ジャック・ザ・リッパーは、私のところにいきなり入り込んできて、自分について書くよう強要してきた。彼は一年のあいだ私を人質にとった。書き上げて出て行ってもらわなかったら、奴は私の首を掻き切っていただろう。

―スティーヴン・ハンター

 

 

切り裂きジャック(上下)小.jpg

  

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5月2日に、スティーヴン・ハンター『我が名は切り裂きジャック』が発売となります。

 

あのボブ・リー・シリーズの巨匠が、硝煙渦巻くスナイプ・アクションの世界を離れ、ヴィクトリア朝ロンドンの歴史の闇へと降臨!
英国犯罪史上最大のミステリー、ジャック・ザ・リッパーの謎に迫ります!


 

あらすじはこんな感じです。

 

1888年8月31日、ロンドンのイースト・エンド、ホワイトチャペル地区。弦月の夜、男は誘い込んだ娼婦の喉を切り裂き、腹をえぐり、はらわたを切り裂いた。
事件の発生を聞きつけた夕刊紙〈スター〉の記者ジェブは、早速現地に向かい、
惨死体を目の当たりにして、他社に先んじてスクープをとる。
その後も凄惨な凶行を次々と重ねてゆく恐るべき殺人鬼。
ジェブは、とあるパーティで知り合った音声学の碩学デア教授に推理面での
協力を得ながら、犯人の正体を暴き出すべく、事件の捜査にのめりこんでゆく......

 

 

え、なんでハンターが切り裂きジャック? と皆さんも思われるかもしれません。
ぶっちゃけ編集者もそう思います。
といいますか、一番こういうとき動揺するのは版元な訳でして、うちで一番の売れ筋で一番部数の刷れる作家さんなのに、第一報を聞いたときはもう青天の霹靂で・・・・え? 先生、新ジャンルにチャレンジしちゃうんだ・・・みたいな・・・(笑)

しかもうちではシェリー・ディクスン・カーの書いた切り裂きジャックものの『ザ・リッパー』(上・下)を、その当時もう権利をとって進めておりまして、ネタがおもいっきり被ってしまったという・・・。どれだけ外人さん、切り裂きジャックのこと好きなんだ、と。

 

ところがですね・・・いざ読みだしてみたら、これがすごく面白いんですよ!

 

内容としては、直球の切り裂きジャックもの。ただし、パトリシア・コーンウェルみたいな研究書ではなく、純然たるフィクションです。

よって、コーンウェルみたいに私財を7億ドルも投じてはいないと思いますが、それでも巻末に膨大な参考文献が付されているとこからもわかるとおり、ハンター自身が長い時間をかけてジャック・ザ・リッパー研究を深めたうえで書きあげた大労作です。(本人は、研究サイトに長大な関連論文を小説とは別途に発表しています)


構成としては、1888年8月31日のホワイトチャペルでの最初の凶行から、事件を追って話が展開し、事件の顛末を描写する切り裂きジャック本人の日記と、それを追う「スター」紙の新進気鋭の記者ジェブの回想録が交互に掲載され、そこに娼婦のひとりが遺した手紙がときどき挿入される、という感じで書かれています。
当時の関係者の書簡で構成するというナラティブからして雰囲気はバツグンなわけで、この素材にぴったりのつくりになっているといえます。

 

まず読みだして感じるのは、描写が徹頭徹尾、細かい。
最初の殺人の描写からして、シェフィールド・スチールのナイフでお腹のどのへんをさしてどんだけ右に切り裂いたらどんな臓器が見えてきてどれくらい力をいれたら筋肉がぶつんと切れて、そこからどの角度でナイフを押し込んで・・・と、とにかくねちっこい。
実はこれ、ハンターがふだん書いているアクションで、銃器に関して記述しているときの書きっぷりそのまんまなんですね。


それから、歴史的事実とフィクションを混ぜる力加減が本当に絶妙です。
この本、たぶん8割がたは、実際に起きた切り裂きジャック事件の内容にそって展開するんですが、そこにハンターならではの仕掛けがあるんですね。
これって、まさにおとどし出した『第三の銃弾』で、ケネディ暗殺事件と自作の『極大射程』をつなげてみせた力技そのまんまで、やっぱりそういうのがハンターはすこぶるうまい。思えばあのあたりから、過去の歴史にのめりこむ危ない傾向が見えてきてたんですけど(笑)、その後、ソビエトの赤軍に実在した女スナイパーを追ってゆく『スナイパーの誇り』を経て、ついにハンターの興味は19世紀まで遡行してしまったというわけです。


加えて特に強調しておきたいのは、本作が最後まで読むと、びっくりするほどちゃんと「ミステリーしてる」という点。
あまり詳しくはいえないんですが、結構明後日の方向からびしっと決まるネタが仕込んであったりして、最終章に入る前の段階で、「おお!そうきたか」って膝を打たれる方も多いのではないでしょうか。

ハンターという作家は、昔からアクション書きとはいいつつもミステリ・マインドにすぐれた人でして、一対一の銃撃戦だと思ってたら実は巴戦だったりとか、思いがけない伏せ札のネタがラストバトルにひめられてたりとか、決してただのドンパチ一辺倒の書き手ではありません。そのへんの魅力を、今回の小説では存分に味わっていただけると思います。


とにかく、「なんでハンターが切り裂きジャックを??」と思われた人にこそ、ぜひ本作を読んでいただきたい。
なぜなら、最後まで読めばこれが、ハンターにしか書けなかった、ハンターだからこそ書けた作品だということがわかっていただけるでしょうから。


本書は結局のところ、切り裂きジャックにとっての「狩りのとき」、追い詰める新聞記者にとっての「狩りのとき」を描いた小説――「屠る」ことを本能とするものどうし、「狩るもの」と「狩られるもの」の命を懸けたつばぜり合いを描いた小説なんですね。
それはまさにハンターという作家の本質。
だから、面白くないわけがない。

 

本当は、本作の構造だったり、テーマだったり、ハンターが本当にやりたかったことについては、いろいろポイントと思われる部分もたくさんあるのですが、残念ながら、どううまく書こうとしてもネタを割りかねないので、またの機会ということにさせていただきたいと思います。

一言だけ言っておくと、本作は突き詰めれば、スワガー・サーガと同根の「ヒーローとは何か」というテーマに帰着する類の物語なのだと思います。ニーチェに関する言及なども含めて、そのあたりに留意しながら読んでいただけると面白いかもしれません。

 

5月2日発売(都心部やネットでは4月29日には発売されているかと)。騙されたと思って、ぜひお手にとってお読みいただけると幸いです!!(編集Y)

(なお気の早い話ですが、本年本国で発売予定の次回作はボブ・リー・スワガーものだそうです!)

 

2016年4月28日 22:44

コメント(1)

Comment

  • 「我が名は切り裂きジャック」大変面白く読まさせて貰いました。
    流石スティーブン・ハンターです。
    一つ残念なのは解説者氏がジェブの正体について
    全く触れていらっしゃらない点です。
    協力してくれた士官に対して「わたしの本名はショー、ジョージ・バーナード・ショー
    」と打ち明ける部分は、この作品の一つのハイライト
    です。
    歴史的に、若き日のノーベル賞作家が切り裂きジャック
    を追跡していた、と云う設定も面白いと思います。
    映画俳優に費やす6行をショーについて解説戴ければ、
    と思いました。



    |星野|2016年11月12日 04:13

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