2013年03月08日
【編集部日記】

ヴァン・ダインの思い出


先日、東京創元社の担当様より、S.S.ヴァン・ダイン
『ベンスン殺人事件』の新訳版を頂戴いたしました! 
本当にありがとうございます(泣)!

かつて、飲み会でお会いした折、編集者が生粋の「ヴァン・ダイン者」だ
小一時間ちかく語り倒したのを、覚えていてくださったのですね・・・・。

そこで、今回はきわめてお恥ずかしいのですが、
ちょっとした自分がたりでも、やってみようかと・・・。
お目よごし、ほんとうに申し訳ありません。
なお、本題のヴァン・ダイン礼賛は、次回の更新でやります。
あと、ガチで扶桑社の本となんの関係もない記事であいすみません。


編集者とヴァン・ダインの出会いは、小学校三年生にさかのぼります・・・。

(ネタバレはありません)


『刑事コロンボ』、『明智小五郎の美女シリーズ』
『金田一耕助シリーズ(TV版、映画版)』、『特捜最前線』
の四作品によって、まずは「映像」を通じてミステリーの面白さに
目覚めつつ、幼年期を送ったわたくし。

小3までには、学校の図書館にあるホームズ、ルパン、
乱歩はあらかた読み終わっておりました。
同じ書架に、あかね書房の『推理探偵傑作シリーズ』という、ちょっと
不思議なマンガイラストのはいったシリーズがあって(今でもあるのかな)、
そのなかに『ドラゴンプールの怪事件』というのがあったのです。

これはもちろんヴァン・ダインの『ドラゴン殺人事件』のジュヴナイルなのですが、
当時は「しょぼいミステリーだなあ」、くらいの印象しかありませんでした(笑)。
むしろ、ブラウン神父ものの『どろぼう天国』とかが、すごく記憶に残っています。

その後、小4で初めて読んだ大人向けの推理小説が『オリエント急行の殺人』。
小6で家にある横溝正史はだいたい制覇。中学では古本屋をめぐって
鮎川、クイーン、カーなどを買い漁る、れっきとしたマニアとなっていました。
(当時、お小遣いが月500円だったので、100円のゾッキ本を奈良県北部10キロ四方の古本屋を自転車で回って5冊買ってくるのです・・・あのころは、ほんとうに「餓えて」ました)

そうして迎えた高校1年生(一貫校だったので皆すでに仲良し)。
クラスの仲間(たしか、あいうえお順の最後の四人で、席の近い者どうし)
で、推理小説の犯人当てでもやってみようか、みたいな話になったのですね。

全員、同じ本を買って、後ろを袋とじ状に糊で封して、
犯人と犯行方法を推理する試み。

当時、たぶん坂口安吾たちのエピソードなどは知らなかったかと思うので、
純粋に自然発生的にそういう話になったような気がします。
編集者以外はたいしてミステリーマニアというわけでもなかったのに、
なんであんな話になったんでしょう。よくわかりません。

で、「大変有名だけど」「意外なことに四人ともまだ読んでいなくて」
「ネタもまったく知らない」「本格推理小説」
ってことで白羽の矢がたったのが、
S.S.ヴァン・ダインの『グリーン家殺人事件』だったのです。

目次を見て、このへんが怪しいだろう、とあたりをつけ、そこで封をして、
1週間。それぞれが登場人物全員のアリバイ表をつくり、証言の抜粋をつくり、
解決されていない謎のリストをつくり・・・・いやあ、楽しかったなあ。

そして、各人が自らの推理を発表。
いざ、封をあける緊張の一瞬・・・・・すると・・・・・・

封印された最初の章で、
すべての手がかりが一覧表のかたちで整理されていたという!!

わたしたちの苦労を返せ!!
・・・あれには、ずっこけました(笑)。

まあ、そんなこんなで、ヴァン・ダインとの出逢いは、
編集者にとって大変に印象深いものでした。
これが、クイーンだったら、あるいはカーだったら、
またそれは違っていたのかもしれません。

でも、あのとき編集者は間違いなく、本格ミステリーの面白さに、
真の意味で開眼したのでした。

いまでも、編集者の「名探偵」像の中核に位置するのは、
ファイロ・ヴァンス、その人です。

しかし、世の中でのヴァン・ダインの評価は、
実のところ、決して高いものではありません。
いや、そもそもあの当時から、
いろいろとくさす人は多かったし、
今はそもそも、(若い人からはとくに)
忘れられそうになっているかも・・・・いかん、これではいかん!

そんななか、長らく新刊で手に入りにくかったヴァン・ダインの作品が、
『僧正殺人事件』を皮切りに、日暮さんの新訳で順に刊行されはじめたわけです。
今回は、その第二弾。
こんなに嬉しいことはありません。

というわけで、次回は、世にはびこるヴァン・ダインをめぐる俗説に
編集者は敢然と立ち向かいたいと思います。
いや、単なるひいきの引き倒しですが・・・・。

なお、あの青春の犯人当てに際しては、
見事正解に至ったことを最後に付記しておきます。
誰でもわかるとか、いわないで。
けっこうこれが、ちゃんと解けるようにつくってあるんですよ。(編集Y)


投稿者mystery: 18:29

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