名作紹介

2011年01月19日
【名作紹介】

『黄昏の狙撃手』もよろしく!


ハンターは、『黄昏の狙撃手』のアイディアを、ナスカーレースを見ながら「あと足りないのはドンパチだ!」といった感じで思いついたといいます。
前項で述べたクリティーク出身作家の陣取り理論を踏まえて、もう少しあけすけに言えば、「あとオレがやってないのは……そう、カーチェイスだ!」みたいなノリで書かれた作品かもしれません。
一方で、シネフィルとしてのハンターを考えたとき、本作はどのあたりの映画と通底する部分があるのか。
冒頭から編集者の脳裏をよぎったのは、クリント・イーストウッドの影でした。

老骨に鞭打って戦うヒーロー。車への愛着。ぼろぼろの被害女性。本作には、イーストウッド映画と共通するモチーフやエッセンスが散見されます。
とどめに上巻261ページで、「クリント・イーストウッド?」と問いかけられて、ボブが
「その男がそういう名であれば、わたしはその男ってことになるだろうね」
と答えるシーンが出てくるわけです。ああ我が意を得たり、やっぱりな、と。
その後も、真犯人の設定や中盤の水面下での対決、事件解決の端緒などは、『ダーティハリー』シリーズの某作品を容易に想起させますし、何より、本書のクライマックスは『ガントレット』の興奮そのまんまではないですか。

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『四十七人目の男』もよろしく!


『四十七人目の男』は、日本人にとって、たしかにハードルの高い作品かもしれません。
敵のヤクザが近藤勇で、そのボスが着物ポルノの大立者“ショーグン”で、美少女剣士と山ごもり特訓して突如サムライになったボブ・リーが、妖刀村正をめぐって大乱戦。辻斬りポイントが新宿花園神社横の遊歩道(確かにあそこは暗いよね)、ラストバトルの舞台は××(わかるけど微妙に地味なチョイス)! まあ、いろいろとどうかと思うわけですよ。
嫁がどんな話かって訊くから説明したら、「それ、どんな『キル・ビル』」って絶句してました。……まあそう言うよね。でも、あんた今いいこと言った。
たぶん、この作品の本当の良さは、そこから入らないといけないと思うんです。
誰が読んでも思う『キル・ビル』っぽさ。そこを潔く認めるところから。

『キル・ビルVol.1』の公開が2003年ですから、献辞に邦画関係者の名前を何人並べようが、あとがきでどう言おうが、『四十七人』の発想源の中核にタランティーノがあったことは否定できないでしょう。
というか、献辞に出てくる人々の映画だけを観てこんな話になるわけがないし、本当に日本人が何人も下読みしてくれた結果がこれだとすればなおさらです。まして、桜田さくらとか瀬戸由衣とか観て女神とか言ってる人が(このド変態さん)、こんなゆがんだAV理解のはずがない。
要するに、あからさまに『キル・ビル』みたいな小説を目指して書かれたのが『四十七人』というわけです。
ハンターは、本当の日本がこうじゃないことは重々承知のうえで、敢えてバカをやってる。
わざと、『キル・ビル』みたいな日本を求めて書いている。
そして、そもそも、ハンターはそういう作家である、というのが、本稿の趣旨です。

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2009年09月28日
【名作紹介】

始末屋ジャックといえば……


 今月の『始末屋ジャック 凶悪の交錯』の発売にあわせて、ジャック初登場の名作『マンハッタンの戦慄』を書店店頭にて展開中です。

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 主人公ジャックは、法で解決できないトラブルを片づける、いわば闇の仕事人。
 そんな彼のもとに、インドの外交官という男から、盗まれた家宝を取りもどしてほしいという依頼が入ります。
 ところが、ジャックの周辺で奇妙な事件が起こりはじめ……

 という紹介からは、予想もできない方向へと物語は転がっていきます。
 まるでふつうのサスペンス小説のように思われるかもしれませんが、大ちがい。
 これは、ニューヨークを舞台にした、斬新な怪物小説なのです。

 もし未読のかたがいらっしゃったら、タイヘン。
 ぜひぜひ、お読みください!
 モダンホラー史に残る名作です。

2009年02月16日
【名作紹介】

昭和ミステリ秘宝 贋作ゲーム(山田正紀著)


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奇想天外な決死の大作戦。ミッションに賭ける男たちの矜持。
友情と裏切り。逆転につぐ逆転。
列車強盗にスエズ運河での爆弾処理、ハイジャック、そして金庫破り……。
とにかく滅法面白い連作短編集です。

本書は、国産冒険小説の系譜のなかでも大変重要な位置を占める作品ですが(詳しくは巻末の杉江解説を参照)、一般の読者の方はあまり小難しいことは考えず、「ゲーム」感覚で実行される知略に富んだ犯罪計画と、困難に立ち向かう男たちの心意気を楽しんでいただければ幸いです。
著者もそういう「気楽な」読み方をいちばん願っていると思います。意図的なB級感覚は、著者がアメリカ犯罪小説の「筆のスピード感」と「軽さ」を意識している証左であり、すべて“おりこみずみ”でノリを再現しているわけですから。

リチャード・スターク(ドナルド・E・ウェストレイク)に代表されるアメリカ犯罪小説のファンの方はもちろんのこと、昔なつかしいスパイ映画やフィルムノワール、「ナポレオン・ソロ」「特攻野郎Aチーム」といった痛快TVムービー、「ルパン三世」、福本伸行の「銀と金」、このへんにビビッと来る人は、きっと読んで損はないはず。
とくに連作を締めくくる「ラスト・ワン」は個人的に超おすすめです!(「さらば友よ」が好きな方ならニヤリとするかも)
フィルアップの作品では、「アマゾン・ゲーム」が山田流犯罪ゲーム小説のひとつの典型作としておすすめ。なにせ、大密林を舞台に“三目並べ”をやるって話ですからね……(笑)。まさに著者によって世界はゲーム盤として再規定され、コマとして配された男たちは、虚々実々のムーブで、チェックメイトを目指すわけです。

山田さんの「本格」を愛する方々にもぜひご一読いただきたいところ。
犯罪計画自体はおおむねオープンに進行するのですが、そのへんは山田正紀のこと、気をぬいてはいけません。計画にいどむ主人公側にも、それを受けて立つ相手側にも、読者に提示されていない「伏せ札」が何枚か隠されているのです。オープンの札のなかに伏せ札を紛れ込ませる手技こそ、まさに「スティング」に代表される「どんでん」のキモ。
一気読みして「やられた!」と膝をうつもよし。作者の稚気あふれる仕掛けに挑むもよし。
けっして損はさせませんよ!

さらに、2月27日には、“山田正紀犯罪ゲーム小説集2”と銘打って、いよいよ『ふしぎの国の犯罪者たち』が刊行されます。こちらもお楽しみに!(編集Y)

2009年02月12日
【名作紹介】

昭和ミステリ秘宝 東京夢幻図絵(都筑道夫著)


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いま、こんなすごい小説を書ける作家が、はたして居るでしょうか。

時代順にならべられた12篇の短篇に濃密に漂う、昭和初期「東京」の風俗の香りは、読む人を強烈なノスタルジイへといざないます。
そこに満ち溢れているのは、市井でしぶとく息づく生活者たちへの深い共感。そして、喪われゆく古き良き日本の風俗文化への限りない哀惜の念です。
博打うち、浪曲師、若旦那、テキヤ、すり、大道芸人といった、時代色の強い登場人物たち。
“大じめ”、“おばけ”、ガラスの知恵の輪、鉛筆屋、サーカス、生人形といった、縁日の風物や見世物。
時代を彩ったファッションや映画、社会現象への言及……。
「お茶の水全裸殺人」「玉の井バラバラ殺人」「日本橋東急火災」「黒豹脱走事件」など、当時、実際に起きた大事件を詳細に描きだしながら、そこにフィクションを絡めるさじ加減もすばらしいものです。

本書の滋味豊かなカバー画や本文挿絵は、永井荷風や柴田錬三郎の挿絵も手掛けてきた日本画家・三井永一先生によるもので、親本である単行本・文庫からの復刻です。
この再録にはちょっとしたドラマがありました。三井先生は卒寿を迎えてなおお元気にされているのですが、原画をお借りしたい旨連絡をとらせていただいたところ、「天袋に入っていて、もう自分には下ろせないので、残念ですが」と丁重なお断りのお返事をいただきました。押しかけるわけにもいかず悶々としていたら、先生のほうから「近々、町田市民文学館から調査の人が来るらしいよ」とわざわざご連絡が! さっそく文学館さんに事情を説明し再度連絡をとったところ、「ありましたよ、『東京夢幻図絵』の挿絵」との嬉しいお返事。一路町田まで駆けつけ、貴重な原画をお借りした次第です。もし、一年前に本書の復刊を企画していたら、このすばらしい挿絵の数々は収録できないところだったのです。この場を借りて、三井先生ならびに、ご尽力くださった文学館のみなさまに厚く感謝申し上げます。

都筑ファン必携の一書であるのはもちろんのこと、ミステリファンのみならず中高年の男性諸氏のみなさまには、きっと喜んでいただける作品だと確信しています。
ちなみに編集者が六十四歳になる父に本書をプレゼントしたところ、「お前のつくってる本のなかでは“めずらしく”いい本だ」といたくご満悦のようすでした。“めずらしく”なんて、そんなことないよっ!(編集Y)

2009年02月09日
【名作紹介】

『紳士同盟』『紳士同盟ふたたび』(小林信彦著)


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日本におけるコン・ゲーム小説(詐欺師小説)の嚆矢として、ミステリ史上に燦然と輝く金字塔。それが、『紳士同盟』です。
薬師丸ひろ子主演で映画化もされ、著者にお伺いしたところ新潮文庫版は30万部を超える大ヒットを記録したとのこと(すごい……そしてうらやましい……)。いまも決して古びることのない、第一級のエンターテインメントです。

あふれるアイディア。血沸き肉踊る「騙し」の快感。かろやかなユーモア。
本書がコン・ゲームものの面白さを十全に体現しているのはもちろんのことなのですが、いちばんの独自性を挙げるとするなら、それは「犠牲者小説」としての側面を強調している点にあるのではないかと思います。
他のコン・ゲームものの名作と比較したとき、本書における宮田老人狙い撃ちの趣向はいかにも風変わりに見えますが、これは逆にいうと本書が、トリックを仕掛けて「騙す」側だけではなく、易々と罠にはまって金を吐き出してゆく「騙される」側をも同じ比重で描こうとしていることの証左だといえます。
それに、主人公たちを、自分たちの借金を「詐欺」でチャラにしようと目論むような心性の持ち主に設定した以上、いい“カモ”を見つければ、できるかぎりウマい汁を吸おうとするのは当然のリアリズムなんですね。でも、相手に「騙された」とは気づかせない、かつ骨まではしゃぶりつくさない、という部分で彼らはやはり根っからのワルではない。あくまで一般人と犯罪者とのあわいを行きかう、灰色のヒーローたちなのです。

『紳士同盟ふたたび』は、4年の歳月を経て上梓された『紳士同盟』の続篇です。前作は読んだ記憶があるけど、続篇は読んでいないなあという方も多いはず。ぜひこの機会にお手にとってみてください。前作から全くテンションが落ちていないことに驚かれるはず。というかむしろ、この二作で一篇の壮大な前後篇と考えたほうがよろしいでしょう。
井家上隆幸、内藤陳両氏による再録された解説も、まさに作品評論の至芸といってもいいもので、ぜひ熟読玩味していただければ幸いです。

評論といえば、『紳士同盟ふたたび』のフィルアップとして収録した「深夜の饗宴」こそ、まさにミステリ評論の傑作。これぞ、今回の企画の隠れた“目玉”でございます。なんと単行本『東京のロビンソン・クルーソー』以来、30数年ぶりの収録! 
とにかく読んでみてください。マジでぶったまげますよ。1970年という時点で、こんなバランスのとれたミステリ評論が存在したのかと、目からウロコがぽろぽろ落ちまくり。改めて小林信彦という異才の偉大さが痛感できるはずです。(編集Y)

昭和ミステリ秘宝もお忘れなく!


扶桑社海外文庫の翻訳ミステリーを楽しみにしてくださっている皆様、こんにちは。
ロマンスブログが分家して、扶桑社ミステリー専用のブログになったのを機に、編集長からのゆるしを得て、こちらで日本文庫の枠ではありますが“昭和ミステリ秘宝”のご紹介をさせていただくことになりました。
もともとこのシリーズは、“絶版復刻”の謳い文句のもと、日下三蔵・杉江松恋両氏が解説を交互に付す形で、2000年10月の『真珠郎』(横溝正史)『なめくじに聞いてみろ』(都筑道夫)を皮切りにスタートしたものです。
その後、10年間で20数冊が刊行され、長くミステリマニアの皆様の熱いご支援を賜ってまいりました。なかでも『どぶどろ』(半村良)は、出したこちらも驚くほどの好セールスを記録し、いまも途切れなく売れ続けております。ほんとうにありがたいことです。
先日亡くなられた泡坂妻夫さんの『斜光』『黒き舞楽』も、現状“昭和ミステリ秘宝”でしか読むことはできません(『斜光』のタイトルで合本として刊行されています)。抒情味とミステリ性の融合した泡坂さんの中期を代表する傑作。たいへん申し訳ないことに残部にあまりゆとりがありませんが、今のうちにご注文いただければ確実にご入手いただけると思います。

2006年末にぽつんと『横溝正史翻訳コレクション』を出して以降(ああ思い出した。映画「犬神家の一族」の公開に合わせて会社を言いくるめて出版にこぎつけたんでした…笑)、しばらく滞っていた本シリーズですが、2008年は久し振りに何点かの刊行を実現することができました。名づけて“昭和ミステリ秘宝”犯罪小説篇
ここでは、当初“昭和ミステリ秘宝”枠で企画されていた『紳士同盟』(2008年6月刊行)、『紳士同盟ふたたび』(8月刊行)の2作品と、『東京夢幻図絵』(10月刊行)、『贋作ゲーム』(12月刊行)、および今月末に発売される『ふしぎの国の犯罪者たち』を順次ご紹介していきたいと思います。
編集者にとっても思い入れの深いシリーズで、ついつい長ったらしくなってしまい恐縮ですが、しばらくお付き合いいただけると幸いです。(編集Y)



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