スタッフの声


橋本麻里(『「家族」を探して』執筆ライター)

 撮影現場、特に宮城県・細倉のオープンセットでは、オトナの夏休み、あるいはプロフェッショナルの文化祭、という
雰囲気の中で過ごしました。もちろん全員が本気で、全力で動いているのですが、どこか陽性のお祭りムードが漂っ
ている。矛盾した言い方ですが、「明るく楽しい3K職場」であるがゆえに、多くのスタッフが「現場」から離れられない
のでしょう。
映画関係者の皆さんにとっては、撮影現場が「戦場」ですが、オフィシャルブック執筆の「現場」もソーゼツでした。締
切多重クラッシュのため、故宮博物院の取材で滞在していた台北のホテルで、夜を徹して原稿を書き、担当編集者
が奥さまの出産を待つ産院にまで校正を送りつけ。関係者の「ご家族」の皆さまには、大変なご迷惑をお掛けした
ような気がします。
さて、そんなこんなで『「家族」を探して』は無事刊行と相成りましたが、『en-taxi』はじめ各種メディアでの原作者、
監督、脚本家、俳優ほか関係者の皆さんの対談やインタビューなどで、私の知らない事実を読むと、「そういうこと
はもっとはやく(というか、私がインタビューした時に)言って下さい!」と机を叩いて叫んでしまいます。

 

長島有里枝(『「家族」を探して』撮影写真家)

この本の仕事を請けようとおもったきっかけは、すでに読んでいたリリーさんの原作がとても良くて。読んだのが遅
くて、まだ感動の余韻の中にいたとき、ちょうど本の写真のお話をいただいて、これはやりたい! と思いました。
幸い、現場には(わたし以外に)別のスチールフォトグラファーさんがいたので、わたしの仕事はただ単に現場の記
録を残すことではないな、と直感的に思いました。わたしらしい映画との関わり方を模索するうちに、「この家族(中
川家)にアルバムがあったらどんな風景が写っているのかな」という興味が湧いてきて。
それとわたしは映画が大好きで、作品を見終わったあとも登場人物がどんな生活を続けるのか想像してしまうん
です。だから、映画を見た方たちの中で「東京タワー」の世界がぐわーっと広がっていけるような、映画には映らな
らなかった家族のエピソードまで見えてくるような、家族のリアリティーを写真にしたかったんです。

取材がはじまってからは、初めて映画のスチールを撮ったので失敗ばかりでしたし(苦笑)、すごく緊張していたん
です。
あるとき松岡監督が、カメラの位置決めの合間に「足の裏踏んでくれい」とおっしゃって、最終的にはムービーカメラ
の真後ろで私の肩を揉んでくれました。それを見たスタッフさんたちが面白がって声をかけてくださったり、そのま
ますごくいい場所で撮影もさせてもらいました。映画のスタッフ皆さんのそういう小さな気遣いがいっぱいあって、
なんとか現場の一員にさせてもらったことが一番印象深いです。

 

松岡錠司(『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』監督)

『家族を探して』という題名がふるっているではないか。濃密な内容が頼もしいではないか。映画の現場をこ
のように刺激的に描いた書物は最近見当たらないと思う。この本はオフィシャルなシネマブックらしいが、オフ
ィシャルと銘打って、内容が薄く読み応えに値しないものは、世の中に多数流通している。そういう時流のなか
で、この本の作り手たちの姿勢、きちんと映画の現場を捉え、再構築する手さばきは見事というほかない。言
葉と写真の連なりが、「シネマブック」という枠を越えて、ひとつの「作品」として成立しているのだ。『家族を探
して』は監督である私を含め、現場に携わったすべての人が「家族」だったことを発見させてくれた。私はこの
書物に感謝している。



山野明登(『「家族」を探して』『ザ・シナリオ 東京タワー』担当編集)

あのリリー・フランキーの『東京タワー』が映画化される。しかも、製作がインディペンデントな匂いが強く良質な映
画を手がけてきたリトルモア……。そのことを知ったのは、2年くらい前でした。そのときは、『en−taxi』編集
部に在籍していたわけでもなく、完全に「お客」としてワクワクしていました。しかし、まさか自分がその現場に参加
させていただいて、メイキングブックスタッフとして映画に関わらせていただくことになるとは夢にも思いませんで
した。この映画の脚本を書かれたのは、原作者リリーさんと同郷出身で同世代の松尾スズキさん。現場に入る前、
配布されたシナリオを読んで、心の底から感動しました。映画のスタッフが皆、口を揃えて「ここ数年でシナリオを
読んでこんなに泣けたことはない」というのも、当然。過去と現在を交互に織り交ぜながらすすむ物語の構成は、
ボクとその家族が過ごした40年間に、生き生きとした躍動感やリズムをより一層与えているように思えました。そ
して、原作にはないオチが添えられ、ここでスタッフは皆涙した、と。出身地や仕事をはじめ、何かと類似点を指摘さ
れる原作者と脚本家ならではの作品だと思います。昨今、シナリオが本になること自体減ってきていますが、『ザ・
シナリオ 東京タワー』は「シナリオを読むおもしろさ」を改めて感じさせられるような本になったと思います。
そうして、いよいよ2006年8月4日から、10週間(平均的日本映画の2倍以上の撮影期間)にわたる撮影現
場での取材が始まりました。最初の2週間は宮城県に設置されたオープンセットでの地方ロケ。30度を超える日が
続く炎天下での撮影に加え、コンビニすら宿泊地の近辺にないという、大変な取材でした。
ライター・橋本さん、写真家・長島さん、取材や写真撮影のコーディネートを担当する自分も含めて、オフィシャル
シネマブック取材チームは、映画制作については全くのド素人。しかし、そんなド素人さえ、考え方一つでは映画現
場で、役に立てることがあります。現場に入る前に製作・プロデューサーの孫さんから言われたことがひとつだけ
ありました。「我々は仲間としてあなた方を現場に向かいいれます。そのかわり、現場では自ら役に立つことを見つ
けてください」と。よくよく考えれば、映画現場とは見ず知らずの他人が、「いい映画をつくる」という目的の元、
100人以上寄せ集まる場所です。ひとつの目的に向かうためには、そんな他人同士が屈強な「家族」(コミュー
ン)を作らねばなりません。その「家族」の掟とは、「目的にむかうために、各々が何をすればいいのかを考え、自律
に手と頭を絶えず動かすこと」でした。
完成披露試写で観た映画「東京タワー」には、そんな「松岡組」という強靭な「家族」でしか描けないであろう、「ボ
ク」とその家族が過ごした優しくて温かい40年間が映りこんでいました。
そして、『「家族」を探して』は、俳優・スタッフ含めた総勢300人を超える「松岡組」がいかに屈強な「家族」となって
いったかを、橋本さんのキーボードと、長島さんのカメラが、あますことなく刻みこんだ本になったかと思います。


壹岐 真也(『en-taxi』編集長)

サム・シェパードの「ローリング・サンダー航海日記」ではないけれど、これは、
映像や音楽にたいする韜晦を乗り超え、「本」が「本」として真っ直ぐ立つために、
撮影者・長島由里枝と記述者・橋本麻里の両氏が、膨大な時間と体力を担保
にして編んだ真率な記録です。
「東京タワー」の現場でスタッフやキャストが一つの目的のもとに集まり、ほんの
一瞬だけ「家族」として心を通い合わせるのではないかという、いささかセンチ
メンタルすぎる目論見は、プロフェッショナルな仕事ぶりの前に早々に打ち砕か
れますが、その時初めて、「ボク」が「ボクたち」に変容するのを目撃することに
なります。そんな予測のつかない「オフィシャルブック」の醍醐味を堪能してい
ただければ、幸いです。

     
ホーム ニュース 掲示板 感想文大募集!