業界ニュース
2010年08月20日 |
【業界ニュース】
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ファンといえども
サリンジャーが亡くなったのは、今年のはじめ。
長く隠遁生活を送っていたこの作家については、800ページにおよぶ伝記が出版されるとか(そんなに資料があるのか?)、 未発表の写真が発掘されるとか、話題には事欠きませんが……
ついには、サリンジャーが使っていたトイレがオークションに!
2010年08月11日 |
【業界ニュース】
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思いきった変革
ペイパーバック出版の大手 Dorchester Publishing が、今後は e-book に移行するとアナウンスしました。
彼らの発表によると...
*9月以降、ペイパーバックの出版は取りやめる。
*予定していたぶんは、すべてトレード・ペイパーバック(大版の並製)に切り替える。
*e-book は予定どおりに供給する。
*受注に応じたオンデマンド出版を開始する。
ペイパーバックで予定していたものを、すべて活字を組みかえて(これも古い言いかたですが)、トレード・ペイパーバックに作りかえ、そのうえ営業も再考することになるので、出版まで半年以上のタイムラグができるそうです。
そこまでしてもペイパーバックを捨てるのか、時代はそこまで来たのか、と思わされます。
ウォール・ストリート・ジャーナルの記事によれば、「ロマンス小説ファンは特に電子書籍への移行が素早かった」というのですから、ちょっと驚きです。端末の普及によっては、日本もこうなるのでしょうか。
もっとも「ウォルマートなど複数の小売り大手からの受注が減ったことなどが響いた」ということですから、再販制度のある日本とは異なる事情もうかがえます。
トレード・ペイパーバックならば、販路は書店に集中できるわけですね。
もっとも、本が売れなくなっていることは、日米とも変わらないようですが。
さらに記事によれば、Hard Case Crimeなどは、ペイパーバックであることに重要な意義があるので、Dorchester を離れようとしているとのこと。
なにしろHard Case Crimeなんだから、その気持ちもわかるなあ(――と言ってる段階で、やっぱり感覚が古いことを露呈してます)。
2010年08月09日 |
【業界ニュース】
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出版成功物語
英国での話です。
2004年、出版社勤めを辞めて、2人で新たな版元を立ちあげた人たちがいました。社名は Quercus Books。ベイカー街の角に小さなオフィスを借り、当初はノンフィクションを中心に営業を開始。やがて、新人作家のフィクションの出版もはじめ、小説賞を取る作品も生みました。
転機は、クリストファー・マクリホースという人物を雇ったこと。
村上春樹やヘニング・マンケルを英国に紹介した人物で、その彼が最初に買ったのが、スウェーデン作家のミステリー Men Who Hate Women(女を嫌う男)でした。
そもそもこの作品は、現地で歴史的な大ヒットを記録していたため、英国のほかの出版社も興味を示したのですが、著者がすでに死んでいるためプロモーションがしにくいとあって、難色を示していたのです。
さて、この作品は The Girl with the Dragon Tattoo と改題されて、2008年にハードカバーで出版。
そう、ご存じスティーグ・ラーソンの『ドラゴン・タトゥーの女』ですね。
ところが、8000部程度で売れ行きはパタリと止まり、つづけて投入されたペイパーバック版もまあまあだったものの、小売店からどっさり返品されてしまいます。
ここで Quercus の人たちは、ムチャなことをはじめます。
公園や地下鉄やタクシーや電車やバスに、本を置いてくるのです。
拾って読んでくれる人を期待した、まさに「捨て身」の戦法。
これが功を奏したのかどうかはわかりませんが、2作め(『火と戯れる女』)は、英国では翻訳書としてはハードカバーで初のベストセラー1位を獲得。
スティーグ・ラーソンは、amazonのKindleで初めて100万ダウンロードを記録する作家となりました。
小さな出版社だった Quercus ですが、2010年上半期は売上が3倍増、株価はほぼ6倍に伸びる大躍進。
単純な儲けだけではありません。
Quercus には、有力な作品がつぎつぎに持ちこまれるようになりました。
そればかりか、以前は受けつけてもらえなかったスーパーマーケットなどが、彼らの本を受注してくれるようになり、販路も拡大したのです。
創業者のひとりマーク・スミスは言います。
「誰もが、次の『ハリー・ポッター』を出すのを夢見るものだ――わたしたちはそれを成し遂げたんだ」
そのハリー・ポッターのシリーズを出版したのも、創業10年程度の独立系出版社 Bloomsbury Publishing でした。
まだまだ出版には夢がある……と、信じたいものですが。
2010年08月06日 |
【業界ニュース】
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世のなかに、本は何冊あるのか?
「本は何冊あるの?」――まさに、究極のクイズですね。
もちろん、『1Q84』が何百万部だ、とか、そういうことじゃありません。
いったい何種類の本が存在するのか、ということです。
こんな難問に正面から取り組んだのは、そう、Google。
本をスキャンするプロジェクトGoogle Booksのためです。
たとえば、さきほどの『1Q84』であれば、BOOK1、BOOK2、BOOK3の3点と数えるわけです。
これが文庫化されたとすれば、それもそれぞれ1点とする。
あるいは同一の著作でも、序文や解説や注釈などがちがえば、それぞれべつな本としてカウントする。
大きな手掛かりとしては、ISBNがあります(本のうしろにバーコードといっしょに入っている番号)。
しかし、ISBNは1960年代なかばに考案されたので、それ以前の本では追っかけられない。
あるいは、議会図書館(日本なら国会図書館)の分類もありますが、これも書誌的なデータで、じっさいに1冊1冊に対応するわけではない。
...というわけで、Googleが150以上のソースから集めた1次データは、10億点近く。
そこから同じものを消去していって、残ったのは6億点ほどだったそうです。
これが答え?
いやいや、まだまだ。
たとえば、Programming Perl, 3rd Edition(パール言語プログラミング、第3版)という本が46種類のデータから96点検出されたり、ISBNがおなじでも書誌がちがったりと、まあ、さまざまな課題が残されていたとのこと。
そこからさらに、オーディオ、ビデオ、ISBN付きのTシャツ(?)といったものを除いていって、最終的な答えは――
合作チーム
謀略小説で知られるアメリカの作家ヴィンス・フリンが、ブライアン・ヘイグと合作で新シリーズを開始するとアナウンスされました。
ヴィンス・フリンは、暗殺者ミッチ・ラップを主人公にした『謀略国家』『強権国家』(いずれも二見文庫)が邦訳されていますし、ブライアン・ヘイグも、陸軍法務官ショーン・ドラモンドが登場する『極秘制裁』『反米同盟』『キングメーカー』(いずれも新潮文庫。上下巻)が邦訳されています。
なかなか豪華なタッグじゃないですか。
この2人、アメリカではベストセラー作家ながら、日本での紹介は途絶えてしまっていたので、扶桑社で新作を出版できないものかと検討したことがあります。
ただ、時事的な背景があったり、シリーズ・キャラクターものでもあったりで、二の足を踏んでいたのですよ。
今回の合作は、ニューヨークシティの対テロ作戦を描くものになるそうです。
しかし、合作ってどういうふうに書くんでしょうね。
扶桑社では、リンダ・バーロウ&ウィリアム・G・タプリー『癒しの血族』(品切)という作品がありました。
ハードボイルド作家タプリーと、ロマンス作家バーロウ(『危険な愛のかおり』新潮文庫など)との共作って、作風がちがいすぎない? という感じでしたが、そもそものきっかけは、家がご近所どうしだったかららしいです。
そうしてできあがった『癒しの血族』は、伝奇ロマン・サスペンスとでもいうべき作品で、それぞれの作家が単独では書かない類いの小説でしたから、おもしろい試みだったのではないでしょうか。
その点、今回の2人は、ジャンルもおなじ。
いい結果を期待しましょう。
数年後に、日本語で読めるといいですね(できれば、扶桑社ミステリーで)。
そういえば、カール・ハイアセンも当初は共作でしたね。
扶桑社ミステリーからは、『さらばキーウエスト』(品切)が出版されていました。おなじ「マイアミ・ヘラルド」の記者同士のチームでした。
(共著者のウィリアム・モンタルバーノは、そののちLAタイムズに移り、1998年にオフィスへの出勤途中で急逝)
合作というのとはちょっとちがうかもしれませんが、こんな組み合わせもありますよ。
2010年08月05日 |
【業界ニュース】
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バーンズ&ノーブルが身売り?
なんと、バーンズ&ノーブルの経営陣が、会社の売却を検討しているという発表がありました。
この1年、株価が下落しつづけ、デジタル部門拡充のために1億4000万ドルの増資をしたにもかかわらず状況は好転しないなか、株主に対して価値を高める方策として、会社の売却も選択肢として考えている、ということのようです。
バーンズ&ノーブルは、アメリカ最大の書店チェーン。というか、世界でも最大規模の書店ですね。
インターネット書店としても、当初からamazonとならび立っていて、以前はout of printを探すならamazonよりB&Nのほうがいいなあ、と思ったものです(いまは横断的な古書店が増えたので、選択肢は広がりましたが)。
最近では、amazonの電子書籍端末Kindleに対抗して、B&NはNookを投入するなど、あいかわらずがんばっていたのですが。
株主の利益優先、という論理であって、けっして店がなくなるわけではないのですが、それでもちょっとびっくりしますね。
肝心の株価は、前日の$12.84 から$15.90に上がったそうで、これはつまり、買収者が現われるだろうと市場は好意的に見ているのだ、とのこと。
それでも1年前の株価は$28.78だったそうで、なるほど、思いきった改革が必要ということなのでしょうか。
さっそく業界では「amazonが買収するべきだ」と論陣を張る人も出たり。
なんか、ほんとうにそうなりそうで、ちょっとイヤかも。
2010年07月28日 |
【業界ニュース】
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強いぞ、イヴァノヴィッチ
下でマイクル・コナリーの話をしましたが、コナリーとならんで、扶桑社が紹介をはじめながら手ばなさざるをえなくなった作家に、ジャネット・イヴァノヴィッチがいます。
ステファニー・プラムのシリーズ(■オンライン書店で購入する
amazon/7&Y/楽天/ブックサービス/bk1/)で有名ですね。扶桑社では、ロマンス・コメディ分が増量された「フル」シリーズ(■オンライン書店で購入する
amazon/7&Y/楽天/ブックサービス/bk1/)もあります。
ステファニー・プラムは集英社さんに引き継がれ、ソフトバンククリエイティブさんからはメトロガールのシリーズも出版されています。
さて、いま本国では、イヴァノヴィッチの去就が議論を呼んでいます。
これまで長年彼女の作品を出版してきた版元セント・マーティンズ・プレスを離れ、ランダムハウスに移籍することになったのです。
この条件が、すごい。
イヴァノヴィッチは息子さんがエージェントをやっているのですが、セント・マーティンズとの交渉で、今後4作の執筆に対して5000万ドルを要求したというのです。
自分で書いてて、思わず桁を見なおしてしまいましたが、「$50 million」だから、やっぱりまちがってないなあ。
さすがに1作あたりじゃないですよ。4作まとめて5000万ドルです。
円高レートでも45億円弱、って計算ですね。
この数字はどういうことかといいますと、アメリカのあるエージェントの試算では、1作あたりハードカバーで125万部売れないと、出版社は採算が採れないんだそうです。
直近のステファニー・プラム・シリーズ Finger Lickin' Fifteen のハードカバーは97万7千部売れたそうです。
これはジョン・グリシャムに次ぐ数字だそうで、すごいものですが、試算額に近いけれども、じゃっかん足りないんですね。
しかも、今後は e-book が増えると思われますが、価格が紙の本より安めに設定されているぶん、出版社の収入は減ることが見こまれます。
……ということで、セント・マーティンズはイヴァノヴィッチ側との契約を断念。
十数年の関係にピリオドが打たれたわけです。
「イヴァノヴィッチにかぎらず、どんな作家であれ、5000万ドルという契約は妥当か?」と業界で議論が起こったところに、ランダムハウスとの契約が成立。
ところがこのランダムハウスの行動は、逆に心配される羽目に。
というのも、ある記事によると、イヴァノヴィッチの既刊本は、昨年1年で累計2000万部(!)売れたそうなんですよ(ペイパーバックを入れると、それぐらいの数字になるのだろうか?)。
それだけの実績があるなら5000万ドルも計算できるかも、というところなんですが、しかし、新作の契約をするランダムハウスは、既刊本を持っていないわけです。
日本での懸念材料は、ランダムハウスが世界版権も取得したこと。
なにが懸念かと言いますと、アドバンスを回収するために、海外との取引にも強硬になることが考えられるからです。
ランダムハウスの担当者は「世界市場でのイヴァノヴィッチの価値は高いし、ますます強まっている」と語っていますので、諸外国へのセールスもプレッシャーが高まりそうな予感です。
扶桑社でイヴァノヴィッチ側との交渉がうまくいかなくなった当時は、新作が出ないために読者のみなさんからよくお叱りを受けました。
あらためてお詫びします。
しかし、このように、いろいろ裏の事情があるものなのです。
集英社さんも、今後はさらにたいへんかもしれません。
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