ロバート・アーサーといえば、なんといっても不可能犯罪の名作「51番目の密室」が有名でしょう。
そんな彼の、日本初の短編集ができました。
訳者は、埋もれた本格ミステリー作品を中心に発掘をつづけてこられた小林晋氏。

表題作は、雪に閉ざされた山荘を訪れた女性が消失するという魅力的な謎に、驚きのトリックが炸裂する、これもまた不可能犯罪の歴史的傑作です。
(↑ ご覧の表紙は、森咲郭公鳥氏が描いた表題作のイメージです)
その他、老姉妹がミステリー小説の知識を駆使して犯罪集団と戦う「極悪と老嬢」、ひねりにひねったシャーロック・ホームズもののパスティーシュ「一つの足跡の冒険」、小森収氏が"清々しい一編"と評した「マニング氏の金の木」、その他、ウィットに富んだショートショートからジュヴナイル中編まで、この作家の多彩な顔が楽しめます。
どの作品も、たくみな語り口と凝ったたくらみに満ちているのですが、そもそもロバート・アーサーは、ラジオ・テレビのミステリー・ドラマの送り手として活躍し、エドガー賞を2度受賞しているのです。
いっぽうで、小説誌の編集者としても辣腕をふるっていました。
そんなところから、当然のごとくアルフレッド・ヒッチコックとパイプができ、ヒッチコックのゴーストライターならぬ"ゴーストエディター"として、「アルフレッド・ヒッチコック・プレゼンツ」のミステリー・アンソロジーを多数手がけます。
さらには、ヒッチコック名義でジュヴナイル・ミステリー(少年探偵たちが事件に挑むというシリーズで、ヒッチコック自身も作中に登場します)を多数執筆することになります。
そう考えると、まさに戦後アメリカのミステリー文化を支えた影の偉人だったと言えるでしょう。
そんなロバート・アーサーが残した自選傑作集が本書であり、とうとう日本でもこの作家の作品をまとめて読むことが可能になったわけです。
お見逃しなく!
2023年7月13日 18:35
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