またもブログの更新が長らく滞ってしまい、本当に申し訳ありません。

ようやく怒濤の責了ラッシュが終わり、なんとかゲラ作業に一息つけたこともあり、この数ヶ月で送り出した扶桑社ミステリーを順にご紹介していきたいと思います。

まず、4月末の新刊。

新型コロナ禍に世界が見舞われるなか、息詰まる巣ごもり生活を強いられる日々において、「物語」は、不安をやわらげ、孤独を癒やし、退屈に寄り添ってくれる、最良の娯楽のひとつです。

とにかく、面白い小説を届けたい。

そんな思いもこめて、連休のさなか一冊の新刊を発売いたしました。

チャールズ・ウィルフォード『コックファイター』、もう読んでいただけたでしょうか。

 

タイトルに聞き覚えがある方もいらっしゃるでしょう。

そう、本作は、ロジャー・コーマン製作、モンテ・ヘルマン監督の伝説的カルト・ムーヴィー「コックファイター」の原作本なんですね。

 

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あらすじは、こんな感じです。

舞台はアメリカの南部。フランク・マンスフィールドはプロの闘鶏家だ。
生涯の目標である最優秀闘鶏家賞のメダルを手にするまでは、
誰とも口を利かないという沈黙の誓いを立てて、
闘鶏に文字通り命を懸けて生きてきた。
サシの勝負で敗れ、最後の鶏まで喪って文無しになったフランクは、
復活を期して再び動き始めるが......。
乾いたユーモアと血腥い戦いの美学に彩られた、これぞ「男」のノワール。
ロジャー・コーマンの伝説的カルト映画原作にして
巨匠最大の問題作が、遂に邦訳なる!〈解説・滝本誠〉

 

本作に関しては、作品のご紹介をさせていただく前に、その発売の経緯について、ぜひお話ししておきたいと思っています。

実はこの本、訳者さんの魂のこもった「持ち込み原稿」が、商業出版にまで結びついた稀有なケースだったのです。

 

昨年の7月末、編集者のところに、むかし新潮社にいらっしゃったというフリーの編集の方から一本の連絡がはいりました。

「じつはチャールズ・ウィルフォードを勢いで全訳しちゃった知り合いがいるんですが、扶桑社さんは、ウィルフォードの『拾った女』を出しているけど、版権をおさえていたりはしますか?」

訊けば、小説の翻訳自体ほぼ初めてのチャレンジで、しかも訳出したのはまさかの『コックファイター』だとおっしゃる。

生まれてはじめて翻訳した小説が、『コックファイター』・・・・ですと??

 

このとき、編集者はどうしたかといいますと、中身も見ないで「お断り」したのでした。

いまとなっては汗顔の至り。とはいえこういうケース、残念ながらお断りするケースが大半です。

一般の方が訳されて(あるいは執筆されて)いきなり持ち込んできた原稿が、商業出版に見合う水準で仕上がっているということは、読者の皆さんが思っているより、とてもとても稀有なことなのです。

あと、ウィルフォード作品を出している出版社として、『コックファイター』はいつか出す可能性のある本。ここで原稿を拝見してしまうと、逆に別の翻訳者にお願いしづらくなるということもありました。

 

結局こちらからは、十年留保という制度に当てはまりそうなので、無版権でどの出版社からでも出せるだろうということ、うちからだと文庫でしか出せないので、むしろ文芸や映画関連の版元さんから、2500円とかつけて単行本で出したほうが安全なのでは?といった話を差し上げて、具体的な版元名をあげてご紹介したうえで、いったん先方に話をお預けしたわけです。

 

で、8月19日。今度は、今もいつもお仕事をお願いしている、かつて同僚だった元編集者から連絡がはいりました。

「なんか、作家の中原昌也さんからの紹介でコックファイターの原稿が回ってきたんですが、読まれます?」

中原昌也さん? なんで中原さん?? 

訊けば、中原さんに原稿を渡したのは、俳優の加瀬亮さんらしく、加瀬さんは翻訳者さんの親友らしい。

加瀬亮さん?? 加瀬さんとマブダチって??

とにかく、はっきりしているのは、下記の事実。

どうやら信じがたいことに、別ルートで、同じ原稿が「二回」うちに持ち込まれてきたらしい(笑)。

 

これは、運命的なものなのではないだろうか?

さすがに編集者は、そう思いました。

 そこで、初めて翻訳者さんにこちらから連絡を差し上げて、これから原稿を読ませていただくことを直接お伝えしたのでした。

とはいえ、実際に読み始めるまではそこそこ時間がかかったし、実際には平行して翻訳者さんには複数の版元にもあたってもらったのですが(当然、単行本で出せたほうが翻訳者さんの実入りはいいはずなので)。

いざ読み始めて驚いたことには・・・訳文がデビュー翻訳にして、ほぼ完成されている!!

こんなこと、ホントにあるんだろうか? 衝撃を受けました。

翻訳学校に行ったわけでも、翻訳関連の仕事をされているわけでもない方が、独力でここまでノワール感たっぷりの洗練された訳文を、一冊にわたって緩むことなく紡げるものなのか。これはよほどのことだ。

しかも、小説としても抜群に面白い。

『拾った女』の次の紹介作とするのに、なんの不足もない。

こわごわ打診すると、販売部もうまく乗ってくれました。

こうして紆余曲折を経て、『コックファイター』は、扶桑社から出ることになったのでした。

 

編集者として、本書を製作するにあたって、ひとつ心に決めたことがありました。

この本は、翻訳者である齋藤さんの本である、ということです。

単なる持ち込みではない。『コックファイター』という小説に惚れ込み、自ら動いて、人を動かし、ついには出版の権利を勝ち取った、齋藤さんの本だということ。

しかも、訊けばこの本の初版本をアメリカ土産として齋藤さんに渡したのは、親友の加瀬亮さんらしい。これは、男と男の熱い友情が生みだした翻訳でもあるんですね。

なので、本書に限っては、カバー周りの装丁も文言も、すべて齋藤さんに確認しながら進めることにいたしました。で、いざ作業を始めてみると、齋藤さんのほうには、この本の仕上がりに関する明確なヴィジョンがあるんですね。こういう本にしたい、という。ぶっちゃけカバー周りのデザインは、ほぼほぼ齋藤さんの指定です!

加瀬亮さんも大変に協力的で、帯案は、採用したものも含めて2案出してくださいました。(あと、なんと、直筆のカバー案まで出してこられました!)

もちろん、編集者としてもある程度訳文には関与しましたし、解説をぜひにと滝本さんに頼んだりもしましたが、この本が読者の皆さんの心を強く動かしたとしたら、それはひとえに齋藤さん(と加瀬さん)の『コックファイター』にかける想いの強さと、ウィルフォード愛に由来するものだと思います。

こうして、ウィルフォードの一風変わった「闘鶏小説」、『コックファイター』は、世に出ることになったのでした。(続く) (編集Y)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  

2020年5月12日 08:59

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