2022年7月アーカイブ

『突然の奈落』と同時刊行された、『狼たちの宴』のほうも、もう読んでいただけましたでしょうか?
こちらは、オーストリアの人気女流作家アレックス・ベールによる長編作品。
昨年各種年末ベスト入りを果たして話題を呼んだ、『狼たちの城』の続編となります。
翻訳者は小津薫さんで、あとがきのほうもお願いしております。

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あらすじはこんな感じです。

ニュルンベルク、1942年。ユダヤ人の元古書店主イザーク・ルビンシュタインの悪夢は続いていた。逃走中にゲシュタポ犯罪捜査官アドルフ・ヴァイスマンと間違われたまま、女優密室殺人の謎を見事に解明してみせた彼は、街からの脱出をぎりぎりまで延ばして機密文書の奪取を試みるが、そこで新たに発生した女性絞殺事件の謎に捜査官として再び立ち向かうことに。
正体が露見すれば即「死」という究極の状況下で、「狼たちのなかの羊」は生き残ることができるのか?
 『狼たちの城』の続編登場!

お話は、前作のラストから一カ月後。
ユダヤ人でありながらゲシュタポ捜査官として組織に潜り込み、身バレ即、死という状況下でサヴァイヴしながら、見事事件を解決してみせたイザーク・ルビンシュタインが、ふたたび捜査官として事件に立ち向かいます。
一方で、彼はベルリンにいるレジスタンスと、元カノのクララのために、新たなナチスの秘密文書をゲットして持ち出すという使命にも積極果敢に挑んでいきます。

前作では、完全に「巻き込まれ型」主人公として終始おどおどしっぱなしだったイザークですが、本作では前作で何度も修羅場を潜り抜けてきた経験も踏まえて、既にある種の「したたかさ」を漂わせはじめています。
彼は、積極的に「名探偵」としてのペルソナと、「スパイ」としてのペルソナを交互に掛け替えながら、ナチスの高官とシンパたちの群れ成す社交界の「宴」に参加し、彼らに取り入って、情報を探りだそうとします。
いわば、「歴史もの」×「名探偵」×「スパイ」という本シリーズの基本構造を、主人公本人がより自覚的に推し進めていくわけですね。

それでも、「身バレ」の恐怖は常にイザークに降りかかります。
今回の敵は、意外にもナチスの官憲ではなく、「新聞記者」。
とある理由でイザークを目の敵にする新聞記者が、イザークの偽りの仮面を剝がすべく暗躍します。

個人的には、捜査の相棒として組まされる叩き上げのケーラー捜査官が、かなりやさぐれた人間味のあるキャラクターで、とても気に入りました。前作同様、バディものとしてもなかなか読ませるのは、このシリーズのひとつの特徴かと思います。

犯罪捜査パートのほうも、一見よくあるサイコ連続殺人犯ものに思えるかもしれませんが、最後まで読めば、まさに「この特殊な時代背景でしか描き得ない、王道中の王道の物語」であることがわかっていただけるかと。

前作『狼たちの城』のメインモチーフは、わかりやすく「ゲシュタポ」でした。
ナチスという「悪」を描くにあたって、ニュルンベルクの歴史からナチスが掠奪して根拠地へと様変わりさせた「城」と、その奥に巣食うゲシュタポたちを、きわめて明快な象徴として登場させたわけです。
一方、今作では、ナチスに支配されたニュルンベルクの街の「空気」そのものがテーマとなっています。新聞記者、裕福な商人、恋人たち、少年・少女――。市井に生きるだれもが皆、蔓延する時代の「空気」に巻き込まれ、しだいに狂っていったというのが、ナチス・ドイツの本質でした。
本作において、アレックス・ベールの眼差しは、常に「本来ならば普通につつがなく人生を過ごしていたであろう」ニュルンベルクの市民と、その背後に渦巻き、彼らの心を支配していた「何か」に向けられています。
そう、今回の主役は、ニュルンベルクという「街」そのものなのです。

ロシアによるウクライナ侵攻に世界が動揺するいまだからこそ、ぜひみなさんに読んでほしい一書ともいえます。できれば、前作『狼たちの城』を未読の方は、そちらを先に読んでいただいたうえで、セットでお楽しみいただければと思います。

最後にお恥ずかしいお話をひとつ。
上記の理由で、編集者は今回、邦題を『狼たちの街』にするつもりでもともとは進行していました。
ちなみに、1996年の映画に同タイトルのものがあることには最初から気づいていましたが、メディアが違うので、まあそのくらいなら被ってても仕方ないかな、と思っていたわけです。
と、ところが!
部決会議の直後に、同僚のTから衝撃の指摘がーー。
「ああ、その映画のノベライズ、昔うちから出てたよ」
えええええええ? マジか。全然ネットの検索とかでひっかからなかったぞ??
でも、著者名とセットで検索すると、確かにヒットしました。『狼たちの街』、ロバート・タイン著。
うああ、こりゃ、だめだ。
同じレーベルで、同タイトルの本が出るっていうのは、さすがにNGでしょう。

ということで、さんざん無い知恵を絞って、ついに『狼たちの宴』という邦題を思いついたのですが、
実際、こうやっていざ付けて見ると意外にしっくりくるタイトル。しょうじき我ながら、なかなか気に入っています。
ただ、こちらはこちらで、勝目梓先生のバイオレンス・エロス作品のタイトルと被ってしまったのですが......まあ、ジャンルも違うことですし、そこはなんとかお見逃しください......。(編集Y)











2022年7月21日 02:23 | | コメント(0)

『刑事コロンボ』や『ジェシカおばさんの事件簿』といったミステリー・ドラマのクリエイター。
 それがリチャード・レヴィンソンとウィリアム・リンクの名コンビです。
 彼らの埋もれた短編小説を発掘して好評を得たのが、本文庫既刊の『皮肉な結末』です。

 著作権的に翻訳出版可能な作品10本を選んだものでしたが、発売後、まるでタイミングを合わせるかのように、アメリカで2人の短編集が出版されたではありませんか。

 さっそくその出版社と交渉し、これによって、『皮肉な結末』で泣く泣く見送っていた何本かの短編の翻訳出版が可能になりました。
 こうして、2人の短編小説のうち、残っていた半分の翻訳出版が可能になり、『突然の奈落』として刊行できたのです。

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イラストレーション:岸潤一氏  カバー・デザイン:小栗山雄司氏

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『皮肉な終幕』をお読みいただいたかたにはおわかりのとおり、雰囲気たっぷりの描写と、キレのあるオチで、短編ミステリーの愉しさを満喫させてくれる名品がそろっています。

 なお今回は、『皮肉な終幕』もふくめて、電子版も配信されます。
 ただし、と、ここから話が複雑になるのですが、アメリカで出た2人の短編集『Shooting Script and Other Mysteries』は、17本を収録しています。
 しかし、当編集部が集めた短編は20作。
 本国版より、3本多いのですね。
 結果的に、『皮肉な終幕』で10作、『突然の奈落』で10作と、文庫版には収録できましたが、電子版では『皮肉な終幕』で9作、『突然の奈落』で8作という、変則的な形になってしまいました(そのぶん、電子版は割引価格になっています)。
 契約によるものなので、ご容赦ください。

 ともかく、ミステリー雑誌の黄金期に誌面を飾った2人の作品を、ぜひご堪能ください。(編集・T)

2022年7月13日 15:18 | | コメント(0)

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