2月の頭には、扶桑社文庫(国内版)のほうで、猫のショートショート・アンソロジーを上梓いたしました。

タイトルは『猫の扉 猫ショートショート傑作選』

選者は、4年前に出した姉妹編『30の神品 ショートショート傑作選』と同じく、星新一唯一の弟子にして、斯界の第一人者である、江坂遊

もちろん、今回のメインキャラクターは猫、猫、猫。

帯には、『3分で読める猫、集めました』と銘打ちました。

猫カバー小.jpg

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ラインナップは以下のとおりです。

シャルル・ボードレール「時計」
石川喬司「猫の月見」
サキ「トバモリー」
内海隆一郎「子猫」
フレドリック・ブラウン「猫泥棒」
小松左京「中毒」
リチャード・マーティン・スターン「ミンナへの贈り物」
川又千秋「猫と王子」
ハワード・ジョーンズ「猫」
坪田譲治「ネコとネズミ」
森田拳次『森田拳次のヒトコマ・ランド』より
ジョン・D・マクドナルド「黒猫が雪の上をあるいた」
岸田今日子「暖炉の前できいた話」
シャルル・ペロー「ねこ先生または長靴をはいた猫」
佐久やえ「福光寺の猫」
イギリス民話「猫の王様」
大懸朋雪「義足をはいた猫」
アーサー・C・クラーク「幽霊宇宙服」
星新一「ネコ」
ピーター・ラヴゼイ「イースター・ボンネット事件」
深田亨「猫の手帳」
深谷かほる『夜廻り猫』より「わがままモネ」
H・P・ラヴクラフト「ウルサルの猫」
宮沢賢治「注文の多い料理店」
フランツ・カフカ『ある戦いの記録』より
江坂遊「猫かつぎ」
シオドア・スタージョン「音楽」
筒井康隆「善猫メダル」
ヘンリイ・スレッサー「二世の契り」
井上雅彦 「黒猫キネマ」
アーネスト・ヘミングウェイ「雨のなかの猫」
梅崎春生「猫の話」


 

今回も、前作同様、海外作品と日本作品を交互に並べる「歌合わせ」スタイル。

いかにもショートショートらしいお話から、ミニミステリー、文豪の名作、有名童話、コミックまで、なんでもござれの「読む猫だまり」。巻末には、選者による各作品の解題も付されています。

猫好きはもちろんのこと、誰にでも楽しんでいただける、純粋に面白いSSばかりをとりそろえたつもりです。そのうえで、通をうならせるレアな掘り出し物も多数含まれております。

あと、とある著者名にお遊びの仕掛けが隠されていたりもしますので、お見過ごしになりませんように。

 

ぜひご一読いただければ幸いです!

 

*  *  *  * 

年末から2月にかけて、編集者がなぜに、ブログすら更新できないほどに忙しかったかと申しますと、ひとつには、この本の編集作業があまりに大変だったから、というのがあります。

実際にやったことのある編集者以外には、読者のみなさんはもちろん、作家や翻訳者の先生にすらきっとわかっていただけないと思うんですよ......。

ショートショート・アンソロジー編集の実務が、こんなに大変だ、ということを!!

 

そこで、今回はいつもと趣向を変えて、作品の解題は江坂さんの解説にまかせて、「ショートショート・アンソロジーができるまで」って話でも書いてみようかと思います。

まず重要なのは、ラインナップ決め。どんなアンソロジーを編むか、というのは最終的には、選者、アンソロジストの方の意向によります。

本書で選定作業をやってくださったのは、もちろん江坂遊さん。

昨年の夏。江坂さんとSS選集の第二弾をどうしようかと打ち合わせていて、「やっぱりやるなら、次は猫でしょう!猫!」との編集者の一言から、企画が急ピッチでスタート。

とにかく先生は、ただ事ではない量の短編集と雑誌の蔵書をお持ちで(星新一先生から直接引き継いだ蔵書もかなりあるらしい)、洋の東西を問わないあらゆるショートショート作品の情報が、びしっと頭の中に入っておられる。

そのデータベースから、独特のセンサーで作品をピックアップしてきては、次から次へと波状的にラインナップのアイディアを送ってきてくださるわけです。

とにかく、視野が広い。知識が深い。アイディアが尽きない。

編集者が「これなんとなく落ち弱いんで別の話はないですか?」「なんかただ短いだけでSSっぽくないんですけど」みたいなアホな返しをしても、それじゃあと、またべつの代案がバンバン出されてくる。江坂さんは本当にすごい。

こういう作品選定の作業は、アンソロジーづくりで一番楽しいところです。

編集者のほうでも、数十ある候補作をじっくり読ませていただいたうえで、先生といっしょに絞り込みを行い、ラインナップを練り上げていきました。

 

で、いよいよラインナップが固まると、ここからが編集者の仕事になります。

通常、編集者が一冊の本でやりとりする相手は作家さん(訳者さん)ひとりとあとはデザイナー、校正者など数人程度。これが短編のアンソロジーであっても、著者はたかだか7、8人といったところです。

ところが、ショートショート・アンソロジーの場合、そんな数では到底すみません。今回の場合など、掲載作数だけで32もあります。

一部、版権切れの作品(著者と交渉する必要がない)もありますが、一方で版権がまだ生きている海外の著者(別途、交渉しないといけない)もいる。

さらに、親本が生きている場合は、一部の版元にも確認作業と支払いを行う義務が発生します。

結局、40件近い著者・訳者・版元・権利元を相手に、掲載許可や支払いのご相談、ゲラの確認などを、バラバラに進行しないといけないわけです。

これがもう、想像以上に大変なんですよね。

手紙でしかやりとりできない方もいらっしゃれば、メールでのやりとりを希望される方もいる。ゲラの確認を希望される方もいれば、されない方もいる。掲載を拒否される方もいれば、お金はいらないとおっしゃる方もいる。ほんと、やりとりの方法から過程、内容まで、全員が千差万別で、それを編集者はひとりで管理しないといけない。一方で原稿をゲラにしてチェックする作業も平行しながら、このやりとりを2ヶ月くらいのあいだに粛々とすすめていくわけです。

さらには、その相手先自体が簡単には見つからない(笑)。

まず、もともと弊社とお仕事をしてくださったことのある著者さんとは、直接やりとりできます。

文藝家協会に権利業務を委託している著者さんとは、その団体を通じて事務的に交渉を進められます。

出版社御用達の某年鑑に記載のある方とも、なんとか連絡はとることができます。

でも、そこからは、半分私立探偵みたいな仕事が待っているわけです。

今回、ぶっちゃけ著者・訳者の半分は、連絡先が五里霧中の状態から捜索を始めました。

とくに、何年も前に亡くなられた方のご遺族(著作権継承者)を見つけ出す作業が、かなり困難をきわめます。

まずは、親本を出されている出版社さんにうかがうのが筋ですが、10年も経つといま著者がどうしているかはもはや消息不明ってケースもでてくるわけです。

そうなると、昔の仕事をたどっていろいろな版元さんに訊いて回ったり、懇意にしてる他社の編集者さんに教えていただいたり(今回もT社のK様、本当にお世話になりました!)。

かつて交流のあった作家さんに頼んで年賀状を調べてもらったり、むかし講師をされていた翻訳学校経由で調べてもらったりもしました。

あと、亡くなられた際の訃報記事が調査の役に立つことも(喪主として掲載されていたご遺族が、実は有名な俳優さんだったケース。翻訳者の坂口玲子さんと俳優の坂口芳貞さんですが、なんと芳貞さんはご許可をいただいたのち、本書発売の二週間後にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます)。

さらには、徹夜で会社に泊まり込んで、海外のジョン・D・マクドナルド(故人)・ファンサイトと英語で直接やりとりして、ご子息のメアドをゲットしたうえで、掲載許諾のお願いをさせていただいたり・・・。ちなみにヘンリイ・スレッサー(故人)との版権交渉には、タトル・モリ エイジェンシーさんがあたってくださいましたが、本国のエージェントが老齢を理由に引退したらしく、ご存命の老未亡人にタトルの担当者が英語のお手紙を直送してくれたそうです(戻ってきた承諾書の、震えてのたくった、年輪を感じさせるサインを見て、編集者は胸を突かれる思いでした。いま自分は、あのヘンリイ・スレッサーとともに人生を歩んだ女性の書いた、直筆のサインを見てるんだ!)。

 

まあ、そんなこんなで出来上がったショートショート集は、なんだか可愛い子どものようでもあります。

かけた労力のわりには、さくっと読めちゃう軽便な本ですが、ショートショート集ってのはもともと、そうじゃなくっちゃいけませんしね。

江坂さん渾身のまえがき&解説といい、板倉アユミさんの素晴らしいイラストといい、最終的に決定したタイトルといい(100案以上出し合って、販売部と2週間くらい揉んで、こっちも大変だったんですね。とにかく類書が多くて、ぱっと思いつくタイトルがみんなどこかで使用済みだっていう罠w 『サルまん』のファミリー4コマ回さながらのやりとりが実際に・・・w)、本当にいい感じの本にしあがったと自負しております。

みなさんにも、楽しんでいただけたなら、こんなにうれしいことはありません。(編集Y)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年3月 9日 22:50

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