編集部日記アーカイブ

『30の神品』は、古今東西のショートショートの中から、第一人者である江坂遊さんが30篇の名品を厳選したアンソロジーです。

 

当ブログでのご紹介は こちら !

 

当然ながら作品の選定と並べ順、および解説に関しては、すべて江坂さんにお願いしております。

(若干の作品で、こちらから選定作の調整をお願いしたりはしましたがご快諾をいただきました)

で、編集者のほうはといいますと、掲載が決まった作品の許可取りと、著作権者および底本出版社との諸条件の調整を行いつつ、実際の本作りの作業(および各作品の著者紹介作成)を進めることになります。

親本から各作品をデータ化して、書籍の体裁にととのえてゲラにするという作業自体は、これまでも何度もやってきた作業であり、とりたてて何も申し上げることはないわけですが......

今回はとにかく掲載作品数が30篇もあって、著作権者が山ほどいるんですね(笑)。

その許可取りを、一ヶ月の作業期間で本作りと平行して終わらせないといけない。

これが結構たいへんでした。

 

ちなみに、30篇のうち、日本人の方で著作権が切れているのは早逝された山川方夫さんだけで、あとは著者ないし訳者の方(およびそのご遺族の著作権継承者の方)全員と連絡をとって、ご許可をいただく必要がありました(もちろんお支払いも)。

海外古典作品の著者は概ね著作権が切れているか、「10年留保」と呼ばれる特別な規定(これにあてはまれば、翻訳権を取得しないですむ)に収まるケースが大半でしたが、ジャック・リッチーのみ翻訳権を獲得する必要がありました。さらには親本の版元が権利を主張するケースもあり、結局40人くらいを相手に、連絡および交渉をさせていただくことに。

これがもう、やってもやっても終わらない。30本ってマジ半端ない・・・しょうじき、ショートショートなめてました(笑)。

会社の台帳や文藝年鑑、インターネットなどでぱっと連絡先がわかる方ばかりではありません。むしろ、大半の方には、徒手空拳の状態からツテを頼って調べてゆくしかないのです。特に現役の作家さんならまだしも、亡くなられた作家さんや翻訳者さんのご遺族を探すという作業は、なかなかに大変なミッションでして......(創元のKさん、本当にお世話になりました!)。

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そんななか、中原涼さんのご逝去を知ったのは、許可取り作業も終盤のことでした。

中原さんは、「笑う宇宙」で奇想天外SF新人賞の佳作を受賞してデビューされてから、ショートショート作品を精力的に発表しながらも、のちに少女小説のジャンルで大成功を収められた作家さんです(ちなみに男性の方です)。代表作の「アリス」シリーズは、講談社X文庫ティーンズハートで35巻を数える長寿シリーズとなっています。

流行作家になられても、中原さんのショートショートへの情熱は醒めることなく、「ショートショートランド」や井上雅彦さん編集の「異形コレクション」などで、定期的に作品を発表されていました。

今回「地球嫌い」を収録するにあたり、掲載許可をいただこうと思ったのですが、江坂さんや周辺の方にうかがっても、ここ5年くらいの中原さんの動向がつかめず、講談社に連絡しても最近は郵送物が戻ってきてしまう、わかるならむしろ教えてくださいとのお話。そこで、二冊のショートショート集の単行本を出されている地人書館さんに問い合わせたところ、すでに亡くなられたとのお話と、娘さんのご連絡先を頂戴できたのでした。

娘さんいわく、長く肝臓を患っておられたとのこと。2013年5月にご逝去されたとのお話ですから、もう亡くなられて3年が経っていました。

SF・ショートショート界でもご存じだった方はいらっしゃらなかったようでしたので、娘さんのご許可をいただき、僭越ながら編集者のほうから、井上雅彦さん経由で他の作家の皆様にも情報を共有させていただきました。改めて、心からご冥福をお祈り申し上げます。

実は、中原さんのショートショート集三冊のうち、今回掲載した「地球嫌い」を収録した『笑う宇宙』(地人書館)は、今でも版が生きています。これぞショートショートというべき珠玉の作品集ですので、この機会にぜひ読んでみていただけるとうれしいです。

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和田誠さんの「おさる日記」の親本は絵本です。イラストレーター、デザイナー、映画監督など多彩な才能を発揮する和田さんですが、こういう一面もあるということは、ご存じなかった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

語り口が仕掛けに直結しているうえにきれいにオチるという、完成度の高い絶妙の小噺であり、これを「ショートショート」として切り出してくる江坂さんの慧眼には恐れ入ります。

当初、当方が底本として考えていたのは偕成社さんが1994年に出されていた絵本で、村上康成さんが挿絵を描いたものでした(もともとは、1966年に『話の特集』に掲載されたのが初出で、その際のイラストは長新太さん、74年には『にっぽんほら話』という短編集にも収録されており、そのときの絵は大橋歩さんでした。その後、白石加代子さんや大竹しのぶさんの朗読劇でも取り上げられたようです)。

ところが、和田さんの事務所に連絡を取らせていただいたところ、偕成社版のあと、2009年、個展に合わせて和田さん自身の挿絵で再度、私家本として書籍化したとのお話。

なに? 私家本ですと?......私家本だと、書店経由では購入することができません。慌ててネットで検索したところ、今は表参道のHBギャラリーという画廊でのみ販売しているらしい。それなのに......該当の画面を見ると「品切れ」の表示。これにはあせりました。

結局、HBギャラリーにご連絡したら、「店頭販売のみ若干の在庫があります」とのことで、事なきを得ました。お店に行って購入して帰ってきたあと、いざ中身を偕成社版と見比べてたら、てにをはが大幅に変更してあるのに加えて、もともと「×月×日」と入っていたところに全部ちゃんと日付が入れ直してある。......これは直さないとまずい。改めて、手に入ってよかったと、ほっと胸をなでおろしたのでした。

一応、掲載時はHBギャラリー版の表記に従い、ノートふうの表記で原本のテイストをできるかぎり保持するよう心がけましたが、やはりもともとは絵本だった作品のテクストだけを掲載したもの。本来の味わいを楽しむためには、親本にあたっていただくほかありません。

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ロバート・ブロック「夫を殺してはみたけれど」は、もともと旧『奇想天外』誌上でいったん訳されたのみで、その後、どの短編集にも一度も載ったことがないという掘り出し物の一編です。雑誌のうめぐさ的な小噺が源流であるショートショートのお手本のような作品といえるでしょう。江坂さんからは、『奇想天外』のコピーがまわってきました。

この作品の場合、編集者を幻惑したのは「書誌」でした。

いつも参考にさせていただいているネット上の翻訳作品集成の書誌サイトで、本作(原題Double Tragedy)が、『殺しのグルメ』(仁賀克雄訳、徳間文庫)所収の「裏切り」(原題Double-Cross)の別訳として表記してあったんですね。

Double TragedyとDouble-Crossが同じ作品の別題だというのは、このサイトにかぎらず海外のサイトでも同じ扱いでありまして、てっきり信じ込んでいたところが......いざ『殺しのグルメ』を取り寄せてみたらまるで別の作品!

実はあの時期、「夫を殺してはみたけれど」の翻訳者、小沢瑞穂さんとなかなか連絡がとれず、いざとなったら仁賀さん訳で行こうと心に決めていたので、これにはかなりびっくりしました。結局、夜討ち朝駆けではないですが、休日の朝8時にようやく小沢さんに電話がつながりまして、いろいろと事なきを得た次第です。快く掲載許可をくださっていた仁賀先生、せっかくのご好意を無下にして、本当に申し訳ありませんでした!

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本書は銀河系ナンバーワン打線を目指したショートショートアンソロジーですので、星新一、筒井康隆、阿刀田高、都筑道夫、スレッサー、サキといった大御所の代表作や、「みずうみ」「賢者の贈りもの」「アウル・クリーク橋の一事件」「猿の手」「女か虎か」といった超有名作が目白押しで揃っております。ただ、そのなかで個人的なおすすめを一点だけあげるとするならば、ちょっと変化球気味ではありますが、岸田今日子さんの「冬休みに あった人」になるかと。

皆さん、岸田今日子さんといえばどんなことを想起されるでしょうか?

『砂の女』や『卍』の妖艶な女優さん? 『傷だらけの天使』の綾部さん? ムーミンの声優さん?

編集者にとって、彼女の残した仕事でもっとも忘れがたいのは、傑作アニメーション『プリンセスチュチュ』(全26話)の冒頭に流れるミニ童話のナレーションです。

わが人生のオールタイム・ベスト作である『プリンセスチュチュ』がいかに優れた作品かは、いつかBDボックスが発売された折にでも5万字、10万字を費やして語りたいところですが、このアニメ、毎回最初に本編と若干連動した30秒くらいの「ちょっと怖い童話」が必ず流れるんですね。これが単品で見ても、もう言葉を絶する完成度でして。まさに映像における「ショートショート」とは、これを指すんだろうなというくらいの。で、その怖い「ショートショート」を驚くべき「声」の力で成立させていたのが、岸田今日子さんなのでした。

「声」でショートショートを成立させる魔法の使い手である岸田さんは、筆をもってもショートショートの抜群の名手でした。その素晴らしさは、読んでいただければご理解いただけるはず。

ぜひ熟読玩味していただき、もしお気に召されたならば、他の岸田今日子作品にも(古本でしか買えませんが)手を伸ばしてほしいな、と思います。

『二つの月の記憶』(講談社)と『ラストシーン』(角川文庫)、どちらもおすすめです(江坂さんの大のおすすめは『ラストシーン』所収の「セニスィエンタの家」)。それと短編集とはいえませんが子供にしてあげたお話 してあげなかったお話(大和書房、異本あり)にもいくつかショートショートが掲載されており、こちらに所収の「香港の黒豚」は、女教師の夏休みを描いたという意味では「冬休みに あった人」と対になるようなお話。やはり詩的な文体のなかに毒を秘めた傑作です。

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その他、当初は掲載を予定していながらも、著作権継承者さんが長年どの社にも許可を出されていないということで見送らざるを得なかった幻の超有名ショートショート作品の話なども面白そうですが、今はやめておきます(笑)(結局、江坂さんに代打をお願いして「かげ草」をバッターボックスに送っていただきました)。

一点、「便利な治療」マッシモ・ボンテンベルリ作、ルは小字)の翻訳者である岩崎純孝さんに関しましては、親本の版元さん(筑摩書房さん)にお願いして所在を追っていただいたのですが、結局、著作権継承者の方を探し出すことができませんでした。もしご存じの方がいらっしゃったらご一報ください。よろしくお願い申し上げます。(編集Y)

 

 

 

 

 

 

 

2016年12月20日 22:35 | | コメント(0)

先日、『拾った女』(チャールズ・ウィルフォード 浜野アキオ訳)が、『IN☆POCKET』の2016年文庫翻訳ミステリーベスト10で総合第3位、翻訳家&評論家部門で第1位を獲得したとの情報をアップしたばかりですが、今度は

11月25日発売の『ハヤカワミステリマガジン』誌上での「ミステリが読みたい!」2017年版海外篇において、

堂々の3位入賞を果たしました!

 

実にめでたい! 本当にありがとうございます!!

 

前任者Tも編集者の前では平静を装っていますが、

きっと内心嬉しすぎてとろけてしまいそうなのではないかと。

 

皆さんもそろそろ、「そこまでみんな言うなら読んでみようかなあ」という気分になって来ましたよね?

ぜひなってほしい!・・・いや、なってください。どうかお願いいたします・・・(三跪九叩頭礼)

 

とはいえ、正直なところをいえば、ノワールという若干廃れ気味のジャンル自体が、すでに読者の皆さんから縁遠いものになってしまっている感もいなめません。

 

ノワールとはそもそも、どういうジャンルなのか。

ミステリー的な文脈のなかで、本書はどう位置づけるべきなのか。

本書のラストはどう解釈されるべきものなのか。

 

決して長い小説でもなければ、大上段に構えたお話でもありませんが、じっくり読めば読むほど、底の知れない作品だと思えてなりません。

 

一人でも多くの方に『拾った女』をお楽しみいただくためにも、編集者なりにいろいろ考えたことを、このブログで5回くらいに分けてアップしてみようかな、と思っておりますので、その際は本書を片手にじっくりお付き合いくださいませ。(編集Y)

 

 

 

 

2016年11月26日 03:14 | | コメント(0)

発刊以来、各処から絶賛の声を頂戴しておりましたチャールズ・ウィルフォード著『拾った女』(浜野アキオ訳)ですが、

 

講談社『IN☆POCKET』の2016年文庫翻訳ミステリー・ベスト10で、総合3位、

翻訳家&評論家が選んだベスト10で、なんと1位を獲得しました!

 

本当にありがとうございます!

弊社の作品が1位とか、どんな世界線でしょうか(笑)。本当に嬉しいです。

 

PickUp cover.jpg

 

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ちなみに、他の上位作は上下巻の大作が多いですが、『拾った女』は335頁でさくっと読めます!

 

追って、またいろいろと情報をアップしていきたいと思っております。

一人でも多くの方にこの素晴らしいノワールが読んでいただけますように。(編集Y)

 

2016年11月20日 23:07 | | コメント(0)

徹夜で声優ラジオ本の音源起こしをやりながら、ふだんは滞りがちのブログに現実逃避している編集Yです。

 

一昨日サントリーホールで、ミハイル・プレトニョフ指揮の東京フィルハーモニー交響楽団による、スクリャービンの交響曲第一番を聴いてきました。実演の機会が少ない楽曲を定期演奏会にかけてくれただけでも大感謝。演奏もなかなかの熱演だったかと思います。

なぜ、こんな話をしているかというと、昔この曲に関することで読んだエピソードが、ミステリー読みとして大変おもしろかったので、皆さんにもちょっとご紹介してみようかと思ったわけです。

 

アレクサンドル・スクリャービン(1872~1915)は、ロシアの作曲家で、チャイコフスキーよりは後の世代でラフマニノフと1歳違いの同世代。多数のピアノ曲のほか、5曲の交響曲をのこしています。

ぶっちゃけかなりの変人で、1900年以降、ニーチェ哲学に傾倒したうえ神智学にもドはまりし、後年は神秘主義的な独立独歩の作風を確立しました。色光ピアノなる、多色の照明を鍵盤で切り替えられる楽器を発明して、自作の交響曲で使おうとしたことでも有名です。彼の残した晩年の文章とか読んでると、いってることがすさまじすぎて、おつむがくらくらしてきますからね・・・・・・。

 

交響曲のなかでは、一般には、第四番の「法悦の詩」(法悦って訳してますが、実際の単語は「エクスタシー」で、かなりぶっ飛んだ内容の曲です)が有名かと思いますが、1900年に作られた第一番も、若書き扱いされてなかなか演奏機会に恵まれないわりに、後期ロマン派テイストの濃厚な楽しい楽曲です。

六楽章制の合唱・独唱付きというと、当然マーラーの二番、三番あたりを意識した楽曲であることは自明ですが、実際に聴くと、序奏の付け方にせよ、節回しにせよ、循環形式の使用にせよ、和声にせよ、とてもショーソンの交響曲に似ていて、フランスかぶれだったスクリャービンらしいなあ、というのが個人的な感想です。出来についても、少なくともハンス・ロットやフランツ・シュミットやカゼッラに演奏機会があるのなら、同じくらいは演奏されてしかるべき曲ではないかと。

 

で、ここからが本題なのですが、この曲、終楽章の独唱&合唱の歌詞が、いわゆる「芸術讃歌」になっているんですね。

まるまる引用するとやばそうなので、かいつまんで説明すると、まずメゾ・ソプラノが「おお、神のすばらしき姿よ、協和の、きよらかな芸術よ!」と歌い上げ、「わたしたちはみな、あなたに捧げる、熱いよろこびの讃美を」と歌います。(プログラム記載の大宅緒さんの訳より引用。以下同)

それからテノールが「あなたはこの世の輝く夢。あなたは祝祭にして安息」と歌い、このあと、魂が荒れ果てているときに、あなたのなかに慰めを見出すとか、闘いに敗れた者を生へと呼び戻すとか、新たな思惟のかたちを産むとか、とにかく大仰な賛辞が延々と続くわけです。

そして最後に、「来たれ、全世界の人々よ、芸術を讃えてうたおう」と独唱者が歌い上げ、合唱が「芸術に栄えあれ、永遠に栄えあれ!」と繰り返し、曲は壮大なクライマックスを迎えます。

 

面白いのは、ここから。

かつて読んだ、スヴェトラーノフという指揮者による二回目のスクリャービン交響曲全集のライナーノーツに書いてあったエピソードなんですが、一説によれば、スクリャービンは後年、友人に「あれは自分のことだ」と言っていたというのです。

すなわち、夢だ、慰めだ、地上にくまなく君臨する魂だ、ともてはやされている「あなた」とは、スクリャービン本人のことだったんだ、と。

あくまで風聞の域を出ない話かもしれませんが、後年の楽曲のプログラムでは思いきり「われは神なり」とのたまっている作曲家なので、じゅうぶんありそうなエピソードだとも思います。

 

なんの話をしているかは、もうお分かりですね。

ここでミステリー的に注目すべきは、冒頭と結尾だけ三人称的に「芸術」の名を上げて、まんなかではずっと「あなた」と二人称で呼びかける形で書いてある、そのテクストの巧妙さです。

だって、こう書いてあれば、誰だって「あなた」=「芸術」だと思いますもんね。

まさか、「あなた」が、作曲しているスクリャービン本人のことだとは思わない。

その大いなる錯誤のなかで、大人数の合唱団が、舞台上で声高らかに讃美するわけですよ。作曲者の偉大さを。作曲者の光輝を。

これってまさに、演奏家から聴衆まで罠にかけんとする、いっぱしの叙述トリックじゃないですか!!

 

とまあ、実際には編集者の考えすぎっていうか妄想なんでしょうが(笑)。

要は「われこそは芸術の化身である」と言いたかっただけなのでしょうし、リヒャルト・シュトラウスの影響なんかも大いにありそうな話ですが、個人的に妙に琴線にふれたエピソードだったので、いつか機会を見てミステリー・ファンの諸氏にご紹介したいな、とずっと思っていたのでした。

金曜日にも初台のホールで同じコンビでの同曲の演奏会があるようですが、一昨日はカメラも入っていたようなので、もしかするとテレビで放映するのかもしれません。

ぜひ機会があれば、愛すべき曲ですので、一度聴いてみてもらえると嬉しいです。(編集Y)

2014年10月23日 01:22 | | コメント(0)

先日、三井記念美術館の『東山御物の美』展(開催中~11月24日まで)に行ってきて、そのハンパないお宝づくしに圧倒された編集Yです。ちょっとミステリーとは関係ないのですが、ぜひ皆さんにも足を運んでいただきたいので、勝手に宣伝をば(問題があるようなら関係者の方、ご一報ください)。

 

二年前の北京故宮展以来、昨年の上海美術館展、今年の台北故宮展と、中国絵画の至宝が次々日本初上陸を果たしています。

張択端「清明上河図巻」には10時間の行列ができててびっくりでしたが、そのほかにも、王詵「煙江畳嶂図巻」や趙孟頫の「水村図巻」といった超国宝級の傑作に、巨然、関同、元末四大家あたりの真作、それからクリーブランド展で米友仁が来たのにも驚きました。

大学時代、美術史に身をおいた者(自分は西洋絵画専攻でしたが)としては、これら極め付きの神品、逸品を実見できるというのは、まさに奇跡のような体験でした。

言葉どおり「門外不出」といっていい、図版でしか観たことのない作品群が、ぞろぞろと揃って初来日を果たしたのですから。

政治的な問題はさておき、文化交流の面ではいま、日中間に新たな時代が開かれようとしているのです。

 

そんななか、ここに、もうひとつの「大中国絵画展」が始まりました。

それが今回紹介する、三井記念美術館の『東山御物の美』です。

前記3つの展覧会は、中国本土(もしくは台湾)に残された逸品、神品を集めたものでした。

こちらは、室町期の足利将軍家にかつて所蔵され、今に残された中国絵画(および工芸)――いわゆる「唐物」を一堂に介した展覧会です。南宋画を集めた展覧会としては、おそらく10年前に行われた根津美術館での展覧会以来の規模のはず。

日本人は、特定の美意識に基づき、中国とは異なる基準で宋元の名品を輸入し、大切に保存してきました。その中には、いまや中国本土では作品の残っていない画家の貴重な作品も含まれます。

国宝だけでなんと11点!(展示替えあり) とくに牧谿、梁楷らの傑作群は、日本美術の礎にもなった古典中の古典です。実物観ると、はっきりいってビビリますよ。あまりの凄さに。そのさりげないリアリズムに。そして、墨を抑えることを恐れないその勇気に。

美術ファンなら絶対に見逃せない展覧会だと思います。また、ふだんは諸家に分蔵されている対幅(二枚一組の絵)を、並べて観ることができる貴重な機会でもあります。

なんといっても目玉としては、徽宗の「桃鳩図」が10年ぶりに出展されます(11/18~21のみ)。その前に展覧会に出たのが今から20年前といいますから、まるで彗星みたいな国宝ですね。

ちなみに編集者は、人生でまだ実物を観られていない国宝絵画が二点だけありまして、そのうちのひとつが「桃鳩図」なんであります(前回の根津で展示替えに気づかず見逃した。なおもう一点は可翁の「寒山図」。あと、遍照光院所蔵の池大雅の襖絵を全幅見たい~)。

 

ぶっちゃけ、裏でやってる東京国立博物館の「日本国宝展」に負けていないどころか、お宝率でいうと断然勝ってると思います(関係者には言えないと思うので、私が言っちゃいます)

少なくとも、「日本国宝展」に足を運んだのなら、こっちにもいっとかないと、本当にもったいない。

奇しくも、展覧会場で偶然お会いした大学の大先輩がこんな感じのこと(うろ覚え)をおっしゃってました。「あちらは2014年時点の国が定めている国宝。こちらは室町時代の将軍家お墨付きの『国宝』ですよ」。

 

ぜひ、皆様もお暇があれば三井記念美術館に足をお運びください!(編集Y)

2014年10月21日 22:26 | | コメント(0)

まずは、このところの既刊に関する、最近出ました書評について、

ご紹介しておきたいと思います。

 

まず、「ミステリマガジン」8月号では、若林踏さんが、ロバート・ブロック『予期せぬ結末3 ハリウッドの恐怖』をトップピックでとりあげ、「著者の多才ぶりを味わう一冊」として、ご紹介くださっています。

映像メディアと異色短篇の関わりや、ミステリー色の強い作品への言及など、とても嬉しい評価をいただきました。

同号では、古山裕樹さんがリチャード・ニーリィ『リッジウェイ家の女』をとりあげ、「四人の関係と、隠された秘密とが絡み合い、疑念と驚きに満ちたサスペンスに仕上がっている」「物語のクライマックスには、仕掛けられた起爆装置が次々と作動し、驚きの波が押し寄せる」とご紹介くださっています。

「本の雑誌」8月号では、酒井貞道さんが、同じく『リッジウェイ家の女』について、「練達の至芸を見せてくれる」「ファンは必読、サスペンス好きにも強くオススメしたい」と、たいへん好意的にご紹介くださっています。お三方とも、本当にありがとうございます!

ちなみに、その次に酒井さんが紹介されていたパトリック・クェンティン『女郎蜘蛛』(創元推理文庫)は、かつて弊社からクェンティンの『悪女パズル』(森泉玲子・訳)を出したあと、その次作として同じ翻訳者さんで出版を企画していたものの、訳者さんの急逝によって諦めた経緯のある本。こうやって新訳版が出て皆さんの手に届くのは、本当に嬉しいことです。

 

ちなみに、「ミステリマガジン」8月号では、北上次郎さんが「勝手に文庫解説」で、弊社のデイヴィット・マーティン『死にいたる愛』について、「吸血鬼小説の傑作」としてご紹介くださっています。ただ、もう弊社では在庫はありませんで、悔しいばかりでございます。

北上さんは同じ連載で、クレイグ・ホールデン『夜が終わる場所』や、シェリー・ルーベン 『炎の証言』など、すごい打率で弊社作品を取り上げてくださっているのに、のきなみ在庫切れで、ひたすら申し訳なくて・・・・・・。でも、本当にありがとうございます!

 

最後に、変わったところでは、NHK出版の語学テキスト「テレビでスペイン語」の8月号で、柳原孝敦さんが「現代作家の味わい方」というコーナーの第5回として、ギジェルモ・マルティネス『ルシアナ・Bの緩慢なる死』を、なんと4ページにわたってご紹介くださっています。作家像から、作品のありようまで、じつに懇切丁寧にひもといておられて、さすがとしかいいようがありません。(そういえば、この本が出た頃に、千街晶之さんが「週刊文春」で書いてくださった書評も、作品の本質を鷲掴みにするような凄い内容で、こころから感服した記憶があります)。

まさかの方角からの援護射撃をいただき、本当に嬉しいかぎりなのですが、残念ながら『ルシアナ・B』のほうも、弊社では社内在庫があまりありませんで・・・・・・。

 

ただ、上記の品切れ本はいずれも、手を尽くせば入手できないこともないかと思いますので、ぜひ皆様も、ご一読いただければ幸いに存じます。いずれ劣らぬ傑作ぞろいですので。

 

それから、ギジェルモ・マルティネスといえば、『オックスフォード連続殺人』の映画版が、2014年8月30日(土)の20:30から、AXNミステリーで放映されますので、ぜひふるってご視聴ください。

イライジャ・ウッドとジョン・ハートが主演をつとめる、なかなかのすぐれもので、監督は、あのアレックス・デ・ラ・イグレシアです。(編集Y)

2014年7月19日 04:41 | | コメント(0)

とんと更新しないうちに、4月も終わろうとしております。

このところ、直近で2連泊のあと、5連泊して、そのあと2連泊とか、総務に探りを入れられるくらいキツい状況で、しょうじきブログを更新する気力も体力もありませんでした。ご容赦ください。

◯◯◯◯か・・・・何もかもみな懐かしい・・・・・げぼっっ

・・・・で、これではいかん! と、まずは、月末の新刊紹介の前にいくつか告知をば。

 

まず、遅まきながらのご紹介ですが、本ブログにバナーでリンクされております扶桑社海外文庫座談会の第二弾が更新されております。いろいろと、読者の方にはふだんお話ししないような内輪話もけっこう赤裸々に公開しておりますので、ぜひご一読ください!

 

それから、3/18には、翻訳ミステリー大賞シンジケートで、大矢博子さんが弊社ロマンスのカレン・ローズ『木の葉のように震えて』(上・下)について、ミステリーの文脈でご紹介くださって、ちょっとびっくりしつつも大感謝しております!

こちら

 

つぎに、これから発売される新刊のご紹介!

 

ソチ五輪が終わり(フィギュアの町田樹くんの使用曲がSP、フリーそれぞれ、デイヴィッド・カッパーフィールドの「フライング」と、ランス・バートンの「鳥かごゾンビ」のBGMだったのが、元学生マジシャンとしては、ツボだった)、

事実は小説より奇なりを地で行くいくつかの事件が起こり(某音楽家みたいな人を主人公にした「◯◯者」シリーズって、すごい面白そうに思うんですけど・・・)、

ラスト二回でガチ号泣させられた大傑作「なぞの転校生」が終わり(アゼガミとスズシロのシーンで爆笑しながら嗚咽。こんな経験デ・パルマの『ミッドナイトクロス』以来ですよ・・・・)、

時代劇チャンネルで、ずっと愉しみにしていた「影同心Ⅱ」がついに始まった今日このごろ(水谷豊の殺し技に大爆笑。紋次郎みたいに、ぷっと吹いて敵の眉間に突き立てた爪楊枝を、後から追いかけてって巨大なトンカチでぶち込むんですが、それじゃあせっかくの飛び道具の意味がまるでないよww)。

 

弊社でも、長らくお待たせしていた「隠し球」をついに解禁いたします。

雌伏三年。出す出す詐欺を繰り返し、発売延期を経て、ようやく陽の目を見る本作。

YとIのダブル担当で臨んで、万全を尽くしたつもりです。

 

『心ひき裂かれて』『殺人症候群』『オイディプスの報酬』『仮面の情事』で知られる

鬼才リチャード・ニーリィの『リッジウェイ家の女』、いよいよ5月2日発売!

解説はあの、折原一先生! 北見隆氏のイラストが目印です!

リッジウェイ小.jpg

詳細は近日にブログ更新予定。しばしお待ちあれ。

 

さらに!!

短篇愛好家の皆様、お待たせいたしました。

おそらく6月頭には(遅れても7月頭には)、井上雅彦・編のシリーズ第三弾、

ロバート・ブロック著

『予期せぬ結末3 ハリウッドの恐怖』が発売予定!(ただし、ホントに予定は未定!)

今回も、全編、本邦初訳OR 個人集未収録作で構成。

小説と映画をクロスオーバーしてきた異能作家の真髄をぜひご堪能ください。

こちらも詳報を追ってお届けしたいと思いますのでお楽しみに!(編集Y)

2014年4月23日 23:57 | | コメント(4)

この度は、大変お恥ずかしい出版事故を発生させてしまい、誠に申し訳ありませんでした。
担当編集のみならず、上司や私自身も含め、水際で事態を防げなかったことを悔み、反省、反省の毎日でございます。読者の皆様をはじめ、書店、取次各社にも多大なご迷惑をおかけいたしております。今後、このようなことがないようチェック体制を強化していきたいと考えておりますので、何卒ご寛恕賜れば幸いです。

そんななか、更新しづらくてご報告が遅くなってしまったのですが・・・・
先般行われました「翻訳ミステリー大賞」のビブリオバトルなるものに
出させていただき、大変ありがたいことに一等賞を頂戴いたしました。

こちら

弊社のイチオシとしてご紹介したのは、5月2日にいよいよ発売となります
ジョン・コリア著『予期せぬ結末 ミッドナイト・ブルー』
(次の記事でご紹介いたします!)

ご支援いただきました会場の皆様に改めまして、
心からの感謝の意を表したく存じます。

大変拙いプレゼンではございましたが、
ジョン・コリアという作家自身の魅力と、
並み居る大手ミステリー版元と比しての
弊社のごまめっぷりへの温かいいたわりと、
販売部に強要されて着たハッピの力で
このような嬉しいご褒美をいただけたと、
ありがたく思っております。

でも、これで昨年の『本の雑誌』主催・編集者対抗ブックカバートントン相撲大会から、編集者は二冠を達成!! なんか、ついてます!!
って、いや・・・本業で頑張れって話ですよね、ホントにすみません。

なお、証拠写真として、いただいた賞状はこちら。

画像の確認


おおおお! なぜか定型のじゃなくて、田口俊樹先生直筆ですよっ!
その割に名前は入れていただけてないけど(笑&泣)、
編集者の家宝にします。本当にありがとうございました!

で、その席上で次回は夏くらいに『予期せぬ結末』第二弾として、
チャールズ・ボーモント(早川さんの『夜の旅、その他の旅』で知られる、
「奇妙な味」の代表的作家)を、という話をさせていただいたわけですが、
一旦社に戻ってひと仕事を終えたあと、お家に帰って観たのが、
WOWOWでやってたロジャー・コーマンの映画『侵入者』
皆さん、ご覧になりました?
これ、実は原作・脚本がチャールズ・ボーモントなんですね。

2013年4月25日 01:28 | | コメント(1)

皆様、ジェームズ・ロリンズ『アイス・ハント』(上・下)、もう読んでいただけましたか?
かかわった人間全員が、ガチで面白かったと声をそろえる、圧倒的なエンターテインメント。
『マギの聖骨』ほか、シグマフォース・シリーズにハマった方たちはもちろん、
すべての冒険SFアクションファンに自信をもってお勧めする、掛け値なしの傑作です。
ぜひ、よろしくお願いします!

というわけで、最近三冊同時並行でつくっていて、遊ぶ間もない編集Yです。
といいつつ、京都まで多田寺薬師の出開帳に行ったり、「クラコレ」行ったり会田誠展行ったりと、仕事をしてないときは、遊んでます。美術史出身者としては、見逃せないものが多すぎる・・・・。

今日の更新は、新しく弊社で獲得しました音楽ミステリーの予告もかねて、
趣味丸出しのクラシック噺など。
いやあ、本国にオファーをだしてから結構返事を待たされたので、獲れて嬉しくて。

2013年3月30日 02:02 | | コメント(3)

 映画『シャドー・ダンサー』の公開がはじまりました。
 シネスイッチ銀座ほか、全国で順次公開されます。

 舞台は1990年代前半の英国。
 IRA闘士であるヒロイン・コレットは、ロンドンでの爆弾テロに失敗し、英国当局に拘束されてします。
 幼い息子との生活も終わりかと思われたコレットに、MI5のマックはスパイになる道を提示します。
 IRAの情報を定期的にMI5に提供すれば、息子のもとへ帰れる...しかしそれは、祖国と組織、そして家族を裏切ることにもなるのです。
 こうしてコレットの密告者としての生活がはじまるのでした。

 本作品は、1999年に本文庫から発売された『哀しみの密告者』の映画化です。
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 作者トム・ブラッドビーが、みずから脚本を執筆。
 監督は、アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門に輝く『マン・オン・ワイヤー』のジェイムズ・マーシュで、ブラッドビーとともに脚本にもたずさわっています。

2013年3月18日 16:53 | | コメント(0) | トラックバック(1)

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