る形に。
じっさいのところ、ドーチェスターは、とうに死に体だったようです。
すでに昨年後半には、自分たちみずから「法的に倒産してはいないが、倒産したような状態」だったといい、作家への未払金は110万ドルにのぼっていたそうです。
ペイパーバック出版をやめて電子書籍のみに移行するというのは、思いきった変革というよりは、最後のあがきだったのかもしれません。
なにしろその裏で、販売営業スタッフをレイオフしていたといいますから。
さて、このドーチェスターは、B級ホラーの名門としておなじみ。
ジャック・ケッチャムも、リチャード・レイモンも、ここの「Leisure Books」レーベルに入っています。
今回の主役ブライアン・キーンといえば、「Leisure Books」レーベルから出版された、彼の“The Conqueror Worms(征服者は蟲)”という作品をブックフェア会場で見て、衝撃を受けました。
わたしが生涯に見たなかでも指折りのカバー・デザインだと思いますが、イヤな人にはイヤかもしれないので、見たくない人は見ないでくださいね。
あまりのインパクトに、エージェントのおばちゃんに「ほんとにこのとおりの話なの?」と聞いたら、「Yes!」と豪快に笑われました。
よろこんで持ち帰って検討してみたら、内容的にいまひとつだったので(じつは主役は老人施設のおじいちゃんたち)、泣く泣く見送ったのでしたが。
投稿者mystery: 13:40
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