扶桑社のミステリーをご贔屓にしてくださる読者のみなさんには、三川さんといえば、なんと言ってもジム・トンプスンでしょう。

 もともとは「ミステリマガジン」に分載された『ポップ1280』を、扶桑社で単行本として出版したのが、2000年2月。
 この本は、今度は三川さんにとって、翻訳家になってはじめての年間ベスト1となったのです。

 じつは、翻訳家としての三川さんにとって、トンプスンは特別の作家でした。
 トンプスンを訳していると、自動書記のようになるのだそうです。
 そうやって生みだされた訳文については、いまさらご説明する必要もないでしょう。

 トンプスンは、わたしにとっても特別の存在でした(作品を読まれる読者のみなさんにとっても、そうだといいのですが)。
 編集者は、訳文と原文を相互に行き来しながらチェックしていかなければならないのですが、トンプスンの場合は訳文に飲みこまれ、読みふけってしまうのです。
 これでは、編集者としては失格です。
 まあ、トンプスンに関するかぎり、三川さんのゲラはそれはきれいなもので、校正作業はスムーズに終わってしまうのが常でしたが。

 しかし、その三川さんが、トンプスンなのにちょっと苦労した、ともらしたのが、2006年刊行の『失われた男』
 なんか調子がちがうんだよなあ、とおっしゃっていたのですが、できあがった翻訳は、いつものとおりのトンプスン/三川節、だったと思います。
 では、なぜ手こずったのか?
 三川さんと話した結果、文体が三人称であるとか、いつもとは小説の結構がちがうとか、まあ、そんなあたりが理由かな、という結論になりました。
 でも、いま思えば、もしかしたらそのころから、三川さんの体調に変化があったのかもしれません。(編集部・T)

2007年10月31日 20:26

コメント(0)

Comment

コメントする

ページの先頭へ