2019年9月アーカイブ

 江戸川乱歩が「たった一冊の本だけで探偵小説史に名を連ねている作家」と評した、ファーガス・ヒューム。その一冊こそ、『二輪馬車の秘密』です。

 オーストラリアはメルボルン在住のファーガス・ヒュームは、弁護士事務所で働くかたわら、エミール・ガボリオの『ルコック探偵』にならって『二輪馬車の秘密』を書きあげ、1886年に自費出版するや、たちまち大ヒット。当時、人口50万のメルボルンで、その年のうちに2万部、増刷分あわせて10万部を売ったと言います。
 その後、英国で出版されると50万部、さらに米国で50万部と、まさに歴史的な大ヒットとなります。

 そう、『二輪馬車の秘密』は、シャーロック・ホームズをしのぐ、19世紀ミステリー界最大のベストセラーなのです。

 そして、その日本語翻訳3種が、歴史を超えて、電子版&プリント・オン・デマンド版で一堂に会するという奇跡が実現しました!

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 まずは、作品の全貌を伝えるのが『二輪馬車の秘密【完訳版】』です。
 訳者は、プロンジーニ&マルツバーグの快作(怪作?)『裁くのは誰か?』(創元推理文庫)等で知られる高木直二氏。

 深夜の街を走る二輪馬車のなかで、身元不明の紳士が殺害されたという事件を伝える新聞記事からはじまる物語は、検死審問、被害者の身元捜査、容疑者の特定とその追跡、心理戦と法廷劇へとつづき、やがて予想外の展開を見せます。
 さまざまな叙述スタイル、都市風俗の活写、そしてロマンスが全編を彩ります。

 19世紀の人びとを夢中にさせた黎明期のミステリー小説をご堪能ください。



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 上記が『完訳版』と謳っているように、日本のミステリー界では、『二輪馬車の秘密』は長らく抄訳でしか読めませんでした。
 翻訳者は、かの横溝正史。
 その貴重な翻訳が読めるのが、電子版『横溝正史翻訳コレクション』および、プリント・オン・デマンド版『二輪馬車の秘密 横溝正史翻訳コレクション』です。
 昭和3年(1928年)に雑誌「新青年」に掲載され、のちに単行本になる際に補訳されています。

『八つ墓村』への影響をうかがわせる、もうひとつの翻訳『鍾乳洞殺人事件』とカップリングでも、単独でもおもとめいただけます。




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『二輪馬車の秘密』の日本における歴史は、じつは、さらにさかのぼります。
 原書が出版されてわずか5年後の1891年、すなわち明治24年に、『鬼車』のタイトルで出版されていたのです。
 その幻の本邦初訳が、今回ついに復活しました。
『鬼車 二輪馬車の秘密【明治翻案版】』です。

 訳者の丸亭素人(まるてい・そじん)は、黒岩涙香との共訳も残している人物。
 ということからもおわかりのとおり、本書も涙香スタイルの、いわゆる翻案小説で、舞台はメルボルンながら、町や人は日本名に変えられ、内容もある程度自由に取捨選択されています。
 当時の文章をなるべくいかしたまま、表記を現代仮名遣いにあらため、読みやすい形でお届けします。
 編集は、完訳版の訳者でもある、高木直二氏。

 ぜひ、明治の名調子をお楽しみください。


 こうして、そろい踏みを果たした、ファーガス・ヒューム『二輪馬車の秘密』の翻訳各種。
 21世紀のこの時代に、まさか扶桑社でこんなことが実現するとは、正直、こちらも驚きです。
 ぜひお見逃しなく!

2019年9月24日 11:37 | | コメント(0)

 あの、エロ・グロ・ホラー小説の旗手にして、マニアックな映画評論家として知られる、友成純一氏の長編エッセイが、シリーズとなって扶桑社から発売中です。

 電子書籍&プリント・オン・デマンドのみの発売なので、ご存じないかたも多いかもしれません。

 見逃すにはもったいない叢書なので、ここにご紹介する次第です。

『バリ島裏町日記』  紀伊國屋書店honto楽天amazon
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 友成氏は現在、日本を離れてインドネシアはバリ島に住んでいます。

 もともとはダイビングにハマり、ガイドもしていたのですが、海に潜らなくなったいまも、南の島で生活をつづけています。

 しかも、町外れと盛り場の真っ只中とを行ったり来たりの、気ままなひとり暮らし。

 地元民が作る危険な酒におぼれ、カラダひとつで家族を支える明るい売春婦たちとたわむれ、ときに頼られ、ときにカモにされ、さらにはバイク事故やスキミングに遭い...という、極楽にして地獄、平穏にして波乱万丈の日々を活写します。

 観光では絶対にわからないバリ島の裏の世界へ、ぜひどうぞ。


『猟奇作家の誕生』  紀伊國屋書店honto楽天amazon
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 いまでこそ、映画評論家としての活躍が目立つ友成氏ですが、本来は、そう、ご存じのとおり、すさまじい破壊力を持ったエロ・グロ小説家。

 さらにさかのぼれば、デビューは伝説的ミステリー雑誌「幻影城」のコンテストに投稿した、難解なリラダン論でした。

 そんな友成氏は、おなじ「幻影城」で世に出た霜月信二郎氏のツテでエロ本業界に入り、竹熊健太郎氏らと自販機雑誌を舞台に活躍するのですが、いつしか酒におぼれ、アルコール依存症となって狂乱の淵へと落ちてゆくことに――

「映画芸術」小川徹氏との出会い、講談社・宇山日出臣氏との野心作、子供の頃からのSFへの思い等々、作家・友成純一の原点と人生を変えた交友、そしてバブルに浮かれた当時の出版界の騒乱を描きだす、私小説的一編。

 当時のSF・ミステリーを愛するファンも必読です。


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 もともと引きこもり的な傾向があったという友成氏ですが、人気作家となるや、先輩SF作家たちとの旅行に参加するようになります。

 そして、決定的だったのは、前著『猟奇作家の誕生』に書かれているような、生活の激変。こうして英国に移り住んだ友成氏は、さらなる旅から旅への暮らしに突入します。

 本書は、長年にわたって世界中をまわった氏の、驚きの旅行記です。

 ロンドンの変態スポット巡りにはじまり、ネス湖やヘルファイア・クラブ跡地といった英国の怪奇ポイント、ヨーロッパ各地からタイ・インド・韓国等々、世界中のファンタスティック映画祭を駆けめぐる日々。

 なかでも圧巻は、旧満州=極寒の中国東北地方奥地への取材旅行。それは、父親との関係を見つめなおし、再発見する、重要な旅となるのでした...

 もうひとつ注目すべきは、ダイビング先のインドネシアの海で出会った、漂海民・バジョ。
 海の上で暮らす人びとの生活を間近で観察した、貴重な記録になっています。


『極私的インドネシア映画』  紀伊國屋書店honto楽天amazon
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 ここまででおわかりのとおり、友成氏はバリ島暮らしなわけですが、ダイビングから足を洗って街なかに居を移した友成氏を待っていたのが、あふれかえる海賊版DVD映画でした。

 こうして見はじめたインドネシア映画の豊穣な世界を、友成氏ならではの切り口で語りおろしたのが、本書です。

 まずは、友成氏の本領であるホラー映画。インドネシアでは、片腕の女看護師やら、死に装束でキョンシーよろしく跳ねまわる亡霊やら、腹が裂けた血まみれの女性やら、はては柄杓ババアに鍬ジジイやらといった奇々怪々なキャラクターたちが、手を変え品を変え、観客をおどかし、震えあがらせつづけているのです。

 国民的娯楽である映画界には、数多くの鬼才が集い、ホラーのみならず、青春ものから社会風刺、ラブ・コメディからイスラム教徒向け大河ドラマまで、多種多様な作品が作られています。

 日本では『ザ・レイド』とイコ・ウワイスばかりが有名なインドネシア映画ですが、これはその隆盛を見つづけてきた友成氏による、臨場感あふれる現場リポート。作品を見たことがなくても楽しくなる、まさに決定版のガイドです。

     *     *     *     *     *

 ヴァラエティに富んだ内容で楽しめること請け合いの《友成純一エッセイ叢書》。

 じつはまだ続刊がひかえていますので、お楽しみに!

2019年9月18日 20:59 | | コメント(0)

お待たせいたしました!

スティーヴン・ハンターの新刊が、ついに発売となりました!

その名も、『狙撃手のゲーム』(上・下)。

原題は『Game of Snipers』。なんか、かっこよくないっすか?(著者いわく、タイトルは『ゲーム・オブ・スローンズ』に影響されたらしいw)

最後にsがついているのをみてもわかるとおり、スナイパーは一人ではありません。

「二人」の天才による壮絶な死闘。ゲームは、「ゲーム」であり、「獲物」でもあります。

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ついに、我らが天才スナイパー、ボブ・リー・スワガーが、バリバリのアクション・ヒーローとして僕たちのもとに帰ってきました!

 

前作『Gマン 宿命の銃弾』(上・下)では、祖父チャールズの過去を追う狂言回しに徹した感のあったボブ・リーですが、今回は冒頭から事件に積極的に関与し、全編にわたって捜査に、追撃にと大活躍。

走る! 飛ぶ!   そして撃つ!!

燃え盛る業火の中に単身飛び込む!(マジか!?)

武装したテロリストに、丸腰でタックルかます!!(正気か爺さん!?)

とにかく、ボブ・リーが元気、元気。

それだけで、なんかもう泣けてきます!

これでこそ、俺たちのボブ・リーだぜ!

 

解説の野崎六助さんが、「ヒーローの高齢化問題」という、きわめて重大かつタイムリーな切り口で、今回のボブ・リーの扱いについて鋭く切り込んでくださっていますが、(かつて前任編集者Tもこのブログで、ミステリー主人公の年齢問題について言及しておりました→こちら その1 その2 その3)、

本作におけるハンターは、ある意味、長い迷いの時期を抜けて、ようやくどこか吹っ切れた感があります。

これまで、ボブ・リーの息子を出して代替わりを狙ってみたり、老いたボブ・リーの出番を限定的に絞ってみたりと、いろいろな試みにチャレンジしてきてはみたものの、広範な読者からの支持はどうも得られないらしい。

ならば、いっそのこと居直ってみるか。

「いいじゃん、おじいちゃんが活躍しても! どうせ作者も読者のメインも同世代さ!」

「実際、今日びの70代は肉体的にも断然若いし、アクションだって上等だぜ!」

ホントにそんな感じかどうかは知りませんが、本書『狙撃手のゲーム』には、いい意味での「肯定的な高齢ヒーロー」としてのボブ・リー・スワガーが、神々しく降臨しております。

まあ、クリント・イーストウッド(89)の大活躍ぶりを見ても、日本における里見浩太朗(82)や千葉真一(80)、北大路欣也(76)諸氏のすこぶるお元気そうなご様子を見ても、ボブ・リーの74歳なんて、まだまだ若い若い。

ボブ・リーはちょうど、スタローンやシュワルツネッガーと同世代。

変に作者が気をつかって、楽なミッションやらせてお茶を濁すよりも、バンバン動かしバンバン戦わせたほうが、「むしろ自然」な気さえします。

 

「帰ってきた」のは、超人的シューター、絶対的ヒーローとしてのボブ・リーの勇姿だけではありません。

過去編に話の力点が置かれていたここ数作と異なり、今回は久方ぶりに、現代アメリカを舞台とした、全編追いつ追われつの、圧倒的な王道スナイプ・アクションに仕上がっています。

敵役であるジハーディスト「ジューバ・ザ・スナイパー」は、ボブ・リー自身が「自分より射撃の腕は上」だと語る、真の意味での強敵中の強敵。

アメリカ本土に潜入し、超・長距離狙撃をくわだてる彼の壮大なミッションを、果たしてボブ・リーと仲間たちは止めることができるのか。そもそも、ジューバの標的とは、いったい誰なのか。

ハンターは、ジューバ・サイドが緻密に進捗させてゆく狙撃計画の過程と、それを阻止するため知恵を絞って必死で追い続けるボブ・リー&メンフィス・チームの動向を交互に描きながら、手に汗握るサスペンスをじわじわと醸成していきます。

 

撃つことを生業とし、その技倆においてそれぞれの神に祝福された、究極の存在が二人。

世界でもっとも反発しあい、同時にもっともわかりあう二人の男が、相対します。

それぞれが、属する世界と信じる正義のすべてを背負って、激突する。

当然ながら、スナイパー対スナイパーの極限の闘争は、

やがて、命を懸けた「狩りのとき」(タイム・トゥ・ハント)へと導かれることでしょう。

お互いの額に、お互いのレティクルの十字がピタリと合う、その瞬間・・・・・・。

はたして、最後に立っている(ラストマン・スタンディング)のは、どちらの男なのか??

 

いやあ、シビレますね。

ね、読みたくなってきたでしょう?

ぶっちゃけ、絶対に後悔はさせません。

パブリッシャーズ・ウィークリーの「『ジャッカルの日』と並べおくべき一書。それほどに素晴らしい」の言を引くまでもなく、編集者として、皆さまに最高の読書体験をお約束します。

 

さて今回、ちょっと気にして欲しいのが、巻頭にひかれた文言です。

言葉の主は、「親衛隊中佐レップ」。この名前、皆さん、どこかで耳にした覚えがないでしょうか?

実はこの「レップ」という人物、実在の人間ではありません。

これは、昨年弊社から復刊させていただいた、スティーヴン・ハンターのデビュー作、『マスター・スナイパー』の主人公の名前なんですね。そう、あの、ナチス・ドイツが誇る凄腕スナイパー。

では、なぜ、そのレップの言葉がわざわざ巻頭で引用されているのか。

そうやって改めて考えてみると、本作『狙撃手のゲーム』の作品構造は、実は『マスター・スナイパー』と随所でかなり似かよっていることに気付かされます。

敵の狙撃手が、味方の追跡者とともに、ダブル主人公として話を引っ張る構図と展開。

敵の作戦遂行過程と、それを阻止する側の追跡劇を交互に描写してゆく、シンプルな物語構造。

味方陣営(『マスター・スナイパー』なら連合国、『狙撃手のゲーム』なら米国)とは、まったく異なる大義と正義に基づいて行動する、アンチ・ヒーローとしてのレップ(ジューバ)の描写。

細部のモチーフにも相似が見られます。アンチ・ヒーロー側の作戦内容(ジューバが過去に遂行した凶行と、レップが携わる任務の究極の目的)の類似は火を見るより明らかですし、何より、「試し撃ち」が準備行動として重要な役割を果たす点がまるきり共通しています。それぞれの第一章は、実のところ、同じエピソードの変奏といってもいいでしょう。

 

『極大射程』から26年。

ハンターは、ボブ・リーが活躍する初期三部作のあと、彼の父を主人公とする新・三部作を書き、その後今度は息子を登場させ、さらには祖父の事績を掘り下げてきました。

ボブ・リー自身はすでに老境に足を踏み入れています。

そんななか、ハンターは、ボブ・リーを久々に本格的なスナイプ・アクションの只中に復帰させることを決意したわけです。ヒーローとしての復帰戦。いわばシリーズの中締め、仕切り直しです。

ここでハンターは、ある種の「原点復帰」を志したのではなかったか。

だからこそ、彼はあえて自分の第一作である『マスター・スナイパー』の祖型を、「米対アラブ」の現代的テーマに再導入し、作品間の随所にリンクをはってみせたのではないか。

さらには巻頭にレップの言を引くことで、この「自作の本歌取り」を包み隠すことなく、おおっぴらにわれわれに明示してみせたのではなかったか。

そんなことを思うわけです。

 

全体としては、正調のスナイプ・アクションに真正面からシリアスに取り組みつつも、

矢継ぎ早に速射砲のような質問をボブ・リーに浴びせるモサドの変人エージェントのくだりとか、

アメリカのジャンク・フードに舌鼓をうつジューバの妙にフレンドリー(?)な描写だとか、

老人扱いされて、中盤からなかなか銃を手にさせてもらえないボブ・リーの描写などからは、

『四十七人目の男』を実に楽しそうに書いていた著者のオフビートなユーモアのセンスもうかがえます。

終盤の展開自体は、ハンターにしては直球勝負というか、言うほど凝っていない感じもしますが、かわりに中盤付近に、かなり意表を突く展開が待ち受けています。

冒頭でボブ・リーを「現場」にカムバックさせただけでなく、その後も随所で大活躍を見せる「アメリカの母」の印象的なキャラクターにも、ぜひご注目ください。

それから、非常に注意深い筆致で、アメリカの「分断」の双方に深入りすることを巧みに避け、相応にバランスのとれた立ち位置から、純粋に面白いアクション小説を書くことに専心しようとするハンターの作家的姿勢にも、編集者は大きな感銘を受けました。

 

そして、あいも変わらずネチネチと書き継がれる銃器の描写!

やっぱり、これがないとハンターじゃないですよね! 最初に、本作の主役は二人のスナイパーだと言いましたが、正確にいえば、ハンター世界においては、銃器こそが常に真の主役の座に君臨するのです。

今回は、ライフルのみならず、その銃弾が物語上、大きな意味をもちます(ここのところも『マスター・スナイパー』と共通します)。ハンターらしい、いつ終わるともしれないマニアックなガン描写と薀蓄が引き起こす、眩暈のようなトリップ感覚を、じっくりご堪能ください。

 

なんにせよ、ハンターの愛読者で、狙撃手VS狙撃手というシチュエーションで、燃えない方はいらっしゃらないでしょう。ですよね?

久方ぶりとなる、誰もが待ちに待った、ハンター印の本格スナイプ・アクションを皆様にお届けすることができて、編集者としても嬉しいかぎりです。

ぜひ、ご一読くださいませ!(編集Y)

 

 

 

2019年9月 7日 18:19 | | コメント(0)

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