2020年10月アーカイブ

9月末搬入、10月初発売の扶桑社ミステリー新刊は、『ナイトメア・アリー 悪夢小路』
鬼才ウィリアム・リンゼイ・グレシャムが遺した、異形のカルト・ノワールの登場です!

ナイトメアアリーカバー.jpg

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「扶桑社ノワール・セレクション」と題して、2017年に『拾った女』を刊行し、『このミステリーがすごい!2017年版』で海外編4位に選んでいただいてから早4年。
昨年夏に、ジム・トンプスン『ポップ1280』を復刊、
年末には、エリオット・チェイズの『天使は黒い翼をもつ』を刊行、
さらに今年の春には、チャールズ・ウィルフォードの『コックファイター』を刊行。
そして本作。
ここまでノワール紹介の火を絶やさず、続けてこられたのも、すべて読者の皆様によるご支援の賜物でございます。
皆様への感謝をこめて、現編集担当Yと元編集担当T、販売部の若手ふたりで、ノワール座談会なるものを開催し(販売担当にやれとけしかけられましたw)、動画をアップいたしました。


扱っているのは、上記の『ポップ1280』『天使は黒い翼をもつ』『コックファイター』、そして本作『ナイトメア・アリー』の4作品。他に、前任者Tによる著作権法と海外翻訳にまつわる説明画像(もしかして、「十年留保」を動画で説明した世界で初めての試みでは??)なども用意しておりますので、こちらもご高覧賜れば幸いです。

改めまして。
あらすじはこんな感じです。

スタン・カーライルは、カーニヴァルの巡回ショーで働くしがないマジシャンだ。
だが彼には野心があった。いつの日か華々しい成功と大金を摑んでみせる。
同じ一座の占星術師ジーナと関係をもち、読心術の秘技を記したノートを手に入れたスタンは、若く美しいモリーと組んでヴォードヴィルへの進出を果たすが......
タロットの示す運命とファム・ファタールに導かれて、栄光と絶望の果てに男がたどり着く衝撃のラストとは。
特異な世界観で魅了する闇色のカルト・ノワール、登場!


ノワール、といっても、かわり風変わりな小説です。

なにせ、舞台がカーニバルのフリークショー。
主人公は若きマジシャンなのです。
で、各章の冒頭にはタロットカードの絵柄とタイトルが曰くありげに付され、
鶏を生きたまま頭から食いちぎる「野人(ギーク)」や、「人類史上最少の男」モスキート少佐、「電気女」などの見世物芸の詳細が語られ、読心術のトリックを用いた占星術の紹介にも筆が費やされます。
なんでも、著者のウィリアム・リンゼイ・グレシャムは、実際にフリークショーに同行して、綿密な取材を重ねて、本書をものしたそうです。

どうです? 
映画「フリークス」や「エルトポ」や花園神社といったカルトな世界が好きな人にとっても、
本格ミステリーの愛好家諸氏にとっても、なんだか心そそられる題材ではありませんか。

しかも本書は、成り上がりを目論む男の、ぎらぎらとした犯罪小説であると同時に、
奇術や読心術のトリックをふんだんに用いた「コン・ゲーム小説」(詐欺師小説)でもあります。
後半は、降霊術にまつわる主人公のたくらみに、ファム・ファタールが一枚噛んできて、事態は思いがけない方向に展開していきます(そういえば、世界で最も名高いマジシャン、フーディニもエセ霊媒ハンターとかやってましたよね)。


今回、解説をお願いした霜月蒼さんは、本書を「ひとことでいえばビザールな犯罪小説である」と規定したうえで、以下のように述べておられます。

「狂気めいた奔放な文章が乱舞する作品でありながら、本書は因縁めいた美しくシンプルなプロットを持っていたことが最終的に判明するとだけ言っておく。もっともその美しさは、底なしの恐怖を秘めたものではあるけれども。」

「犯罪へと至る生々しい悪夢――それを見事に描いているがゆえに、本書は長らくノワールの文脈で語られてきたのだろう。中盤をすぎて、主人公の闇/病みが臨界点を超えたのちに展開される壊れた文章と、それが綴る倒錯した性をめぐるビザールなイメージは、著者グレシャムの文章家/幻視者としての非凡さを証明している。」

また、ノワールとニューロティック・ミステリーの同時代性/共通点などにも触れられたうえで、本書について、ミステリー史上で最初期のサイコ・スリラーでもあると、おっしゃっています。
(ホントにすごい解説なんで、ぜひ合わせてご一読ください!)


すなわち本書は、
ジム・トンプスンが好きな人にも、クレイトン・ロースンや泡坂妻夫が好きな人にも、
『コンフィデンス・マンJP』が好きな人にも、『幽霊探偵カーナッキ』が好きな人にも、
マーガレット・ミラーが好きな人にも、『少女椿』が好きな人にもジャストフィットする、
間口のとても広い「ノワール」ということになります。

小説としての面白さは、抜群。
得も言われぬ素材の妖しさと、ミステリーらしい論理性と、ノワールらしい情念と、実験的ですらある文学味が、ざくっと手荒く混ぜ合わされて、独特の味わいを醸し出している。
主人公スタンの歪んだキャラクターも、どこか憎めないんですよね。
まともに生きられないわりに、いかさまにはやけに真摯で、求道的なまでの「のめりこみ」ようを見せる。情熱的で、上昇志向が強く、冷徹で計算高い性格でありながら、幼少時の体験にとらわれ、常に恐怖といら立ちにさいなまれている。この、田宮二郎感、嫌いじゃない!

そんな彼と情を通じる三種三様の魅力的な女性たち。
周囲を取り巻く、奇抜な芸や生まれつきの体をもとでとする芸人たち。
登場人物みんな、めちゃくちゃキャラがたってます!

あと、本作を書いたウィリアム・リンゼイ・グレシャム自身が、登場人物さながらの破綻した生活を送ったうえ、いつしか零落して、晩年は貧困と病とアルコール依存に苦しめられながら(ポーみたい)、ついにはみずから命を絶つにいたった、という事実を知ったうえで読むと、小説としての感興もまた、いやがうえでも増すのではないかと。
彼の死後見つかった名刺には、中央に「リタイヤ済み」とあり、四隅にそれぞれ、「住所なし」「電話なし」「仕事なし」「カネねし」と書いてあったといいます(解説より)。

それと余談ですが、大学で奇術愛好会に所属していた編集者からすると、実際に当時現役で上演されていた奇術やメンタルマジックのネタばらしを、小説内で平然と敢行している点でも、非常に興味深いミステリーだと言わざるを得ません(他にこういった作例が娯楽小説にあるのか?)。
なにせ、この本、ハワード・サーストン(日本の奇術業界では「サーストンの三原則」でその名を知らない者のいない20世紀初頭の大マジシャン。ちなみにこの三原則、編集者は入部の日に教わりましたw)の名前まで出てきますからね・・・・。

これまで邦訳がなかったとはいえ、海外ではカルト作として一定の評価を得てきていますし、出版されてすぐ、タイロン・パワー主演で映画化もされています(『悪魔の往く町』)。
さらには・・・・、なんと2021年に、ギレルモ・デル・トロ監督によるリメイク作品の公開が予定されています! 当初、レオナルド・ディカプリオ主演と言われていたのですが、結局、ブラッドリー・クーパーが主役を張ることとなったようです。

今回の装丁(「小路」を歩むものを「逆位」にして、タロットの「吊るされた男」と並べてみた)、個人的に大変気に入っておりますが、映画公開時には、いさぎよく映画カバーに掛け替えて、ぜひ再出庫したいと考えております(笑)。

観る前に読むもよし。
観てから読むもよし。

今まで日本で知られていなかったのが嘘のような、正真正銘の傑作です。
ぜひお楽しみください!(編集Y)

PS 終盤、スタンが仕掛ける「天秤」のトリックには、種明かしが明確には書かれていません。
翻訳者の矢口さんは、「そりゃ"あれ"しかないでしょう」とおっしゃるのですが、"あれ"だと、人間の肉眼でも見えちゃうんじゃないですかね、だって「サーカス」とかあるくらいだし、というのが編集者の意見でして・・・。
これぞ、というトリック解説のご用意のある方は、ぜひコメント欄にそっと書いて、編集者のもやもやを払ってくださいませ(笑)。



2020年10月23日 19:29 | | コメント(0)

弊社の基幹作家であるスティーヴン・ハンター。
今年は残念ながら新刊はありませんでしたが、ついに初期の代表作『真夜中のデッド・リミット』(上・下)が扶桑社から復刊されることになりました!
『このミステリーがすごい」!89年版』海外編第2位(ちなみに、この年の第1位は『羊たちの沈黙』でした!)や、日本冒険小説協会大賞受賞など、数々の栄冠を得て、日本での彼の名を大いに高らしめた初期の代表作が、新刊として書店の店頭に帰ってきます。

今回、改めて翻訳者の染田屋さんと全文を確認し、かなりの箇所で訳文に手を入れました。
少し古い言い回しだった固有名詞なども含めて、今の読者の皆さんに読んでいただくにふさわしい形で、訳文をリファインすることができたのではないかと自負しております!

デッドリミット上下2.jpg


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上巻出だしのあらすじは、こんな感じです。

アメリカ・メリーランド州にある、山中深くに配された核ミサイル発射基地。
全米で唯一、単独発射が可能なこの基地が、謎の武装集団に占拠された。
最新鋭核ミサイルの発射を阻止するためには、基地に潜入するしかない。
ミサイルの発射キーは現状チタニウム合金製の保管庫に収められているが、
破られてしまうのも時間の問題だ。デッド・リミットは深夜零時。
ミサイル発射までに残された時間は十数時間しかない。
絶体絶命の状況下で、デルタ・フォースを創設した歴戦の勇士プラーに特命が下る!

とにかく、べらぼうに面白い。
人によっては、スワガー・サーガより好き、という人がいてもおかしくないでしょう。
実際、評論家の川出正樹氏は、ハンター作品のなかでは「ダントツで『真夜中のデッドリミット』が好きです」と公言されていたかと。

正体のわからないテロリストによって、唐突に占拠された核ミサイル基地。
ミサイル発射までのデッド・リミットが目前に迫ります。
限られた時間のなかで、デルタ・フォースと徴用された一般人の混成部隊は、
①外部に配された敵勢力を突破したうえで、
②難攻不落のミサイル基地内部に潜入し、
③カウントダウンをとめなければならない。
併せて、そのためには
④敵の正体を見破ることも必須となってきます。

この最高難度のミッションに、デルタ・フォース創設にかかわったプラー大佐を指揮官として、FBI捜査官や、民間人の州兵であるブラヴォー中隊の面々、基地潜入の特命を帯びたベトナム戦争の勇士(トンネル・ネズミ)といった、さまざまは人々が、一致団結して挑みます。
その他、テロリストの中核メンバーや、彼らに誘拐され協力させられる溶接工、人質にとられたその家族、うらぶれた落魄の中年ソ連人スパイなど、個性的なキャラクターがつぎつぎに登場。
一日に満たない時間経過のなかで、それぞれが文字どおり「生死を懸けた」、苛烈な戦いに身を投じます。

すなわち、スワガー・サーガが無敵のスナイパーの活躍を描く「ヒーロー譚」であるとすれば、
本作は徹底して一人ひとりの物語に注力した、典型的な「群像劇」であるといえるでしょう。

解説の古山裕樹氏は、本書の面白さを「記憶」「人物」「展開」の三つの側面から、見事に読み解いてみせます。

「そして、本書の登場人物たちはあっさりと命を落とす。たとえ重要なキャラクターでも油断はできない。これは決して一人ひとりのキャラクターを軽く扱っているということではない。むしろその反対だ。
 個々の人物がどのように生き、何を愛し、何を重んじていたかーーそれが描かれているがゆえに、一人ひとりの死が、読む者の心に鋭く突き刺さる。そっけなく語られる死は、その簡潔さゆえに、語られない多くのことを読者に刻みつける。」

結局、この物語で誰が勝利し、誰が英雄になったといえるのか。
下巻368ページから始まる、とある登場人物の長いモノローグは、血沸き肉躍るアクション・サスペンスの最後にやるせない影を落とし、深い文学的余韻を残します。
371ページに「列挙される」、いかにもハンターらしい「とあるデータの羅列」が、なぜにここまで読む者の涙腺を刺激するのか。
近年のハンター作品と比べると、レトリックはさっぱりめで、描写もねちっこさが薄め、個性という意味では若干控えめかもしれませんが、そのぶん、キャラクターたちが織り成す密度の濃いタイムリミット・サスペンスを、ストレートに堪能できるかと思います。

スティーヴン・ハンターの、というより、
20世紀のアクション小説を代表する、ベストの一作。
まだ読まれたことのない方も、かつて一度読まれた方も、ぜひ手に取ってみてください。
担当編集として、皆様に最高の読書体験となることをここにお約束いたします!!  (編集Y)



2020年10月 2日 20:52 | | コメント(1)

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