業界ニュース
2009年06月29日 |
【業界ニュース】
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『オックスフォード連続殺人』映画版
今月発売のギジェルモ・マルティネスの新作『ルシアナ・Bの緩慢なる死』。ここでは、刊行を記念いたしまして、前作『オックスフォード連続殺人』の映画版について、ちょっとご報告しておきます。
すでに、ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、『オックスフォード連続殺人』は、同じ言語圏のスペインで “Los Crímenes de Oxford” のタイトルで2008年に映画化されています。
監督はあの鬼才アレックス・デ・ラ・イグレシア。
一般的には、ドツキ漫才芸人を描いたブラック・コメディ「どつかれてアンダルシア(仮)」(1999)で知られているのかなあ。
個人的には、東京国際ファンタで「獣の日 ザ・ビースト」(1995)を観たときの衝撃が忘れられません。反キリスト降臨を阻止するために、カトリック神父がヘビメタ野郎と組んで悪行三昧を繰り広げるお話(なんだそれ)。
ミステリ・ファンにとっては、「みんなのしあわせ」(2000)も必見の名画でしょう。「デリカテッセン」を超える、集合住宅ミステリ映画の傑作ですよ、あれは。
そんな彼の最新作が、この“Los Crímenes de Oxford” 。
日本では結局、残念なことにまだ公開されていないのですが、実は編集者は、業界向けの試写会を見ることができました。いわゆる役得ってやつですね。
配役は、天才数学者セルダム教授にジョン・ハート、原作の〈私〉にあたる人物にイライジャ・ウッドという濃いメンツ。
シュールなブラック・コメディの監督というイメージが強いデ・ラ・イグレシアですが、本作では実に落ち着いたサスペンス/本格ミステリ調の演出を見せ、ほぼ原作のテイストを踏襲した、知的で重みのある内容に仕上げています。
もちろん、「らしさ」も垣間見えて、原作の「七階」のくだりや、自動筆記男の描写、終盤のバス事故などを、これでもかとばかりにフリーキーに仕上げていて、なかなか見ごたえのある映画でした。
原作者のマルティネスにとっても、十分満足の行く出来だったようです。
幼少より熱狂的な映画ファンだったマルティネスは、このバスク人監督を高く評価していて、
「自分の小説を映画化してくれる力がある人がいるとするなら、それはアレックス・デ・ラ・イグレシア以外にはいないとずっと考えていました。彼は偉大な監督だと思っていましたし、彼の作品には以前から深い関心を寄せていましたから。私が見た映像には非常にインパクトがあり、彼の作る映画はきわめて魅力的だった。映画の出来栄えには大変満足しています。彼の作り上げたリズムと監督としてのストーリーの伝え方には賞賛の念を禁じえません。彼が手がけた映画には必ず独特の味があります。“Crimen ferpecto”(『完全犯罪』)は最近発表された中でも最もすばらしい映画の一つだと思います」(2007年10月2日 エル・パイス紙)
とインタビューに答えて述べています。
この作品、本国ではなかなかの評判を呼んだようでして(そもそも原作も異例のヒットをスペイン語圏で飛ばした様子)、2008年度の第23回ゴヤ賞(スペイン・アカデミー賞)で、作品、監督、脚色、編集、作曲、プロデューサーの6部門にノミネート、うち、編集、作曲、プロデューサーの三部門で栄冠を勝ち取りました。
うまく日本に上陸してくれれば、ちょっとはうちの本にも恩恵があったんでしょうが……。
まあ、アレックス・デ・ラ・イグレシア作品は大半が日本でDVDにはなっていますので、いつの日が国内で皆様にご覧いただける日が来れば嬉しく思います。
なお、今回弊社より発売される『ルシアナ・Bの緩慢なる死』も、すでに同じプロダクションから打診が入っているようです。たしかに、映画には向いている気がしますね……。
というわけで、次はいよいよ『ルシアナ・Bの緩慢なる死』のご紹介です。
2009年03月31日 |
【業界ニュース】
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ジョー・ゴアズの新作をめぐって
ゴアズといえば、『路上の事件』はよかったですよね。
1950年代の青春ロード・ノヴェルの体裁を借りながら、最後にはすべての糸が1本につながって、私立探偵の誕生に着地するんですものね。
わたしどもでは、その次の作品“Glass Tiger”の版権を取得しました。
この作品は、大統領候補の暗殺をあつかったスリラー。
ゴアズはハードボイルドとサスペンスを交互に書く傾向がありますね。
こちらは、坂本憲一さんが鋭意翻訳中です。
さて、昨年秋のこと、そんなゴアズの新作の情報が届きました。
タイトルは“Spade & Archer”。
そう、ダシール・ハメット『マルタの鷹』の前日譚だというのです!
なにしろゴアズは『ハメット』という作品をものしたほどの専門家ですから、うってつけの企画。
サム・スペードがコンチネンタル探偵社を辞め、マイルズ・アーチャーと事務所を構えるまでになる顛末を描いていて、有名な「フリットクラフト」の一件をふくめ、原典の裏側を総ざらいした作品です。
それは見のがせない!
低調と言われる昨今の翻訳ミステリー界においては、ひさしぶりに楽しい新作の企画で、こういうニュースは業界的にもうれしいじゃないですか。
しかし、こういうものは、『マルタの鷹』をラインナップに持っている老舗が出すべきですよねえ。
と思っていたのですが、なんと! 日本ではどこの出版社も手をあげていないとのこと。
こんな本が日本で読めないなんてことが許されていいわけはないっ。
というわけで、社内に諮って企画をとおし、ぶじにオファーしたのでした。
ところがその数日後、他社からカウンター・オファーが出たと知らされました。
あらら。
こうなると、条件のいいほうが競り落とすことになるのですが、こちらが文庫オリジナルという条件でオファーしたのに対し、先方は最初は単行本で出版し、のちに文庫化するという条件を提示。
というわけで、ウチは負けてしまいました。
残念。
けっきょく、『マルタの鷹』の版元である老舗ミステリー出版社が版権を取得した由。なあんだ、まるでウチが当て馬になったみたいなものだったんすね。
しかし、こんな作品が読めるのは、ミステリー界の再活性化にもいいことでしょう。
楽しみに待ちましょう!(編集部・T)
2009年01月07日 |
【業界ニュース】
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ドナルド・E・ウェストレイク
この年末年始には、ヒラリー・ウォーとドナルド・E・ウェストレイクの訃報が届きました。
とくに、長年活躍し、いまも現役の最前線に立つウェストレイクについては、残念のひと言です。
これには個人的な思いもありまして、じつは2002年にウェストレイクに会ったことがあります。
ニューヨークのブックフェアに自腹切って行った際、夜に市内で行なわれた、ある出版社のパーティ会場でのこと。
壁に並べられた椅子に座っている老夫婦が、夫人同伴のウェストレイクだったのです(出席者は胸に名札をつけていたのです)。
すでに酒が入っていたのか、赤ら顔の好々爺といった雰囲気を漂わせていましたが、やさしそうな目つきながらも、その奥の眼光は鋭い感じでした。
こちらもすでに酔っていたので、勢いで話しかけました。
それでなくてもへたな英語で、懸命にあなたのファンだと訴えたはずですが、どうも、よく覚えてない(泣)。
日本で最新刊だった『斧』の話をしたはずなのですが...
しかし、こんなにミステリー・ファンに好かれた作家もめずらしいのではないでしょうか。
扶桑社では、『ニューヨーク編集者物語』という業界内幕小説がありましたが、これももはや出庫できない状態で、残念です。
とはいえ、ウェストレイクの企画は1本準備しています。
本筋の小説ではなく、夫人と合作のミステリー・クイズですけども。
出版はすこし遅れるかもしれませんが、ご期待ください。(編集部・T)
PS
ロサンゼルス・タイムズに出た追悼記事によると、ウェストレイクはエリザベス・テイラーの伝記まで書いていたんですって。
2008年12月17日 |
【業界ニュース】
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大不況
景気悪化の話がいよいよのっぴきならないところに来ていますが、海外の出版界は、さらにひどい状態です。
大手がつぎつぎとレイオフの大なたを振るい、連日そんなニュースばかり。
こんどはいったいどこ? という感じです。
あちらの会社は、ほんとうに「明日から来なくていいよ」というやりかただそうですから、身が縮みます。
10月中旬、フランクフルト・ブックフェアに参加したのですが、ちょうど直前にアイスランドの銀行破綻があって、ヨーロッパはちょっとしたパニック状態でした。
ドイツや英国の権利者に状況を聞くと、「この先、ほんとうにどうなるかわからない」と不安そうでしたが、アメリカ人はそれほど深刻ではなかったんですよ。
当時は、リーマン・ブラザースのニュース程度でしたから、他人事の感じが強かったのかも。
それが、わずか2カ月でこんなことに。
最近驚いたのは、Ten Speed Pressという版元が、出版をやめてしまうという話。
『あなたのパラシュートは何色?』という世界的なベストセラーがあり、料理本なども多い出版社です。
今年のフランクフルト・ブックフェアでミーティングしたときも、「扶桑社の料理の本をアメリカで出版できないか検討したい」と言っていました。
会社がなくなるなんて、思ってなかったでしょうね。
暗い話で、すみません。明日はわが身か。
2008年12月09日 |
【業界ニュース】
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祝!本格ミステリベスト10に入選!
先日発表された原書房さんの『2009本格ミステリ・ベスト10』の海外部門で、弊社刊行の『ケンブリッジ大学の殺人』が6位に入選いたしました! パチパチ!
本書は、編集者としてもとても思い入れの深い本です。とくに中盤の論理構築の精緻さは格別のもので、そこを読むだけでも十分ご購入いただく価値はあると思います。
鮎川哲也『黒いトランク』あたりでしびれた人にはこたえられない作品ではないでしょうか。
弊社からは、本格ミステリは年一、二冊程度しか刊行されておりませんが、読者のみなさまおよび、投票いただいた識者のみなさまの温かいご支持をいただき、ここ4年連続「本ミス」のベスト10に選んでいただいております。本当にありがたい思いでいっぱいです。
ちなみに2009年も、数本の本格テイスト作品(ギジェルモ・マルティネスの新作含む)と、未訳の古典本格発掘を計画中です。
今後とも、本格の火をたやさぬよう、古典・新訳含め、良作を精選してお届けしていく所存でございますので、なにとぞ変わらぬご愛顧のほどをお願いいたします! (編集Y)
以下、一応過去3年の「本ミス」入選作をご紹介しておきますので、未読の方はこの機会にぜひお手にとってみてくださいね。
2006年度 『悪女パズル』パトリック・クェンティン(2位)
2007年度 『オックスフォード連続殺人』ギジェルモ・マルティネス(4位)
『奇術師の密室』(7位)
2008年度 『切り裂かれたミンクコート事件』(4位)
2008年11月14日 |
【業界ニュース】
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「IN★POCKET」誌ベスト10発表
講談社「IN★POCKET」誌の「2008年文庫翻訳ミステリー・ベスト10」が発表されました。
扶桑社海外文庫から選ばれたのは、以下の3作品です。
「作家が選んだベスト10」第4位
スティーヴン・ハンター『四十七人目の男』
「翻訳家&評論家が選んだベスト10」第7位
ルイス・フェルナンド・ヴェリッシモ『ボルヘスと不死のオランウータン』
「翻訳家&評論家が選んだベスト10」第10位
スコット・スミス『ルインズ 廃墟の奥へ』
その他、作家が選ぶベスト11位には、ジャック・ケッチャム『閉店時間 ケッチャム中篇集』が選ばれています。
選んでいただいたみなさま、ありがとうございます。
未読のかたは、この機会にぜひ!
2008年10月06日 |
【業界ニュース】
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世界一稼ぐ作家は?
雑誌“Forbes”が選ぶ、「収入が多い作家」ランキングが発表されました。
さあ、どんな作家が選ばれたか、当ててみてください。
これは、2007年6月1日から、2008年6月1日までの支払いを調べたもので、アドバンス(印税前払金)、印税、映画化権利料などを総合した金額だそうです。
1位は、まあ、ご想像のとおり、J・K・ローリング。
それはそうでしょうね。
年間の収入は、3億7500万ドルだそうですよ。
40億円近いってことですか。
作家個人の収入でこれだけあるわけですから、映画からなにからあわせたら、ほんとにハリー・ポッターは世界的な一大産業なのですね。
2位は、ジェイムズ・パタースン。
この人は、日本とアメリカでの差がはげしいかもしれませんね。
パタースンの年収は、5000万ドル。
ローリングの稼ぎがいかに破格か、わかりますね。
3位は、ご存じスティーヴン・キング。
これは、順当でしょう。
ようやく扶桑社の作家が出てきましたね。
4位は、トム・クランシー。
ゲームの稼ぎが大きいみたいです。
5位は、ダニエル・スティール。
扶桑社ロマンスで復刊したいのですが、なかなかYesと言ってくれません。
6位は、ジョン・グリシャムと、ディーン・クーンツが、2500万ドルでタイ。
クーンツの『チックタック』を未読のかたがいらっしゃったら、強くおすすめしておきます。傑作ですから!
8位は、ケン・フォレット。
アメリカで圧倒的な人気を誇るオプラ・ウィンフリーの番組で『大聖堂』が取りあげられ、その続編の出版もあって、時ならぬ大ブームになりました。
9位は、ジャネット・イヴァノヴィッチ!
売れてると思ってはいたけど!
ところで、よく問い合わせをいただくのですが、いまのところ『気分はフル回転!』の続刊の予定はないのです。ほんとうにすみません。
そして、10位に入ったのは、ニコラス・スパークスでした。
このリストを見ていると、なんかこう、いろいろ言いたくなるのですが……(編集部・T)
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