思いかえせば、宝島社の『このミステリーがすごい!』の「わが社の隠し玉」コーナーで、本作の刊行について仄めかしはじめたのは、もう5年くらいも前のことだったかもしれません。
あの当時から、実は小林晋先生の訳稿はすでに存在していたんですね。
まさか、実際に刊行するのにこんなに時間と手間がかかるとは、よもや思ってもおりませんでした。

通常、われわれ翻訳版元は、海外のエージェントから版権を買って商品を出版しています。
ただ、それに当てはまらないケースが二通りだけあって、ひとつは著作権のすでに切れた作品を刊行する場合、もうひとつがいわゆる「10年留保」といわれるケースです。

細かくはご説明いたしませんが、ざっくりいうと「1970年までに海外で発行された著作物で、発行後10年間一度も邦訳が出ていない作品は、翻訳権が消滅する=版権を獲得せずに出版してよい」という規定のことです。これはれっきとした法的な約束事なので、大手を振って活用してよいわけでして、実際クラシック系海外翻訳の版元さんの多くは、この条項の枠内で刊行されていることかと思います。

ところが、10年留保の条件というのは、あくまで「発行された」著作物に限定されたものなんですね。
すなわち、雑誌に載ったり、書籍として刊行された作品じゃないと、適応されないわけです。

今回の場合、掲載されている40本の短編のうち、30本はすでに雑誌に掲載済だったのですが、これに加えて、どうしても「未発表」の短編10本を追加したい、これらを載せないと「全集」にならない、という制約があったわけです。
要するに、発表済短編だけなら10年留保でしれっと出せたんですが、未発表短編も収録するとなると、どうしてもレオ・ブルースの著作権管理団体(エステート)の許諾を得て、ちゃんとお金を払わないといけなくなったと。

しかも、小林先生は「アメリカで刊行されている短編集(雑誌発表済の短編を網羅したもの)の編者B.A.パイクさんが書いた序文も、ぜひ訳出して巻頭に掲載したい」とのご意向。
そうすると、当然アメリカ版短編集の版権も、別途獲得して出す必要が出てきます。

というわけで、日本のエージェンシーさんを通して、アメリカ版短編集の版元さんと、レオ・ブルースのエステートの両方から(しかも、びっくりするくらい格安の金額で)許諾を得るべく動き出したのが、2020年の秋。でも、ここからが長かった(笑)。

まず、エステートからは、散々待たされたあげく、「未発表原稿があるなんて知らなかった」とのご返答が。著作権管理が仕事なのに、知らなかったってどういうこと?? 「本当にレオ・ブルースの真作かどうかエステート内で審査してから、あらためてご連絡いたします」とのお言葉。
そこで、まずは発見者のエヴァンズさんから、直接エステートに連絡をとってもらい、発見の経緯や作品の概要を伝えてもらうことになりました(ご協力多謝!)。
結局、正式な許諾と金銭面でのご了承をいただけたのが、2021年の8月。
で、ここからはアメリカ版短編集の版元さんである、アカデミー・シカゴとの交渉にはいったわけですが、なぜかここもなかなかレスポンスをいただけないところで(笑)、さんざんせっついたすえにようやく許諾をいただけたのは、5か月後の2022年1月に入ってのことでした。

なんとか条件面がクリアになったので、そこから急ピッチに作業を進め、1年くらい眠らせていたゲラを再稼働させて、無事校了し、こうして皆様にお届けできることに相成ったというわけでございます。

編集者としては、年間20冊くらい本を作らされている激務のなかで、定期的に催促のメールを打つくらいしかやれることはなく、ただひたすら「待ち」の時間に耐えるだけでしたが、翻訳者である小林先生は、それこそ一日千秋の思いでずっと刊行できる日をお待ちになっていたことかと存じます。

しかも、待たされている間に、未発表短編10編のうちの1編が海外のアンソロジーに収録されてしまい、世界初紹介作品が「10編」が「9編」に減ってしまいましたが......まずは刊行にこぎつけられたことを、読者の皆様とともに寿ぎましょう!(編集Y)











2022年6月25日 09:51

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