2022年6月アーカイブ

思いかえせば、宝島社の『このミステリーがすごい!』の「わが社の隠し玉」コーナーで、本作の刊行について仄めかしはじめたのは、もう5年くらいも前のことだったかもしれません。
あの当時から、実は小林晋先生の訳稿はすでに存在していたんですね。
まさか、実際に刊行するのにこんなに時間と手間がかかるとは、よもや思ってもおりませんでした。

通常、われわれ翻訳版元は、海外のエージェントから版権を買って商品を出版しています。
ただ、それに当てはまらないケースが二通りだけあって、ひとつは著作権のすでに切れた作品を刊行する場合、もうひとつがいわゆる「10年留保」といわれるケースです。

細かくはご説明いたしませんが、ざっくりいうと「1970年までに海外で発行された著作物で、発行後10年間一度も邦訳が出ていない作品は、翻訳権が消滅する=版権を獲得せずに出版してよい」という規定のことです。これはれっきとした法的な約束事なので、大手を振って活用してよいわけでして、実際クラシック系海外翻訳の版元さんの多くは、この条項の枠内で刊行されていることかと思います。

ところが、10年留保の条件というのは、あくまで「発行された」著作物に限定されたものなんですね。
すなわち、雑誌に載ったり、書籍として刊行された作品じゃないと、適応されないわけです。

今回の場合、掲載されている40本の短編のうち、30本はすでに雑誌に掲載済だったのですが、これに加えて、どうしても「未発表」の短編10本を追加したい、これらを載せないと「全集」にならない、という制約があったわけです。
要するに、発表済短編だけなら10年留保でしれっと出せたんですが、未発表短編も収録するとなると、どうしてもレオ・ブルースの著作権管理団体(エステート)の許諾を得て、ちゃんとお金を払わないといけなくなったと。

しかも、小林先生は「アメリカで刊行されている短編集(雑誌発表済の短編を網羅したもの)の編者B.A.パイクさんが書いた序文も、ぜひ訳出して巻頭に掲載したい」とのご意向。
そうすると、当然アメリカ版短編集の版権も、別途獲得して出す必要が出てきます。

というわけで、日本のエージェンシーさんを通して、アメリカ版短編集の版元さんと、レオ・ブルースのエステートの両方から(しかも、びっくりするくらい格安の金額で)許諾を得るべく動き出したのが、2020年の秋。でも、ここからが長かった(笑)。

まず、エステートからは、散々待たされたあげく、「未発表原稿があるなんて知らなかった」とのご返答が。著作権管理が仕事なのに、知らなかったってどういうこと?? 「本当にレオ・ブルースの真作かどうかエステート内で審査してから、あらためてご連絡いたします」とのお言葉。
そこで、まずは発見者のエヴァンズさんから、直接エステートに連絡をとってもらい、発見の経緯や作品の概要を伝えてもらうことになりました(ご協力多謝!)。
結局、正式な許諾と金銭面でのご了承をいただけたのが、2021年の8月。
で、ここからはアメリカ版短編集の版元さんである、アカデミー・シカゴとの交渉にはいったわけですが、なぜかここもなかなかレスポンスをいただけないところで(笑)、さんざんせっついたすえにようやく許諾をいただけたのは、5か月後の2022年1月に入ってのことでした。

なんとか条件面がクリアになったので、そこから急ピッチに作業を進め、1年くらい眠らせていたゲラを再稼働させて、無事校了し、こうして皆様にお届けできることに相成ったというわけでございます。

編集者としては、年間20冊くらい本を作らされている激務のなかで、定期的に催促のメールを打つくらいしかやれることはなく、ただひたすら「待ち」の時間に耐えるだけでしたが、翻訳者である小林先生は、それこそ一日千秋の思いでずっと刊行できる日をお待ちになっていたことかと存じます。

しかも、待たされている間に、未発表短編10編のうちの1編が海外のアンソロジーに収録されてしまい、世界初紹介作品が「10編」が「9編」に減ってしまいましたが......まずは刊行にこぎつけられたことを、読者の皆様とともに寿ぎましょう!(編集Y)











2022年6月25日 09:51 | | コメント(0)

4月末搬入、5月頭発売のもう一冊は、『レオ・ブルース短編全集』
扶桑社ミステリーでは、『三人の名探偵のための事件』『ミンコット荘に死す』『ハイキャッスル屋敷の死』『ビーフ巡査部長のための事件』につづく、レオ・ブルース紹介の第5弾となります。
翻訳者はもちろん、小林晋氏です。

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英国で本格ミステリーの名作が次々と生まれていた黄金期に活躍した推理作家レオ・ブルース。本名のルーパート・クロフト‐クック名義で広範な著述を成すかたわらで、「余技」としてミステリーに手を染めた人ですが、後世に名を残したのは専ら探偵小説によってだというのは皮肉なものです。

デビュー作にあたる『三人の名探偵のための事件』が、単行本として初めて日本で紹介された際には、2000年版の『このミステリーがすごい!』で海外編第4位を獲得(のちに扶桑社から文庫化)。
以来、創元さんのほうで出された『死の扉』は『本格ミステリベスト10』2013年版海外編2位、弊社から出版した『ミンコット荘に死す』が同2015年版海外編3位、『ハイキャッスル屋敷の死』が同2017年版海外編4位を獲得するなど、彼の作品は日本国内でもきわめて高い評価を受けてまいりました(昨年出版した『ビーフ巡査部長のための事件』も、『このミス2022年版』の海外編16位にランクイン)。

シリーズ探偵として、大酒飲みで粗野だが明敏な頭脳を持つビーフ巡査部長と、名門育ちの高校教師キャロラス・ディーンを擁し、計31作の長編ミステリーを執筆したレオ・ブルース。
ただこれまで、彼の紹介はもっぱら長編が中心で、まとまった量の短編が残されていることはあまり知られていませんでした。
今回、弊社から出版された『レオ・ブルース短編全集』は、そんな巨匠が遺した「全」短編を完全網羅した、まさに「世界初」の試みなのです!

何が、どう、「世界初」なのか。
本書の土台となっているのは、アメリカで1991年に刊行された、B・A・パイク氏編のレオ・ブルース短編集『Murder in Miniature』です。
ただ、これに収録されている短編は計28編なんですね。
今回の日本語版短編集では、パイク氏編の元版短編集に、その後発見された2編を加え、さらにカーティス・エヴァンズ氏によってテキサス大学オースティン校のハリー・ランサム・センターで発掘された未発表短編10編を、なんと秘書による生のタイプ原稿を写した写真から「直接」邦訳する形で加え、現時点での短編全集としました。
翻訳権取得に時間を要したために、10編のうち1編は海外のアンソロジーに先行されてしまいましたが、残りの9編については、欧米圏ですら一度も公刊されたことのない、正真正銘の「世界初紹介」短編ということになります。
このような形で、海外作家の「全集」が、タイプ草稿をも含んだ「真の完全版」として世界に先駆けて日本で発売されるケースは、長い出版の歴史においてもそう多くあることではないのではないかと自負いたしております。
すべては、本書の翻訳者で日本レオ・ブルース・ファン・クラブ会長でもある小林晋氏の、作家に懸ける熱い想いと愛の賜物だといってよいでしょう。

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こちらの写真は、本書に収録されている短編「殺人の話」のタイプ原稿の一枚目。
よく見ると、あちこちに(おそらく著者本人による)赤字(青字?)が記入されているほか、本名のルーパート・クロフト‐クックの名前でいったんタイプされた署名が、手書きで「レオ・ブルース」に直されているのがわかります。
読んでいただいた方ならおわかりのとおり、「殺人の話」は、少し他のゴリゴリの本格短編と比べると一般小説寄りのオチをもった異色作です。逆に言えば、一般小説の短編だと考えると、いささかミステリー臭が強い。
もしかして、「表の顔」である作家クロフト‐クックとしていったん執筆しながらも、そのミステリー寄りの内容に鑑みて、後からブルース名義に書き換えたなんて可能性は考えられないでしょうか。
実に興味深い事例と言わざるを得ません。

収録作は、よりどりみどりの計40編。
パーティーの夜に起きた秘書殺しの謎をビーフ巡査部長が快刀乱麻の名推理で解決する「ビーフのクリスマス」、遺産相続をめぐる練り上げられた策謀を暴く「逆向きの殺人」など、短い紙幅に「魅力的な謎の呈示」と「合理的解決」という本格の醍醐味が凝縮された珠玉の短編ばかりです。
そのほとんどは、日刊新聞のために「読者の束の間の気晴らし」として書かれた短い作品ですが、その本格ミステリーとしての骨格は堅固で、いわゆる「5分間ミステリー」的なミニ・ミステリーの面白さを満喫できます。
計40編のうち、ビーフ巡査部長ものは14編、グリーブ巡査部長ものは11編が含まれ、他にアメリカ版短編集の編者B・A・パイク氏による「序文」と、発掘短編の発見者カーティス・エヴァンズ氏による詳細な解説、さらには訳者・小林晋氏によるあとがきと、全短編の書誌を巻末に収録。まさに「完全版」と呼ぶべき、短編全集の登場です。


「ヴィンテージもの探偵小説愛好家のための正真正銘垂涎のご馳走だ!」
――カーティス・エヴァンズ

「片々たる作品においても、作家は確かな手腕を示し、語り口は巧妙で、簡潔かつ要点を衝いている。最良の作品は鮮やか、巧妙、満足できるものであり、この作家の作品として立派に存在意義を主張できるものだ」――B・A・パイク

「本書は現時点で判明している限りのレオ・ブルース名義の短編をすべて集めて刊行する世界初の企画であると胸を張って主張したい」――小林晋(翻訳者)

ぜひお楽しみください!(編集Y)



掲載作品

手がかりはからしの中/休暇中の仕事
棚から落ちてきた死体/医師の妻
ビーフと蜘蛛/死への召喚状
鶏が先か卵が先か/犯行現場にて
鈍器/それはわたし、と雀が言った
一枚の紙片/手紙
一杯のシェリー酒/犯行現場
逆向きの殺人/タクシーの女
九時五十五分/単数あるいは複数の人物
具合の悪い時/カプセルの箱
盲目の目撃者/亡妻の妹
河畔の夜/ルーファス―と殺人犯
沼沢地の鬼火/強い酒
跡形もなく/捜査ファイルの事件
ビーフのクリスマス
インヴァネスのケープ
死後硬直/ありきたりな殺人
ガスの臭い/檻の中で
ご存じの犯人/悪魔の名前
自然死/殺人の話
われわれは愉快ではない/書斎のドア



2022年6月24日 22:02 | | コメント(0)


またぞろがっつり更新をため込んでしまって、大変申し訳ございません。
まずは4月末(5月奥付)の新刊から、ご紹介させてください。

〈トム・クランシーのオプ・センター〉新シリーズの第5弾『黙約の凍土』(上・下)。
今回は、ロシアとキューバを舞台とした「核弾頭」をめぐる陰謀に、オプ・センターのメンバが立ち向かいます!

黙約の凍土_ブログ.jpg


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ひえっっ! 久しぶりにこんな感じの装丁やってみました!

あらすじは、こんな感じです。

老齢のロシア人元武器商人ボリシャコフが長く疎遠になっていた息子ユーリーからの連絡を受けて向かった先は、シベリア北東部アナドゥイリの寒村だった。

そこには、1962年のキューバ危機の際、ソ連によってひそかに設置されたサイロと二基の核ミサイルが今も眠っているのだ。

一方、オプ・センター長官チェイス・ウィリアムズは、イランから米国への亡命を希望するガセミ准将の尋問を行なうなかで、彼の亡命の裏に何か大きな策謀が隠されていることを察知し、メンバーに周辺調査を指示する。

その結果、イランで拘束され人質に取られているはずのガセミ准将の娘、原子物理学者のパランド博士に不穏な動きが見いだされる。

イランによる核爆弾入手計画の可能性に思い至ったチェイスは、部下のマコードをキューバに派遣して、核サイロのありかを知り得る高齢の女性革命家との接触を図るのだが......。

ロシアのGRUとイランが結託して展開する核爆弾移送作戦を、オプ・センターの面々は水際で食い止めることができるのか? 緊迫のミリタリー・サスペンス!


前作『暗黒地帯(ダーク・ゾーン)』では、まさにロシア対ウクライナの戦争勃発危機を題材に、プーチン大統領による軍事的戦略や、戦車軍団による大進撃など、いままさにウクライナ侵攻で起きていることを「予見」するかのような内容を描いていて、本当に驚かされました。

本作では、過去に封印されたまま忘れ去られた「核弾頭」をめぐって、ロシアとイランがはかりごとをたくらみ、それをいち早く察知したオプ・センターの面々が、最悪の事態を回避するために、水際で奮闘します。

ロシアによる「核使用」の可能性というのも、いまこの瞬間においては、大変ホットなトピックです。
ミリタリー・サスペンスにおいて、これから起こりうる危機としてかつて取り上げた内容が、4年、5年と経過するなかで、現実によって後から追いつかれるというのは、まさに著者陣の「見識」と「分析力」、「未来透視力」を指し示す、見事な証左であるといえましょう。

ただ、本書に先駆けて昨年9月に日本で刊行された、ジャック・ライアン・シリーズの『密約の核弾頭』[上・下 新潮文庫]とも、ロシア、イラン、核弾頭というキーワードや大まかな展開が丸かぶりしちゃってることに気づいたときは結構焦りました......本国では『密約の核弾頭』も『黙約の凍土』も、同じ2018年に刊行されてるんですね。トム・クランシー銘柄どうしで、横の連絡とか内容調整とかはやらないものなんかね、とかちょっと思っていしまいました(笑)。

あと、今回の物語では、キューバの老女性革命家が大きな役割を果たします。
この葉巻をくわえた女丈夫が、じつに魅力的なキャラクターなんですね。
個人的には、コーネル・ウールリッチの『恐怖の冥路』に登場する、あの印象深いハバナ人女性を想起しましたが、さすがにちょっと古いですか(笑)。
彼女をめぐる物語にもまた、「ロシア(ソ連)」という国の影が落ちています。

次回作、『Sting of the Wasp』では、オプ・センターが大きな危機に見舞われます。
無差別テロの勃発。オプ・センターへの解散指令。
だが、その背後では、極秘の計画が動いていた......。
緊迫の展開が待っておりますので、ぜひお楽しみに。
これまで1年に1作のペースでご紹介してきた本シリーズですが、次作はあまり間をあけずに、2022年の9月末にはお届けしたいと思っております。ご期待ください!(編集Y)







2022年6月24日 19:39 | | コメント(0)

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