この本の内容
本書は2016年から2017年初頭にかけて刊行の準備をしておりました。ところがそのさなか、渡部昇一先生が、同年4月17日にご逝去され、そのままになっておりました。しかし、渡部先生がお亡くなりになられた後、日本はいよいよ人生100年時代が現実になりつつあります。
終生、知的生活を実践された渡部先生の教えは、現代の老後の過ごし方について、大事な指針を与えてくださっております。寿命が100歳に伸びつつある今こそ、本書を世に出す必要があることを奥様の迪子様にお話をしたところ、快くご賛同いただきました。
人生100歳まで、どのようにすれば知的に生きていくことができるのか? 知の巨人、渡部昇一先生の残された知恵の遺産に触れていただけければ、この上ない幸いです。
はじめに-----妻・迪子からみた渡部昇一の知的生活 <抜粋>
「口より実行」。渡部昇一の知的生活のコツといえば、この一言に尽きるのではないでしょうか。たとえば健康法。主人は真向法という柔軟体操と、英語の原書を音読する発声を日課にしていましたが、毎日厳密にやるのではなく、「できない日があっても構わない」くらいの調子でやっていました。「これとこれはきっちりやる」と決めてしまうと、できなかったときにイヤになってプツンとやめてしまう。だから二、三日やらなくても気にしない。そのほうが、「しばらくやっていないなあ」と気軽に戻って来られる。いい加減にやったほうが長続きすると言うんです。
子供たちに対しても、理詰めで接することはありませんでした。学校の成績が悪くても気にしませんし、忘れ物をしても叱りません。
子供が忘れ物をするのは普通のこと。子供の頃の成績が人生を決めるわけじゃない。そう言って、テストで悪い点を取っても担任に何を言われても、涼しい顔をしていました。
長男が音楽の道に進もうしたときも、「好きなことをすればいい」と背中を押してやっていました。 音楽家のような不安定な仕事に就くのを反対される親御さんもいますが、主人は「うまくいかなかったら、トラックの運転手でもなんでもすればいい。今の日本では食いっぱぐれて死ぬようなことはない。やりたいようにやりなさい」と。子供の将来も、あれこれ言うより実行することを重視していたのだと思います。
主人は最後、自宅で亡くなりました。病院に通うのを嫌ったので、お医者様に来ていただいていました。我慢できないほどの痛みがあったようですが、痛み止めのモルヒネは最小限に抑えていました。モルヒネを使うと頭が朦朧としてしまい、時間もわからなくなるし、何も考えられなくなってしまう。不覚なことはしたくない。責任の取れない言動はしたくない。そう考えていたからです。
少しでも痛みが和らげばと、私と娘が主人のふくらはぎをさすっているとき、主人は「俺は世界一幸せな男だ。家族にこんなにしてもらって本当にありがたい」と何度も言っていました。
家族に感謝の言葉を伝えることも、主人らしい「口より実行」だったのかもしれません。
渡部迪子
●目次<抜粋>
はじめに
妻・迪子からみた渡部昇一の知的生活
第一章「自分である」ことの本質は記憶である
・人生で大事なイメージ・トレーニング
・師とは、自分で見出していくもの
・老後に必要なものは、少数の友達そしてカラオケに行ける財産
・老年になっても、記憶力はものすごく強くなる
……etc.
第二章 知的生活とは、孤独と社交のバランスにある
・騒音に敏感でなければ、知的ではない
・理想的な場所「スコットランドの離れ島」と「ロンドンの客間」
・定年後、できなくなることがあるという心構え
・つまらない本は、どんどん捨ててしまえばいい
……etc.
第三章 90歳を超えて知的であり続けた人たちに学ぶ
・若い時の体の強弱は、寿命と関係ない
・90歳を過ぎても驚くべき仕事をなさった人たち
・長寿者は、神秘的傾向と唯物論的傾向に分かれていく
・知的生活にきわめて重要なフィジカル・ベーシス
……etc.
第四章 知的に暮らすための大事な方法
・老年の生活で大事なのは、同じリズムを繰り返すこと
・子供が育った後は、もう奥さんの手料理にこだわらない
・老いた後の肉体は、時間を十分とってゆっくり鍛える
・老年になっても朝めしは食べるべきか?
……etc.
第五章 知的老後生活とお金の関係
・西郷曰く「児孫の為に美田を買わず」は、現代では有害である
・ハイエク最後の予言---年金制度は必ずつぶれる
・戦後の風潮の中で生まれた子供と親の関係について
・示唆に富むアメリカ人の老人観
……etc.
第六章 誇りをもって人生をまっとうするために
・叙勲に値するのは、命がけの仕事をする人々である
・いい医者とは、私の知る限り薬の量をなるべく減らそうと努力する
・尊厳死宣言(リビング・ウィル)を認めるべきである
・「メメント・モリ」について
……etc.
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