2021年8月アーカイブ

『刑事コロンボ』『エラリー・クイーン』『ジェシカおばさんの事件簿』等々のミステリー・ドラマで世界中を魅了した脚本家/プロデューサー、リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク。

 学生時代から親交を結んだ彼らがプロとして認められたのは、小説ジャンルでした。
 1954年、大学在学中に書いた短編が「エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジン」に掲載されたのです。
 以来2人は、十年以上にわたって数々の作品を雑誌に発表し、その一方でTVや舞台の脚本家としてキャリアを築いていきます。

 そんな彼らの短編小説を集めたのが、本書『レヴィンソン&リンク劇場 皮肉な終幕』です。

皮肉な終幕.jpg
 イラスト:岸潤一氏 デザイン:小栗山雄司氏

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 先に触れた小説デビュー作から、アリバイ工作の顚末を描いて『刑事コロンボ』の誕生につながった名作まで、全10編。
 じっくり描かれた心理描写と、ひねりが利いた結末で、短編ミステリーの楽しさを味わっていただけるものと思います。
 また、ミステリー研究家・小山正氏に、レヴィンソン&リンクがよくわかる詳細な解説をご寄稿いただきました。

 本国でも出版されていない、日本でしか読めない貴重な作品集です。(編集T)

 【権利の関係で、電子版の配信はありません】

2021年8月31日 19:02 | | コメント(0)

更新が少し遅れて申し訳ありません。
今月発売のスティーヴン・ハンターの新刊『ベイジルの戦争』(公手成幸訳)は、もう読んでいただけたでしょうか?

ベイジルの戦争カバー小JPEG.jpg

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あらすじはこんな感じです。

ベイジル・セントフローリアン。英国陸軍特殊作戦執行部所属。
無類の酒好き、女好き。
だが任務に当たらせれば並ぶ者のない凄腕のエージェントだ。
その日も女優と逢瀬を楽しんでいたベイジルは急遽招集され、
ナチス支配下に置かれたパリへの潜入命令を受ける。
任務は、とある暗号が秘められた聖職者の写本を複写すること。
それは、暗号解析の責任者アラン・チューリングが、
対独情報戦の要と捉えているものだった。
巨匠ハンターの筆が冴えわたる、戦時スパイ・スリラーの傑作! 

解説の寶村信二さんが、本作について必要な情報をコンパクトにまとめてくださっているので、詳しくはそちらを参照していただきたいと思いますが、本作はもともとハンターがオットー・ペンズラー編集のスパイ物のアンソロジーに書き下ろした短編を基に、それを中編化したものです。
ペンズラーといえば、ハヤカワミステリマガジンの海外情報コーナーでもおなじみの、アメリカを代表するミステリー評論家ですが、彼はミステリアスプレスというミステリー専門出版社の社長でもあるんですね。で、ハンターの短編をいたく気に入ったペンズラーが、ぜひ膨らませて一冊の本にしたほうがいいとプッシュし、実現したのが本書というわけです。
そういえば、最終原稿が入ってくる時期に、エージェントさんから「まだもう少し待ってください。ペンズラーさん自身がいまゲラに赤字を入れて、著者と追い込みで仕上げてるところなんで」みたいな連絡が入っていました。
じつは解説原稿をいただくまで恥ずかしながら全く知らなかったのですが、ペンズラーのアンソロジーにハンターが書きおろすのは「2回目」で、2010年の1回目の短編こそ、本作の主人公ベイジル・セントフローリアンの初登場だったらしいんですね(なんという不覚。ぜひこちらも、いつかご紹介の機会がつくれるといいですね......)。
つまり、ベイジル・セントフローリアンは、ハンターにとって、スワガー一族以外で初めての「シリーズ・キャラクター」ということになるのです!

物語は戦争末期のロンドンで幕を開けます。
冒頭の逢引シーンから、まさにハンターならではの小ネタが炸裂しているので、そこに出てくる人物(とその連れ合い)は、登場人物表にも敢えてのせていません(笑)。
ここに登場するふたりの有名人の関係性は、原書でもいっさいの注釈なしで書かれているので、細かなことは書かずとも欧米の読者は常識としてわかっているって前提なんでしょうね。ちょうど日本の三浦友和・山口百恵夫妻のように。
ぜひ気になる向きは、ご自身でWikiなどでお調べください。なぜハンターが物語にこのふたりを巻き込んでみせたか、いろいろとわかってとても面白いと思います。

で、大蔵庁の地下にある特殊作戦執行部(SOE)の司令部に呼び出されたベイジルは、パリ潜入の特殊任務を拝命します。
ここからは、ぜひご自身でお読みになって、新鮮な気持ちで愉しんでいただければと思いますが、何点かだけ編集者なりのポイントをまとめておきますと、

① 物語の祖型は、彼の原点ともいえるデビュー作『マスタースナイパー』から引き継いでおり、戦時エスピオナージュとしての敵中突破物で、武器や兵器へのこだわり描写がラストでは謎解きの核になる点など、いろいろと読み比べてみると、なるほどと気づかされる部分がある。

② そのうえで、主人公像にはジェームズ・ボンドを意識したような、軽口と機知で危機をしたたかに乗り切ってみせる、旧いタイプの「女王陛下のスパイ」像が反映されている。一見すると個人主義的な快楽にも目がない遊び人だが、その実国家の使命に命を賭すことをいとわない「真の愛国者」、それがベイジルである。

③ ちなみに献辞にあるR・シドニー・ボーウェンは、アメリカ生まれでありながら英国空軍で活躍し、第二次大戦中に少年向けの戦時冒険小説である「デイヴ・ドーソン戦争アドベンチャーシリーズ(15冊)」「レッド・ランドール・シリーズ(8冊)」などを著したベストセラー作家。戦中だけでデイヴ・ドーソン物は200万部を売り上げていたらしい。少年時代のハンターにも大いに影響を与えたことだろう。

④ 叙述の形態としては、任務前のブリーフィングの章と、実際の潜入任務の章を分割して交互に配することで、過去と現在、目論見と現実を鮮やかに対比してみせるのみならず、「情報を小出しに呈示し、最初から全部をわからせず、タイミングを見て読者の理解度を高めてゆく」「ベイジルは最初から知っているけど読者はまだ知らないでいい情報を後出しにする」という老獪なナラティヴを実現させている。

⑤ 登場人物にアラン・チューリングを始めとする実在の有名人を織り交ぜ、ときに「落ち」として機能させるスタイルは、同じく過去のロンドンを舞台とする『我が名は切り裂きジャック』とも共通する。そもそもハンターは米国南部の歴史と骨がらみに結び付いたスワガー・サーガを長年紡ぎながらも、実は大の「英国マニア」だそうで、本書からも彼のマニアックな英国愛、歴史家ばりの該博な知識量はひしひしと伝わってくる。

⑥ ハンターは、アクションやエスピオナージュのジャンル内においても、決して「謎とき」の面白さを忘れない。明後日の方向から明らかになる意外な真相や、叙述トリックまがいの「ひっかけ」を毎回用意してくれるのは皆さんご存じの通り。『ベイジルの戦争』でも、任務が終わったあと、やおら始まる「名探偵ベイジル」のフーダニット劇場は、実はここで展開される推理こそが書きたくて、本作は企図されたんだろうなと思わせるノリノリぶり。

と、いうわけで、
日本語版で304ページと、決して長くはない作品ですが、ハンターの魅力と「らしさ」がいっぱいにつまった一作です。ぜひこの夏休み、ハンター印の戦時エスピオナージュをじっくりご堪能ください!

そして・・・・・・ハンターファンの皆さまに朗報です。
いよいよ来年、『狙撃手のゲーム』以来の、久々のスワガー・サーガの新作をお届けできそうです。
タイトルは『Targeted』
おおお!なんか、そそるタイトルじゃないですか!

まだこちらにも原稿すら入ってきていないので、今後どうなるかはわかりませんが、期待に胸をふくらませてお待ちいただければと思います。編集者もおおいに楽しみです!(編集Y)



陳謝:最後に、一点申し訳ない誤植につきまして。お恥ずかしいかぎりですが、
   あろうことか、直近の上下巻を見逃して、背表紙の通巻番号を振ってしまいました。
   (誤)ハ19-37 → (正)ハ19-39 
  今後、このようなことがなきよう気を引き締めてまいりたいと思いますので、なんとかご容赦いただければ幸いです。










2021年8月13日 13:48 | | コメント(0)

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