2011年7月アーカイブ

 このブログで何度となく取りあげてきたので、いいかげん嫌がられるかもしれませんが、ジム・トンプスン不朽のノワール『おれの中の殺し屋』の映画化『キラー・インサイド・ミー』について、また朗報です。

 DVD発売を記念して、ヒューマントラストシネマ渋谷にてミステリーサスペンス映画祭が行なわれます。
 おなじみ滝本誠氏がセレクトしたあざやかな映画群に、トークショーをプラスした特別企画。
 その開幕と閉幕を飾るのが、『キラー・インサイド・ミー』です。
 扶桑社のミステリー読者にはど真ん中のイベントではないでしょうか!?

 なお、『キラー・インサイド・ミー』は全国での公開がつづいていますので、お近くの映画館をチェックしてください。
 DVD発売を待つのもいいですが、ぜひ映画館の暗闇で!

2011年7月20日 16:53 | | コメント(0)

【承前】

 さて、そもそも話の発端になったコナリーですが、彼の場合はボッシュにきちんと年をとらせているのですね。
 みなさんの印象では、いかがですか?
 たしかに近年の作品では、警察の年金について細かく語ったり、足腰が弱くなったり、老眼鏡を使ったりといったシーンが見られます。
 さらに今度の新作では、ホテルの屋上を調べるのに、自分では行きたくないからと、若い刑事に非常階段をのぼらせる、というくだりも。むかしのボッシュとは思えないですよね。
 じつは、じっさいのLAPDでは、現在最年長の殺人課刑事は58歳だといいます。つまり、ボッシュはその年齢を越えていることになります。こうなってくると、リアリティの問題が出てきます。ウソくさくなってしまっては、シリーズの存続にかかわります。
 そのためコナリーは、ボッシュに犯罪捜査を続けさせるための道を模索中だそうです。
 たとえば、市警をやめて、検察庁づきの特別捜査班に就かせるとか、あるいは、ボッシュの娘にバトンをわたしてしまう、といった思いきった変化を加えることになるかもしれないとのことです。

 こんな話を聞くと、扶桑社海外文庫で出版していた、スチュアート・カミンスキーの老刑事エイブ・リーバーマンのシリーズを思いだします。
 シカゴ市警の刑事リーバーマンは、シリーズ開始当時で、すでに60歳(ちなみに、パートナーのハンラハンも50代)。それから、物語の進展とともに年をとっていきました。
 アメリカは実質上、定年制度がないらしいので、自分が働けると思うかぎりは現役なのですね。
 リーバーマンは、年齢を逆手にとった人生経験と知恵で、事件を解決していきます。いいシリーズでしたが、わたしどもの力およばず、途中で断念することになってしまいました。申し訳ありません。

 これが英国だと、公務員たる警官には、退職・引退の時期がやってきます。
 ご存じのとおり、イアン・ランキンのリーバス警部は『最後の音楽』で引退となりました。
 それでも読者は、リーバスの復帰をもとめているそうです。ミステリー界の大立者オットー・ペンズラーも、ランキンに言ったそうです。「イアン、これはバカげているよ。きみは作家なんだ。リーバスに年をとらせなきゃいいだろう」アメリカ作家たちの作品を見てきたペンズラーらしい言葉です。
 ベストセラー作家のリーバスらしく、政治界からも反応があったそうです。スコットランド議会で、警察官の退職年齢を65歳に引きあげるよう法務省に嘆願しよう、という声があがったのです。そうなれば、リーバスがあと5年働けるから。もちろんこれは、政治家のジョークだったようですが。
 ま、いずれにしろ、ランキンはリーバスの復帰を考えているようですよ。

 引退後も事件にかかわることになったのが、大御所ルース・レンデルの主人公ウェクスフォード警部(失礼、「元警部」ですね)。
 前作で退職し、孫と遊んだり読書にふけったりして暮らすウェクスフォードは、この夏に出版される新作 The Vault で、コンサルタントとして捜査に復帰します。
 しかし、その立場上、みずから現場に立つことができません。
 作中で彼は、自分で目撃者を尋問できないと妻にこぼすそうです。「入っていって、直接話を聞けたらいいんだが。小説のなかの素人探偵みたいに」

 話は一転、ヤングアダルト小説が流行した英米では、ミステリー作家がつぎつぎとジュヴナイルを発表しました。
 たとえば、ジョン・グリシャムが昨年はじめたシリーズの主人公は、13歳。
 これはこれで、年をとっていくのでしょうか?

 そうそう、扶桑社にはもうひとつ、スティーヴン・ハンターのボブ・リー・スワガーのシリーズがあります。
 こちらは、ご存じのとおり、着々と年齢を重ねています。
 父親からつづく年代記でもあり、生まれたときもヴェトナム経験も描かれていますから隠しようがありませんし、なにより、年をごまかすといった操作はこの作風には合いません。
 さて、そのハンターですが...詳細はまた追って!

2011年7月 4日 18:59 | | コメント(0)

 扶桑社がマイクル・コナリーを初紹介してから20年近く。
 この秋刊行される新作 The Drop で、ハリー・ボッシュは60歳になるのだそうです。
 ボッシュが60歳!

 それにあわせて、〈ウォール・ストリート・ジャーナル〉に、探偵たちの年齢についての興味深い記事が掲載されましたので、ご紹介します。

 人気シリーズほど、長期にわたって執筆され、時間も経過していきます。
 1976年に初登場したマット・スカダーは、著者ブロックによると72歳になるといいますし、ジェイムズ・リー・バークのデイヴ・ロビショーも73歳になる計算だそうです。

 もちろん、これらはあくまで計算上のこと。
 作家たちは、登場人物の年齢を操作して、若いままにとどめています。
 それがごまかしだとしても、「そうしないのは、美意識として正しくない」とジェイムズ・リー・バークは言います。
 ブロックは、今年発表されたひさしぶりのスカダーもの A Drop of the Hard Stuff で、80年代のアルコール依存症との戦いを描きなおすという形で、若いスカダーを無理なく取りもどしています。

 しかしながら、現実をリアルに描くミステリーにおいて、肝心の主人公の年齢が非現質的というのは、どうなのでしょう?
 それでも、年齢の操作は行なわれないほうが少ないぐらいのようです。

 スー・グラフトンのキンジー・ミルホーンは、1981年の『アリバイのA』当時で32歳。それから30年たちましたが、新作でも40歳ぐらいです。
「更年期のキンジーを見ることはないでしょう」とグラフトン。

 リー・チャイルドの場合は、最初の数作では主人公ジャック・リーチャーを実時間にあわせて年を取らせていましたが、肉体的なアクション・シーンがかなり無理になってきたことに気づき、40代なかばぐらいの印象で年齢を止めることにしたそうです。

 パトリシア・コーンウェルもそうですね。
 スカーペッタは、数年前に年齢をリセットされました。
「80歳になった彼女の話なんて、誰も読みたくないでしょう」とコーンウェル。

 ジョン・サンドフォードの主人公ルーカス・ダヴンポート(ダベンポート)も、1年に2~3ヵ月程度しか年齢を進めないように操作されてきましたが、22年書きつづけた結果、50歳になろうとしています。
 そこで、新作 Buried Prey では、主人公の新人警官時代を挿入。おかげで、「セックスを作中に復活させることができた」そうです。なるほど、そういう問題もあるのね!
 ちなみにサンドフォードは、かつてルーカスを作中で殺してシリーズを終わらせようとしたそうですが、編集者が大反対。理由は、これまでのシリーズ作品が売れなくなってしまうから、とのこと。
 おかげでサンドフォードはシリーズを書きつづけ、いまや21作。本人はSFやノンフィクションを書きたいのに、読者はルーカスものをもとめつづけているのです。

 そう、探偵が年をとらず、シリーズがつづくのは、読者のニーズにこたえ、あるいはそれを見こして出版社が書かせるという、経済的な側面が無視できません。
 年齢のないキャラクターの典型としてあげられるのが、マイク・ハマーやジェイムズ・ボンド、ロバート・B・パーカーのスペンサーや、ロバート・ラドラムのジェイソン・ボーン。これらのヒーローは、時間を超越したがゆえに、作家の死後も後継者によって書きつがれ、さらに読者を楽しませ、出版社をうるおすことになったのです。

 ふりかえってみれば、シャーロック・ホームズは引退して養蜂家になりましたし、ポアロは正面から老いと死が描かれました。作家の側に主人公たちの最後の作品を書こうという意志があったのでしょう。
 かたや、フィリップ・マーロウは、20年におよぶ執筆期間があっても、年齢もあいまいで、最後も描かれずに終わったわけですが、逆にそのおかげで、永遠の私立探偵のイメージを決定づけることになったといえますね。

2011年7月 4日 13:38 | | コメント(0)

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