【承前】

 さて、そもそも話の発端になったコナリーですが、彼の場合はボッシュにきちんと年をとらせているのですね。
 みなさんの印象では、いかがですか?
 たしかに近年の作品では、警察の年金について細かく語ったり、足腰が弱くなったり、老眼鏡を使ったりといったシーンが見られます。
 さらに今度の新作では、ホテルの屋上を調べるのに、自分では行きたくないからと、若い刑事に非常階段をのぼらせる、というくだりも。むかしのボッシュとは思えないですよね。
 じつは、じっさいのLAPDでは、現在最年長の殺人課刑事は58歳だといいます。つまり、ボッシュはその年齢を越えていることになります。こうなってくると、リアリティの問題が出てきます。ウソくさくなってしまっては、シリーズの存続にかかわります。
 そのためコナリーは、ボッシュに犯罪捜査を続けさせるための道を模索中だそうです。
 たとえば、市警をやめて、検察庁づきの特別捜査班に就かせるとか、あるいは、ボッシュの娘にバトンをわたしてしまう、といった思いきった変化を加えることになるかもしれないとのことです。

 こんな話を聞くと、扶桑社海外文庫で出版していた、スチュアート・カミンスキーの老刑事エイブ・リーバーマンのシリーズを思いだします。
 シカゴ市警の刑事リーバーマンは、シリーズ開始当時で、すでに60歳(ちなみに、パートナーのハンラハンも50代)。それから、物語の進展とともに年をとっていきました。
 アメリカは実質上、定年制度がないらしいので、自分が働けると思うかぎりは現役なのですね。
 リーバーマンは、年齢を逆手にとった人生経験と知恵で、事件を解決していきます。いいシリーズでしたが、わたしどもの力およばず、途中で断念することになってしまいました。申し訳ありません。

 これが英国だと、公務員たる警官には、退職・引退の時期がやってきます。
 ご存じのとおり、イアン・ランキンのリーバス警部は『最後の音楽』で引退となりました。
 それでも読者は、リーバスの復帰をもとめているそうです。ミステリー界の大立者オットー・ペンズラーも、ランキンに言ったそうです。「イアン、これはバカげているよ。きみは作家なんだ。リーバスに年をとらせなきゃいいだろう」アメリカ作家たちの作品を見てきたペンズラーらしい言葉です。
 ベストセラー作家のリーバスらしく、政治界からも反応があったそうです。スコットランド議会で、警察官の退職年齢を65歳に引きあげるよう法務省に嘆願しよう、という声があがったのです。そうなれば、リーバスがあと5年働けるから。もちろんこれは、政治家のジョークだったようですが。
 ま、いずれにしろ、ランキンはリーバスの復帰を考えているようですよ。

 引退後も事件にかかわることになったのが、大御所ルース・レンデルの主人公ウェクスフォード警部(失礼、「元警部」ですね)。
 前作で退職し、孫と遊んだり読書にふけったりして暮らすウェクスフォードは、この夏に出版される新作 The Vault で、コンサルタントとして捜査に復帰します。
 しかし、その立場上、みずから現場に立つことができません。
 作中で彼は、自分で目撃者を尋問できないと妻にこぼすそうです。「入っていって、直接話を聞けたらいいんだが。小説のなかの素人探偵みたいに」

 話は一転、ヤングアダルト小説が流行した英米では、ミステリー作家がつぎつぎとジュヴナイルを発表しました。
 たとえば、ジョン・グリシャムが昨年はじめたシリーズの主人公は、13歳。
 これはこれで、年をとっていくのでしょうか?

 そうそう、扶桑社にはもうひとつ、スティーヴン・ハンターのボブ・リー・スワガーのシリーズがあります。
 こちらは、ご存じのとおり、着々と年齢を重ねています。
 父親からつづく年代記でもあり、生まれたときもヴェトナム経験も描かれていますから隠しようがありませんし、なにより、年をごまかすといった操作はこの作風には合いません。
 さて、そのハンターですが...詳細はまた追って!

2011年7月 4日 18:59

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