扶桑社がマイクル・コナリーを初紹介してから20年近く。
 この秋刊行される新作 The Drop で、ハリー・ボッシュは60歳になるのだそうです。
 ボッシュが60歳!

 それにあわせて、〈ウォール・ストリート・ジャーナル〉に、探偵たちの年齢についての興味深い記事が掲載されましたので、ご紹介します。

 人気シリーズほど、長期にわたって執筆され、時間も経過していきます。
 1976年に初登場したマット・スカダーは、著者ブロックによると72歳になるといいますし、ジェイムズ・リー・バークのデイヴ・ロビショーも73歳になる計算だそうです。

 もちろん、これらはあくまで計算上のこと。
 作家たちは、登場人物の年齢を操作して、若いままにとどめています。
 それがごまかしだとしても、「そうしないのは、美意識として正しくない」とジェイムズ・リー・バークは言います。
 ブロックは、今年発表されたひさしぶりのスカダーもの A Drop of the Hard Stuff で、80年代のアルコール依存症との戦いを描きなおすという形で、若いスカダーを無理なく取りもどしています。

 しかしながら、現実をリアルに描くミステリーにおいて、肝心の主人公の年齢が非現質的というのは、どうなのでしょう?
 それでも、年齢の操作は行なわれないほうが少ないぐらいのようです。

 スー・グラフトンのキンジー・ミルホーンは、1981年の『アリバイのA』当時で32歳。それから30年たちましたが、新作でも40歳ぐらいです。
「更年期のキンジーを見ることはないでしょう」とグラフトン。

 リー・チャイルドの場合は、最初の数作では主人公ジャック・リーチャーを実時間にあわせて年を取らせていましたが、肉体的なアクション・シーンがかなり無理になってきたことに気づき、40代なかばぐらいの印象で年齢を止めることにしたそうです。

 パトリシア・コーンウェルもそうですね。
 スカーペッタは、数年前に年齢をリセットされました。
「80歳になった彼女の話なんて、誰も読みたくないでしょう」とコーンウェル。

 ジョン・サンドフォードの主人公ルーカス・ダヴンポート(ダベンポート)も、1年に2~3ヵ月程度しか年齢を進めないように操作されてきましたが、22年書きつづけた結果、50歳になろうとしています。
 そこで、新作 Buried Prey では、主人公の新人警官時代を挿入。おかげで、「セックスを作中に復活させることができた」そうです。なるほど、そういう問題もあるのね!
 ちなみにサンドフォードは、かつてルーカスを作中で殺してシリーズを終わらせようとしたそうですが、編集者が大反対。理由は、これまでのシリーズ作品が売れなくなってしまうから、とのこと。
 おかげでサンドフォードはシリーズを書きつづけ、いまや21作。本人はSFやノンフィクションを書きたいのに、読者はルーカスものをもとめつづけているのです。

 そう、探偵が年をとらず、シリーズがつづくのは、読者のニーズにこたえ、あるいはそれを見こして出版社が書かせるという、経済的な側面が無視できません。
 年齢のないキャラクターの典型としてあげられるのが、マイク・ハマーやジェイムズ・ボンド、ロバート・B・パーカーのスペンサーや、ロバート・ラドラムのジェイソン・ボーン。これらのヒーローは、時間を超越したがゆえに、作家の死後も後継者によって書きつがれ、さらに読者を楽しませ、出版社をうるおすことになったのです。

 ふりかえってみれば、シャーロック・ホームズは引退して養蜂家になりましたし、ポアロは正面から老いと死が描かれました。作家の側に主人公たちの最後の作品を書こうという意志があったのでしょう。
 かたや、フィリップ・マーロウは、20年におよぶ執筆期間があっても、年齢もあいまいで、最後も描かれずに終わったわけですが、逆にそのおかげで、永遠の私立探偵のイメージを決定づけることになったといえますね。

2011年7月 4日 13:38

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