2020年3月アーカイブ

 ケン・フォレットの『火の柱』(上・中・下)

 

あの世界2000万部の大ベストセラー、

『大聖堂』『大聖堂―果てしなき世界』の正統なる続編。キングズブリッジ・シリーズの最新作、待望の登場です!

上・「中」・下巻構成ですので、お間違えのなきよう!

 

cover_1-3_dataS.jpg

■オンライン書店で購入する(上巻)
amazonセブンネットショッピング楽天hontohonto

 ■オンライン書店で購入する(中巻)
amazonセブンネットショッピング楽天hontohonto

 ■オンライン書店で購入する(下巻)
amazonセブンネットショッピング楽天hontohonto

 

本書は、扶桑社ミステリーから発売されてはいますが、いわゆる「歴史小説」です。(当然、謎解きの要素や冒険の要素はあります)。

舞台となる街は『大聖堂』『大聖堂ー果てしなき世界』と同じですが、今回は大聖堂を建てる話ではありません。

時代も前作から数世紀過ぎた16世紀に設定されていて、前作とは基本お話のつながりはなく、本書から読んでいただいてまったく差し支えありません。

ただし節目節目で、あの大聖堂が祝祭と悲劇の舞台となりますし、前作の登場人物の子孫が登場したりはしますが。

途中から、お話はイギリスを飛び出して、パリやセヴィーリャ、スコットランド、カリブ諸島、アントワープなど、各地で様々な登場人物が、仕事や宗教、人生の苦難、運命の愛にそれぞれ直面することになります。

 

先に言っておきます。

 

こんなに読んでいて無性に先が気になり、

ほとんど力ずくで夢中にさせられた本は

編集やってて本当に久しぶりかもしれません。

 

さらにいえば、

この「分断の時代」に、これほど皆さんに読んでほしい本もありません。

ここで描かれるプロテスタントとカトリックの壮絶な対立と闘争の歴史は、そのまま、21世紀に現出した西洋対アラブ、あるいは保守対リベラル、穏健派対強硬派といった、現代社会の「写し絵」にほかならないからです。

登場人物たちの苦悩は、そのまま、今の時代に生きるわれわれの苦悩でもあります。

 

フォレット、マジぱねえ!

商売上のリップサーヴィスではなく、正真正銘「一読者」としての編集者の感想です。

歴史小説としても、恋愛小説としても、一人の若者の一代記としても、まごうことなきランクAクラスの傑作!

こんなに面白い本を、扶桑社から出てるからってだけの理由で読まないでおくのは、本当にもったいない!! そう思います。

 

上巻出だしのあらすじはこんな感じです。

 

 16世紀中葉のイングランド。大聖堂を擁する河畔の商業都市キングズブリッジで貿易を営むウィラード家は、カトリックでありながらもプロテスタントに対しても寛容な家柄だった。一方、商売敵でもあるフィッツジェラルド家は頑ななカトリックで、両家の仲は決していいとは言えなかった。ネッド・ウィラードとマージェリー・フィッツジェラルドは恋仲だったが、彼女の両親の反対にあって引き裂かれる。失意のネッドはサー・セシルを頼ってエリザベス・チューダーの下で仕事をするようになるが...。

 

舞台は16世紀。英仏宗教戦争のまっただなか。

時代に翻弄されるふたりの女王と、市井の人々。

布教、秘密礼拝、暗躍するスパイ、密告、拷問、火炙り。

王族の対立、大虐殺、報復の連鎖、戦争、大海戦、斬首刑。

秘められた愛、非業の死、跋扈する悪、やがて待ち受ける宿命の対決。

すべてが終わったあとに残される、未来への希望。新世界。

ありとあらゆる「物語の醍醐味」が、文庫本で1700ページになんなんとするこの長大な小説のなかでひしめきあっています。

 

とにかく、長年ケン・フォレットを訳してこられた翻訳者の戸田裕之さん自身が、

『大聖堂』に勝るとも劣らない、フォレットの最高傑作だ

とはっきりおっしゃっています。信じてもらって、大丈夫です。

 

かつて『大聖堂』を読まれて、あれはめっぽう面白かったという方にとっては、本書はもちろんマストアイテム。

お読みになって後悔されることは断じてない、と版元として請け合います。

そうじゃない方、ケン・フォレットを知らなかった方、あるいは昔の古い作家だと思っていたという方も、騙されたと思ってぜひ読んでみてください。

たとえ扱っている時代が16世紀であっても、驚くほどヴィヴィッドに「いまのお話」として読める小説ですから。

もちろん、ヨーロッパ史のなかでもとくに難解な時期の宗教と政治の闘争史が、すっきりわかりやすく頭に入ってくるという、歴史小説としての役得もあります。塩野七生さんや北方謙三さんの歴史ものが楽しめる方なら、『火の柱』もきっと存分にご堪能いただけるはず。

小説としては、......とにかく悪役が憎たらしい。これに尽きるかも(笑)。

本書の主人公はネッド・ウィラードですが、ピエール・オーモンドもまた、立派にもうひとりの主人公といっていいでしょう。こういうゆがんだ人間の業みたいなものを描かせると、フォレットは本当に天才的ですよね......。そういえば、出世作『針の眼』も、ある種の悪漢小説でした。

 

長い。そうですね。確かに長い。

それでも、費やされる労力と時間に見合うだけの、至高の読書体験をお約束します。

いろいろ大変な時期で、在宅時間も伸びているであろう今こそ、ぜひこの超大作歴史ロマンをお供に、長い夜をのりきっていただけると幸いです!

(編集Y)

 

2020年3月16日 04:34 | | コメント(0)

少しブログでのご報告が遅くなりましたが、

弊社からも多数の小説を出版いたしております、アメリカの冒険小説作家、クライブ・カッスラー氏が、2020年2月24日、ご自宅にて逝去されました。

謹んで、心からのお悔やみを申し上げます。

 

cussler.png

 

クライブ・カッスラー氏は、1931年イリノイ州オーロラ生まれ。
朝鮮戦争から除隊後に、広告代理店を経営しながら執筆をはじめ、1973年『海中密輸ルートを探れ』でデビュー。
1976年発表の第3作『タイタニックを引き揚げろ』で一気にブレイクを果たします。
ダーク・ピットを主人公にしたメイン・シリーズに加えて、2000年以降は共著者を迎えて複数のシリーズを展開。作品は40を超える言語、100を超える国で翻訳されています。

まさに、冒険小説界の巨匠中の巨匠。
作家活動のかたわら、巨額の印税をもとでに、自作に登場する架空の組織NUMA(国立海中海洋機関)を実際に設立、多くの沈没船や行方不明船の発見に尽力してきた、というのがなんというかもう、スケール感からしてちがいます。クラシック・カーのマニアとしても著名でした。

 

弊社で最初に出版させていただいたのは、彼の最後の単独作となる『大追跡』(探偵アイザック・ベル・シリーズ第一作)。

その後、ソフトバンクさんから〈オレゴン号〉シリーズ、〈ファーゴ夫妻〉シリーズを引き継ぎ、新潮社さんで手放された〈NUMAファイル〉シリーズ、〈ダーク・ピット〉シリーズも継承、現在は彼のほぼ全シリーズを随時刊行しております。

YAHOO!ニュースのお悔やみ記事のコメント欄などを見ていると、やはり70年代~80年代のカッスラー作品への言及が多くて、「いまは刊行されていないので残念」などという声もありましたが、そんなことはありません。

昔とおとらぬ面白さの新作を、毎年3~4点弊社より刊行しておりますので、ぜひ今後ご贔屓になさっていただければ幸いです。

 

いま本国ですでに刊行/脱稿済で残っている未訳作としては、〈ダーク・ピット〉シリーズが1作、〈オレゴン号〉シリーズが1作、〈ファーゴ夫妻〉シリーズが2作、〈NUMAファイル〉シリーズが7作、〈アイザック・ベル〉シリーズが8作ございます。

なので当分は引き続き、カッスラー節をお楽しみいただけるので、ファンの皆様はまずはご安心ください。

もしかするとクランシー銘柄のように、どのシリーズも引き続きカッスラーの原案のもと書き継がれる可能性もあるでしょうし、そのあたりの詳細がわかりましたら、またご報告いたします。

 

まずは、3月末に〈NUMAファイル〉シリーズの第10弾、『気象兵器の嵐を打ち払え』(原題 The Storm)が弊社より刊行されます。

さらに、5月末(店頭6月頭)には、〈オレゴン号〉シリーズの最新作『The Final Option』

夏には〈ダーク・ピット〉シリーズの最新作『Celtic Empire』を刊行する予定です。

 

ずっと追ってくださっている読者の方も、久々に名前を聞いて懐かしく思っておられる方も、これからどしどし世に出ていくカッスラー活劇を、ぜひ楽しみになさってください。

 

最後に、懐かしいインタビュー記事を紹介しておきます。

実はカッスラー氏が6年前に来日された際、当時編集者の同僚で、カッスラーを担当していたI氏(現在はフリー)と、築地だか月島だかで、お好み焼きを食べにいったことがあります(笑)。

2000年以降は共著者を立てて、自分は楽して適当に書かせてるんだろうとか思っておられる方もいらっしゃるかもしれませんが、結構ガチでカッスラー氏がコミットしてた様子が伺える貴重なインタビューですので、ぜひご一読いただければ幸いです。

『クライブ・カッスラー スペシャルインタビュー』こちら

(ちなみに記事内で紹介されているプレゼント企画はすでに終了しております。ご了承ください)

(編集Y)

 

以下、扶桑社ミステリーより刊行済みのクライブ・カッスラー作品リスト

ダーク・ピット・シリーズ
『黒海に消えた金塊を奪取せよ』上下(記事は
こちら

 

NUMAファイルシリーズ
『粒子エネルギー兵器を破壊せよ』上下(記事は
こちら

 

探偵アイザック・ベル・シリーズ
『大追跡』上下
(品切)
『大破壊』上下(品切)
『大諜報』上下
(電子のみ)

 

オレゴン号シリーズ
『謀略のステルス艇を追撃せよ!』上下
『水中襲撃ドローン〈ピラニア〉を追え!』上下
『ハイテク艤装船の陰謀を叩け!』上下
『戦慄の魔薬〈タイフーン〉を掃滅せよ!』上下
『秘密結社の野望を阻止せよ!』上下(記事は
こちら

 

ファーゴ夫妻シリーズ
『マヤの古代都市を探せ!』上下
『トルテカ神の聖宝を発見せよ!』上下
『ソロモン海底都市の呪いを解け!』上下
『英国王の暗号円盤を解読せよ!』上下
『ロマノフ王朝の秘宝を奪え!』上下(記事は
こちら

 

 

 

 

 

 

2020年3月10日 22:48 | | コメント(0)

われらがジャック・ケッチャム先生が亡くなってから、はや2年。

(そのときの追悼記事は こちら

このたび、扶桑社では命日の1月24日に合わせまして、当然ながら日本全国津々浦々の書店さんでケッチャム・フェアが開催されることを期して、2月頭に著者の代表作&デビュー作である『オフシーズン』を新刊扱いで復刊いたしました!

10年以上にわたって、ながらく品切れ扱いが続いていた本書を、ようやく書店の店頭でみなさんにお届けできるようになったことを、心からうれしく思います!

 

オフシーズン.jpg

■オンライン書店で購入する
amazonセブンネットショッピング楽天hontohonto

 

 昨年復刊した『シンプル・プラン』(スコット・スミス 近藤純夫訳)同様、カヴァーは旧作のままで、帯だけ新帯に変更しての復刊でございます。

帯には、愛蔵版公刊時に付されたスティーヴン・キングの推薦文。いわく、

 

『全米一怖い作家は誰だ? きっとジャック・ケッチャムさ。

「オフシーズン」の無修正版を感謝祭の日に読んだら、きっとクリスマスの日まで眠れなくなること請け合いだ。スティーヴおじさんが警告しなかったなんて言うなよ、はっはっは......』

 

風間賢二さんの旧版あとがきは、ケッチャムデビュー当時の空気感と世の中の評価が伝わってくる歴史的価値のある評論ですので、そのまま再録いたしました。

代わりといってはなんですが、訳者の金子浩さんに、ケッチャム逝去後の最新の状況を簡潔にまとめたあとがきを、新たに書いていただきました。

あらためまして、あらすじはこちら。

 

避暑客が去り冷たい秋風が吹き始めた九月のメイン州の避暑地。

ニューヨークから六人の男女が休暇をとって当地にやって来る。

最初に到着したのは書箱編集者のカーラ。すこし遅れて、彼女の現在のボーイフレンドのジム、彼女の妹のマージーとそのボーイフレンドのダン、そしてカーラのかつてのボーイフレンドのニックとそのガールフレンドのローラが到着した。

六人全員が到着した晩に事件は勃発した。

当地に住む"食人族"が六人に襲い掛かったのだ。

"食人族"対"都会族"の凄惨な死闘が開始する。

 

ケッチャムといえばみなさん、『隣の家の少女』を想起される方がほとんどかと存じます。

でも、『オフシーズン』こそは、彼のもう一つの代表作。ゆめ読み逃してはなりません。

デビュー作でありながら、あまりの内容の凄惨さにビビった出版社の検閲まがいの発禁処分にあって、長らく幻となっていた大問題作。

両作を揃えてこそ、ケッチャムという作家は初めて理解できる、といっても過言ではないでしょう。

 

突然ふりかかる天災のような暴力と、繰り広げられる露悪的なまでに過剰な血みどろの惨劇。

苦難に立ち向かう者たちへと向けられる思いのほか真摯なまなざしと、彼らが迎える結末の善悪を超えたある種の絶対的な平等性。

デビュー作には作家のすべてがあらわれる、とはよくいう言い回しですが、まさにここには、ジャック・ケッチャムという偉大な作家の文学的本質が、まざまざと刻印されています。

あと、なんとしても読んでいただきたいのが、〈作者あとがき〉。

出版社とのいざこざを熱い筆致で活写しつつ、ケッチャム自身の口から、自らの作家性のなんたるかがきわめて明快に語られています。

 

さまざまな恐怖と災厄に直面して、誰もが不安におののく今日にこそ、本書はこの苛烈で不透明な世界の真実と向き合う一書になるやもしれぬ、とすら編集者はひそかに考えています。

遺された未訳作をお届けするという編集者&翻訳者さんの野望をかなえる足がかりとしても、ぜひ皆さんのお力添えをいただければ幸いです!(編集Y)

 

 

 

 

2020年3月10日 21:47 | | コメント(0)

2月の頭には、扶桑社文庫(国内版)のほうで、猫のショートショート・アンソロジーを上梓いたしました。

タイトルは『猫の扉 猫ショートショート傑作選』

選者は、4年前に出した姉妹編『30の神品 ショートショート傑作選』と同じく、星新一唯一の弟子にして、斯界の第一人者である、江坂遊

もちろん、今回のメインキャラクターは猫、猫、猫。

帯には、『3分で読める猫、集めました』と銘打ちました。

猫カバー小.jpg

■オンライン書店で購入する
amazonセブンネットショッピング楽天hontohonto

 

ラインナップは以下のとおりです。

シャルル・ボードレール「時計」
石川喬司「猫の月見」
サキ「トバモリー」
内海隆一郎「子猫」
フレドリック・ブラウン「猫泥棒」
小松左京「中毒」
リチャード・マーティン・スターン「ミンナへの贈り物」
川又千秋「猫と王子」
ハワード・ジョーンズ「猫」
坪田譲治「ネコとネズミ」
森田拳次『森田拳次のヒトコマ・ランド』より
ジョン・D・マクドナルド「黒猫が雪の上をあるいた」
岸田今日子「暖炉の前できいた話」
シャルル・ペロー「ねこ先生または長靴をはいた猫」
佐久やえ「福光寺の猫」
イギリス民話「猫の王様」
大懸朋雪「義足をはいた猫」
アーサー・C・クラーク「幽霊宇宙服」
星新一「ネコ」
ピーター・ラヴゼイ「イースター・ボンネット事件」
深田亨「猫の手帳」
深谷かほる『夜廻り猫』より「わがままモネ」
H・P・ラヴクラフト「ウルサルの猫」
宮沢賢治「注文の多い料理店」
フランツ・カフカ『ある戦いの記録』より
江坂遊「猫かつぎ」
シオドア・スタージョン「音楽」
筒井康隆「善猫メダル」
ヘンリイ・スレッサー「二世の契り」
井上雅彦 「黒猫キネマ」
アーネスト・ヘミングウェイ「雨のなかの猫」
梅崎春生「猫の話」


 

今回も、前作同様、海外作品と日本作品を交互に並べる「歌合わせ」スタイル。

いかにもショートショートらしいお話から、ミニミステリー、文豪の名作、有名童話、コミックまで、なんでもござれの「読む猫だまり」。巻末には、選者による各作品の解題も付されています。

猫好きはもちろんのこと、誰にでも楽しんでいただける、純粋に面白いSSばかりをとりそろえたつもりです。そのうえで、通をうならせるレアな掘り出し物も多数含まれております。

あと、とある著者名にお遊びの仕掛けが隠されていたりもしますので、お見過ごしになりませんように。

 

ぜひご一読いただければ幸いです!

 

*  *  *  * 

年末から2月にかけて、編集者がなぜに、ブログすら更新できないほどに忙しかったかと申しますと、ひとつには、この本の編集作業があまりに大変だったから、というのがあります。

実際にやったことのある編集者以外には、読者のみなさんはもちろん、作家や翻訳者の先生にすらきっとわかっていただけないと思うんですよ......。

ショートショート・アンソロジー編集の実務が、こんなに大変だ、ということを!!

 

そこで、今回はいつもと趣向を変えて、作品の解題は江坂さんの解説にまかせて、「ショートショート・アンソロジーができるまで」って話でも書いてみようかと思います。

まず重要なのは、ラインナップ決め。どんなアンソロジーを編むか、というのは最終的には、選者、アンソロジストの方の意向によります。

本書で選定作業をやってくださったのは、もちろん江坂遊さん。

昨年の夏。江坂さんとSS選集の第二弾をどうしようかと打ち合わせていて、「やっぱりやるなら、次は猫でしょう!猫!」との編集者の一言から、企画が急ピッチでスタート。

とにかく先生は、ただ事ではない量の短編集と雑誌の蔵書をお持ちで(星新一先生から直接引き継いだ蔵書もかなりあるらしい)、洋の東西を問わないあらゆるショートショート作品の情報が、びしっと頭の中に入っておられる。

そのデータベースから、独特のセンサーで作品をピックアップしてきては、次から次へと波状的にラインナップのアイディアを送ってきてくださるわけです。

とにかく、視野が広い。知識が深い。アイディアが尽きない。

編集者が「これなんとなく落ち弱いんで別の話はないですか?」「なんかただ短いだけでSSっぽくないんですけど」みたいなアホな返しをしても、それじゃあと、またべつの代案がバンバン出されてくる。江坂さんは本当にすごい。

こういう作品選定の作業は、アンソロジーづくりで一番楽しいところです。

編集者のほうでも、数十ある候補作をじっくり読ませていただいたうえで、先生といっしょに絞り込みを行い、ラインナップを練り上げていきました。

 

で、いよいよラインナップが固まると、ここからが編集者の仕事になります。

通常、編集者が一冊の本でやりとりする相手は作家さん(訳者さん)ひとりとあとはデザイナー、校正者など数人程度。これが短編のアンソロジーであっても、著者はたかだか7、8人といったところです。

ところが、ショートショート・アンソロジーの場合、そんな数では到底すみません。今回の場合など、掲載作数だけで32もあります。

一部、版権切れの作品(著者と交渉する必要がない)もありますが、一方で版権がまだ生きている海外の著者(別途、交渉しないといけない)もいる。

さらに、親本が生きている場合は、一部の版元にも確認作業と支払いを行う義務が発生します。

結局、40件近い著者・訳者・版元・権利元を相手に、掲載許可や支払いのご相談、ゲラの確認などを、バラバラに進行しないといけないわけです。

これがもう、想像以上に大変なんですよね。

手紙でしかやりとりできない方もいらっしゃれば、メールでのやりとりを希望される方もいる。ゲラの確認を希望される方もいれば、されない方もいる。掲載を拒否される方もいれば、お金はいらないとおっしゃる方もいる。ほんと、やりとりの方法から過程、内容まで、全員が千差万別で、それを編集者はひとりで管理しないといけない。一方で原稿をゲラにしてチェックする作業も平行しながら、このやりとりを2ヶ月くらいのあいだに粛々とすすめていくわけです。

さらには、その相手先自体が簡単には見つからない(笑)。

まず、もともと弊社とお仕事をしてくださったことのある著者さんとは、直接やりとりできます。

文藝家協会に権利業務を委託している著者さんとは、その団体を通じて事務的に交渉を進められます。

出版社御用達の某年鑑に記載のある方とも、なんとか連絡はとることができます。

でも、そこからは、半分私立探偵みたいな仕事が待っているわけです。

今回、ぶっちゃけ著者・訳者の半分は、連絡先が五里霧中の状態から捜索を始めました。

とくに、何年も前に亡くなられた方のご遺族(著作権継承者)を見つけ出す作業が、かなり困難をきわめます。

まずは、親本を出されている出版社さんにうかがうのが筋ですが、10年も経つといま著者がどうしているかはもはや消息不明ってケースもでてくるわけです。

そうなると、昔の仕事をたどっていろいろな版元さんに訊いて回ったり、懇意にしてる他社の編集者さんに教えていただいたり(今回もT社のK様、本当にお世話になりました!)。

かつて交流のあった作家さんに頼んで年賀状を調べてもらったり、むかし講師をされていた翻訳学校経由で調べてもらったりもしました。

あと、亡くなられた際の訃報記事が調査の役に立つことも(喪主として掲載されていたご遺族が、実は有名な俳優さんだったケース。翻訳者の坂口玲子さんと俳優の坂口芳貞さんですが、なんと芳貞さんはご許可をいただいたのち、本書発売の二週間後にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます)。

さらには、徹夜で会社に泊まり込んで、海外のジョン・D・マクドナルド(故人)・ファンサイトと英語で直接やりとりして、ご子息のメアドをゲットしたうえで、掲載許諾のお願いをさせていただいたり・・・。ちなみにヘンリイ・スレッサー(故人)との版権交渉には、タトル・モリ エイジェンシーさんがあたってくださいましたが、本国のエージェントが老齢を理由に引退したらしく、ご存命の老未亡人にタトルの担当者が英語のお手紙を直送してくれたそうです(戻ってきた承諾書の、震えてのたくった、年輪を感じさせるサインを見て、編集者は胸を突かれる思いでした。いま自分は、あのヘンリイ・スレッサーとともに人生を歩んだ女性の書いた、直筆のサインを見てるんだ!)。

 

まあ、そんなこんなで出来上がったショートショート集は、なんだか可愛い子どものようでもあります。

かけた労力のわりには、さくっと読めちゃう軽便な本ですが、ショートショート集ってのはもともと、そうじゃなくっちゃいけませんしね。

江坂さん渾身のまえがき&解説といい、板倉アユミさんの素晴らしいイラストといい、最終的に決定したタイトルといい(100案以上出し合って、販売部と2週間くらい揉んで、こっちも大変だったんですね。とにかく類書が多くて、ぱっと思いつくタイトルがみんなどこかで使用済みだっていう罠w 『サルまん』のファミリー4コマ回さながらのやりとりが実際に・・・w)、本当にいい感じの本にしあがったと自負しております。

みなさんにも、楽しんでいただけたなら、こんなにうれしいことはありません。(編集Y)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年3月 9日 22:50 | | コメント(0)

もう一冊、年末に発売いたしましたミステリーが、エリオット・チェイズ『天使は黒い翼をもつ』

ジム・トンプスン『POP1280』チャールズ・ウィルフォード『拾った女』などに続く、扶桑社ノワール発掘路線の隠し玉でございます。

原題は『Black Wings Has My Angel』

あらまあ、なんて綺麗な倒置法! ちょっとウィリアム・アイリッシュっぽくもあり、いかにもノワールっぽくもある。うーむ、実に魅力的なタイトルじゃないですか。

 

 天使 画像小.jpg

 ■オンライン書店で購入する
amazonセブンネットショッピング楽天hontohonto

 

本作を「再発見」してくださったのは、翻訳者の浜野アキオさんです。

そもそもは、『拾った女』で皆様から望外のご評価をちょうだいして以降、弊社といたしましても、せっかくできたノワール紹介の流れを絶やしてなるものかと、次なるノワール作品を探していたわけです。

どこかにまだ、刊行に値する未訳の傑作ノワールは眠っていないものか。

で、浜野さんにも、いろいろ原書を読んでもらっておりました。

そうしましたらある日、浜野さんから胸がふるえるようなご連絡が舞い込んだのです。

「すごい作品にぶつかった。これぞまさに、ロスト・ジェム(失われた宝石)だ」

おおおおお!

さっそく、浜野さんから頂いたレジュメには、こんなことが書かれていました(一部抜粋)。

「主人公である男女が出会う物語の劈頭から不穏な気配が強烈に立ちこめ、読者は一気に物語のなかへと引きずり込まれる。前科者にして流れ者という主人公の設定、ファム・ファタール(宿命の女)の登場、着々と進められていく犯罪計画の準備、犯罪の決行とアクション、次第に二人の間に生じる齟齬、そして破綻と転落。そのことごとくがノワール小説のクリシェから構成されているにもかかわらず、微塵も陳腐さは感じられない。物語は一級のサスペンス小説がもつ、鋼線をはりつめたようなテンションで進められていく。けっして波乱万丈というわけではないが、巧みなストーリーテリング、鮮烈で奥深い人物造形と相俟って、結末に至るまで一切、中弛みを感じさせずに疾走するのだ」

 

どうです? すっげえ面白そうじゃないですか??

これは、ぜひともやりたい!!

たしかに日本で知られた著者じゃないし、ジャンルとしても、そこまで売れるパイはないかもしれない。でも、読み巧者で目利きの翻訳者さんに、これだけのことを言わせる作品を、出版社として受けられなかったら、それはもう「駄目」でしょう。

一応はノワールで売ってきた扶桑社。そーさ、うちで出さなきゃ、どこで出すってんだ!!

こうして、『天使は黒い翼をもつ』刊行への道は始まったのです。

 

ちなみに「幻の」とかいいつつ、エリオット・チェイズには既訳作が実は三冊もあります。

30年以上前に、キール・セント・ジェイムスという新聞記者を主人公にした、軽ミステリーのシリーズがほぼリアルタイムで刊行されているのです。

しかも、版元はなんと弊社の前身であるサンケイ出版!

大変お恥ずかしながら、編集者は本書を出そうと決めて調べはじめてから、ようやくこの事実を知りました。そういや、本書を発売してすぐ、当時を知る元編集長K氏から早速メールが来て、「なんで、エリオット・チェイズが出たの?」って聞かれたんですが、うちでやろうと思ったのは本当に偶然なんですよね。

 

そんな「えにし」で弊社から出ました『天使は黒い翼をもつ』。

本国では、名うての評論家たちがこぞって、絶賛しています。

「完全無欠の小説」――エド・ゴーマン

「私が〈ブラック・リザード叢書〉の編集者として、最も復刊したかった一冊こそが、この『天使は黒い翼をもつ』だった」――バリー・ギフォー ド

「エリオット・チェイズは、優れた散文家のスタイリストで、機知に富み、ノスタルジックで、不敬で、第一級のストーリーテラーだ」――ビル・ プロンジーニ

「一読忘れがたいのは、『郵便配達は二度ベルを鳴らす』並みに強烈な、恋人たちの猫と鼠の関係だ。
......ティムとヴァージニアの本能的な結びつきと比べれば、すべての要素は最終的には些細なことに思える」――ワシントン・ポスト

「流れの速い物語、セックス、すぐれた描写による文章など、独自の良さとすべてかねそなえている」――マックス・アラン・コリンズ

 

あとがきは、日本を代表するノワール研究の権威、吉野仁さんにお願いいたしました。

編集者の思いに応える、18ページに及ぶ素晴らしい解説原稿をいただけて、心から感謝。この作品について知っておくべきことは、ほとんどすべて、そこに書かれているといって過言ではありません。

なんと言っても、興味深いのは、本書のことを吉野さんも参加した座談会において、翻訳家の故・小鷹信光さんが絶賛していたというエピソードで、「久しぶりに途中でやめられなくなって一気に終わりまで読んじゃった」と興奮気味に作品の魅力を語っていたとのこと。

日本一のペーパーバック・コレクターだった小鷹さんを虜にした幻の逸品。

ね、読んでみたくなりますよね??

 

すでに、既に読んでいただいた皆様からは、「傑作」の声を多数いただいております。

書評でも激賞してくださる方が結構いらっしゃって、本当にありがたいかぎりですが・・・長くなってまいりましたので、本書に関してはもう一回、稿を改めたうえで、サンケイ文庫旧作のご紹介なども含めて記事をアップしたいと思います。

ノワール好きのあなた。絶対損はさせませんので、ぜひご一読くださいませ!(編集Y)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年3月 3日 00:09 | | コメント(0)

ページの先頭へ