きのう「クリムゾン・ピーク」の初日に、さっそく自腹で身銭切って観に行ってまいりました編集Yです(パンフも買ったよ)。

映画やっぱり面白かったですね。

本作ですが、弊社より、ノベライズが先月中旬より発売中です!!

編集担当は上司のTですが、私めがかわって宣伝をば。

 

ヒロイン、イーディス役に、ティム・バートンの「アリス・イン・ワンダーランド」アリス役で一躍人気者となったミア・ワシコウスカ。シャープ準男爵役に、今をときめく英国男子トム・ヒドルストン。そのお姉さんルシール役でジェシカ・チャスティンが出演しています。

ギレルモ・デル・トロ監督が自身、「本作の絵画のような美しさは、まさにこれまで私が制作した中で最もお気に入りの作品の一つとする理由である」と述べているように、圧倒的な映像美――舞台背景や衣装のビジュアル・イメージの只事ならぬ豊穣さがいちばんの売りとなる作品だというのは、確かにそうでしょう。

ただ、本作を映画館で楽しまれた方は、ぜひとも小説版(ノベライズ)の方にもお手を伸ばしていただきたく。

なにせ、本作「クリムゾン・ピーク」は、「小説」という形態と大変に相性がよろしいのです。

しかも実際に、すぐれた現役ホラー作家を著者として採用し、単独のゴシック小説として十分楽しめるくらい力の入った一冊に仕上がっているのですよ。

 

その辺をぜひここで力説しておきたい(笑)。なのでしばらくお付き合いください。

 

 CRIMSON PEAK.jpg

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あらすじはこんな感じです。

 

1901年、米国バッファロー。作家を目指す24歳のイーディスは、英国紳士トーマス・シャープ卿と出会い、恋に落ちる。結婚に反対する父カーターは密かに探偵を雇ってトーマスと姉ルシールの身元を照会するが、非業の死を遂げる。晴れてトーマスと結ばれ、英国カンバーランドの彼の屋敷で新婚生活を始めるイーディス。しかし、朽ちかけた館では奇怪な現象が立て続けに起き・・・

 

ギレルモ・デル・トロという人は、突き詰めていくと、まさにファン・クリエイターの鑑のような人物なわけですね。「パシフィック・リム」の"ロボット物"や、「ヘルボーイ」の"アメコミ"、「パンズ・ラビリンス」の"ダーク・ファンタジー"など、扱う素材は違えど、いずれもジャンルへの深い造詣と限りない愛情を土台として、実に勘所と要点をとらえた、かゆいところに手のとどく「王道のジャンル作品」を生み出してきた監督といえます。

 

今回、彼が取り組んだのは「ゴシック・ロマンス」というジャンル。

 

このブログに目を通されるような小説読みの皆様には自明のことかとも思いますが、18世紀のホレス・ウォルポールの『オトランド城奇譚』(1764年)に始まり、19世紀に大流行した怪奇幻想小説のジャンルであり、荒涼館を舞台に怪奇現象含みの陰惨な事件やら恋愛やらが展開するのをひとつの定型とします。

ギレルモ・デル・トロは、インタビューで、ジョセフ・シェリダン・レ・ファニュ『吸血鬼カーミラ』(1872年)の名前を出しつつ、霊感源としてエミリー・ブロンテ『嵐が丘』(1847年)、シャーロット・ブロンテ『ジェーン・エア』(1847年)をあげています。

さらにギレルモ監督は俳優・女優陣に課題図書としていろいろ本を貸し出していて、ミア・ワシコウスカはメアリー・シェリー『フランケンシュタイン』(1818年)(ついでに『エイジ・オブ・イノセンス』と『ねじの回転』も)を読み、トム・ヒドルストンは、アン・ラドクリフ『ユードルフォの秘密』(1794年)を読んだそうです。トムはインタビューでダフネ・デュ・モーリア『レベッカ』(1938年)の書名も出しています。

 

表面上は、「スリーピー・ホロウ」や「ウーマン・イン・ブラック―亡霊の館」「アウェイクニング」といった近年のゴシック・ホラーの系譜に属する映画にも見えますが、実際はもっと「小説」寄り、しかも意図的にその「小説ジャンルの王道」を復古的に映画化することを目指すというアプローチなんですね。その辺は、ビブリオマニアでもあり、作家として『ストレイン』シリーズをも大ヒットさせているギレルモらしいスタンスであり、実際、彼はインタビューで何度も「豪勢な古典的ゴシック・ロマンスを作りたい」という意図を語っています。

ヒロインのイーディス自身、ブロンテ姉妹やメアリー・シェリーを想起させるような作家志望の女性ですし、物語の中心には常に「本」が存在しています。イーディスは全編を通じてゴシック・ロマンスの原稿を書き続けていて、それが物語全体と呼応し、かつイーディスとシャープ準男爵を結ぶ「絆」として機能しています。お屋敷には巨大な図書室が登場するのですが、義姉のルシールはここでイーディスに「小口絵」の描かれた稀覯書を見せてくれます(意外な仕掛けをお楽しみに。なお、その隠された真意は、パンフの滝本誠さんの解説をご参照のこと)。その他、序盤ではコナン・ドイルに関する言及がありますし、終盤ではとある筆記具がフィーチャーされます。さらにはエンド・クレジットの後にまで・・・そう、この映画は、なにより「ゴシック・ロマンス小説についての映画」であり、きわめて意識的な「ビブリオ・ミステリ」でもあるのです。

 

すなわち。

これは、本読みにとってはぜひとも観ておかねばならない映画。

逆に言えば、書籍の形態に「戻す」ことに、とても意味のある映画。

本作ノベライズは、「ゴシック・ロマンス小説の映画化を目指した映画の小説化」というツイストの利いた企画というわけです。

 

その作家として白羽の矢が立ったのが、ナンシー・ホルダー(ナンシー・ホールダーの表記も)。

この人、アメリカで最も権威あるホラーの年間賞であるブラム・ストーカー賞を5度も受賞していて、現在は米国ホラー作家協会の副会長を務めている大作家さんなんですね。

まず、1992年「Lady Madonna」、1993年「人魚の声が聞こえる」(祥伝社『囁く血』所収)、1994年「Cafe Endless: Spring Rain」でそれぞれ最優秀短編賞、1995年『Dead in the Water』で最優秀長編賞を受賞)。この時期に書かれた『メイキング・ラブ』と『ウィッチライト』(いずれもメラニー・テムとの共著)は東京創元社さんから邦訳も出ています。ちなみに、弊社発売の短編集『ノストラダムス秘録』の中にも「禁じられた艦隊の最期」という短編が収録されています。

その後、ナンシーは『バフィー 恋する十字架』をはじめとするドラマ・ノベライズを積極的に手掛けるようになります。2011年には『The Screaming Season』で5度めのブラム・ストーカー賞(最優秀ヤング・アダルト)を受賞。手がけている作品には他にもゴシック系の作品やロマンス小説が多数あります。

筆力とジャンル理解、そしてノベライゼーション能力と、小説版『クリムゾン・ピーク』の書き手として、まさに三拍子そろった作家さんなのです。

 

実際、読んでみていただければ、すぐわかります。

これは、そんじょそこらの映画ノベライズなんかじゃない。

ちゃんとした、どこに出しても恥ずかしくない立派な「ゴシック・ロマンス小説」です。

なにせ、本気度が全然違いますから。

映画とセットで生み出された、もうひとつの『クリムゾン・ピーク』と言ってもいい。

内容的にも、情報量が映画の倍増しくらいにはなっており、各シーンでのキャラクターの心情が事細かに描きこまれていて、映画だけ観ていてもわからない部分がしっかり拾えるようになっています。

特にヒロインの心情に関しては、前半戦のシャープに惹かれていく過程や、後半の揺れる心など、驚くほど丹念に描写されています。

また、シャープ姉弟の幼少期に関しては、かなりの追加記述があり、ギレルモ監督からじっくり裏設定などを取材したうえで、入念な資料の読み込みのもと執筆されていることが伺われます。

細部では、小説版ならではの変更箇所も多々あるのですが、いずれも小説家らしいリファインになっていて、得心が行くものばかりです。謎の視点から描かれるパラグラフが挿入される仕掛けもなかなかに面白い。何より、文章が達者で小説としての密度が高い。

映画の面白さを100%味わうためにも、ぜひあわせてご一読いただきたい一冊です。

(それと、怖い映画がからきしダメな人も、小説でなら「クリムゾン・ピーク」の世界を楽しめますよ!)

 

あと、実際に映画館で観ての感想としては・・・アルジェント者なら、この映画は観ないとね

全体としては、たとえばヒッチコックの「レベッカ」だったり、フリッツ・ラングの「扉の蔭の秘密」みたいな往年のゴシック・スリラーを意識したカメラワークや音楽選択が支配的なんですが、怖がらせる要所要所の色彩設定や小道具、ショック演出の嗜好・傾向が実にダリオ・アルジェントくさい(笑)。黒手袋とかオートマタとかエレベータとかシンメトリカルな廊下とか壁の子どもの絵とか昆虫とか・・・最初に起きる殺人シーンなんて、きっとアルジェント・フリークが観たら大歓喜だと思うなあ。

もともと初期作においては、アルジェント的な美学を継承するホラーの撮り手だったギレルモ・デル・トロ。そんな彼が、久しぶりにホームグラウンドに帰って、愛するゴシック・ロマンスの世界を映像化する過程で、「好きなホラー」のテイストをも、今まで以上に衒いなく注ぎ込んできたってことなんでしょう。

当のアルジェントがさすがに昔日の輝きを喪ってしまった今日、こういう趣味性の強いアート・ホラーの極みみたいな映画を楽しげに出されると、もうこちとらこたえられませんね・・・ご飯何杯でもいけちゃいます。

 

というわけで、公開が始まりました「クリムゾン・ピーク」。

まずは映画を観て、

それから弊社ノベライズでじっくり細部と裏設定を復習して、

あわせてアートブック『ギレルモ・デル・トロ クリムゾン・ピーク アート・オブ・ダークネス(他社さんですが、これがもう、ものすごい出来の本でして! あ、そういやアルジェント研究本のタイトルも『ART OF DARKNESS』だったなw)も買って、鬼才ギレルモ・デル・トロの世界を存分にご堪能いただければ幸いです。(編集Y)

 

 

 

 

2016年1月 8日 23:31

コメント(1)

Comment

  • 記事内容とは異なる質問になってしまいます。誠に申し訳ありません。

    やはり始末屋ジャックシリーズの最新作の発売はよもや不可能でしょうか?
    無理をして扶桑社ミステリー様にはこのシリーズの最新作を出していただいてるとは思われますが、ファンとしてはやはり始末屋ジャックの新しい活躍やこの先がどうなるんだろうと非常に気になってしまい、新刊を期待をしてしまいます。

    不躾な質問をしてしまい本当に申し訳ありません。

    厳しく、非常に難しいとは思われますが、始末屋ジャックの最新作を楽しみに待っています。
    いつか店頭で手に取って、またジャックと出会えることを夢見てお待ちしております。
    よろしくお願いいたします。



    |N|2016年1月12日 00:48

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