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今月発売のナリーニ・シン、〈サイ=チェンジリング〉シリーズ第13弾 『冬の盾と陽光の乙女』(上・下)、もう読んでいただけたでしょうか?

 

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あらすじはこんな感じです。

 

 〈アロー部隊〉に所属する瞬間移動者(テレポーター)のヴァシックは、暗殺者としての過酷な任務を果たすなか、いつしか死の安らぎを望むようになっていた。そんな彼に、実験のため集められた共感能力者(エンパス)たちの護衛という新たな任務が与えられる。ヴァシックが担当することになったアイビーは、能力の高まりのせいで再度の条件づけを経験しながらも自我を保ってみせた強い女性だった。その輝きに触れて、彼の凍てついた心は溶け始める。

〈サイネット〉をむしばみ壊滅的な被害を引き起こす感染。それを食いとめる鍵が、共感能力者たちの封じ込められていた能力にあることが改めて確認され、〈アロー部隊〉のメンバーとEサイたちは、感染の影響で生じる大規模な集団発症事件と〈サイネット〉崩壊の危機に力を合わせて立ち向かう。命を懸けた作戦のなかで、ヴァシックとアイビーはその精神的な絆をしだいに深めてゆくが、一方でアイビーはヴァシックの身体に生命に関わる問題が潜んでいることを知る......巻末には特別短編を収録!

 

今回の主役は、最近登場機会が増えて、ヒーロー昇格の予兆をなんとなく漂わせていた(笑)ヴァシック。

彼は暗殺集団〈アロー〉の戦士であり、もともとはミン・ルボンの私兵のような位置づけにありましたが、ケイレブ・クライチェックがサイ社会の実権を握ってからは、ケイレブの指揮のもと親友のエイデンたちとともにサイネット崩壊現象の最前線に立って、身体を張って戦っています。

一方、彼は手に最新鋭の籠手状コンピュートロニック装置を装着しているのですが、これが彼の脳や神経と直結されているにもかかわらず機能不全を起こしているせいで、そのまま放置すれば命を落とすことになるとの恐ろしい宣告を受けています。

もともと彼は命の危険を承知でこの実験的装置のテスターを引き受けており、その意味ではいわゆる「デス・ウィッシュ(死にたがり)」として描かれています。過酷な任務の繰り返しのなかで心をすり減らし、意識下ではいつ死んでもいいと本気で思っているんですね。

この「死」に引き寄せられた「冬の霜」のような目をした男に、生きる意思と未来への希望をもう一度与え、諦念にとらわれた捨て鉢な生き方を変えさせる......それが、本作で登場する「陽の光」のように暖かな心をもつヒロイン、共感能力者アイビーの役割、というわけです。

 

物語の外見上は、ヴァシックが特命を受けてアイビーを警護するという、「男が女を守る」ロマサス系の王道パターンをとりつつ、実際には、闇にとらわれたヒーローを陽のヒロインが癒やすという、いわゆる「トーチャード・ヒーローもの」の変奏にもなっている点が本作のキモではないかと。

 

実際、お姫様のように「命のタイムリミット」を抱えているのは、今回ヒロインではなくてヒーローの側です。また、ヴァシックが幼年期に経験した凄惨な訓練の描写にはたっぷり筆が割かれる一方で、アイビーの方は後半に進むにしたがって自らの強大な能力に目覚め、常に前向きにヒーローを導き、母性的ともいえる愛の力で包み込み、ゆっくりと癒やしてゆきます。

その意味で、これまで「圧倒的に強い男が壊れかけの女性を救う」という定式をとることが多かった〈サイ=チェンジリング〉シリーズにおいて、本作はその「裏パターン」を志向しているといっていいかもしれません。

「騎士とお姫様」パターンの究極形ともいえるケイレブとサハラの物語(『黒曜石の心と真夜中の瞳』)の次作に、同じサイどうしのカップルを主役に当てつつも、太陽のような女性が影に生きる男性を救済してみせる物語をもってくるというのは、いかにもナリーニ・シンらしい。とある作品を書いている際に出てきた別のアイディアを次作で模索するというのは、これまでも彼女が何度もとってきた手法だからです。

また本作は、ヴァシックとエイデンという、親友どうしの真実の絆を描く「バディもの」としても機能しています。これまで出てきた、チェンジリングのアルファどうしのライヴァル関係や、「ゴースト」三人組の緩やかな仲間意識もとても魅力的でしたが、幼い頃から支え合ってきた二人の友情というのは、飛び抜けてきわめつきに尊いもんです。

あと、前作で結ばれたケイレブとサハラのその後の様子(ほとんどバカップル)も堪能できます。ほんとケイレブってのは、いろんな意味でいいキャラしてますね(笑)。

物語としても、サイネット崩壊現象がカタストロフィ寸前の状況に突入すると同時に、「どうすればサイネットは救われるのか」という究極の命題にもある程度の答えが見えてきて、いよいよ終幕、という切迫感がみなぎってきました。

 

ラブシーンについていえば、前作では地上最強の念動力者が興奮するたびに地割れや地殻変動を引き起こしてなかば笑わせにかかっていましたが、本作のヒーローはテレポーターなので、興奮しすぎて我を忘れると、ついつい馴染みの場所に転々とテレポートしてしまうという(笑)。

「やだお尻冷たい」「今度は俺が下になろう」みたいなことをそこそこ大真面目にやってて、結構受けます。

カバーでヒロイン(ちゃんと瞳に金色の輪っかを入れてあるんですよ)の両サイドに、雪景色の林地と星空の下に広がる砂漠を入れてあるのは、そのへんから来ております。

でも、この「テレポーター」という設定自体、ヴァシックのよるべなさというか、どこにもとどまれる場所がない彼の内面と深くつながっていて、その「碇」を下ろす場所となるのがアイビーってことなんでしょうから、なかなかよくできているなあ、と相変わらず感心させられる次第。

 

最後に個人的なおすすめとしては、上巻314頁あたりのヴァシックにぜひご注目ください。強もてのくせしてなんなんですかこの中学生男子みたいなうぶな可愛さは!ふう......もう、こたえられません!

 

ちなみに次作の『Shards of Hope』はエイデンの物語。その次の『Allegiance of Honor』でいよいよシリーズも一区切りとなります。

お恥ずかしながら、13巻ともなると、さすがに近年は結構ぎりぎりの採算となっておりまして、会社に脅かされながらも「熱いファンの皆さんが待っているんです」と説得して、なんとかシリーズを続けているというのが実情でございます。皆様に置かれましては、ぜひとも「買って」応援していただければ、こんなに嬉しいことはございません。

あと一息です。ゴールを目指して、みんなで力をあわせて頑張ってまいりましょう!(編集J)

 

2017年7月29日 19:34

コメント(1)

Comment

  • 『冬の盾と陽光の乙女』もう読みました!
    刊行予定がわかった時からずっと楽しみに待ってました(笑)
    前作からサイネットが中心となりケイレブやアローのイメージも変わったところ。
    ケイレブとサハラのその後が読めてうれしいですし、ルーカスやホークもしっかり登場して読み応えありました。
    ちなみにこのブログでの編集者さんのヒーローの紹介の仕方が好きです。
    (けっこう受けます、好みです)
    シリーズももう13作目。
    初めて『黒き狩人と夜空の瞳 』を読んだ時は13作目まで読めるとは思ってなかったのですごくうれしいです。
    次作の『Shards of Hope』とその次の『Allegiance of Honor』でシリーズは一区切りとなりますが、今年発売された<Psy-Changeling Trinity>も引き続き読めたらいいなと思ってますので、しっかり購入して応援します。
    〈サイ=チェンジリング〉シリーズ、ずっとついて行きます!



    |読書K|2017年8月 1日 13:36

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