2011年10月19日
【新刊案内】

ジェフ・ニコルスン、好評です。


世間で評判の『SHERLOCK』を観て、そのウホっぷりにちょっとどぎまぎした編集Yです。
そういや、今市子さんが『萌えの死角』の中で、原作のホームズとワトスンが基本、苗字でしか呼び合わないのは、二人の関係を周囲がかんぐらないようドイルが気にしたからだって説を紹介してらしたなあ(ほんとかどうか知らないけど、なんか説得力はある)。
タイトルにあえて『SHERLOCK』と持ってきてるのは、やっぱり製作者サイドも「名前呼び」イベントこそが現代版のキモだと考えてるんでしょうね・・・・うっとり。

おっと、閑話休題。

恐る恐る出してみました、ジェフ・ニコルスン『装飾庭園殺人事件』
思った以上に、皆様に喜んでいただけているようで、ありがたいかぎりです。

やっぱり、目利きとしても頼りになる、本書翻訳者の風間賢二氏が「傑作」とおっしゃってくれているのが大きいのかもしれません。

「週刊現代」10月22日号の「特選ミステリー」欄では、関口苑生氏が紹介してくださっています!
「全編にわたっておよそ予想外で破天荒の趣向が凝らされている」との評。

twitter上でも、佐々木敦さんがお褒めくださっているのを見かけて、嬉しく思った次第です。


内容に関しては、あまり予備知識を入れず、虚心に読んでいただいたほうが、絶対面白いタイプの小説だと思います。
この本の一番の魅力は、「先が読めない」ことにあると信じるからです。
ちょっと癖の強い小説ですし、好きこのみは分かれそうですが、ぜひ試しにお読みいただけるとうれしいです!


(以下、蛇足。できれば読了後ご覧下さい)


ただ、ネタばらしにならない程度に読みどころをあげるとすれば、


構成上のポイントとしては、まず一人称多視点の叙述進行が特徴として挙げられるでしょう。
ただ、それ自体は日本でもお馴染みの手法(宮部さん、恩田さん、湊さん・・・)ですし、海外でも決して珍しいものではありません(テイストはまるで違いますが、やっぱりミステリー仕立て&一人称多視点で、個人的に記憶に残っている文学作品として、オルハン・パムクの『わたしの名は紅』があります)。

旦那さんの自殺をかたくなに信じず調査に没頭する奥さんという導入も、実は複数の人間が調査に当たっているという展開も、よくあるとは言わないまでも、ありそうなネタだとはいっていいでしょう。

たぶんこの話のミソはそこではなくて、著者がこういったミステリーの「型」を熟知していて、そのお約束を逆手にとって物語を“たくらんで”いる部分にこそあるんじゃないかなあ、と。

『藪の中』型の物語(ベルトルッチの『殺し』みたいな構成)の活用法。
複数の探偵役に、現地調査、精神分析、文芸批評といった学問的諸方法を体現させるやり口。
しかも、出てくる連中はノワールのパロディみたいなダメ警備員とか、レズっぽい医者とか、モンティパイソン的なツイストがききまくり。
この人、本当にミステリーがわかってる。

それに、前述の「先の読めない」感覚。これは本作特有の不思議なテイストです。
事件の真相にとどまらず、叙述の形式、ジャンル、さらには物語の目的すら薄靄につつまれ、著者は、これからやろうとしていることをなかなか読者に気取らせない。

ふつう、ミステリーって、風呂敷を閉じていく過程を楽しむものじゃないですか。
でも、この本は違う。
頁をめくっても、めくっても、収束するどころか、
のほほんと風呂敷の周りに、さらに接ぎ布を縫いつけていくありさま。
え、もう終盤だけど、こんな調子で大丈夫なの?
そのまま終わっちゃうような話も、純文学系だとままあるけど・・・・・。

ご安心を。
風呂敷は(たたみ方はともかく)、間違いなくたたまれます。
お約束の軌道をそれて、どこぞに飛んでいくかと思われた物語は、
しっかりムーンサルトをかまして、二本脚でぴたりと着地します(いや、逆立ちか)。
だから、この話は、いろいろヘンでも、やっぱりミステリーなのです。

ミステリーの「型」の存在を前提に書かれ、それをネタとして活用した本作は、『虚無への供物』同様、メタミステリーの要件を満たしています。

特異な推理術を駆使する探偵たちの競演。
文体と構成に通底するおもちゃ箱の稚気。
何度も姿を変えて立ち現れる事件の諸相。
そして登場人物を一堂に会しての謎解き。

でも、実際はそんなクラシカルなミステリーとは似ても似つかない、
コードを逸脱した、下品で、通俗的で、挑発的な雑食性を持つ作品。
それでいて、やっぱりミステリーであることをやめない粋なスタンス。

「その手」の小説が好きな方には、ぜひ読んでほしい。
そう願ってやみません。(編集Y)

投稿者mystery: 15:08

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コメント

ジャック・ケッチャムの翻訳はもう出ないのでしょうか?

投稿者 筋骨めぐり :2011年11月07日 15:01

いつもご愛読ありがとうございます。
ケッチャムの今後の展開に関して、答えられる範囲で返答させていただきます。
現状、最新作の合作長編の内容を検討中ですが、獲得するかどうかの結論はもう少し先になりそうです。少なくともシッチェスでの映画版の評判はべらぼうにいいんですよね……。
既刊に関しては、作品の完成度からみて、次にやるとすれば短篇集かなと思っていますが、これも未定です。なんにせよ、偏愛する作家でもあり、なんとか紹介を続けていければと考えておりますので、一層のご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

投稿者 編集Y :2011年11月08日 19:22




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