2013年03月30日 |
【編集部日記】
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クラシック音楽とミステリー
皆様、ジェームズ・ロリンズの『アイス・ハント』(上・下)、もう読んでいただけましたか?
かかわった人間全員が、ガチで面白かったと声をそろえる、圧倒的なエンターテインメント。
『マギの聖骨』ほか、シグマフォース・シリーズにハマった方たちはもちろん、
すべての冒険SFアクションファンに自信をもってお勧めする、掛け値なしの傑作です。
ぜひ、よろしくお願いします!
というわけで、最近三冊同時並行でつくっていて、遊ぶ間もない編集Yです。
といいつつ、京都まで多田寺薬師の出開帳に行ったり、「クラコレ」行ったり会田誠展行ったりと、仕事をしてないときは、遊んでます。美術史出身者としては、見逃せないものが多すぎる・・・・。
今日の更新は、新しく弊社で獲得しました音楽ミステリーの予告もかねて、
趣味丸出しのクラシック噺など。
いやあ、本国にオファーをだしてから結構返事を待たされたので、獲れて嬉しくて。
編集者はクラシック音楽がそこそこ好きで、すごい人たちから比べればまるで大したことはないのですが、それでも年に70回くらいはコンサートに足を運びます。
今年二月から三月にかけては、邦人作曲家による作品の演奏会づいていて、日本における調性音楽の有り様と進むべき道について、いろいろ考えさせられました。
神奈川フィルによる池辺晋一郎「交響曲第八番」の初演、日本フィルによる佐村河内守「交響曲第一番HIROSHIMA」の東京全曲初演、それから、伊福部昭の歌曲全曲&室内楽演奏会。
いずれも、あれから二年になる、震災を想起させるという点でも感慨深いものでした。
池辺氏の新作はまさに震災体験に呼応して作曲された、大地と人との関係を模索した楽曲。
佐村河内氏の交響曲に関していえば、東京交響楽団が同曲のクライマックスをレコーディングしているとき、大きな余震が起こったがそのまま録音を続けた、というエピソードが想起されます。また、佐村河内氏は、今現在、震災被災者へのレクイエムとなるピアノ曲を作曲中とのこと。
(佐村河内守をご存じない方は、3月31日放送のNHKスペシャル『魂の旋律〜音を失った作曲家〜』をぜひご覧ください。演奏会で号泣する編集者が映るのではないかと、内心ひやひやしておりますが・・・在京オケの演奏会で、あんなスタオベ初めて見ましたよ・・・ヲタほどいろいろ言う人もいますが、率直にいい曲だと思いますので布教。)
伊福部昭が地震とどう関係があるかといいますと、あのNHKの緊急地震速報の「チャラリン、チャラリン」って、じつは伊福部氏の甥にあたる福祉工学の第一人者、伊福部達氏の作曲で、おじさんの「シンフォニア・タプカーラ」の一節から音型を採用しているのですね。
「シンフォニア・タプカーラ」は、アイヌの大地を鎮める足踏みの踊りにモチーフを得た楽曲で、とてもそぐわしい選曲だったりもします。ファンのあいだでは有名な話ですが、面白い豆知識なので、紹介してみました。
閑話休題。
クラシック音楽の出てくるミステリーは、古今東西、数多く存在します。
かつて、酒井貞道さんが翻訳ミステリー大賞シンジケートで、翻訳作品における、クラシックがまともに扱われているミステリーベスト5というのをされていて、「おお、しぶい!」と歓声をあげてしまいました。
個人的には、ロアルド・ダールの「ボティボル氏」(『王女マメーリア』所収)を初めて読んだときは、精神的ダメージがでかかったなあ。ある意味、にわかクラシックファンの肺腑をえぐるような、いじわるな小説でして・・・・「アレ」をやったことのない、クラシックファンはきっといませんから(笑)。
日本でも、ぱっと思いつくところでは、横溝正史(ご子息の亮一氏は著名なクラシック音楽評論家です)、高木彬光、鮎川哲也など、古い作家さんにはクラシックを題材とした作品が多いし、よりプロパーっぽい作家さんとしては、由良三郎、森雅裕、宇神幸男の各氏の作品はそれぞれ忘れられません。赤川次郎氏が大のクラオタだというのも有名な話。
最近では、中山七里氏の『さよならドビュッシー』。最新作の『いつまでもショパン』もいい感じです。
それと、なんといっても、奥泉光氏の『シューマンの指』がすごかった。ミステリーであると同時に、清冽で刺激的なシューマン論にもなっているという大傑作です。
それから、美奈川護氏の『ドラフィル!』をぜひここで、プッシュしておきたい。
メディアワークス文庫から出ているので、もしかすると皆様の目をすり抜けているかもしれませんが、創元さんから出てればふつうに「日常の謎」ものとして読まれるくらいには、立派な連作音楽ミステリーとなっています。地方のアマオケを舞台にした再生の物語。つい先日、第三巻が出て完結しましたが、本当にいいお話ぞろいなんです。ノーマークだった方はぜひ、読んでみてください。
で、ようやく本題です。
弊社でも、二か月来頼んでいたオファーにやっと返事がもらえて、
音楽ミステリーを出せることになりました。
お国はなんとオーストリア! 超本場です&けっこうレア物です。 微妙に時流にのってます!
作家の本業はクラシックの演奏家! ホンモノです。
しかも、ジャンルはサイコ・サスペンス! おお、なんとなく扶桑社らしいです。
実は少し前のミステリマガジンで思い切り紹介されてたりもするので、おわかりになる方もいらっしゃるでしょうが、いまのところはタイトルは伏せておきます。
編集者はドイツ語ができませんから、訳者さんからいただいた梗概で取得するかどうかを検討したのですが、オチのネタが「アレ」であることを知って、おおお、それなら獲るか! と。
「アレ」はもちろん、読んでのお楽しみです。
地味目のタイトルではあるかもしれませんが、ミステリーファンの方にもクラシックファンの方にも喜んでいただける作品であるかと思いますので、ご期待ください。おそらく、今年じゅうには紹介できる予定です。(編集Y)
投稿者mystery: 02:02
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アイスハント読み終わりました。作者は、読者層のバランスを考えて、おたく的な知識の披露を抑え、ストーリーをテンポ良くまとめています。そのため中だるみ無く一気に最後まで楽しめました。にもかかわらず、雰囲気的に作者の膨大な知識量を感じさせます。子供から、大人、恋愛小説好きの女の子から、私のようなマニアまで
幅広い層が楽しめる作品です。
投稿者 矢野 :2013年04月12日 00:06
アイスハントを読んでいますが、上巻と下巻で一時間ほど話が飛んでいるように思います。訳が抜けているんでしょうか?それとも原作もそのようになっているのでしょうか?
投稿者 Noname :2013年04月13日 16:45
回答申し上げます。
ご指摘のとおり、一時間(一章)分の脱落があります。
この度は当方の不手際でご迷惑をおかけすることになり、誠に申し訳ありません。
詳しくは、当ブログの4月15日付エントリーをご覧くださいませ。
よろしくお願い致します。
投稿者 編集I :2013年04月18日 17:55