今月の扶桑社ミステリーは、もう読んでいただけましたでしょうか。

ゾラン・ドヴェンカー『沈黙の少女』

本日発売の『週刊文春』文春図書館「ミステリーレビュー」で、評論家の池上冬樹さんがご紹介くださり、★★★★の評価をつけてくださいました!

「構成の妙、視点の交錯、会心のミステリー」というキーワードで、グリシャムの『危険な弁護士』と合わせて、実にうまく本書の面白さを語ってくれています。

本当にありがとうございます!!

 

ドヴェンカーは、かつて早川書房さんでポケミス&文庫で同時発売されたことで記憶に残る『謝罪代行社』(2009、邦訳2011年)の著者さんです。

この作品でドイツ推理作家協会賞を受賞したあと、『Du』という大作を挟んで2014年に発表したのが本作となります。

扶桑社としては、ドイツ・ミステリーの翻訳出版は久々の挑戦となりますが、なにがなんでも世に出したい一作ではありました。

 

これを扶桑社が出さずして、どこが出す。

そういうテイストの小説だからです。

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こちらでカバーに付したあらすじは、こんな感じです。

 

雪の夜、ベルリン。13歳のルチアとその弟が何者かに誘拐された。
2週間後保護された彼女はそれから6年間、謎の沈黙を守りつづけることになる――。
一方、教師のミカはパブで4人の男たちと接触を持ち、仲間として加わることに成功する。
それはずっと温めてきた計画の第一歩――ミカを衝き動かすのは、父親としての妄執にも似た狂おしい想いだけだった。
予想を超える展開の果てに待ち受ける驚愕の真相とは? 
黒々とした衝撃が胸を貫き、腹を震わせる傑作ミステリー登場!

 

実は最初はもう少し踏み込んだ内容まで書いてしまっていたのですが、酒井貞道さんから頂戴した素晴らしい解説を読んで編集者としても大いに自戒し、なるべく初読の方に余計な情報を与えないようにリライトしたのでした。そのぶん、ちょっとわかりにくいかもしれませんが・・・。

酒井さんもおっしゃるとおり、本書は序盤でいろいろと伏せられている内容が多く、読者のみなさんにその面白さをストレートに紹介するのは大変むずかしいところがあります。

本来なら、本作がどういうジャンルの小説で、なにがテーマかすらも、こういうところで語るのはよろしくないのかもしれない。

だから、まずはお願いします。

騙されたと思って、とにかく真っ白な状態で手にとってみてください。

 

とはいえ紹介記事なので、蛇足ながらいちおう編集者なりに(内容に立ち入らない範囲で)読みどころを紹介しておこうとも思います。先入観なしで読まれたい方はここで画面を閉じて、書店へとお向かいください。

 

正直、読み進めていて、あまり気持ちの良い小説ではないかもしれません。

ひとによっては、イヤミスのたぐいだと思われることでしょう。

社内でも、途中で読めなくなった、という男性がいました。

 

編集者は、この作品の本質は「ノワール」だと思っています。

でも同時に、間違いなく本作は、驚くべき仕掛けを巧みに配した、極めて上質の「ミステリー」でもあります。

そして、不快な要素もひっくるめて、いつまでもどんよりと読者の胸と腹に響いて残る、本物の「文学」でもあります。

ミステリーとしては、「ああ、こういう趣向ね」という読者の勘ぐりをアクロバティックにかいくぐって、3並びの頁でいったんの頂点を迎えます。

初読時、編集者は完全にしてやられました。

うまい。この切れ味。ぞくっとくる。

すれっからしの読者ほど、この展開を予想できる人は少ないのではないか。

で、そのあとは、作家の筆力に引きずられるように、ラストまで一息で読まされるばかりです。

 

ここで描かれるのは、敢えて抽象的に述べるなら、魂の地獄であり、世界の冷徹であり、そのなかでもがき苦しむ人間の、善も悪もいっしょくたに呑み込んだ壮絶なる闘争です。

単なる、「いやな」だけの話ではない。だから胸にぐさりと突き刺さる。

しかもそれを、あえてミステリー(本格ものに近い)の文法で描こうとしている。

そこにこそ、本作が「ノワール」と呼ばれ得る所以があります。

 

それと、もう一つ、どうしても強調しておきたいことが。

ゾラン・ドヴェンカーの著作活動のベースは、じつはミステリーではありません。

児童文学なのです。

彼は、これまでにいくつもの賞を総なめにしてきた、第一線の児童文学者なのです。

日本でも、岩波書店さんから、『走れ!半ズボン隊』『帰ってきた半ズボン隊』という2冊が、すでに紹介されています。これが驚くなかれ、カナダの田舎を舞台に、少年たちが探偵として大活躍する児童向けのミステリー小説だったりするんですね。

しかもドヴェンカーは発表当初、これを架空のカナダ人作家をでっち上げたうえ「翻訳書」として出版し、あげく名義貸ししただけの翻訳者が賞まで受賞してしまったというオチまでついたそうで(笑)。なんとも人を食った――どこまでもミステリー・マインドに満ちたお遊びではないですか。

 

『沈黙の少女』は、そういう作家さんの手によって生み出された作品です。

読了後、そのことに立ち戻ったとき、みなさんはいったい何を思われるでしょうか。

 

個人的には、かなりの思い入れがある作品でございます。

ひとりでも多くの方に読んでいただけると幸いです。(編集Y)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2019年7月11日 22:13

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