本国アメリカでの「G-MAN」よりも1か月半も早く発売された日本語版『Gマン 宿命の銃弾』。
なぜ、このような事態になったのか?その影響は?
地獄を見た担当編集者自らが、その顛末を語ります。
弊社では、2017年3月に『Gマン 宿命の銃弾』を無事、刊行するに至りました。
ただ、先にブログ でもお伝えいたしましたとおり、実はこの本、「世界最速発売」ということになっております(4月17日現在の時点でアメリカではまだ発売されておりません。それどころか、発売日は5月16日ですから、今から一ヶ月も後ということになります)。
なんで、こんなことになってしまったのか?
ぶっちぎりで「世界最速」なのに、なぜ扶桑社は表立ってそれを喧伝しようとしないのか?
別に「秘密」というほど大した話でもないのですが、こうなった経緯について一応ご報告がてら記事にまとめよとの宣伝部からのお達しなので、出版裏話として「出来る限りあけすけに」ご紹介しようかと考える次第です。
もともと、『G-Man』発売の情報は、かなり早くからエージェントを通じて頂いておりまして、翻訳者さんにもすでに連絡してありました。
翻訳者さんは、この本の訳出作業のために2016年夏から年内いっぱいを押さえてくれていたのですが、アナウンスが早かったわりに、なかなか本国から原稿が届きません。
催促したところ、ようやく8月の末に第一稿が到達。ここから翻訳作業がスタートしました。
翻訳作業は訳者さんにおまかせし、こちらは他の本の編集などをしつつ、日々の生活を送っていた12月のある日。
本国のAmazonで、唐突に『G-Man』のカートが上がっているのに気づきました。「おっ。ようやく告知が出たか、結構遅かったな」
で発売日を見て、愕然。
2017年……5月16日発売って書いてあるんですけど!?
日本版、2017年3月発売でフィックスして作業進めてたんですけど!?
これには弱りました。でも、仕方ない。上司にさらっと報告しました。「なんか本国の発売が遅れて、5月で確定したみたいなんで、3月には出せなくなりました。ほんとすみません」
そしたら上司、「あらダメよ、そんなの。」
「いや、そうですよね、って、……え、いまダメって言われました?」
「だって、年度内で出る予算でもう回ってるのに、あんたどうすんのよ?」
「どうすんのって言われても、予算がクリアできないから先に出させてくださいなんて、そんなことあっちに言えませんよ!」
「じゃあ、単に先に出していいですかって訊いてみなよ、訊くだけタダなんだから」
「いや、まあ、そうおっしゃるなら、そりゃ訊いてみますけどね。いや、なかなか難しいと思いますよ? 普通に考えて」
さっそく(12月16日)エージェントに連絡する編集者。じゃあ、本国に訊いてみますとの軽いお返事。
で、翌日。さらっとメールが来てました。
「新作の日本版刊行について、アメリカオリジナル版に先行発売していただいてOKとの回答がきました!」
えっ、マジで? ほんとに? 出していいの? ちょっと何かおかしいんじゃないのか??(錯乱)
あー、でも、向こうが良いって言ってるんだから良いんだよな。
こうなったら、やるしかない。ということで、世界最速発売に向けて、すべては動き出したのでした。
なお、上司に報告すると大変褒められました(笑)「さすがの交渉力ね!」
いや、ほんとすみません。何にもやってないのにすみません。
そもそも、自分の注意不足でこんなことになってほんとにすみません……。
世界最速発売の秘密。それは、編集者のポカと、会社のエゴが呼びこんだひとつの奇跡でした。
― ― ― ―
なお、後日譚と申しますか……当初からある程度予測されていたことではありましたが、その後の編集作業は、とにかく困難をきわめました。
こちらは、年明けから訳了した日本語原稿を準備して、本国から最終稿が来るのを待ち、それに合わせて原稿に手を入れて終わり、という予定でスタンバっていたのですが、ファイナル稿が到着したのはなんと2月になってから。
ざっと突き合わせて、蒼ざめました。
う、うぐう、ハンターさん、想像以上にいじりまくってるじゃねーか!
数章なくなってるわ、数章増えてるわ、某主役級の登場人物の名前が数百箇所規模で差し替えてあるわ、他にも固有名詞変えまくってあるわ、全文にわたってあちこち削ったり書き足したりしてあるわ。
あまりの異同の多さに、頭がくらくらする……。
どうする? これけっこうピンチかも。いや大ピンチかも。
いや待て、落ち着くんだ。これで3月出せないとか言ったら、なんのために奇跡の許可をもらったのか、まるで意味がなくなってしまう。
こうなったら、やるしかない。主に……年度予算のために!
訳者さんと肚を決めて、最終稿に合わせて改めて全編に訂正を入れることを確認。チェックは編集部、直しは訳者さんと分担を決めて、話がまとまりました。
とにかく目を増やすしかない、ということで、編集者と元同僚のDTP屋(英語がめちゃできる)と校正者の三人で、全文英文と訳文の突き合わせを敢行。それらをとりまとめて、翻訳者さんに原稿を送付。
結局、すべての箇所にご対応いただきました。
さらに、再校では別の校正さんも動員。見落とし防止に万全を期しました。
結局、一言一句、カンマ一つ変更を見逃さず、こだわりをもって全文を訳し直したつもりです。
ただ、とにかく締め切りは厳しかった。
最後のほうは、この齢にもなって、会社に○時間睡眠で○連泊とかヒドい状況になりまして、もうついには××るかと(笑)……なんか、だんだん、カブトムシみたいな臭いしてきてたし。
ホントにできてよかったです。出せてよかったです。
あとは……皆さんに読んでいただくだけです。
翻訳者の公手さん、過酷なスケジュールに巻き込んでしまい、本当に申し訳ないことをいたしました。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
責了後、メールで、次回は何があろうと、ファイナル原稿が来てから動こうねって誓いあったことは今のところまだ覚えていますが、はてさてどうなることやら。
なぜかボロボロになった記憶は、あっという間に希薄化するどころか、美化される、まであるので、ついつい繰り返しちゃうんですよね……。ダメ編集あるあるです。