新刊案内アーカイブ

今月の新刊は、
ドイツ語圏では知らぬ人のいない人気作家でありながら、
いまだ日本での紹介がなかったオーストリア人女流作家、
アレックス・ベール『狼たちの城』。訳者は小津薫さんです。

狼たちの城 カバーブログ用.png


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あらすじはこんな感じです。

第二次世界大戦の末期、ニュルンベルクのユダヤ人古書店主イザークと家族のもとにポーランド移送の通達が届く。
彼は絶望のなか、レジスタンスに関わっていると聞いたかつての恋人クララのもとに走り、家族が逃走する手助けをしてもらえないかと依頼するが、彼女が彼に用意してくれたのはゲシュタポの特別犯罪捜査官アドルフ・ヴァイスマンとしての偽の身分証だった。
イザークは身分証を受けとってすぐの駅構内で、ゲシュタポの士官からヴァイスマンに間違われたまま本部に連れていかれ、ナチスに接収された城内で起きた女優殺人事件の捜査に臨むことに。
ゲシュタポの深奥部で彼は無事生き抜き、事件を解明することができるのか?


ナチス・ドイツの支配下で、迫害され、生存権をはく奪され、命を喪った多くのユダヤ人。

もしも、そのひとりがゲシュタポの高官と間違われて、組織の内部深くに侵入できたとしたら?
しかも、その高官が名探偵の誉れ高い捜査官で、圧倒的な名声と権力をほしいままにしていたとしたら?
あの大戦下で、ユダヤ人がゲシュタポを顎でこき使って、犯罪捜査に挑んだとしたら?

本書は、そんな破天荒で魅力的な「逆転の構図」をかたちにした、趣向に富んだ歴史ミステリーです。

「ばりばりのエスピオナージュ」でありながら、「名探偵もの」でもある。
意外に、これまでなかったパターンではないでしょうか。

主人公のイザーク・ルビンシュタインは、古書店主を営むインテリのユダヤ人で、妹とその子供たち、両親の5人の家族がいます。数年前まで、ドイツ人の恋人クララがいましたが、今は別れています。ナチスの支配が強まるなか、ふたりで国外に逃げようというクララの誘いを断り、家族をどうしても捨てられなかったイザークは、国外にとどまることを選んだのです。
今は、店も仕事もナチスに取り上げられ、ユダヤ人専用の住居に家族とともに移されています。そこに、ついに送られてきたポーランド移送の通知書。
いよいよ先行きに不安を抱いたイザークは、家族を助けるために、動き出すことにします。
しかしそのとき彼は、自分が起こした行動の結果として、自らがゲシュタポ(ナチスの秘密国家警察)の捜査官アドルフ・ヴァイスマンに成りすますはめに陥るとは、思ってもいなかったのでした・・・・。

イザークは優秀な頭脳の持ち主ですが、決して生まれながらの「名探偵」でも、「英雄」でもありません。
むしろ、気弱で、争いを嫌い、踏み込むことをおそれる、ごくふつうの一般市民です。
きっと何もなければ、何もできないまま、家族とともに命を落としたかもしれない。
でも、環境と特殊な状況が、彼にひとつの役割を与えました。
「名探偵」という役割を。
彼は、必死で、文字通り命がけで、与えられた「名探偵」の役を演じきろうとします。
まわりも、彼を「名探偵」として最大限の厚遇をもって扱います。
そんななか、彼の内面でも、いろいろな想いが変化していくことに・・・・。
人間臭い彼の葛藤と、巻き込まれ型スパイとしての苦闘が、まずはこの物語の読みどころとなってきます。

それから、本書の面白さのひとつに、「名探偵」という装置と「エスピオナージュ」という入れ物が組み合わさったときに生じる、不思議な化学反応があります。

「名探偵アドルフ・ヴァイスマン」としてのイザークは、ゲシュタポの根拠地である城内で起きた女優殺人事件を捜査しなければならない。そこで必要とされるのは、「真実の探求」であり、こんがらがった謎を解き明かす「理性のはたらき」です。
名探偵にとっては、ゲシュタポも、レジスタンスも、両者に直接関係のない幾多の登場人物も、等しく「容疑者」なのであり、等しく平等な存在です。彼は先入観を排除して、フラットに「謎」に挑む必要があります。

一方で、「レジスタンスのスパイ」としてのイザークには、「別の使命」があります。
そのミッションにおいて、ゲシュタポは「絶対的な敵」であり、「究極の悪」であり、ユダヤ人を迫害する憎き存在でしかない。彼は連合軍側の利益のために、たまさか手にした「名探偵としての権力」を行使することすらいとわず、ゲシュタポ内部のとある情報に肉薄していきます。

イザーク・ルビンシュタインは、アドルフ・ヴァイスマンでもある。
彼はもとはただのしがない(元)古書店主ですが、今は「スパイ」でもあり、「名探偵」でもある。
ふたつのペルソナは、物事に対処するにあたって、別の思考回路と、別の解釈と、別の決断を彼にせまることでしょう。
そのとき、彼はどう動くのか。
物語が進むにしたがって、イザークの苦悩は深まっていきます。

同時に、彼の「アドルフ・ヴァイスマン」としての偽の身分は、あまりにも、もろい。
当然、ヴァイスマンのすべてを真似る必要がある、捜査でも下手は打てない、相手との会話でもボロは出せない。しかも、どれだけ頑張ったところで、本物のヴァイスマンを知っている誰かとばったり会っただけで、もう嘘も命もおしまい。すべては終焉を迎えます。
本書のサスペンスは、「潜入捜査官」もの特有の「身バレ」の恐怖にも支えられています。

しょうじき本作は、「本格ミステリー」と呼べるほどロジカルな推理の面白さに重きが置かれているとはいいがたいですが、(一応)「古城の密室殺人」ものですし(!)、本来名探偵でもなんでもないイザークが、必死で昔読んだシャーロック・ホームズの挙動やセリフを思い出しては模倣してみせる描写などには、なかなかにミステリー・マインドをくすぐられます。
なにより先に述べたとおり、「名探偵という装置」の機能について、読めば読むほど深く考えさせられる小説だといえます。

もう一点、本作で何度も問われるのは、以下の根源的な疑問です。
「なぜナチス・ドイツは、かくも残酷なことがユダヤ人にできたのか」――。
本作には、さまざまなドイツ人が登場します。権威的で俗悪なゲシュタポもいれば、「時代が違えば友達になれたかもしれない」とイザークに言わしめる青年もいます。陽気な秘書、戦争の英雄、レジスタンス・・・・。そんな「ふつうのドイツ人たち」が、なぜあの狂気に飲み込まれてしまったのか。

著者は、「名探偵」に付与された絶対的な「権力」をイザークに味わわせることで、その問いへの答えを探らせます。同時に、本作では「なぜユダヤ人は、ナチスの絶滅政策に抗する手段を見いだせなかったのか」という、カウンターとなる問いも扱われます。

ユダヤ人が、ゲシュタポを裁く。
でも、バレたら、即おしまい。
この特異な設定を成立させるために、かなり強引な部分や、主人公にとって都合のよい展開が見受けられるのも確かではありますが、それを補って余りある圧倒的なサスペンスと、先の読めない面白さでぐいぐい読ませます。

著者のアレックス・ベールは、まだ40代のオーストリアの女性作家さん。
本名で何作かのミステリーを発表したのち、アレックス・ベール名義で第一次大戦後のウィーンを舞台とした刑事アウグスト・エメリッヒものを発表。大きな評価と人気を得ました。
本作は、エメリッヒものと並行して新たに執筆した、新機軸の一作といえます。

読み応えのある異色の戦時ミステリー。ぜひご一読ください!(編集Y)









2021年6月 2日 05:24 | | コメント(0)

続きまして、4月29日発売の最新作のご紹介です。
クライブ・カッスラー&ボイド・モリソンによる、
オレゴン号シリーズの最新作、『亡国の戦闘艦〈マローダー〉を撃破せよ!』(上・下)
翻訳者は伏見威蕃さんです。

マローダーブログ画像.jpg

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あらすじはこんな感じです。

マラッカ海峡で、インド人テロリストの一派によってクウェートの石油タンカーが攻撃を受ける。
一方、メルボルンでは会議に訪れたアメリカ人上院議員の家族を狙ったテロ攻撃が企てられる。
ふたつの事件にいち早く介入し早期の解決に導いたのは、ファン・カブリーヨ船長率いる、生まれ変わった新生オレゴン号のメンバーだった。
勝利の余韻に浸る間もなく、新たな救難信号を受信したオレゴン号は、寄港地のバリを出てオーストラリア北西のティモール海に駆けつける。
そこでは、プラズマ・シールドの実験を行なっていた調査船二隻が、謎の敵性三胴船(トリマラン)からの攻撃を受けて一隻が沈没、残る一隻の乗組員も未知の毒ガス兵器によって全員が麻痺状態に陥っていた。
そのなかにはオレゴン号メンバー、マーク・マーフィーも含まれていた。
仲間の危機に激怒したカブリーヨは、シドニーを標的とした大規模攻撃を画策する敵を追い詰めてゆく。
タイムリミットまでに、彼らは解毒剤を入手し、テロを阻止することができるのか?
海洋冒険小説の雄が贈るシリーズ最新刊!

個人的には、カッスラーの複数あるシリーズのなかでも、特にお気に入りのオレゴン号シリーズ。
ここ数冊、メインライター、ボイド・モリソンの筆の冴えはとどまるところを知りません。

前作『悪の分身船(ドッペルゲンガー)を撃て!』のラストで、大変なことになってしまったオレゴン号。
本作では、まあまあ「しれっと」(笑)新艤装の「新生オレゴン号」として再デビューを果たします。
まあ、愛着のある船体とはいえ、機械は機械。
重要なのは、乗組員ということですね。

新生オレゴン号が航行可能になるまでのあいだ、いったんチームのメンバーは全国に散って、それぞれの任務にあたっています。
上巻の前半は、各小チームによる個別任務の様子が描かれます。
で、いよいよオレゴン号が出航して、チームのメンバーがまた集まってくるという熱い展開。

ところがそんななか、オーストラリアの調査船にゲスト調査員として乗っていたマーク・マーフィーが、謎の敵からの攻撃を受けて、麻痺状態に陥ってしまいます。
一定の期限を過ぎたら、もう回復はのぞめないという。
しかも、敵は都市壊滅規模のテロを計画している恐るべき連中で、プラズマ砲を配したハイテク艤装のトリマラン(三胴船)を駆使して攻撃を仕掛けてきます。
こうして、オレゴン号メンバーたちによる、一致団結した反攻作戦が始まります。

ちょっとしたラブ・ロマンスあり(なんか高校生みたいなうぶな内容ですがw)、古代ローマの沈船探査あり、圧巻のホバークラフトによるチェイスありの、たいへん盛りだくさんの内容。
冒険小説ファンなら、大満足いただけること必至の、超面白本に仕上がっております!

なお今回、先月の『テスラの超兵器を粉砕せよ』に引き続いてのオーストラリアが舞台ということで、「ええ、またかよ」と思われる愛読者の方もいらっしゃるでしょうが、『テスラの超兵器を粉砕せよ』の原書刊行が2013年、本書は2020年。カッスラー先生はちっとも悪くありません。弊社の発刊の都合でかち合ってしまって、なんだか申し訳ないかぎりです。

ちなみに次のオレゴン号シリーズも、刊行は決まっているようです。
新たなる冒険の荒海に乗り出したオレゴン号とその愛すべき仲間たちから、今後も目が離せません!(編集Y)

2021年4月28日 22:57 | | コメント(0)

またご紹介が遅れてしまってすみません!
まずは4月頭の新刊から。

巨匠クライブ・カッスラー&グラハム・ブラウンによる、NUMAファイル〉シリーズ第11弾
『テスラの超兵器を粉砕せよ』(上・下)。翻訳は土屋晃さんです。


テスラ ブログ画像.jpg

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あらすじはこんな感じです。

NUMA(国立海中海洋機関)のオースチンは休暇を利用してシドニーでの学会に出席していたが、退屈しのぎに会場を抜け出したところでヘリコプターがパワーボートを銃撃するのを目撃する。

ボートはシドニー湾を逃げ回ったあげくデッキに乗り上げて大破。唯一の生存者は駆け寄ったオースチンに「約束のものを持ってきた......タルタロスの心臓」と洩らして事切れる。

男の残した謎の言葉、そしてその体に見られた減圧症の症状に疑念を抱いたオースチンは相棒ザバーラとともに事件の調査に乗り出す。

オースチンは、ザバーラとともに砂漠のど真ん中へと向かう。そこでふたりは恐るべき陰謀が進行していることを知る。

かつて天才発明家テスラが理論化し闇に葬ったゼロ点エネルギー兵器を稼働させようと企てる存在が明らかになったのだ。

いまやオーストラリアは真っ二つに引き裂かれようとしている。

オースチンたちは理学者ヘイリーの協力を得て、南氷洋に浮かぶセロの本拠地へと突入する! 

好評〈NUMAファイル〉シリーズ第11弾。


みなさんは、二コラ・テスラの名前をご存じでしょうか。

「テスラ」といえば、電気自動車の会社を思い出す人が多いかもしれませんが、

もともとはあの社名自体、発明家二コラ・テスラから取られたものです。

エジソンと同時代に競い合った、悲劇の天才。

誘導モーターを発明して交流電気の輸送を実現し、いちはやく垂直離着陸機を設計するなどの業績を誇りながら、殺人兵器の開発にあたっていたのもまた事実のようです。

いま全国の映画館で、イーサン・ホーク主演の映画『テスラ エジソンが恐れた天才』が公開中。合わせてご覧になってみてはいかがでしょうか。


カッスラー作品では、〈NUAファイル〉シリーズの第6弾『運命の地軸反転を阻止せよ』(新潮文庫)でも、テスラ変圧器(コイル)を基にした兵器が登場します。

本作では、オーストラリアを舞台に、この天才科学者が考案した重力兵器の理論上の後継にあたるゼロ点エネルギー兵器をもって、世界に復讐をたくらむ人物と、カート・オースチンとザバーラのコンビが対峙します。

ここのところの〈NUMAファイル〉では、世界規模の災厄を引き起こす巨大なエネルギーを発する超兵器が毎回登場しておりますが、本作の兵器もなかなかにすごい風呂敷の広げようです。

湖底の秘密基地や極地の地下迷宮など、舞台装置の派手さもいつもどおり。

水中戦、海上戦、スノーモービル戦と、アクションのバラエティにも事欠きません。

冒険小説ファンの勘所をびしっと射抜く、いつものカッスラー節にしあがっております。

ぜひ、ご一読ください。


なお、〈NUMAファイル〉シリーズとカート・オースチンのファンの皆様、うれしいお知らせです。

実はこのシリーズだけ、中絶していた新潮文庫版から引き継いだこともあって、それなりの未訳作の巻数が残っていたりします(本作は2013年原書刊行)。

これは多少なりとも、巻き気味に進めて刊行ペースを速めて追いついていかないとなあ、

ということで、2021年度は、いまから半年後の2021年9月末と、ちょうど一年後の2022年の3月末の2回刊行で進めていきたいと考えております!

まずは次回作は『Ghost Ship』(2014)、

その次が『The Pharaoh's Secret』(2015)。

こちらも、ぜひご期待ください。(編集Y)








2021年4月28日 21:26 | | コメント(0)

3月1日発売の新刊は、サラ・ピンバラ著の『瞳の奥に』
ちょうど2月17日からNetflixで6話シリーズとして始まった、同名ドラマの原作にあたります。
本書発売当時、エンディングに驚いた読者のあいだで、「#WTFThatEnding(何あのエンディング)」というハッシュタグがSNS上で流行ったという逸話をもつ作品
海外ドラマファンのあいだでも、これはヤバいと話題が広がっているようです。

どれくらい衝撃的かというと、ゲラを読んだ、ふだんは無反応の販売部の若手部員Tが、興奮のあまりうわずった声で「こ、これ、傑作なんじゃないんですか?」とわざわざ連絡を入れてきてくれて、自らネットギャリーの先読みプロジェクトを立ち上げたあげく、勝手に「扶桑社は2021年、この本でこのミスに挑みます」とか書いた宣言文をnoteで公開し、編集者の知らないところで評論家諸氏にゲラを送ったりしだしたくらいには衝撃的なのです(ありがとう!Tくん)。

ひとりの人間をこれだけ衝き動かす作品なら、
あなたの心をも衝き動かすかもしれません。

編集者は「驚天動地」「未曾有」という文字を、高校時代に綾辻行人さんの新書帯で叩き込まれた世代ですが、ひさびさにその言葉にふさわしい本にめぐりあえた気がしています。

瞳の奥に 画像.jpg

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あらすじはこんな感じです。

ロンドンの精神科クリニックで秘書として働くルイーズは、新しいボスとなる医師デヴィッドを一目見て仰天する。

彼はその前夜にバーで会って意気投合し、キスまでしてしまった相手だったのだ。

二人はやがて一線を越え、関係を深めるが、ルイーズは彼の魅力的な妻アデルとも偶然知り合い、罪悪感にかられながらも友情関係を築いてゆく。

しかし、この夫婦にはどこかおかしなところがあって......

意想外の展開が読者を翻弄する驚天動地の心理スリラー。


正直、何を解説したところで、何かしらの予備知識を与えてしまうので、

まずはとにかく読んでみてくださいとしか申し上げられません。

振り返って考えれば、このネタは決して未知のものではないわけですが、たぶん取り合わせの妙なんでしょうね。警戒していても、そう簡単には察知できないような気がします。

まあ、あまり構えずに、「よくある『ゴーン・ガール』テイストの心理スリラー」くらいの感じで気楽に読んでいただければ。


スティーヴン・キングイアン・ランキンが絶賛し、ジョー・ヒル「巧緻なパズルボックスの如き小説。もっとも不気味なヒッチコック、もっとも容赦のないルース・レンデルにも比肩する、熟練の技で組み立てられたスリラー」と称した傑作。〈サンデー・タイムズ・カルチャー〉誌の「普通の〈予期せぬ結末〉とは訳が違う」という評もなかなかにいかしています。

サスペンス部分がみっちり長いので、多少読み疲れる方もいらっしゃるかもしれませんが、それにじゅうぶんに見合ったラストの衝撃をお約束します。

ドラマから先に入られた方も、細かな仕掛けや伏線、心理描写に関しては、圧倒的に原作のほうが情報量が多いので、ぜひ読み比べていただければ幸いです。

なお、前述の販売担当Tのnoteでは、すでにドラマとの比較記事が出ていますが(編集者より文章が読みやすいかもw)(こちら

ビビるくらいのネタバレ記事なので、必ずドラマ視聴後もしくは小説読了後にお読みください(笑)。


また、批評家さんの記事が出たり、書店さんからの感想がいただけましたら、こちらの編集者ブログか販売担当TのNoteにて、随時紹介していきたいと思います。


小説から読むか。ドラマから観るか。それはあなた次第。

そして、心からのお願いです。

結末は、決して誰にも明かさないでください。


(編集Y)







2021年2月27日 17:25 | | コメント(0)

全国の本格ミステリー・ファンの皆様、お待たせいたしました!
久々のレオ・ブルース。作品としては『ロープとリングの事件』(国書刊行会)に続く第6長篇ということになります。
タイトルはずばりシリーズ探偵の名を冠した、『ビーフ巡査部長のための事件』
今回は、旧訳も、親本も、私家版もない、完全新訳。
訳者はもちろん小林晋さんです。

ビーフ小.png


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あらすじはこんな感じです。

ケント州の「死者の森」で、頭部を銃で撃たれた死体が発見される。
地元警察が自殺として処理するつもりだと考えた被害者の妹は、
警察を退職して私立探偵を始めたビーフに事件の再調査を依頼する。
一方、その一年前、ウェリントン・チックルは一冊の日誌を書き始めた。
「私は殺人を実行する決心をした。......そして、ここが肝要な点なのだが、
――私には動機がないのだ」
『野獣死すべし』ばりの構成の妙とフェアプレイの精神で読者を魅了する、
英国本格の精華がここに登場!

いろいろ経緯があって、急遽出版が決まりまして、
大変な短時間で一気呵成に出版までこぎつけたこともあり、
あまり事前告知ができておりませんが、
こうやって、レオ・ブルースの新刊が出せて本当にうれしく思います。

今をさかのぼること60年以上前、現代推理小説全集にレオ・ブルースを採録しようと思った植草甚一さんが、『死の扉』(創元推理文庫)とこれを読み比べて、『死の扉』のほうを採ったというエピソードがありますが、まあ『死の扉』が傑作だからといって、こちらがつまらないということでもありますまい。
(むしろ、あのとき全集に採られなかったから、弊社は大手を振って十年留保で出版できるんだぜ!というのは出版界の身内にしかわからない小ネタです。すいません)

かつて『三人の名探偵のための事件』における解説で、真田啓介さんはレオ・ブルースを「英国余裕派」のひとりとして分類しておられました。すなわち、E・C・ベントリー、A・A・ミルン、ロナルド・ノックス、アントニー・バークリー、シリル・ヘアー、エドマンド・クリスピンといった作家に代表される、「遊び心が旺盛で、ゆとりと落ち着き、現実との適度の距離といったものをその作品に感じさせる作家の一群」に属するというわけですね。

彼らのひとつの傾向として、本格ミステリーの「型」であったり「お約束」であったりを、ミステリー実作の枠内で茶化したり、戯画化することで、逆説的に「本格ミステリーとは何か」というクリティカルな探求を行うということがあります。

本作『ビーフ巡査部長のための事件』(ビーフは退職していますが、全編を通じて巡査部長(サージェント)と呼ばれます)もまた、そういったたくらみと仕掛けに満ちた、実に愉快な本格ミステリーです。
第二章から第六章まで、殺人計画者の日記をまるまる掲載するという、『野獣死すべし』ばりの仕掛けからスタートしますが、一方で、警察とビーフの捜査からは数々の容疑者が浮かび上がります。果たして、これはいかなるギミックなのか?
ぜひ、レオ・ブルースの鮮やかな技をご堪能ください。

今回、解説をお願いした三門優祐さんは、イーヴリン・ウォーとレオ・ブルースの類似点と実際の交流について言及されたうえで(素晴らしい!と訳者の小林さん。実際、英国本格をきちんと語るためには、ウッドハウスやウォーも含めた、当時の膨大な「非ミステリー」の「余裕派」小説も視野に入れる必要があるのでしょうね)、レオ・ブルースが本作で狙った「真の意図」について、きわめて示唆的な分析を行っておられます。
読者の皆さんも、ラストまで読んで、真相がわかったうえでなお、考えてほしいのです。
「なぜ、本書はこのタイトルなのか」。


それから。
あまり大きな声ではいえませんが
扶桑社では現在、『レオ・ブルース短編全集』も仕込み中でございます。
ただの短編集じゃありませんよ。「全集」ですよ、「全集」!
本当は、こっちを先に出すつもりだったんですが(笑)......まあ、いろいろありまして。
無事に出版できた暁には、大変面白いいきさつがありましたんで、ぜひ聞いてやってください。
今は実現に向けて、水面下で頑張ります!(出なかったらごめんなさい......)
そんなわけで、本格ファンの皆様におかれましては、まずは『ビーフ巡査部長のための事件』のほうから、じっくりとお楽しみください!(編集Y)


(追記)
ここからは、明快なネタバレはしていないつもりですが、念のため読了後にお読みください。

三門さんの論考に、個人的見解も加味して補助線をもう少し引くなら、この小説は「ビーフ巡査部長のための事件」であることに徹底的にこだわった小説であると同時に、「事件に同行するワトスン役によって記述され、巷間に娯楽読み物として発売される探偵小説」という「体裁」にも執拗にこだわってみせた小説でもあります。

そもそも、ホームズ物にせよ、ポワロ物にせよ、ヴァン・ダイン物にせよ、神津恭介物にせよ、御手洗潔物にせよ、「記述者」がなんでだか事件に平然と同行して、ずかずか現場に入り込み、一言一句書き留めたうえ、探偵の活躍と関係者の恥をあろうことか「読み物」にして世に問うというのは、ふと常識に立ち返って考えてみれば、ずいぶんと異常で空想じみた設定であるとしかいいようがない。
ある意味「名探偵」以上に、「ワトスン」というのは、お約束とご都合に満ちた装置(=探偵小説という形式の根幹を支える愛すべきギミック)なわけです。

そこを、「名探偵」を筆頭に、幾多の「本格の約束事」を楽し気にいじってきたレオ・ブルースが見逃すはずがない。
本書は、いきなり「ワトスン役」が「引退宣言」をビーフにかますライトなコントで幕を開けます。
現役警察官に張り付いてその偉大な業績を世に紹介するという、かなり特異きわまる「仕事」が、なんだか当たり前の商売のように扱われ、それを辞めるの続けるのとやりとりされていること自体が、すでにギャグの領域です。で、ビーフはせっかく難事件を解決してきたのに、本が売れないのはお前の筆力が足りないからだみたいな不満をぶつけ、一方で筆記者であるタウンゼンドは、俺が紹介してやらなかったら、お前はただの駐在だったとか言い返していて、なかなかに楽しい。

思えば、『三人の名探偵のための事件』で一番個人的に面白かったのは、メインのトリック以上に、三人の自称名探偵が何の断りもなくずかずか現場に登場して三々五々勝手に捜査を始める冒頭のコントでした。
この「真顔でお約束をやることで、そのお約束のおかしさを可視化する」という仕掛けは、レオ・ブルースの十八番といってもいいものです。

で、この「起きた事件を娯楽小説として書くこと」、それから「書いたものをミステリーとして読む人間がいること」という、本格ミステリーにおけるフィクショナルな約束事は、本作を通じてさまざまな形で強調され続けます。

ビーフは常に自らの「世評」と「知名度」を意識し続け(これは三門さんの論点ともかかわります)、タウンゼンドが面白く書くには都合のいい証言だとか、都合のいい展開だといった言及を繰り返します。
要するに、ビーフはここで事件を捜査し、解決するだけではない。
「それを後で読む読者」のことも考えながら、「読み物としての仕上がりを気にしつつ」捜査しているのです。

「殺人計画日記」という本書を特徴づける仕掛けにしても、おそらくならば、「書き手と読み手」という著者の問題意識の延長上で発想されたものだととらえるべきでしょうし、ラストのビーフのセリフも、単なるトリックの新手というよりは、まさに今語っている文脈でこそ生きてくる、なかなかに気の利いたジョークだといえるでしょう。

すなわち、「探偵小説」という架空の枠組み(行動に対して読者がいる)が、そのなかで生きる登場人物に影響を与え、ミステリー小説に登場するキャラクターであることにそれぞれが自覚的であるがゆえに、この事件は生まれ、複雑化し、解決篇を要求するにいたった、ともいえるわけです。

僕はこの小説で一番どきっとしたのは、実はビーフが謎の解明に至る「きっかけ」(p311、第28章冒頭)に関する記述でした。
「えええええ、それいっちゃうんだ??(笑)」
横溝正史の某作における指摘を想起させつつも、当事者性が強いがゆえにより逆説めいた、この素っ頓狂なロジックこそは、本作の実は「キモ」であり、真骨頂でもある、というのが編集者の意見です。









2021年2月 3日 13:44 | | コメント(0)

2020年12月末発売の新刊は、『つけ狙う者』(上・下 染田屋茂・下倉亮一訳)。
前年、『砂男』(上・下)を発売して、大変好評を得ました、ヨーナ・リンナ警部シリーズの第5弾です!
解説は、チャールズ・ウィルォード『拾った女』以来の登場となる、杉江松恋さんにお願いいたしました。
北欧ミステリーが大好きな上司が、今回も自ら担当しております。ようやく編集者も読み終わりましたので、遅まきながら更新いたします。


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 あらすじはこんな感じです。

国家警察の警部ヨーナ・リンナが姿を消してから8カ月――彼の後任となったのは、臨月間近のマルゴット・シルヴェルマン。
いま彼女が担当しているのは、独身女性の連続惨殺事件だ。
どの被害者も残酷なまでに顔面を傷つけられていたのみならず、犯人は、犯行の直前に被害者の姿が映った映像を警察に送りつけていた。目撃者もなく、被害者どうしの接点や共通点もないなか、警察は過去の犯罪歴から強迫的な執着を持つ性犯罪者の洗い出しを進めるが、容疑者らしき人物は浮かんでいなかった。
マルゴットからの依頼を受け、事件の第一発見者に催眠聴取を行った精神科医のエリック・バルクは、遺体が奇妙な姿勢を取らされていたことを知る。エリックの脳裏に浮かんだのは、共通点のある9年前の事件だった。
容疑者の牧師ロッキー・キルケルンドは、エリックの精神鑑定により医療刑務所の精神病棟に送致されたが、本人はアリバイを主張していた。もしあの事件に真犯人がいて、今も凶行を繰り返していたとしたら・・・・。

前作『砂男』は、シリーズ主人公であるヨーナ・リンナ「自身」の事件でもありました。


連続殺人鬼との過酷な闘争のすえ、前作のラストで姿を消したヨーナは一体どうなったのか。
まずはそのあたりが、本作前半の主眼となります(まあシリーズというくらいで、あのまま死んだりはしていないわけですが)。
一方で、本作のメインとなるのは、妙齢の女性の連続惨殺事件。
第二の事件が発生し、妻を惨殺されて記憶の混濁している発見者の夫から証言をとるべく、催眠学者のエリックに声がかかります。エリックは、シリーズ第一作『催眠』にもメイン・キャラとして登場した、ファンにとってはお馴染みの人物。彼もまた、この事件に深く巻き込まれていきます。

前作では、前半戦を公安警察のサーガ・バウエル警部がひっぱり、やがてヨーナ・リンナ自身の事件として物語が反転、深化していく構成が目をひきました。
今回もまた、同じことがヨーナとエリックに役者を変えて繰り返されているともいえます。

『羊たちの沈黙』のトマス・ハリスが打ち立てたサイコ・スリラーの王道を継承しながら、『ミレニアム』以降の北欧ミステリーに特徴的なタイプの警察官たちを主人公にとるケプレルの作風は、堅固でスピ―ディで安定感があります。ここ数作の特徴としては、

●長期的なスパンで事件が展開し、長い闇のなかで悪意を増大させた強烈な個性派サイコ犯が、被害者だけでなく、捜査側の登場人物の人生にまで甚大な影響を与える傾向が強い。

●主要登場人物がみな、まあまあ酷い目にあって、ぼろぼろになるまでサディスティックにいたぶられる。キャラ愛の裏返しですね(笑)。

●あらゆる登場人物が、なんらかの闇や、過去や、謎や、過剰さを抱えていて、類型にとどまらない「えぐみ」を漂わせている。たとえばエリックが恋に落ちる盲目の女性ジャッキーは、ちょっとしたエリックの失敗に激昂してなじりまくるヒステリックな一面を見せるし、その娘マデレーンは母親には見ることのできない自室の部屋の壁一面に汚言や卑語を書きなぐっている、など。本作のヨーナも、ほとんどジョン・ルーサー顔負けの狂犬ぶりを発揮するようになってきてて、好感度はだだあがりです。

本作では、解説の杉江さんもおっしゃっている通り、「キリスト教の信仰」がやがて事件の大きな背景として浮かび上がってきます。舞台設定としても、市街地の住宅街から場末のドラッグ・スポット、田舎街、さびれた工場地帯と、スウェーデンのさまざまな風土と環境が垣間見られて興味深いところです。

そこで暗躍する、謎の〈黄色いレインコートの牧師〉とは?
(おおおっ、なんかニコラス・ローグ『赤い影』の〈赤いレインコート〉を彷彿させて怖いですね!)

読んで損はぜったいにさせません。
よろしければ、ぜひお手にとってみてくださいませ!(編集Y)




















2021年1月10日 09:00 | | コメント(0)

11月末搬入、12月初旬刊行の新刊は、
クライブ・カッスラー&ロビン・バーセルによる、
ファーゴ夫妻シリーズの第10弾『幻の名車グレイゴーストを奪還せよ!』(上・下 棚橋志行訳)。

今回は、クラシック・カー・マニアとして名高いカッスラーの趣味が全開の作品となっております!


グレイゴースト ブログ用.jpg


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 あらすじはこんな感じです。

1906年。創設間もないロールス・ロイス社の名声を確立した名車シルヴァーゴーストには、幻の試作車「グレイゴースト」があった。
この試作車が英国マンチェスターの路上からこつ然と姿を消す。
調査に乗り出したのは探偵アイザック・ベルだった!
 
くだって現在。ファーゴ夫妻のもとに、サムの母方の遠縁を名乗るペイトン子爵家から、保有するグレイゴーストを担保とした融資の打診が舞い込む。
二人はロンドンのモーターショーに現物確認のため出向くが、そこで再び名車グレイゴーストが、子爵アルバート・ペイトンともども姿を消してしまう。やがて子爵は無事発見されるが、会場で警備員を殺害した容疑で逮捕されて・・・ぺイトン家に次々とふりかかる災厄の背後には、子爵家に憎しみを抱くある男の策謀があった。
事件を探るファーゴ夫妻にも、悪漢たちの魔の手が迫る。
すべての謎を解く鍵は、1906年に起きた名車盗難事件の顛末を記した「日記」に・・・・。


今回の売りは、なんといっても、カッスラーの生んだシリーズ主人公である、アイザック・ベルとファーゴ夫妻が時を超えて夢の競演を果たす、ということでしょう。

もちろん、かたや20世紀初頭の探偵、かたや現代の大富豪カップルということで、ふつうにやって競演できるわけもないのですが、そこに登場するのが、1906年製作の「グレイゴースト」という架空のロールス・ロイス試作車。おお、「灰」の〈テストカー〉ですね!(ネタが古い)
この車をめぐって過去に起きた盗難事件と、現在ふたたび引き起こされた消失事件を、「日記」を媒介にオーバーラップさせ、過去と現在の記述を交錯させつつ進行するというのが、今回の主眼です。

アイザック・ベル・シリーズは、大変申し訳ないことに(おもに売れ行き上の問題があって)『大追跡』『大破壊』『大諜報』の三作で紹介が止まってしまっておりますが、本国では他のシリーズ同様、大変人気があって、10作を超えてなお書き継がれています。
サーヴィス精神旺盛なカッスラーは、オレゴン・ファイル・シリーズにダーク・ピットや〈NUMAファイル〉のカート・オースティンを登場させるなど、これまでもシリーズ・キャラクターを時折交流させることで読者を喜ばせてきました。ダーク・ピット・シリーズでは、「カッスラーみたいな人物を出す」というカメオネタも毎回やってましたし。

本作では、上巻29頁に、
「あれ、クライブ・カッスラーの車じゃない? 彼が二〇一〇年に修復をすませた車じゃないかしら?」
というセリフがでてきます。
この「1948年型ドライエ135カブリオレ」は、おそらく実際にカッスラーが所有している車。彼は、ヴィンテージ・カーコレクターとしても大変著名な人物なのです(1954年にジャガーXK120を購入したのが最初だとか)。ちなみに、アメリカ版ハードカバーの裏表紙には、オープンカーのクラシック・カーに乗ったカッスラーの意気揚々たる姿が毎回掲載されています。

さらに、本作にはもう一台の伝説のクラシック・カー「アーレンス・フォックス」が登場します。
(ご存じない方は、ちょっと変わった車種ですのでお楽しみに)
ちなみに、上巻のイラストが「アーレンス・フォックス」、下巻のイラストが「グレイゴースト」となっていますので、頭のなかで走らせながら読んでいただけると幸いです。

なお、次のカッスラーは2021年3月末の刊行を予定しています。
一年ぶりの〈NUMAファイル〉シリーズ、『Zero Hour』。お楽しみに! (編集Y)



2020年12月10日 00:53 | | コメント(0)

11月頭に発売されました、トム・クランシー&スティーヴ・ピチェニック『復讐の大地』(上・下 伏見威蕃訳)。

新たにスタートした「トム・クランシーのオプ・センター」シリーズの第3弾となります。
3年連続で、同じ時期にご紹介することとなりました。

今回の舞台は中東。敵はISIL(イスラム国)!
ド直球のミリタリー・アクションの登場です。

復讐の大地 ブログ.jpg

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あらすじはこんな感じです。

対ISIL世界連合の大統領特使ボブ・アンダーウッド将軍の一行が、シリアのアルブカマル市に向かう途中、ロケットランチャーによる攻撃を受け、車両縦隊は全滅、将軍は誘拐された。

数時間後、アメリカ大統領ミドキフと高官たちは、ISILのリーダー、マバード=アッ・ドーサリーによって将軍が斬首されるさまをライブテレビで見ることに。

米国はすぐさま報復として空母打撃群を派遣、敵の本拠に攻撃を仕掛けて壊滅させるが、生き延びたアッ・ドーサリーはさらなる復讐を誓うのだった......。

ISIL本拠攻撃の3カ月後、その報復は思わぬ形で実行に移された。

攻撃時に作戦の指揮官をつとめていた海軍省議会担当部長ジェイ・ブルーナ提督が、米国内で誘拐されたのだ。

FBIの追跡を振り切って姿を消した誘拐犯に対して、チェイス・ウィリアムズ率いるオプ・センターの面々は、持ち前の情報収集力を武器に奪還作戦を展開。

だが、提督の長男でSEALに所属するデイルのとった思わぬ行動をきっかけに、事態は混迷の度合いを深めてゆく......。


ISIL(イラクとレヴァントのイスラム国)が敵として登場するミリタリー・アクションは、意外とあるようで少ないかもしれません。

9.11同時多発テロ以降、アメリカ合衆国にとって、アルカイダおよびISILとの闘いはまさに、そのただ中にあるリアル中のリアルです。

娯楽として扱うには、まだちょっと距離が近すぎるのかもしれませんし、ナチスやロシアのようには扱いづらい、人種や思想にかかわる部分の問題もあるのでしょう。

本作では、ど真ん中から、ストレートに、この喫緊の問題であるテロとの闘いに焦点を当てて、アメリカ高官の拉致・処刑とそれに対する報復、さらなるISILサイドからの報復としての高官誘拐と、オプ・センターによる追跡劇という攻防が、克明かつリアルに描き出されます。

まさに王道の軍事アクション、シミュレーション小説として、読み応え十分といえるでしょう。


前作『北朝鮮急襲』(上・下)では、若干「埋めぐさ」のような形で終盤の大学生によるテロ計画がつけ加えられていた感じも否めませんでしたが、今回は間断なく、意外なワンマン・アーミーを登場させることでうまく話を転がして、決戦の地、イラクへと読者を誘います。

新章に入って初めて、レギュラーメンバーに犠牲が出る、たいへん緊迫したスリリングな内容となっています。ぜひお楽しみいただければ幸いです。


なお、本書ではISIL、ISISと二種類の呼称が登場しますが、基本的にはイスラム国サイドから描かれている章では、本人たちが自称している「ISIS」(イスラムとシリアのイスラム国)、アメリカサイドから描かれている章では、「ISIL」の呼称が用いられています。ただし、めまぐるしく視点の入れ替わるあたりでは、便宜的に統一して用いている場合もあります。ご理解いただければ幸いです。

(編集Y)








2020年11月23日 19:32 | | コメント(0)

9月末搬入、10月初発売の扶桑社ミステリー新刊は、『ナイトメア・アリー 悪夢小路』
鬼才ウィリアム・リンゼイ・グレシャムが遺した、異形のカルト・ノワールの登場です!

ナイトメアアリーカバー.jpg

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「扶桑社ノワール・セレクション」と題して、2017年に『拾った女』を刊行し、『このミステリーがすごい!2017年版』で海外編4位に選んでいただいてから早4年。
昨年夏に、ジム・トンプスン『ポップ1280』を復刊、
年末には、エリオット・チェイズの『天使は黒い翼をもつ』を刊行、
さらに今年の春には、チャールズ・ウィルフォードの『コックファイター』を刊行。
そして本作。
ここまでノワール紹介の火を絶やさず、続けてこられたのも、すべて読者の皆様によるご支援の賜物でございます。
皆様への感謝をこめて、現編集担当Yと元編集担当T、販売部の若手ふたりで、ノワール座談会なるものを開催し(販売担当にやれとけしかけられましたw)、動画をアップいたしました。


扱っているのは、上記の『ポップ1280』『天使は黒い翼をもつ』『コックファイター』、そして本作『ナイトメア・アリー』の4作品。他に、前任者Tによる著作権法と海外翻訳にまつわる説明画像(もしかして、「十年留保」を動画で説明した世界で初めての試みでは??)なども用意しておりますので、こちらもご高覧賜れば幸いです。

改めまして。
あらすじはこんな感じです。

スタン・カーライルは、カーニヴァルの巡回ショーで働くしがないマジシャンだ。
だが彼には野心があった。いつの日か華々しい成功と大金を摑んでみせる。
同じ一座の占星術師ジーナと関係をもち、読心術の秘技を記したノートを手に入れたスタンは、若く美しいモリーと組んでヴォードヴィルへの進出を果たすが......
タロットの示す運命とファム・ファタールに導かれて、栄光と絶望の果てに男がたどり着く衝撃のラストとは。
特異な世界観で魅了する闇色のカルト・ノワール、登場!


ノワール、といっても、かわり風変わりな小説です。

なにせ、舞台がカーニバルのフリークショー。
主人公は若きマジシャンなのです。
で、各章の冒頭にはタロットカードの絵柄とタイトルが曰くありげに付され、
鶏を生きたまま頭から食いちぎる「野人(ギーク)」や、「人類史上最少の男」モスキート少佐、「電気女」などの見世物芸の詳細が語られ、読心術のトリックを用いた占星術の紹介にも筆が費やされます。
なんでも、著者のウィリアム・リンゼイ・グレシャムは、実際にフリークショーに同行して、綿密な取材を重ねて、本書をものしたそうです。

どうです? 
映画「フリークス」や「エルトポ」や花園神社といったカルトな世界が好きな人にとっても、
本格ミステリーの愛好家諸氏にとっても、なんだか心そそられる題材ではありませんか。

しかも本書は、成り上がりを目論む男の、ぎらぎらとした犯罪小説であると同時に、
奇術や読心術のトリックをふんだんに用いた「コン・ゲーム小説」(詐欺師小説)でもあります。
後半は、降霊術にまつわる主人公のたくらみに、ファム・ファタールが一枚噛んできて、事態は思いがけない方向に展開していきます(そういえば、世界で最も名高いマジシャン、フーディニもエセ霊媒ハンターとかやってましたよね)。


今回、解説をお願いした霜月蒼さんは、本書を「ひとことでいえばビザールな犯罪小説である」と規定したうえで、以下のように述べておられます。

「狂気めいた奔放な文章が乱舞する作品でありながら、本書は因縁めいた美しくシンプルなプロットを持っていたことが最終的に判明するとだけ言っておく。もっともその美しさは、底なしの恐怖を秘めたものではあるけれども。」

「犯罪へと至る生々しい悪夢――それを見事に描いているがゆえに、本書は長らくノワールの文脈で語られてきたのだろう。中盤をすぎて、主人公の闇/病みが臨界点を超えたのちに展開される壊れた文章と、それが綴る倒錯した性をめぐるビザールなイメージは、著者グレシャムの文章家/幻視者としての非凡さを証明している。」

また、ノワールとニューロティック・ミステリーの同時代性/共通点などにも触れられたうえで、本書について、ミステリー史上で最初期のサイコ・スリラーでもあると、おっしゃっています。
(ホントにすごい解説なんで、ぜひ合わせてご一読ください!)


すなわち本書は、
ジム・トンプスンが好きな人にも、クレイトン・ロースンや泡坂妻夫が好きな人にも、
『コンフィデンス・マンJP』が好きな人にも、『幽霊探偵カーナッキ』が好きな人にも、
マーガレット・ミラーが好きな人にも、『少女椿』が好きな人にもジャストフィットする、
間口のとても広い「ノワール」ということになります。

小説としての面白さは、抜群。
得も言われぬ素材の妖しさと、ミステリーらしい論理性と、ノワールらしい情念と、実験的ですらある文学味が、ざくっと手荒く混ぜ合わされて、独特の味わいを醸し出している。
主人公スタンの歪んだキャラクターも、どこか憎めないんですよね。
まともに生きられないわりに、いかさまにはやけに真摯で、求道的なまでの「のめりこみ」ようを見せる。情熱的で、上昇志向が強く、冷徹で計算高い性格でありながら、幼少時の体験にとらわれ、常に恐怖といら立ちにさいなまれている。この、田宮二郎感、嫌いじゃない!

そんな彼と情を通じる三種三様の魅力的な女性たち。
周囲を取り巻く、奇抜な芸や生まれつきの体をもとでとする芸人たち。
登場人物みんな、めちゃくちゃキャラがたってます!

あと、本作を書いたウィリアム・リンゼイ・グレシャム自身が、登場人物さながらの破綻した生活を送ったうえ、いつしか零落して、晩年は貧困と病とアルコール依存に苦しめられながら(ポーみたい)、ついにはみずから命を絶つにいたった、という事実を知ったうえで読むと、小説としての感興もまた、いやがうえでも増すのではないかと。
彼の死後見つかった名刺には、中央に「リタイヤ済み」とあり、四隅にそれぞれ、「住所なし」「電話なし」「仕事なし」「カネねし」と書いてあったといいます(解説より)。

それと余談ですが、大学で奇術愛好会に所属していた編集者からすると、実際に当時現役で上演されていた奇術やメンタルマジックのネタばらしを、小説内で平然と敢行している点でも、非常に興味深いミステリーだと言わざるを得ません(他にこういった作例が娯楽小説にあるのか?)。
なにせ、この本、ハワード・サーストン(日本の奇術業界では「サーストンの三原則」でその名を知らない者のいない20世紀初頭の大マジシャン。ちなみにこの三原則、編集者は入部の日に教わりましたw)の名前まで出てきますからね・・・・。

これまで邦訳がなかったとはいえ、海外ではカルト作として一定の評価を得てきていますし、出版されてすぐ、タイロン・パワー主演で映画化もされています(『悪魔の往く町』)。
さらには・・・・、なんと2021年に、ギレルモ・デル・トロ監督によるリメイク作品の公開が予定されています! 当初、レオナルド・ディカプリオ主演と言われていたのですが、結局、ブラッドリー・クーパーが主役を張ることとなったようです。

今回の装丁(「小路」を歩むものを「逆位」にして、タロットの「吊るされた男」と並べてみた)、個人的に大変気に入っておりますが、映画公開時には、いさぎよく映画カバーに掛け替えて、ぜひ再出庫したいと考えております(笑)。

観る前に読むもよし。
観てから読むもよし。

今まで日本で知られていなかったのが嘘のような、正真正銘の傑作です。
ぜひお楽しみください!(編集Y)

PS 終盤、スタンが仕掛ける「天秤」のトリックには、種明かしが明確には書かれていません。
翻訳者の矢口さんは、「そりゃ"あれ"しかないでしょう」とおっしゃるのですが、"あれ"だと、人間の肉眼でも見えちゃうんじゃないですかね、だって「サーカス」とかあるくらいだし、というのが編集者の意見でして・・・。
これぞ、というトリック解説のご用意のある方は、ぜひコメント欄にそっと書いて、編集者のもやもやを払ってくださいませ(笑)。



2020年10月23日 19:29 | | コメント(0)

弊社の基幹作家であるスティーヴン・ハンター。
今年は残念ながら新刊はありませんでしたが、ついに初期の代表作『真夜中のデッド・リミット』(上・下)が扶桑社から復刊されることになりました!
『このミステリーがすごい」!89年版』海外編第2位(ちなみに、この年の第1位は『羊たちの沈黙』でした!)や、日本冒険小説協会大賞受賞など、数々の栄冠を得て、日本での彼の名を大いに高らしめた初期の代表作が、新刊として書店の店頭に帰ってきます。

今回、改めて翻訳者の染田屋さんと全文を確認し、かなりの箇所で訳文に手を入れました。
少し古い言い回しだった固有名詞なども含めて、今の読者の皆さんに読んでいただくにふさわしい形で、訳文をリファインすることができたのではないかと自負しております!

デッドリミット上下2.jpg


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上巻出だしのあらすじは、こんな感じです。

アメリカ・メリーランド州にある、山中深くに配された核ミサイル発射基地。
全米で唯一、単独発射が可能なこの基地が、謎の武装集団に占拠された。
最新鋭核ミサイルの発射を阻止するためには、基地に潜入するしかない。
ミサイルの発射キーは現状チタニウム合金製の保管庫に収められているが、
破られてしまうのも時間の問題だ。デッド・リミットは深夜零時。
ミサイル発射までに残された時間は十数時間しかない。
絶体絶命の状況下で、デルタ・フォースを創設した歴戦の勇士プラーに特命が下る!

とにかく、べらぼうに面白い。
人によっては、スワガー・サーガより好き、という人がいてもおかしくないでしょう。
実際、評論家の川出正樹氏は、ハンター作品のなかでは「ダントツで『真夜中のデッドリミット』が好きです」と公言されていたかと。

正体のわからないテロリストによって、唐突に占拠された核ミサイル基地。
ミサイル発射までのデッド・リミットが目前に迫ります。
限られた時間のなかで、デルタ・フォースと徴用された一般人の混成部隊は、
①外部に配された敵勢力を突破したうえで、
②難攻不落のミサイル基地内部に潜入し、
③カウントダウンをとめなければならない。
併せて、そのためには
④敵の正体を見破ることも必須となってきます。

この最高難度のミッションに、デルタ・フォース創設にかかわったプラー大佐を指揮官として、FBI捜査官や、民間人の州兵であるブラヴォー中隊の面々、基地潜入の特命を帯びたベトナム戦争の勇士(トンネル・ネズミ)といった、さまざまは人々が、一致団結して挑みます。
その他、テロリストの中核メンバーや、彼らに誘拐され協力させられる溶接工、人質にとられたその家族、うらぶれた落魄の中年ソ連人スパイなど、個性的なキャラクターがつぎつぎに登場。
一日に満たない時間経過のなかで、それぞれが文字どおり「生死を懸けた」、苛烈な戦いに身を投じます。

すなわち、スワガー・サーガが無敵のスナイパーの活躍を描く「ヒーロー譚」であるとすれば、
本作は徹底して一人ひとりの物語に注力した、典型的な「群像劇」であるといえるでしょう。

解説の古山裕樹氏は、本書の面白さを「記憶」「人物」「展開」の三つの側面から、見事に読み解いてみせます。

「そして、本書の登場人物たちはあっさりと命を落とす。たとえ重要なキャラクターでも油断はできない。これは決して一人ひとりのキャラクターを軽く扱っているということではない。むしろその反対だ。
 個々の人物がどのように生き、何を愛し、何を重んじていたかーーそれが描かれているがゆえに、一人ひとりの死が、読む者の心に鋭く突き刺さる。そっけなく語られる死は、その簡潔さゆえに、語られない多くのことを読者に刻みつける。」

結局、この物語で誰が勝利し、誰が英雄になったといえるのか。
下巻368ページから始まる、とある登場人物の長いモノローグは、血沸き肉躍るアクション・サスペンスの最後にやるせない影を落とし、深い文学的余韻を残します。
371ページに「列挙される」、いかにもハンターらしい「とあるデータの羅列」が、なぜにここまで読む者の涙腺を刺激するのか。
近年のハンター作品と比べると、レトリックはさっぱりめで、描写もねちっこさが薄め、個性という意味では若干控えめかもしれませんが、そのぶん、キャラクターたちが織り成す密度の濃いタイムリミット・サスペンスを、ストレートに堪能できるかと思います。

スティーヴン・ハンターの、というより、
20世紀のアクション小説を代表する、ベストの一作。
まだ読まれたことのない方も、かつて一度読まれた方も、ぜひ手に取ってみてください。
担当編集として、皆様に最高の読書体験となることをここにお約束いたします!!  (編集Y)



2020年10月 2日 20:52 | | コメント(1)

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