2022年3月アーカイブ

またも更新が大変遅れまして申しわけありません。
今月のもう一点の新刊、ラーシュ・ケプレル『墓から蘇った男』(上・下)(品川亮・訳)、もう読んでいただけたでしょうか。
ヨーナ・リンナ・シリーズ第7弾。いよいよ物語は佳境に入ってまいりました。

担当は、おそらくこれが最後の海外文庫編集となるかもしれない上司Y(次作から、新たに配属されてくる若手にシリーズを引き継ぐと明言)。彼女が皆様にお送りする、魂の一書でございます。


ラザルス上下ブログ用.jpg

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あらすじは、こんな感じです。

オスロの集合住宅の住民から悪臭の苦情が寄せられ、警官が向かった先には、腐敗が進行し、腹部を膨張させ両足の開いた男の死体があった。
一地方警察官として勤務し、数週間後に警察庁の警部に復職することになっているヨーナのもとに、色を失った監察医ノーレンが訪れる。
死んだ男の冷凍庫には多数の切断された人体のパーツがあり、その中に亡くなったヨーナの妻スンマの頭蓋骨があったというのだ。
スンマの墓が荒らされたことにショックを受けるヨーナは、かつて対峙した怪物の狂気に満ちた記憶を蘇らせる......。
その怪物は、ひとの人生を破壊し、犠牲者からすべてを奪った。
その魔の手はヨーナに及んだ。
ヨーナは、妻スンミと娘のルーミを守るため彼らが亡くなったと見せかけ、高い代償を払った。
一方、怪物の捜査に覆面捜査官として携わった公安警察の警部サーガは、父と和解し、腹違いでダウン症の妹ペレリーナに愛情を注いでいた。
そんな矢先、パトロール中のヨーナに、国家警察長官カルロスから、ドイツ連邦刑事庁の警部が連続レイプ魔の死亡事件について大至急連絡を取りたがっていると電話が入る――二人の軛は断ち切れるのか?


いやあ、こういう言い方はなんですが、まあまあ「えげつない」話です。
ちょっと、作者のドSぶりが、ただごとではない。
扶桑社ミステリーの長い歴史を考えても、稀に見るくらいの「ひりついた」話だと思います。

しょうじき、ゲラを読んでいて、ここまで徹底的にやるものなのかと、結構びっくりしました。
あんな優しそうな顔して、ラーシュ・ケプレル(もともとは覆面作家ですが、いまはもう顔出しで、3人の娘さんがいる作家夫婦による共作であることを明らかにしています)、どんだけ怖いこと考えてるんだ......!?

まず、本作は実質的に、シリーズの2つ前の作品にあたる『砂男』(上・下)の「続編」に近い内容であるといえます。
すなわち、これまで基本、一巻一話完結で進んできた本シリーズですが、いよいよシリーズ全体に関わる「大きな物語」が動き出したという感じですね。
なので、本作に限っては、先に『砂男』をお読みいただいてから手に取っていただいたほうが、十全にその内容を楽しめると思います。

『砂男』では、ハンニバル・レクターを想起させる、恐るべき万能のサイコ殺人犯が登場しました。
肉体をもったひとりの人間でありながら、超越的な存在として君臨し、捜査官の人生まで支配する恐るべき犯罪者。彼は、恐怖をまき散らし、殺戮の限りを尽くしながらも、ヨーナ・リンナとサーガ・バウエルの活躍によって、なんとか倒されました。
前作、『ウサギ狩り人』では、彼が本当に死んでいることを確定する証拠が発見されます。
ようやく世界に平穏が戻り、とまっていたヨーナ・リンナの人生も動き出したかのように思われました。
とある殺人事件の現場から、ヨーナの亡き妻スンマの頭蓋骨が発見されるまでは......。

本作の原題にあたるLazarus というのは、聖書でいうところの「ラザロ」で、キリストの奇跡によってよみがえった蘇生者です。すなわち、本作では、一度死んだとされ、その死が証拠によっても確定づけられていた殺人鬼の「復活」の物語なのです。

ミステリーにおいては、ある種の「絶対悪」、人でありながらも「厄災」といっていいような力を発揮するモンスター犯罪者の登場する小説がときどき現れます。
本作『墓から蘇った男』が、その系譜のなかでも図抜けて強烈な印象を与えるのは、おそらくなら、彼が「捜査側の人間を徹底的に巻き込んでいく」犯罪者だからかもしれません。

サイコキラーものでは、とあるオブセッションに取り憑かれた殺人鬼と、その心理をプロファイルする捜査官の対決物という構図がとられますが、たいていの場合、捜査官は「追跡者」サイドの人間であり、事件を「外」から解釈する存在にすぎず、その意味では読者の側に立つ人間です。
捜査官が犯罪者の臭跡と思考に寄り添いすぎると、本人の心まで汚染される危険があり、そのことをテーマにした作品もたくさんありますが、それはいわゆる「闇堕ち」の恐怖であり、実質的な危険は、捜査対象に近づくなかで敵に「反撃される」までは発生しないのが通例です。

ところが、本作の「怪物」は違います。
自分の起こした事件を担当する捜査担当者まで、速攻で次なる「犠牲者」リストに加えてくるのです。
しかも、狙うのは捜査官自身ではなくて、その家族。
つぎつぎと、捜査官の「家族」を奪い去ることで、相手の心と屈服させ、人生を破壊しようと企ててくるわけです。
ケプレルの世界では、「楽しい探偵ごっこ」は成立しません。
事件の捜査に乗り出した瞬間に、犯人が、探偵役とその家族までターゲットとして「鏖殺」を図ってくるのですから。
捜査官もまた安全圏にはいないし、実際、『砂男』では、ひとりの捜査官が破滅へと追いやられます。
ほんの一瞬の気のゆるみから、足元が瓦解してゆく感覚。
ちょっとした扉の隙間から、目に見えない不定形の「とてつもなく悪い」何かがはいりこんでくる感覚。
この、ペストか放射能汚染でも相手にしているような非人格的な恐ろしさは、探偵と事件、探偵と犯人という対立軸を無効化し、「狩人」はいつしか「狩られる者」として、デスゲームのさなかに放り込まれることになります。

境界を越境して、すべてを汚染してゆく恐怖。
それは、捜査官の側に寄り添って立ち、作品世界を間近で傍観している、われわれ「読者」自身にまで忍び寄ってくる恐怖でもあります。

とにかく上下巻を通じて、サイコ・サスペンスというより、ほとんどホラーに近いような緊迫した「マジモンの恐怖」が充満しています。サイコ犯を倒すというよりは、人智を超越した「悪神」とでも闘っている感覚に近いかもしれません。
悪しきカリスマにみいられてしまった、ヨーナとサーガの運命やいかに。
その顛末は、ご自身の目でお確かめください。

なお、当初ヨーナ・リンナ・シリーズは8巻で完結との触れ込みでしたが、先日届いた最新作『Mirror Man』の概要を読むかぎり、あとしばらくシリーズは続きそうな気配ですね。
今回の、あのどうなるのかわからないエンディングのまま宙ぶらりんというのはかなりつらいものがありますが、今のところ、次巻の邦訳は秋くらいの発売を予定しておりまして、鋭意版権交渉中でございますので、続きを楽しみにしてお待ちください。(編集Y)
















2022年3月27日 07:10 | | コメント(0)

扶桑社ミステリー、というと、みなさまいろいろなイメージをお持ちだと思うのですが、スティーヴン・ハンターやカッスラーやケッチャムやノワールなどなどの裏で、長くご愛顧いただいてきたのが、ミステリー・クイズです。
ケン・ウェバーの『5分間ミステリー』はシリーズ7作を数え、ローレンス・トリートの『絵解き5分間ミステリー』は3作。さらには、新保博久教授の『5分間ミステリー 容疑者は誰だ』もあります。
(他社からも、似たような本がいろいろ出ましたっすね)

そんなミステリー・クイズの新機軸が、この『5分間ミステリー あなたが陪審員』(マーヴィン・ミラー著/高橋知子訳)です。
表紙イラストは、おなじみ杉田比呂美さん。
5分間ミステリー あなたが陪審員 小.jpg


タイトルどおり、あなたは陪審員となって、裁判に臨みます。
殺人未遂や強盗や脱獄といった重大な刑事事件から、近隣のいさかいや企業の環境汚染や特許侵害などの民事事件まで、多様な訴訟がそろっています。
原告も被告も、自分の主張をとおそうと弁論を展開します。
それとともに、証拠物件(現場写真や供述書類等々)が3点提示されますので、それらをもとに評決をくだしてください。

アメリカで出版された原著は、シリーズ5作を数える人気の作品です。
ぜひ、この裁判クイズをご体験ください。

2022年3月 3日 20:09 | | コメント(0)

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