リチャード・ノース・パタースンといえば、扶桑社ではずいぶんまえに『サイレント・スクリーン』(田村義進訳)、『ケアリ家の黒い遺産』(大西央士訳)という埋もれた2作品をお贈りしましたが、『罪の段階』(東江一紀訳/新潮社)以降ブレイクして、法廷サスペンスのイメージが強い読者も多いかもしれません。

 そんな彼の新作が、アメリカで5月に発売された“The Devil's Light”。
 半年ぐらい前に、当社にも検討しないかと回ってきたのですが、けっきょく見送ることになりました。
 ネーム・ヴァリューもある著者なのに、なぜか?
 まずは、作品の内容をご紹介しましょう...


 パキスタンの某所で、ビン・ラディンとその片腕ザワヒリ、そしてアルカイダのメンバーであるアル・ザロール(この人物は虚構)が密談。ザロールは、9.11十周年にあわせて、世界に大パニックを起こそうと計画を話しだします。
 それは、パキスタンから核兵器を盗み、敵国にしかけるというもの。ビン・ラディンとザワヒリの了承を得て、作戦は動きだします。
 やがてビン・ラディンは「9.11から十年めに、アメリカに核爆弾を落とす」と宣言、合衆国は恐慌状態に。
 CIAエージェントの主人公ブルックは、彼らの作戦の裏を読み、果敢に戦いを挑んでいきます――

 というわけで、翻訳出版を躊躇した大きな理由のひとつは、2011年9月という物語上のデッドラインが設定されていること。
 それまでに出版しないと過去の話になってしまって、ちょっと興ざめです。とはいえ、翻訳して編集して製作する時間を考えると、かなり困難なスケジュールでした。
 また、ストレートな謀略もので、パタースンにしては大味かなと思ったのも確かです。

 さらに、いまとなってはもうひとつ大きな問題がありますね。
 本書のアメリカでの発売は、今年の5月3日でした。
 その2日前、リチャード・ノース・パタースンは、TVでたいへんなニュースを見ます。オバマ大統領が、ビン・ラディン殺害を発表したのです。
 しかし、この作品のなかではビン・ラディンは生きています。2日後、本書はそのままの内容で発売され、結果的にはベストセラーになりました。

 このまま放置できないと考えたパタースンは、内容を修正しようと、エージェントや出版社と協議しました。
 といっても、すでに本は出てしまっています。
 そこで、修正しやすい電子書籍版で書きなおしを行なうことにしたのです。
 2009年時点でビン・ラディンが住んでいるところを書きたし、その死についても物語上の解釈をくわえました。もちろん、ストーリーの大枠は変わっていないようです。

 来年発売される予定のペーパーバック版もこの修正版によるとのことですが、問題は、すでにオリジナルの電子書籍版を買ってしまった読者も多いという点。
 いまのところ、修正電子版と交換してくれるかどうかは未定だそうです。

2011年8月16日 13:24

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