新刊案内アーカイブ

いよいよ、クリント・イーストウッド監督・主演による『クライ・マッチョ』が1月14日より全国公開となりました。
本作は、監督生活50周年、監督作品40作目の記念作となっております。

それに合わせまして! 扶桑社より、本作の原作『クライ・マッチョ』を緊急出版することになりました。
著者は、N.リチャード・ナッシュ。彼の作品が翻訳されるのは、本邦初となります。翻訳者は、古賀紅美さん。
本書がアメリカで書かれたのは、1975年。それから、何度も映画化の話がありながら、ようやく今回実現した作品でもあります。
映画公開に合わせて13日発売で世に送り出しましたので、今日あたりには全国津々浦々の書店店頭にもう並んでいることかと思います。

カバーはこちら!

クライ・マッチョカバー表1ブログ.jpg

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あらすじはこんな感じです。

かつてロデオスターとして盛名を馳せたマイク・マイロは、落馬事故のあと雇い主のハワードから首を宣告される。
一方で彼から、メキシコで母親と住む息子のラファエルを米テキサスに住む自分のもとに送り届けることができれば、5万ドルを支払うという仕事の依頼を受ける。メキシコに向かったマイクは、路上で闘鶏に生きる少年ラファエルを遂に見出すが......。

熾烈な逃避行と、道中の交流を通じて再生してゆくふたりの姿を描き出す、C・イーストウッド監督&主演映画の原作本、遂に本邦初訳!


出だしを見てもらってもわかるとおり、本作にはいろいろと映画版『クライ・マッチョ』とは異なる部分があります。
たとえば、主人公の年齢。
なんと、原作のマイクは38歳なのです。

たしかに、70年代で38歳はそれなりにいい齢だし、ましてロデオやスポーツをやる人間からすると、大ベテランといっていい齢です。
でも、御年91歳になるクリント・イーストウッドが御自ら主演を買って出るってのは、たぶん今は天国にいる著者も、さすがに想定外だったことでしょう(笑)。

映画版は映画版で、「クリント・イーストウッドを愉しむ」作品として、実に味のある作品に仕上がっています。でも手前みそながら、この原作小説のほうも、本当に素晴らしいんですよ。
たぶん、読み始める前に予想されるより、ずっと「ぐっとくる」小説だと思います。

すでに読んでくださった北上次郎さんが、翻訳ミステリー大賞シンジケートの『書評七福神の十二月度ベスト』で、(少し早いですがw)さっそくご紹介くださっています。(こちら
ありがとうございます!!

曰く、
「(前略)映画化のおかげで、1975年の原作が翻訳された波乱万丈のロードノベルだ。
 ふーんと思って読み始めたら、なかなか面白い。
 こういう小品が世界にはまだまだたくさんあることを教えてくれる一冊です。」
とのこと。

そう言っていただけると、担当としても本当にうれしいです。

冒頭、佳境で登場するアクションシーンがそのまま掲載されています。
そこから、そのシーンに至るまでの過程が順を追って語られるわけですが、まずは驚かされるのが、上のあらすじにも書いてあるメインイベント、「少年ラフォ」と出逢うまでが、異様に長い!(笑)

映画では、始まってしばらくしたら、もうマイクはメキシコにいますが、原作ではそこまでに、なんと100ページ以上かかるのです。
じゃあ、何をやってるかというと、マイクの不幸な結末に終わった結婚と、喪った子どもの話がじっくり描き込まれるんですね。で、なぜ敗残のロデオスターであるマイクが、この理不尽で危険な任務に身を投じることにしたかが、筆を費やして描かれる。

原作では、この前提があって、初めて少年ラフォとの出逢いと交流が描かれるわけです。

結果として、原作は映画版と比べて、かなりテイストはシビアだし、アクションも暴力的だし、少年も映画版ほどには素直な性格ではありません。

でも、これはこれで、本当に胸を打つ、本格的な「南部小説」「ロデオ小説」なんですね。

映画を観る前に読むもよし。
映画を観てから読むもよし。

本作を読むことで、クリント・イーストウッドが「自分がこの作品に出るために、どう原作を改変したか」という、大変面白い分析も可能になります(冒頭からラストまで、実に考え抜かれた改変ぶりなんですよ)。

読んだら、観よう!
観たら、読もう!
というわけで、
ぜひ、映画と合わせて、皆さんも原作の魅力に触れていただけると幸いです!

ー ー ー ー

弊社としても、今回の映画化がなければ出すこともなかったし、検討の俎上にすらのぼらなかった作品ではあります。でも、こうやって出してみると、本当にうちから出せて良かった。そう素直に思います。

南部小説の衣鉢を継ぐ、巨匠スティーヴン・ハンターの作品を出している扶桑社。
かつてビリヤードの世界を描いた小説『ハスラー』と、ポーカーの世界を描いた小説『シンシナティ・キッズ』を出していた扶桑社。
直近でチャールズ・ウィルフォードの「闘鶏小説」、『コックファイター』を世に問うてみせた扶桑社。

で、『クライ・マッチョ』ですよ!
この、南部男によるバリバリのロデオ小説を今更、復刻出版するとしたら、やっぱりうちしかないでしょう!?
だろ? なあ、マッチョ?(注:本作に登場する裏主人公であるニワトリの名前)

ちなみに、編集者のなかでは『コックファイター』『クライ・マッチョ』『ナイトメア・アリー 悪夢小路』は、「扶桑社『ニワトリ』三部作」と位置付けられております(笑)。
今あげたようなノワールやギャンブル小説が好きな人にも、100%楽しんでいただける小説だと思います。皆様、ぜひご一読ください! (編集Y)












2022年1月15日 15:43 | | コメント(0)

またまた更新がたいへん遅れて申し訳ありません。
巨匠ケン・フォレットが久々にものした現代もののポリティカル・スリラー『ネヴァー』(上・中・下 戸田裕之・訳)、もう手に取っていただけましたでしょうか?
発売月としての初速はとても順調で、ほんとうにうれしく思っております。

ネヴァー上中下 帯あり.jpg

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 あらすじはこんな感じです。
3巻分として書いたものをまとめたので、ちょっと長いですが(笑)。

中央アフリカに位置するチャド共和国。
タマラはその首都ンジャメナに駐在するCⅠA工作員だ。
彼女はテロリストの隠れ家とドラッグの密輸ルートを潜入捜査中の同僚アブドゥルの後方支援を担当している。アブドゥルが砂漠に隠された敵宿営地の発見に成功、急襲作戦の勝利に沸き立ったのもつかの間、タマラは国境にかかる橋で起きた小規模な武力衝突に巻き込まれる。
だがそれは、チャド・スーダンの背後にいるアメリカ・中国をも巻き込み世界を揺るがすことになる争いの端緒に過ぎなかった・・・。
アメリカ合衆国大統領ポーリーン・グリーンは相次ぐ事態の対応に苦慮していた。アフリカのチャドとスーダン両国間で発生した報復の連鎖は、やがて抜き差しならない大惨事を引き起こし、被害に遭った中国による報復行為まで呼び込んでしまう。どこで矛を収めるか、これ以上の紛争状態に発展することを避けるため、米中間でぎりぎりの交渉が行なわれているさなか、今度は中国国家安全部対外情報局長チャン・カイのもとに驚くべき情報が舞い込む。北朝鮮でクーデターが進行中だというのだ・・・!
対立の度を次第に深めてゆく米中二大国。極東で勃発した恐るべき事態によって、両国のお互いに対する疑心暗鬼はますます増幅され、誰もが望んでいない最悪の結末へと世界は雪崩を打って進んでゆく。決して引き起こしてはならない最終戦争を回避するため、ポーリーン・グリーン大統領、チャン・カイら両国首脳は日夜、必死の外交交渉を水面下で繰り広げるのだが・・・。

本来、今年弊社では、同じ著者の、『大聖堂』につづくキングズブリッジ・シリーズの最新作『The Evening and the Morning』(『大聖堂』の前日譚に当たる)を秋ごろにお届けすべく、準備を進めておりました。
ところが、春ごろに権利元から連絡がはいり、コロナ禍のさなか、ケン・フォレットが一気呵成にひとつの物語を書き上げたとのこと。著者は「11月の世界同時発売を切望している」と言います。
著者たっての希望ときましたか・・・。
そりゃ、こうなったら、乗るしかない。
さっそく翻訳者の戸田さんにご連絡とご相談を差し上げ、途中まで進めてもらっていたキングズブリッジ新作の作業を、こちらの本のほうに切り換えていただき、神速のスピードで11月末搬入(12月初書店売り)に間に合わせていただきました。この膨大なボリュームの内容を、あの驚くべき短期間で、しかもほぼ完ぺきな翻訳として仕上げていただけたことに関しましては、ほんとうにいくら感謝してもしたりません。
この場を借りて、戸田さんには改めて御礼を申し上げたいと思います。

今回、なぜケン・フォレットはコロナ禍のさなか、あえて執筆中の歴史小説の作業を「中断」してまで、本書を書かねばならなかったのか。
なぜ、彼は「世界同時発売」にこだわったのか。
彼がわれわれに問わねばならなかった「今」「ここ」とは、なんなのか。

それは、読んでいただいた方なら、すぐにわかっていただけると思います。
一言でいえば、本書は「世界滅亡のカウントダウンをめぐるシミュレーション小説」なのです。
著者は、本書の冒頭に置かれたまえがきで、以下のように述べています。

『巨人たちの落日』を執筆するための調査をしていたとき、第一次世界大戦が一人欲していない戦だったことに気がついた。ヨーロッパのどちらの側の指導者も、その戦争を起こす意図を持っていなかった。しかし、皇帝と首相が下した判断――論理的で節度あるものだった――の一つ一つが、世界が知っているなかで最も悲惨な戦争へと、徐々にわれわれを近づけていったのである。私はそれがまったく悲劇的な偶発事故だったと信じるに至った。
そして、考えた――同じことが再現される恐れはないだろうか、と。

そう、本書は、あの20世紀初頭に起きた悪夢が「今」繰り返されるとしたら、どのように始まりうるのかという問いに、仮想小説という形で迫った一書なのです。

どこからほころびは始まるのか。
どの国がそこに絡んでくるのか。

本書に登場する政治家は、みな優秀なエリートばかりです。急進派と穏健派の対立はあっても、彼らは皆、最悪の事態を回避すべく、必死で打開策を模索します。
でも、事態は刻一刻と悪化の一途をたどっていく。
この悪循環に歯止めをかけるのは、いったい誰なのか。
いや、そもそも悪循環を生じている根本的な原因とは、いったいなんなのか。

圧倒的な筆力と描写力で、リアリティとイマジネーションを紡いで編み上げられた、渾身のポリティカル・スリラー。本書は、会議室や執務室における政治家たちのつばぜり合いとともに、最前線で命をはるエージェントの闘いぶりや、彼らの日常生活のようすをも活写することで、抜群のリーダビリティを提供してくれます。
かわぐちかいじや『シン・ゴジラ』でも体験したのと同等の、とびきりのスリルと知的興奮をお約束します。
まあ、下巻における日本国の扱いに苦笑してしまう読者も出てきそうですが・・・・・・それくらいの危機的な状況に、日本もまた直面していると考える必要があるのでしょう。

ケン・フォレットの危機意識は切実です。
だからこそ、彼は今、この小説を書いて、われわれにまっすぐ問いかけている。
ほんとうに、このままでいいのか、と。

ぜひ読者の皆さんも、フォレットの懸念と祈りを本書を通じて共有し、受け止めていただけたら担当編集としてもうれしく思います。

なお、延期する形になった『The Evening and the Morning』は、現在のところ、2022年秋ごろを予定して仕切り直しております。戸田さん曰く、現時点でのフォレットの最高傑作なのではないかとのこと。そちらもぜひご期待ください!(編集Y)









2021年12月25日 16:07 | | コメント(0)

今月の新刊はもう手に取っていただけたでしょうか。
クライブ・カッスラー&ロビン・バーセルによる、『ヴァンダル王国の神託を解き明かせ!』。ファーゴ夫妻ものの第11弾となります。

ORACLE_ブログ.jpg

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あらすじはこんな感じです。

ファーゴ夫妻は、財政的に支援しているチュニジアの遺跡発掘計画の会計処理に不正の気配を嗅ぎ取る。
夫妻はアフリカに飛んで、発掘の責任者でレミの大学時代の親友レネイ博士に直接会って帳簿を精査しようとするが、再会の喜びもつかの間レネイは足場の崩落事故で怪我を負う。
一方、夫妻がナイジェリアの自然公園内に建設中の女子学校で、開校準備のための輸送物資が何
者かに強奪される事件が発生。夫妻自らが新たな物資を運ぶ役を買って出たものの、トラックを狙う怪しい影が迫ってくる。
攻防のなかで、ファーゴ夫妻は街のギャングに使われていたナイジェリア人の少女ナーシャを救い出し、絆を深めていく。さらには、女子学校を占拠して身代金を得ようと画策する武装集団との壮絶な死闘が二人を待ち受ける。
やがてチュニジアに戻った二人は、すべての謎が現地で発掘が進められているヴァンダル王国の遺跡とつながっていることに気づく。古代より巫女に継承されてきた「神託」の真の意味とは? 
アフリカの地を舞台に巨匠が贈る冒険活劇の決定版!

カッスラー最晩年の時期の共作ということもあってか、今回はロビン・バーセルの関心や興味の強く打ち出された一作になっているというのが、編集を担当しての率直な感想です。
ロビン・バーセルは、気づいていない方もいらっしゃるかもしれませんが、女流作家さんです。
単独では、FBI捜査官ものの国際スリラーと、サンフランシスコの女性刑事を主人公にした警察ものの2シリーズを執筆しています。
今作では、悪党とのガンファイトや、女子生徒たちを連れての逃避行など、レミが身体を張って戦うシーンが明らかに増えていて、「強い女性」としてのレミ・ファーゴ像がはっきりと打ち出されています。
さらにもうひとりの主人公ともいうべき、ナイジェリア人少女ナーシャの存在と、彼女の八面六臂の大活躍ぶりからも、ロビン・バーセルなりの新機軸が感じられます。
ファーゴ夫妻の慈善活動家としての側面の強調、現代の奴隷として搾取される少年少女の悲劇を描く視点など、社会派的なメッセージ性が高まっているのも、本作の特徴といえるでしょう。

総じて、子供たちの生き生きとした描写は今までのカッスラーにない感じで、とても新鮮な魅力があります。それでいて従来のファーゴ夫妻ものの「お宝さがし」×「Vs悪の組織」の醍醐味も喪われていません。
日本人には若干縁遠いアフリカ中部の大自然や街のようすがクローズアップされているのも、楽しみのひとつです。ぜひご堪能いただければ幸いです。

なお、次回のカッスラーは来年1月刊行予定の『The Devil's Sea』となります。ひさびさのダーク・ピットもの。こちらもお楽しみに!(編集Y)





2021年11月 5日 15:47 | | コメント(0)

今月のもう一作は、ラーシュ・ケプレル『ウサギ狩り人』(上・下)
ヨーナ・リンナ・シリーズの第6弾で、弊社では『砂男』(上・下)、『つけ狙う者』(上・下)に続く紹介作品となります。

ウサギ狩り人ブログ.jpg

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あらすじはこんな感じです。

ストックホルムの高級住宅街。売春婦の目の前で客が撃ち殺された。
公安警察警部サーガが緊急出動するが、犯人はシリアのテロ集団と関わりのある男の名前を口にして、現場を立ち去ったあとだった。
唯一の目撃者を尋問すると、犯人の頬には長い髪の束のようなものが垂れ、被害者に童謡をきかせ、ゆっくりと時間をかけて止めを刺したという。
4年の刑で服役中の元国家警察警部ヨーナの元に、意外な人物が訪れる。
ヨーナは国を揺るがす凶悪犯を追跡するために、復帰する。
犯人の奇妙な行動から、犯人が十人の殺害を計画していると見破ったヨーナは、サーガとともに連続殺人犯の動機に迫る。
浮かび上がってきた被害者の共通点を見つけたヨーナは、30年前に起こった、陰惨な事件の真実を探るが――。
巧みな伏線とスピード感、ダイナミックな展開と精緻なディテールの融合からなる、シリーズ最高傑作!

編集担当は前作、前々作に引き続き上司のYなのですが、今回は趣向を変えて、搬入初日に一気読みしたという販売担当Mくんに、作品の魅力をガツッと紹介してもらおうと思います。
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私はラーシュ・ケプレルを(勝手に)「北欧のジェフリー・ディーヴァー」と呼んでいます。息をつかせぬサスペンス、巧妙に仕組まれたミスリード、落とすべきところにきちんと落とす伏線回収。こうした点が、前々作『砂男』、前作『つけ狙う者』にみられるケプレル作品の魅力ではないでしょうか。
もちろん、それは今作『ウサギ狩り人』にも健在。私はこの作品を見本段階、すなわち書店店頭に並ぶよりも一週間ほどまえの段階で手にしたのですが、会社の机で読みはじめると途端にその世界に引き込まれ、まさに「巻を措く能わず」、そのまま一両日中には読み終えてしまったほど、勢いがありました。『砂男』で出会ったシリーズですが、今作がいちばん好きな作品かもしれません。

そもそも『ウサギ狩り人』は、前作『つけ狙う者』から地続きではじまります。『つけ狙う者』は、ヨーナは有罪判決を受け刑事としての地位を追われ、収監されてしまうという衝撃のラストでした(私は判決が読みあげられるときにヨーナの仲間たちが起立するシーンが大好きです)。
今作では、そんなヨーナがいかにして捜査の第一線に戻るのか、というのが序盤の読みどころのひとつとなっています。前作をお読みになったかたは気になっていたのではないでしょうか。刑務所でたくましく生き抜くあいだに捨てたはずの「刑事」「警察官」としての本性が、捜査に協力することでだんだんと頭をもたげてくる......そのあたりのヨーナの心理描写もお楽しみください。
また今回、国家警察のヨーナだけでなく、公安警察のサーガ・バウエルにもスポットライトがあたっていることも大きな特徴で、魅力あるキャラクターへの掘りさげがまた一段階進んだ印象があるといえます。ヨーナとサーガの共同捜査は、ふたりが別々に行動し、同時進行のかたちをとっています。当然、片方がわかっていることがもう片方にはまだ伝わっていない、といったこともでてくるわけで、そこもまたサスペンスの一要素となっています。

さて、今回の敵は、プロの殺しの技術を持ち、ときに拳銃、ときに刃物で、はたまた狙撃で連続殺人をくりひろげる謎の殺人鬼・ラビットハンター。頭には切り落としたウサギの耳を垂らし、殺す相手には童謡を聴かせ、動けないようにしたあとはゆっくり時間をかけてトドメを刺すという、なんとも猟奇的な殺人者です。動機はなにか? 正体は? 
そうしたものがわかるのは、ケプレルのこれまでの作品からすると比較的早いような印象もありますが、今作はそこからが真骨頂。読者はラビットハンターの動機がわかった状態で、その企みの推移と、それを知らぬヨーナやサーガの捜査あるいは関係者の動きを俯瞰することになります。そこからは一気呵成、怒涛の展開。さまざまな要素が終着点へと収斂していきます。このたたみ方、ページターナーぶりこそが、ラーシュ・ケプレル"らしさ"といえるのかもしれません。
また、ラビットハンターがかなり戦闘能力に長けた人物ということもあり、常々語られていたヨーナの身体能力を活かしたアクションシーンも極めて読ませる描写がつづきます。たとえば終盤、ついに対峙したヨーナと殺人犯がおたがいを見極めていくというシーンがあります。指導教官の教えを回想しながら、ヨーナがひとつひとつ相手の動きを読んでいく、その静かな緊張感ただよう、気合いのはいった描写はひとつの読みどころです。

というわけで、サスペンス、アクション、ミステリー三方良しの『ウサギ狩り人』そして<刑事ヨーナ・リンナ>シリーズは、扶桑社海外文庫販売担当としていまもっともオススメしたい作品群です。絶対に損はさせません。ぜひお近くの書店さんでお買い求めのうえ、お楽しみいただければと思います。
ラーシュ・ケプレルは、スウェーデンはストックホルム在住の夫婦作家。<刑事ヨーナ・リンナ>シリーズは本国で現在8作目まで刊行されており、次作第7弾の邦訳も刊行すべく準備しております。私は企画書を読んだとき、「ついに!」と嬉しくなるような展開が示されておりました。乞うご期待! 私も早く読みたい!(販売担当M)





2021年10月20日 08:57 | | コメント(0)

今月の2冊目は、フランスの新鋭女流作家アメリー・アントワーヌ『ずっとあなたを見ている』
日本初紹介の作家さんです。もとは自費出版で出したものが、フランスの大手出版社の目にとまり、商業出版物として米・仏で25万部のヒットにつながったとのこと。
評判を呼ぶのも納得の、いかにも「フランス」らしい味わいの逸品でございます。

ずっとあなたを小.png

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あらすじはこんな感じです。

銀行員のガブリエルは、最愛の妻クロエとともにパリからサン・マロに移り住み、幸せな結婚生活を送っていた。

だが彼の人生はクロエが水泳中に事故死したことで一変する。

悲嘆のなか失意の日々を送るガブリエル。

そんな彼の前にある日、報道カメラマンを目指す若いエマが現れる。

死んだ妻とは対照的な魅力をもつ彼女に、ガブリエルは徐々に惹かれていくが......。

男女が織りなす心の綾を丹念に描きだしながら、巧緻な構成と意想外の展開で読者を翻弄するフレンチ・ミステリーの傑作ここに登場。


まあ、なんていっていいのか、本作はとある「趣向」の凝らされた小説なので、これ以上はなんとも申し上げられないといいますか(笑)。
ぜひ、まずは予備知識なしで手に取っていただけると幸いです。

ジャンル・ロマンスのようなタイトルと装丁だと思われるかもしれませんが、白背で出しておりますとおり、あくまでミステリー/サスペンスのジャンルに属する物語ですので、くれぐれもお間違えなきよう(間違えて買ってしまう行為自体はもちろん、止めませんw)。
ただし、ロマンスが好きで、かつミステリーも好きな方なら、それこそドンピシャで愉しんでいただける作品ではないかと思います。日本のミステリー作家でいえば、連城三紀彦とか泡坂妻夫のような。

一人の男と、二人の女。
それぞれの愛の形。
不思議な視線の交錯。
読んでいくなかで、そっと胸に差す違和感。
その違和感はやがて芽を吹き、きちんと「ミステリー」として昇華します。

複数視点の行き来する章構成、現在形でつづられる洒落た文体など、いかにもフランス産の香りのする凝った作品です。
現代的なテイストでありながらも、カトリーヌ・アルレーやボアロー&ナルスジャック、あるいはフレッド・カサック『殺人交叉点』、ミッシェル・ルブラン『殺人四重奏』あたりの、古き良きフレンチ・ミステリーの香りをうまく引き継いでいると思うのは編集者だけでしょうか。

多少力業のところもありますが、そこを言われてしまうのは作者も想定済みなのではないかと。
むしろ、211ページで転調を迎えてから、その「あと」を100ページ以上にわたってじっくり描いているのが、本作ならではの価値なのだろうとも思います。

秋の夜長に、ベッドの友として楽しんでいただけると幸いです。(編集Y)




2021年10月 4日 17:35 | | コメント(0)

さて9月末発売(奥付10月10日)の扶桑社海外文庫は、おそらく編集3人態勢でやっていた10年前でもなかったかもしれない、4点6冊同時刊行(ロマンス含む)。
カッスラーの冒険小説あり、フランスの凝った心理サスペンスあり、スウェーデンの警察小説ありと、多種多様なラインナップとなっております。

まずは、クライブ・カッスラー&グラハム・ブラウン『失踪船の亡霊を討て』(上・下)のご紹介から。
カート・オースチンが主役を務める〈NUMAファイル〉シリーズの第12弾となります。
幽霊船上下ブログ.jpg













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あらすじはこんな感じです。

南アフリカの沖合で猛烈な嵐が発生した。

オースチンらNUMAの面々は要請を受けてIT長者ウェストゲイトの一家が乗るヨットの救難に向かう。

その妻シエナは偶然にもオースチンのかつての恋人だった。

しかし決死の救難作戦は失敗。後刻ウェストゲイトだけが漂流中に救出される。

オースチンは事件のトラウマに苦しむが、死んだはずのシエナが中東で目撃されたという情報を受けて単身ドバイへと飛ぶ。

遭難事故の背後に、シエナが開発したセキュリティシステムをめぐる陰謀が姿を見せ始める......。


今回は、カッスラー作品では珍しいくらい、主人公が追い詰められた状況で物語がスタートします。

ヨット遭難の海難救助に狩りだされたオースチンは、高波に呑まれたかつての恋人を救えなかったのみならず、自らも大きな怪我を負って、その後遺症と記憶障害に苦しめられることに。

この「記憶障害」が実はクセモノなのですが、不屈の男オースチンは、死んだはずの元恋人が生きて目撃されたという情報を頼りに、ドバイへと飛びます。誰もがオースチンを信じないなか、NUMA長官ダーク・ピットだけは全面的な支援を表明、盟友ザバーラもオースチンと行動を共にします。

個人的な闘いかと思われた今回の事件も、やがて背後に隠された世界規模の陰謀が明るみに出て、オースチンは、韓国、そしてマダガスカルと場所を移しながら、巨悪の野望を打ち破るべく大活躍を見せることになります。

ちょっと『カサブランカ』を思わせるようなシエナとの関係性が切ない、オースチン「自身」の事件。

個人的には、悪女カリスタの魅力的なツンデレぶりにも、大いに萌えました。

ぜひお楽しみください。


なお、以前から予告しておりましたとおり、今年はNUMAシリーズは2点刊行を目指しております。

次回は来年3月末刊行で、第13弾『The Pharaoh's Secret 』のご紹介を予定しています。

こちらもお楽しみに!(編集Y)



2021年10月 3日 11:41 | | コメント(0)

先月の既刊を今ごろアップしてすみません! 
もうレヴィンソン&リンク『皮肉な終幕』は読んでいただけたでしょうか。
編集部に復帰した編集Tが長年温めてきた好企画。
海外短編好きには、こたえられない一作だと思います。
ぜひ「買って」応援していただければ!

同月刊で、トム・クランシー&スティーヴ・ピチェニック〈トム・クランシーのオプ・センター〉シリーズ新章第4弾『暗黒地帯(ダーク・ゾーン)』(上・下)も発刊いたしました。
こちらも合わせてお楽しみください。

ダークゾーン上下ブログ.png

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あらすじはこんな感じです。

ニューヨークでウクライナの女性諜報員がロシアの暗殺者の手にかかって殺された。
直前に彼女と会っていた元駐ウクライナ米大使ダグラス・フラナリーも命の危険を感じて、オプ・センター作戦部長ブライアン・ドーソンに助けを求める。
どうやらウクライナ軍の離叛分子が、国境近くのロシア基地への侵攻作戦を計画しているらしい。
いまロシアとウクライナの間に火が付くと、世界大戦の引き金になりかねない。
オプ・センター長官チェイス・ウィリアムズはフラナリーの保護と事態への介入を決断する。

今回の舞台はウクライナ
中東(イラン&サウジ)、北朝鮮、中東(ISIS)と続いてきた本シリーズで、若干縁遠い地帯かもしれませんが、ロシアによる侵攻作戦以降、もっともホットな戦略地域だといっていいでしょう。

本作のタイトル「暗黒地帯(ダーク・ゾーン)」は、作中に登場するプーチン大統領その人が部下に語る内容から取られています。

「抵抗を受けずにウクライナに侵入したい」プーチンはつづけた。「スッジャのわれわれの部隊のプレゼンスがきわめて優勢に見られれば、戦う必要がなくなるだろう。ああ、たしかにわれわれには、突入できるような戦車と兵員と砲兵がある。だが、未来の戦争は心理戦だ。巧みな配置、二十四時間態勢の活動、兵士の士気がきわめて高いのを見せつけることで、スッジャが濃い影を落とすようにする。完全な暗黒地帯(ダーク・ゾーン)を創りあげ、だれであろうとわれわれに挑むのを怖れるよう仕向ける。そうしておいてから、なんの支障もなく進撃する。......」(上巻p116より)

要するに、対外的に「得体の知れない怖い国」という印象を強めていくことで、核や実際の軍事行動に頼らずに勝利していきたい、というロシア側のイメージ戦略を表してる語ですね。
北方領土問題を抱える日本にとって、ロシアは決して友好一本槍の国ではありません。
そういったロシアの国としてのあり方も考えながら読んでいただけば、「身近な」謀略小説として楽しんでいただけるのではないでしょうか。

これまでの新〈オプ・センター〉シリーズは、あくまで戦略&アクションがメインで、登場人物は若干コマのような扱いで組み立てられていた感がありますが、今回はかなりブライアン・ドーソンや各メンバーの心理描写に力が入れられています。
また、「発生してしまった大きな事件に対応する流れ」から「大きな事件が起きないように事前に対処する流れ」にプロットが変更されているのも、本来のオプ・センターのあり方に近いかもしれません(その分、話が地味になった懸念もありますが)。
このあたり、ライター陣にジョージ・ガルドリシに加えて、旧〈オプ・センター〉シリーズのジェフ・ロヴィンが戻ってきたことも影響しているのかもしれませんね。

次の〈オプ・センター〉シリーズは、新章第5弾『For Honor』を、来年春くらいに出せればと考えております。ロシアとイランが結託したミサイルの脅威に、オプ・センターの面々が立ち向かいます。こちらもお楽しみに。(編集Y)










2021年10月 2日 23:46 | | コメント(0)

『刑事コロンボ』『エラリー・クイーン』『ジェシカおばさんの事件簿』等々のミステリー・ドラマで世界中を魅了した脚本家/プロデューサー、リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク。

 学生時代から親交を結んだ彼らがプロとして認められたのは、小説ジャンルでした。
 1954年、大学在学中に書いた短編が「エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジン」に掲載されたのです。
 以来2人は、十年以上にわたって数々の作品を雑誌に発表し、その一方でTVや舞台の脚本家としてキャリアを築いていきます。

 そんな彼らの短編小説を集めたのが、本書『レヴィンソン&リンク劇場 皮肉な終幕』です。

皮肉な終幕.jpg
 イラスト:岸潤一氏 デザイン:小栗山雄司氏

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 先に触れた小説デビュー作から、アリバイ工作の顚末を描いて『刑事コロンボ』の誕生につながった名作まで、全10編。
 じっくり描かれた心理描写と、ひねりが利いた結末で、短編ミステリーの楽しさを味わっていただけるものと思います。
 また、ミステリー研究家・小山正氏に、レヴィンソン&リンクがよくわかる詳細な解説をご寄稿いただきました。

 本国でも出版されていない、日本でしか読めない貴重な作品集です。(編集T)

 【権利の関係で、電子版の配信はありません】

2021年8月31日 19:02 | | コメント(0)

更新が少し遅れて申し訳ありません。
今月発売のスティーヴン・ハンターの新刊『ベイジルの戦争』(公手成幸訳)は、もう読んでいただけたでしょうか?

ベイジルの戦争カバー小JPEG.jpg

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あらすじはこんな感じです。

ベイジル・セントフローリアン。英国陸軍特殊作戦執行部所属。
無類の酒好き、女好き。
だが任務に当たらせれば並ぶ者のない凄腕のエージェントだ。
その日も女優と逢瀬を楽しんでいたベイジルは急遽招集され、
ナチス支配下に置かれたパリへの潜入命令を受ける。
任務は、とある暗号が秘められた聖職者の写本を複写すること。
それは、暗号解析の責任者アラン・チューリングが、
対独情報戦の要と捉えているものだった。
巨匠ハンターの筆が冴えわたる、戦時スパイ・スリラーの傑作! 

解説の寶村信二さんが、本作について必要な情報をコンパクトにまとめてくださっているので、詳しくはそちらを参照していただきたいと思いますが、本作はもともとハンターがオットー・ペンズラー編集のスパイ物のアンソロジーに書き下ろした短編を基に、それを中編化したものです。
ペンズラーといえば、ハヤカワミステリマガジンの海外情報コーナーでもおなじみの、アメリカを代表するミステリー評論家ですが、彼はミステリアスプレスというミステリー専門出版社の社長でもあるんですね。で、ハンターの短編をいたく気に入ったペンズラーが、ぜひ膨らませて一冊の本にしたほうがいいとプッシュし、実現したのが本書というわけです。
そういえば、最終原稿が入ってくる時期に、エージェントさんから「まだもう少し待ってください。ペンズラーさん自身がいまゲラに赤字を入れて、著者と追い込みで仕上げてるところなんで」みたいな連絡が入っていました。
じつは解説原稿をいただくまで恥ずかしながら全く知らなかったのですが、ペンズラーのアンソロジーにハンターが書きおろすのは「2回目」で、2010年の1回目の短編こそ、本作の主人公ベイジル・セントフローリアンの初登場だったらしいんですね(なんという不覚。ぜひこちらも、いつかご紹介の機会がつくれるといいですね......)。
つまり、ベイジル・セントフローリアンは、ハンターにとって、スワガー一族以外で初めての「シリーズ・キャラクター」ということになるのです!

物語は戦争末期のロンドンで幕を開けます。
冒頭の逢引シーンから、まさにハンターならではの小ネタが炸裂しているので、そこに出てくる人物(とその連れ合い)は、登場人物表にも敢えてのせていません(笑)。
ここに登場するふたりの有名人の関係性は、原書でもいっさいの注釈なしで書かれているので、細かなことは書かずとも欧米の読者は常識としてわかっているって前提なんでしょうね。ちょうど日本の三浦友和・山口百恵夫妻のように。
ぜひ気になる向きは、ご自身でWikiなどでお調べください。なぜハンターが物語にこのふたりを巻き込んでみせたか、いろいろとわかってとても面白いと思います。

で、大蔵庁の地下にある特殊作戦執行部(SOE)の司令部に呼び出されたベイジルは、パリ潜入の特殊任務を拝命します。
ここからは、ぜひご自身でお読みになって、新鮮な気持ちで愉しんでいただければと思いますが、何点かだけ編集者なりのポイントをまとめておきますと、

① 物語の祖型は、彼の原点ともいえるデビュー作『マスタースナイパー』から引き継いでおり、戦時エスピオナージュとしての敵中突破物で、武器や兵器へのこだわり描写がラストでは謎解きの核になる点など、いろいろと読み比べてみると、なるほどと気づかされる部分がある。

② そのうえで、主人公像にはジェームズ・ボンドを意識したような、軽口と機知で危機をしたたかに乗り切ってみせる、旧いタイプの「女王陛下のスパイ」像が反映されている。一見すると個人主義的な快楽にも目がない遊び人だが、その実国家の使命に命を賭すことをいとわない「真の愛国者」、それがベイジルである。

③ ちなみに献辞にあるR・シドニー・ボーウェンは、アメリカ生まれでありながら英国空軍で活躍し、第二次大戦中に少年向けの戦時冒険小説である「デイヴ・ドーソン戦争アドベンチャーシリーズ(15冊)」「レッド・ランドール・シリーズ(8冊)」などを著したベストセラー作家。戦中だけでデイヴ・ドーソン物は200万部を売り上げていたらしい。少年時代のハンターにも大いに影響を与えたことだろう。

④ 叙述の形態としては、任務前のブリーフィングの章と、実際の潜入任務の章を分割して交互に配することで、過去と現在、目論見と現実を鮮やかに対比してみせるのみならず、「情報を小出しに呈示し、最初から全部をわからせず、タイミングを見て読者の理解度を高めてゆく」「ベイジルは最初から知っているけど読者はまだ知らないでいい情報を後出しにする」という老獪なナラティヴを実現させている。

⑤ 登場人物にアラン・チューリングを始めとする実在の有名人を織り交ぜ、ときに「落ち」として機能させるスタイルは、同じく過去のロンドンを舞台とする『我が名は切り裂きジャック』とも共通する。そもそもハンターは米国南部の歴史と骨がらみに結び付いたスワガー・サーガを長年紡ぎながらも、実は大の「英国マニア」だそうで、本書からも彼のマニアックな英国愛、歴史家ばりの該博な知識量はひしひしと伝わってくる。

⑥ ハンターは、アクションやエスピオナージュのジャンル内においても、決して「謎とき」の面白さを忘れない。明後日の方向から明らかになる意外な真相や、叙述トリックまがいの「ひっかけ」を毎回用意してくれるのは皆さんご存じの通り。『ベイジルの戦争』でも、任務が終わったあと、やおら始まる「名探偵ベイジル」のフーダニット劇場は、実はここで展開される推理こそが書きたくて、本作は企図されたんだろうなと思わせるノリノリぶり。

と、いうわけで、
日本語版で304ページと、決して長くはない作品ですが、ハンターの魅力と「らしさ」がいっぱいにつまった一作です。ぜひこの夏休み、ハンター印の戦時エスピオナージュをじっくりご堪能ください!

そして・・・・・・ハンターファンの皆さまに朗報です。
いよいよ来年、『狙撃手のゲーム』以来の、久々のスワガー・サーガの新作をお届けできそうです。
タイトルは『Targeted』
おおお!なんか、そそるタイトルじゃないですか!

まだこちらにも原稿すら入ってきていないので、今後どうなるかはわかりませんが、期待に胸をふくらませてお待ちいただければと思います。編集者もおおいに楽しみです!(編集Y)



陳謝:最後に、一点申し訳ない誤植につきまして。お恥ずかしいかぎりですが、
   あろうことか、直近の上下巻を見逃して、背表紙の通巻番号を振ってしまいました。
   (誤)ハ19-37 → (正)ハ19-39 
  今後、このようなことがなきよう気を引き締めてまいりたいと思いますので、なんとかご容赦いただければ幸いです。










2021年8月13日 13:48 | | コメント(0)

今月の新刊は、
ドイツ語圏では知らぬ人のいない人気作家でありながら、
いまだ日本での紹介がなかったオーストリア人女流作家、
アレックス・ベール『狼たちの城』。訳者は小津薫さんです。

狼たちの城 カバーブログ用.png


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あらすじはこんな感じです。

第二次世界大戦の末期、ニュルンベルクのユダヤ人古書店主イザークと家族のもとにポーランド移送の通達が届く。
彼は絶望のなか、レジスタンスに関わっていると聞いたかつての恋人クララのもとに走り、家族が逃走する手助けをしてもらえないかと依頼するが、彼女が彼に用意してくれたのはゲシュタポの特別犯罪捜査官アドルフ・ヴァイスマンとしての偽の身分証だった。
イザークは身分証を受けとってすぐの駅構内で、ゲシュタポの士官からヴァイスマンに間違われたまま本部に連れていかれ、ナチスに接収された城内で起きた女優殺人事件の捜査に臨むことに。
ゲシュタポの深奥部で彼は無事生き抜き、事件を解明することができるのか?


ナチス・ドイツの支配下で、迫害され、生存権をはく奪され、命を喪った多くのユダヤ人。

もしも、そのひとりがゲシュタポの高官と間違われて、組織の内部深くに侵入できたとしたら?
しかも、その高官が名探偵の誉れ高い捜査官で、圧倒的な名声と権力をほしいままにしていたとしたら?
あの大戦下で、ユダヤ人がゲシュタポを顎でこき使って、犯罪捜査に挑んだとしたら?

本書は、そんな破天荒で魅力的な「逆転の構図」をかたちにした、趣向に富んだ歴史ミステリーです。

「ばりばりのエスピオナージュ」でありながら、「名探偵もの」でもある。
意外に、これまでなかったパターンではないでしょうか。

主人公のイザーク・ルビンシュタインは、古書店主を営むインテリのユダヤ人で、妹とその子供たち、両親の5人の家族がいます。数年前まで、ドイツ人の恋人クララがいましたが、今は別れています。ナチスの支配が強まるなか、ふたりで国外に逃げようというクララの誘いを断り、家族をどうしても捨てられなかったイザークは、国内にとどまることを選んだのです。
今は、店も仕事もナチスに取り上げられ、ユダヤ人専用の住居に家族とともに移されています。そこに、ついに送られてきたポーランド移送の通知書。
いよいよ先行きに不安を抱いたイザークは、家族を助けるために、動き出すことにします。
しかしそのとき彼は、自分が起こした行動の結果として、自らがゲシュタポ(ナチスの秘密国家警察)の捜査官アドルフ・ヴァイスマンに成りすますはめに陥るとは、思ってもいなかったのでした・・・・。

イザークは優秀な頭脳の持ち主ですが、決して生まれながらの「名探偵」でも、「英雄」でもありません。
むしろ、気弱で、争いを嫌い、踏み込むことをおそれる、ごくふつうの一般市民です。
きっと何もなければ、何もできないまま、家族とともに命を落としたかもしれない。
でも、環境と特殊な状況が、彼にひとつの役割を与えました。
「名探偵」という役割を。
彼は、必死で、文字通り命がけで、与えられた「名探偵」の役を演じきろうとします。
まわりも、彼を「名探偵」として最大限の厚遇をもって扱います。
そんななか、彼の内面でも、いろいろな想いが変化していくことに・・・・。
人間臭い彼の葛藤と、巻き込まれ型スパイとしての苦闘が、まずはこの物語の読みどころとなってきます。

それから、本書の面白さのひとつに、「名探偵」という装置と「エスピオナージュ」という容れ物が組み合わさったときに生じる、不思議な化学反応があります。

「名探偵アドルフ・ヴァイスマン」としてのイザークは、ゲシュタポの根拠地である城内で起きた女優殺人事件を捜査しなければならない。そこで必要とされるのは、「真実の探求」であり、こんがらがった謎を解き明かす「理性のはたらき」です。
名探偵にとっては、ゲシュタポも、レジスタンスも、両者に直接関係のない幾多の登場人物も、等しく「容疑者」なのであり、等しく平等な存在です。彼は先入観を排除して、フラットに「謎」に挑む必要があります。

一方で、「レジスタンスのスパイ」としてのイザークには、「別の使命」があります。
そのミッションにおいて、ゲシュタポは「絶対的な敵」であり、「究極の悪」であり、ユダヤ人を迫害する憎き存在でしかない。彼は連合軍側の利益のために、たまさか手にした「名探偵としての権力」を行使することすらいとわず、ゲシュタポ内部のとある情報に肉薄していきます。

イザーク・ルビンシュタインは、アドルフ・ヴァイスマンでもある。
彼はもとはただのしがない(元)古書店主ですが、今は「スパイ」でもあり、「名探偵」でもある。
ふたつのペルソナは、物事に対処するにあたって、別の思考回路と、別の解釈と、別の決断を彼にせまることでしょう。
そのとき、彼はどう動くのか。
物語が進むにしたがって、イザークの苦悩は深まっていきます。

同時に、彼の「アドルフ・ヴァイスマン」としての偽の身分は、あまりにも、もろい。
当然、ヴァイスマンのすべてを真似る必要がある、捜査でも下手は打てない、相手との会話でもボロは出せない。しかも、どれだけ頑張ったところで、本物のヴァイスマンを知っている誰かとばったり会っただけでもう、嘘も命もおしまい。すべては終焉を迎えます。
本書のサスペンスは、「潜入捜査官」もの特有の「身バレ」の恐怖にも支えられています。

しょうじき本作は、「本格ミステリー」と呼べるほどロジカルな推理の面白さに重きが置かれているとはいいがたいですが、(一応)「古城の密室殺人」ものですし(!)、本来名探偵でもなんでもないイザークが、必死で昔読んだシャーロック・ホームズの挙動やセリフを思い出しては模倣してみせる描写などは、なかなかに読者のミステリー・マインドをくすぐってきます。
なにより先に述べたとおり、「名探偵という装置」の機能について、読めば読むほど深く考えさせられる小説だといえます。

もう一点、本作で何度も問われるのは、以下の根源的な疑問です。
「なぜナチス・ドイツは、かくも残酷なことがユダヤ人にできたのか」――。
本作には、さまざまなドイツ人が登場します。権威的で俗悪なゲシュタポもいれば、「時代が違えば友達になれたかもしれない」とイザークに言わしめる青年もいます。陽気な秘書、戦争の英雄、レジスタンス・・・・。そんな「ふつうのドイツ人たち」が、なぜあの狂気に飲み込まれてしまったのか。

著者は、「名探偵」に付与された絶対的な「権力」をイザークに味わわせることで、その問いへの答えを探らせます。同時に、本作では「なぜユダヤ人は、ナチスの絶滅政策に抗する手段を見いだせなかったのか」という、カウンターとなる問いも扱われます。

ユダヤ人が、ゲシュタポを裁く。
でも、バレたら、即おしまい。
この特異な設定を成立させるために、かなり強引な部分や、主人公にとって都合のよい展開が見受けられるのも確かではありますが、それを補って余りある圧倒的なサスペンスと、先の読めない面白さでぐいぐい読ませます。

著者のアレックス・ベールは、まだ40代のオーストリアの女性作家さん。
本名で何作かのミステリーを発表したのち、アレックス・ベール名義で第一次大戦後のウィーンを舞台とした刑事アウグスト・エメリッヒものを発表。大きな評価と人気を得ました。
本作は、エメリッヒものと並行して新たに執筆した、新機軸の一作といえます。

読み応えのある異色の戦時ミステリー。ぜひご一読ください!(編集Y)









2021年6月 2日 05:24 | | コメント(0)

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