9月末搬入、10月初発売の扶桑社ミステリー新刊は、『ナイトメア・アリー 悪夢小路』
鬼才ウィリアム・リンゼイ・グレシャムが遺した、異形のカルト・ノワールの登場です!

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「扶桑社ノワール・セレクション」と題して、2017年に『拾った女』を刊行し、『このミステリーがすごい!2017年版』で海外編4位に選んでいただいてから早4年。
昨年夏に、ジム・トンプスン『ポップ1280』を復刊、
年末には、エリオット・チェイズの『天使は黒い翼をもつ』を刊行、
さらに今年の春には、チャールズ・ウィルフォードの『コックファイター』を刊行。
そして本作。
ここまでノワール紹介の火を絶やさず、続けてこられたのも、すべて読者の皆様によるご支援の賜物でございます。
皆様への感謝をこめて、現編集担当Yと元編集担当T、販売部の若手ふたりで、ノワール座談会なるものを開催し(販売担当にやれとけしかけられましたw)、動画をアップいたしました。


扱っているのは、上記の『ポップ1280』『天使は黒い翼をもつ』『コックファイター』、そして本作『ナイトメア・アリー』の4作品。他に、前任者Tによる著作権法と海外翻訳にまつわる説明画像(もしかして、「十年留保」を動画で説明した世界で初めての試みでは??)なども用意しておりますので、こちらもご高覧賜れば幸いです。

改めまして。
あらすじはこんな感じです。

スタン・カーライルは、カーニヴァルの巡回ショーで働くしがないマジシャンだ。
だが彼には野心があった。いつの日か華々しい成功と大金を摑んでみせる。
同じ一座の占星術師ジーナと関係をもち、読心術の秘技を記したノートを手に入れたスタンは、若く美しいモリーと組んでヴォードヴィルへの進出を果たすが......
タロットの示す運命とファム・ファタールに導かれて、栄光と絶望の果てに男がたどり着く衝撃のラストとは。
特異な世界観で魅了する闇色のカルト・ノワール、登場!


ノワール、といっても、かわり風変わりな小説です。

なにせ、舞台がカーニバルのフリークショー。
主人公は若きマジシャンなのです。
で、各章の冒頭にはタロットカードの絵柄とタイトルが曰くありげに付され、
鶏を生きたまま頭から食いちぎる「野人(ギーク)」や、「人類史上最少の男」モスキート少佐、「電気女」などの見世物芸の詳細が語られ、読心術のトリックを用いた占星術の紹介にも筆が費やされます。
なんでも、著者のウィリアム・リンゼイ・グレシャムは、実際にフリークショーに同行して、綿密な取材を重ねて、本書をものしたそうです。

どうです? 
映画「フリークス」や「エルトポ」や花園神社といったカルトな世界が好きな人にとっても、
本格ミステリーの愛好家諸氏にとっても、なんだか心そそられる題材ではありませんか。

しかも本書は、成り上がりを目論む男の、ぎらぎらとした犯罪小説であると同時に、
奇術や読心術のトリックをふんだんに用いた「コン・ゲーム小説」(詐欺師小説)でもあります。
後半は、降霊術にまつわる主人公のたくらみに、ファム・ファタールが一枚噛んできて、事態は思いがけない方向に展開していきます(そういえば、世界で最も名高いマジシャン、フーディニもエセ霊媒ハンターとかやってましたよね)。


今回、解説をお願いした霜月蒼さんは、本書を「ひとことでいえばビザールな犯罪小説である」と規定したうえで、以下のように述べておられます。

「狂気めいた奔放な文章が乱舞する作品でありながら、本書は因縁めいた美しくシンプルなプロットを持っていたことが最終的に判明するとだけ言っておく。もっともその美しさは、底なしの恐怖を秘めたものではあるけれども。」

「犯罪へと至る生々しい悪夢――それを見事に描いているがゆえに、本書は長らくノワールの文脈で語られてきたのだろう。中盤をすぎて、主人公の闇/病みが臨界点を超えたのちに展開される壊れた文章と、それが綴る倒錯した性をめぐるビザールなイメージは、著者グレシャムの文章家/幻視者としての非凡さを証明している。」

また、ノワールとニューロティック・ミステリーの同時代性/共通点などにも触れられたうえで、本書について、ミステリー史上で最初期のサイコ・スリラーでもあると、おっしゃっています。
(ホントにすごい解説なんで、ぜひ合わせてご一読ください!)


すなわち本書は、
ジム・トンプスンが好きな人にも、クレイトン・ロースンや泡坂妻夫が好きな人にも、
『コンフィデンス・マンJP』が好きな人にも、『幽霊探偵カーナッキ』が好きな人にも、
マーガレット・ミラーが好きな人にも、『少女椿』が好きな人にもジャストフィットする、
間口のとても広い「ノワール」ということになります。

小説としての面白さは、抜群。
得も言われぬ素材の妖しさと、ミステリーらしい論理性と、ノワールらしい情念と、実験的ですらある文学味が、ざくっと手荒く混ぜ合わされて、独特の味わいを醸し出している。
主人公スタンの歪んだキャラクターも、どこか憎めないんですよね。
まともに生きられないわりに、いかさまにはやけに真摯で、求道的なまでの「のめりこみ」ようを見せる。情熱的で、上昇志向が強く、冷徹で計算高い性格でありながら、幼少時の体験にとらわれ、常に恐怖といら立ちにさいなまれている。この、田宮二郎感、嫌いじゃない!

そんな彼と情を通じる三種三様の魅力的な女性たち。
周囲を取り巻く、奇抜な芸や生まれつきの体をもとでとする芸人たち。
登場人物みんな、めちゃくちゃキャラがたってます!

あと、本作を書いたウィリアム・リンゼイ・グレシャム自身が、登場人物さながらの破綻した生活を送ったうえ、いつしか零落して、晩年は貧困と病とアルコール依存に苦しめられながら(ポーみたい)、ついにはみずから命を絶つにいたった、という事実を知ったうえで読むと、小説としての感興もまた、いやがうえでも増すのではないかと。
彼の死後見つかった名刺には、中央に「リタイヤ済み」とあり、四隅にそれぞれ、「住所なし」「電話なし」「仕事なし」「カネねし」と書いてあったといいます(解説より)。

それと余談ですが、大学で奇術愛好会に所属していた編集者からすると、実際に当時現役で上演されていた奇術やメンタルマジックのネタばらしを、小説内で平然と敢行している点でも、非常に興味深いミステリーだと言わざるを得ません(他にこういった作例が娯楽小説にあるのか?)。
なにせ、この本、ハワード・サーストン(日本の奇術業界では「サーストンの三原則」でその名を知らない者のいない20世紀初頭の大マジシャン。ちなみにこの三原則、編集者は入部の日に教わりましたw)の名前まで出てきますからね・・・・。

これまで邦訳がなかったとはいえ、海外ではカルト作として一定の評価を得てきていますし、出版されてすぐ、タイロン・パワー主演で映画化もされています(『悪魔の往く町』)。
さらには・・・・、なんと2021年に、ギレルモ・デル・トロ監督によるリメイク作品の公開が予定されています! 当初、レオナルド・ディカプリオ主演と言われていたのですが、結局、ブラッドリー・クーパーが主役を張ることとなったようです。

今回の装丁(「小路」を歩むものを「逆位」にして、タロットの「吊るされた男」と並べてみた)、個人的に大変気に入っておりますが、映画公開時には、いさぎよく映画カバーに掛け替えて、ぜひ再出庫したいと考えております(笑)。

観る前に読むもよし。
観てから読むもよし。

今まで日本で知られていなかったのが嘘のような、正真正銘の傑作です。
ぜひお楽しみください!(編集Y)

PS 終盤、スタンが仕掛ける「天秤」のトリックには、種明かしが明確には書かれていません。
翻訳者の矢口さんは、「そりゃ"あれ"しかないでしょう」とおっしゃるのですが、"あれ"だと、人間の肉眼でも見えちゃうんじゃないですかね、だって「サーカス」とかあるくらいだし、というのが編集者の意見でして・・・。
これぞ、というトリック解説のご用意のある方は、ぜひコメント欄にそっと書いて、編集者のもやもやを払ってくださいませ(笑)。



2020年10月23日 19:29

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